07/06/21 02:54:34 xuPWJU4qO
>>240
約束の日、約束の時間に俺は師に言われた通りに、海岸に足を運んだ。
浜辺には、俺の母親の人と、娘のオリンが立っていた。
二人と目が合って、俺は立ち止まる。
オリンは満面の笑みで走り寄ってくると、俺の手を引き、波打ち際に連れて行く。
しゃがみ込むと砂浜の中から貝殻を取り出して、見せつける。
「アクセサリーをつくるのが、好きなの。一緒に探して。」
彼女は、聞かされていないのかと戸惑う。
無邪気な笑顔を見ると、彼女はやはり、まだ幼いのかとも思う。だから、俺も貝殻を探す事にした。
ハマグリや大きめの巻き貝、そう、とにかく大きめなものがいいのだと思って、大きくてゴツゴツとした貝殻をごっそりと大量に彼女へ差し出す。
「何してるの!、こんな貝じゃ、ダメ!」
と言って振り払う。
「綺麗な貝を探してるの。」
手のひらの上に乗せて、キラキラと光る貝殻を見せて、笑う。
純粋で天真爛漫な彼女の笑い声が浜辺に響く。
俺は一所懸命に探したが、美しい貝はなかなか見つからない。多分、不向きなんだろう。
疲れ果てて、辺りを見回し、ちょうどいい流木を見つけて、腰掛ける。
オリンもその隣りに腰掛ける。
彼女は俺の左腕を見て、手に触れる。
「かっこいい腕輪ね。」
そう言って、手首に触れる。
「これは、師が昔、はめていた腕輪をもらったんだ。金具の真ん中にはめ込まれているのは、翡翠。一人前になると、エメラルドの腕輪になる。」
「アーティストの証しね。」
彼女は大きな四角の翡翠を撫でる。次に手を取る。
「大きな手ね。」
ゴツゴツしていて、傷だらけの手を見つめる。
「職人の手ね。」
彼女の目と、俺の目の行き先が交わり、見つめ合う。そして、ゆっくりと俺の顔に触れる。
「綺麗な顔…。白い肌…。でも、寂しそうな眼をしてる。」