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前世物語 第二部乱世編 第三十八話 転落 その三
全身が硬直して自ら動けない。悲鳴を上げようとし、口中に鉄の味が広が
る。血が口から溢れ、耳朶を濡らす。
霞がかかった視界に遠く先刻の小道。甲冑侍が二人、谷を覗き込む。
そこに抜刀したおにちゃが斬りかかる。たちまち二人を斬り伏せ、おにちゃ
が谷底を覗く。
「ちびーぃ」
大丈夫、私はまだ生きている。口が動かない。
「ちびーぃ」
おにちゃが駆けるように降りてくる。視界がぐらりと揺れ、遠くの山並み
がよぎると谷底が写る。私は谷底に落ちている。
「ちびーぃ」
遠ざかるおにちゃの声。
幾度か躰を何処かにぶつけ、私は冷たい水に落ちる。
痛くはない。冷たくもない。このまま死ぬのだろうか。それでもいい。死
ぬのは思ったより楽なことかも知れない。
そして、私は何も考えられなくなった。
第三十九話へつづく