07/08/24 23:19:23 K9wnMNP/0
電車の中などであまりにも顔が似ている親子を見かけると、笑いがこみ上げて
きそうになることはないだろうか。
わたしの目の前の座席に無言で腰掛けていたその親子も、一目で同じ遺伝子と
わかる見事なまでにそっくりな顔立ちだった。
二十代後半とおぼしき娘と初老の母親だ。形のいびつなせまい額、泣いた能面の
ような細い垂れ目、生まれつき人生にすねているみたいにすぼんだ唇。
容姿全体にうっすら漂う陰気さが、なんとも言えず哀れながらも微苦笑を
誘わずにはいられない。
そんなことを考えながらちらちらと二つの並んだ顔を眺めていると、次第に
それほど笑えることではないような気がしてきた。
それに、どこかで見たことがあるように思える。どこでだろう?
そのうち電車が駅に停まり、親子は立ち上がった。ドアが開き、二人とも降りる。
気になったのでドア口まで移動し姿を目で追うと、ホームで待っていたのだろう、
一人の若い女が娘のほうに声をかけた。
「おひさしぶりです、おねえさん」
だが母親のほうはその会話にかまわず、すたすたと歩き去っていく。
娘と若い女もまったくそれを気にする素振りもない。まるで赤の他人みたいに。
本当に赤の他人だった? まさか、あれほどそっくりなのに。
その時、若い女がふと車内に目をやり、こちらを見た。そして驚いた様子で、
「あなた、どうして……」
青ざめた顔。聞き覚えのある声。この女は……
母親が振り向く。もう一度その顔を見て初めて、わたしにはわかった。