07/04/18 22:33:21 vaTrZKxS0
前世物語 第二部乱世編 第四十八話 和魂 その三
加由。
顔を見るまで気付かなかった。ここのところ、加由がいたことを思うこと
さえもなかった。
でも、あの顔。大きな目。意志の強そうな眉。小振りな口。
加由に間違いない。
そうか。何があったか知らないが、刀を捨てて、百姓の女房になっていた
のか。
元は加由の父も母も百姓だ。今はまだ不慣れでも、じきに慣れるだろう。
赤子は、加由が赤子の頃より元気そうだ。私の孫と言うことになるのか。
男の子だろうか。女の子だろうか。
まるで生きてた頃のような感情が一瞬浮かぶ。でもすぐに色あせる。
水田は陽をきらきらと写している。この明るさ。田植えの活気。赤子をあ
やしながら微笑む夫婦。
みな、生者のものだ。
死者である私は、それでもほんの少し、ほんの少しだけいい気分になって、
ふらふらと田畑の畦を歩き、村を去った。
第四十九話へつづく