07/09/11 05:39:11 +VaDvbzw0
昭和初期の話。
ある地方の山村に一人の少年が住んでいた。
歳は十一才。
お父さんは戦争に狩り出され、お母さんと二人暮らし。
もともと内気で人見知りしがちだった少年は友達がいない。
山の中、一人で遊ぶのが日課だった。
勝手知ったる山の中。
たとえ暗くても怖くなんかない。
けど、一ヶ所だけ近寄れない場所がある。
山の林道から少しはなれた位置にある社。
鳥居も社殿もボロボロに朽ち果てて、お参りに来る人もいない。
その社の裏手に、少年の恐れているものがある。
井戸。
なんでそんなところに井戸があるのか少年は知らない。
知っているのはとても怖い井戸だということだけ。
戦争に行ったお父さんがよく話していたから。
「あの井戸は、落ちたら二度と上がってはこれない。地獄に通じているんだ。だから絶対にあの井戸に近付いちゃいけないよ。中を覗くなんてもってのほかだ。」
小さい頃から何度も聞かされてきた。
その話が、子供を危険な場所に近付けさせないための方便なのだと、少年はもう感付いてはいる。
けれど、実際に社の周囲はとてもおどろおどろしくて、本当に地獄の入り口なのかもしれないという気がする。
どちらにせよ、子供が一人で近付くにはとても勇気のいる場所。
少年はお父さんの教えを忠実に守り、その社にだけは近付かない。
でも、その年の夏が終わろうとする頃。
事件が起きた。