07/04/06 10:14:33 gX7JNtvz0
そのアパートは、家族で住むには窮屈なところだったし、学生が借りるには
少々、家賃が高すぎた。
必然、独身の社会人ばかりが入居することになる。
平日の午前9時ごろにはすべての住人が働きに出る。
だから、前の駐車場には一台の車もなく、閑散としていた。
そこに、スーツの男が訪ねてきた。呼鈴を鳴らし、次いで、素早くポケットから
ピッキング道具を取り出した。ノブに手をかけると、想定していた抵抗が
なかった。手間が省けたとばかり、道具をしまう。
彼はそこに人がいないことを知っていた。事前に目星を付けていた場所と
時間であり、安全に盗みが行えることを確信していた。
左右に目を走らせ、人通りがないことを一応確かめる。そして、するりと
ドアの隙間に体を滑り込ませた。
そして―驚愕に目を見開き、たたらを踏んで逃げ出した。