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前世物語 第二部乱世編 第四十九話 紅人 その三
そして、忘れられた漁村。
水軍の漕ぎ手にでも取られたのか、村に働き手はいない。家々の半数は
焼かれ、残り半数は朽ちようとしている。
こんな、何も価値のない場所でも戦があったのか。それとも海賊衆に襲わ
れたのか。
山賊、海賊はこの時代、物の怪よりも怖い存在。戦の影にはこのような輩
が跋扈し、私利私欲のために良民を襲う。
僅かばかりの子供達、そして老人達。彼らの生きる糧は仲間だったものの
屍肉。老人達はさすがに気がとがめるのか、もう屍肉を漁る力もないのか、
臥して死を待つ物が多い。それをまるで餓鬼のような子供達が待っている。
老人の餓死躰だ。さほど喰らうところはあるまい。だが、子供達にとって
他に糧を得る手当はない。屍肉を喰らうことに何の疑問ももっていない。
やがて行き詰まることにも気付いていない。
ほんのわずか。海の反対側の山とも言えない丘を越えたところでは一面に
稲が実り、長閑で豊かな生活がある。
これが、この国のこの時代の姿。
第五十話へつづく