07/06/20 22:46:40 MSeXXYF2O
内陸に住んでいると、時々、海が恋しくなる。
だから、今日は休みを利用して、湯野浜まで行ってきた。
天気予報では、雨が降るとの事だったが、正午過ぎに、ぱらぱらと降ったぐらいで、浜辺についた頃には、雨は止んで、少し日も射してきた。
穏やかな海だった。
夕凪と磯の香りが心地よく、防波堤に腰掛けて、打ち寄せる波を見つめていた。
浜辺には家族連れがいて、父親と母親と、年の頃は二十歳位の若い娘さんが、手を繋ぎ合って、楽しそうに、波打ち際を歩いていた。
次の瞬間、別な場所へ意識が誘われ、ヴィジョンが飛ばされる。
街の喧騒の中、大通りのビルにかけられた大画面に、彼女の姿が映る。
長身でスタイルも良く、長い黒髪と健康的な小麦色の肌。細く長い手足。魅惑的な目線。銀のティアラが似合っている。
彼女には一度、会ったことがある。欠けた断片が戻ってくる。
世界が一つの言語で、統一されていた時代。民衆においては文字の使用が禁止されていた頃、俺は石版に文字を刻む彫文師の見習いをしていた。
向こう側の大陸から、(予言)と呼ばれた女の子が、こちら側の大陸に遣わされる前の話だ。
運命と予言を司る、大切なあの人がやってくる前の話になる。
俺はその時、年齢は18歳かそこらだったと思う。
赤ん坊の頃、海に捨てられたのを師匠に助けられ、師を父親のように慕い、信頼し共に彫文と密猟者を捕らえる仕事をしていた。
共に暮らし、師からは多くを学び、多くを与えられた。