07/06/21 05:17:57 xuPWJU4qO
>>244
「今からでも、俺を息子として、認める事は有るか?」
血の繋がりが、隣に座るこの女の人だとわかってしまった状況で、喉の奥から、ひねり出された言葉。
願いと思いが、合間って、恐怖さえ感じる。
しばらくの間。
「……それは、ない。」
「今の家庭と生活は、本当に幸せなの。…あの時、私は海に捨てたの。だから、あなたには私達の生活を掻き乱さないでほしい。」
静寂に包まれ、俺は腰掛けた流木と一体化する。このまま、俺は化石になってしまえばいい。
「お母さん!」
母親を呼ぶ声。
隣りに座っていた女性が、腰を上げて、笑顔で娘のもとに駆け寄っていく。
俺は一人、流木と一体化してる。
「そろそろ、帰ろうか。」母親らしい愛情味のある声。うん。と相槌を打つ娘の明るい声。
二人、手を繋いで横を通り過ぎていく。繋がった手。
「それじゃ、仕事がんばってね。」
純真さを忘れない魅力に溢れた美しい女の子が、母親と手を繋いで、家に帰る。
俺は目で追っていって、空っぽの手を握り締める。ほんの少しの砂がじゃりと音を立てる。
俺は化石だ。風化して砂に変わればいい。
長い間、固まっていた気がする。
どこか、遠くから、事の流れを見ていたのか。師が背後に近寄り、力強い手で肩をつかんできて、ハッとして振り返る。
「まだだ。お前は、一喜一憂するには、早過ぎる。まだ早いんだ。」
俺は平静を装っていた。
でも、俺は死んでしまうだろう。
いや、死んでしまいそうだ。