06/11/23 12:33:00 aGsGHv5K0
ある夏の日の夜。東北三大祭りの「竿灯」を見物した帰り、その名もずばり臨時急行「竿灯号」に始発の秋田から乗った。
折から台風が関東に近付いた影響で風が強く、竿灯もあちこちで風に煽られて倒れたりしていた。
しかし、列車は定刻に秋田を出発した。10系寝台と一般客車の座席の編成で奥羽本線経由の上野行き。私は寝台を取って
いた。歩き回って疲れたこともあり、寝台という“贅沢”な空間で程なく眠りに堕ちていた。
ふと周りの静けさに目を覚ますと列車はどこかの駅に停まっている。カーテンをまくると「よこて」の駅名が見て取れた。
時計と見比べるともう2時間以上は遅れているようだ。雨は降っていなかったが風が強いらしく、吊ってあるものが大きく
踊っている。暫くしても全く動く気配がない。でも、乗客は何もそんなこと関知せず熟睡していて声ひとつ聞こえない。そ
こへ最大限音量を絞った車内放送が入った。「台風による運転規制がかかって停車中です。発車の見込みは立っておりませ
ん」 でも、全く車内に動揺は起こらなかった。
その後列車は4時間あまり停車して動き出した。「おはよう放送」が入ったのは米沢の手前。もうすっかり夜が明けていた。
本来であればそろそろ上野に到着しなくてはいけない時間である。放送は米沢駅で臨時の駅弁販売がある事も告げた。米沢
名物の「牛めし」を買ったのはいいが、さすがに朝からきつい。手を付けたのはだいぶ経ってからだった。
福島で新幹線振替えがあるというので、多くの乗客は新幹線に乗り換えた。でも、この列車に乗りたくて乗った自分はその
まま“運命を供にする”。ほとんど人気のなくなった寝台車の車内で、中段ベッドを解体して座席に変え、上野に向けて走
る急行に揺られる。普段夜行ばかりで通る福島や栃木の車窓が妙に新鮮に映る。さらに10系寝台車の中からというイレギュ
ラーなシチュエーションも気分を昂揚させる。
結局終着上野に着いたのは夕方近くになっていた。これが座席だったらしんどかったかもしれないが、寝台車にしていたおか
げでそれ程疲労は感じなかった。「うえの~、うえの~」という独特のイントネーションの放送がいつになく耳につくような
感じで響いていた。
ある年の東北夜行の思い出話。