三河屋のサブちゃんに似合いそうなバイク@7台目at BIKE
三河屋のサブちゃんに似合いそうなバイク@7台目 - 暇つぶし2ch284:華
07/02/09 21:04:22 wYPVqUhP
私(華の中の人)が中学生の頃、肺活量以外で実際にこの記録だした男がいました…

その方の漲るパワーをモチーフに花沢さんに重ねてみました…orz

285:774RR
07/02/09 21:25:13 d3latEkq

俺、力自慢には程遠い男なんだけど、なぜか握力だけはある。
背筋力100キロ程度なのに、握力は90キロ
体力測定の時、体育教師がいつも握力計の故障だと疑っていたなぁ。

286:774RR
07/02/09 22:11:06 8MzgYlEU
背脂www

287:FZ4@愛知
07/02/09 22:18:58 dnrsoPmu
>>286
>背脂を伸ばし、裏返った声で…

↑これって意図的にとしても狙い過ぎだよねwww

めちゃめちゃワロタw

作者氏乙!
(^ω^)ノシ



288:774RR
07/02/09 22:58:29 x47qDTOj
ラードかよwwww


作者氏乙

289:774RR
07/02/10 00:51:04 aHxDkbiy
作者のSっぷりに惚れた。
今後とも楽しみにしてます。

290:774RR
07/02/10 04:22:49 6A77qGig
>>華氏乙!!!
続編楽しみにしています

291:774RR
07/02/10 07:21:27 rcv46zM1
華氏④

292:774RR
07/02/10 08:45:22 RovX2Fhu
>257
「魔棲男」氏や「カツヲ」氏の作品はサクサク読めたのに
なぜか「華」氏や「タラオ」氏の作品を読み飛ばしてしまい
妙な違和感を感じたのはコレが理由か…

俺からもお願い。
いい作品なんだろうから読みやすいように改行くらいはちゃんとして下さい。

293:774RR
07/02/10 09:23:44 W2aKutx7
理由は知らんが読み飛ばすとかよく平気で書けるよね。人間性を疑う。

294:774RR
07/02/10 09:59:42 A+9A8LpM
>>292
何様?空気嫁

295:774RR
07/02/10 10:16:05 ZaHqG8Z5
>>257
>>292

どうせ喪前ら短編小説もろくに読まずにうすっぺらい国語の教科書しか
読んだことねぇだろ。

改行ってのは読みやすくする為にあるように思うかもしれないが
特に華氏の文はその場をイメージさせたりインパクトを伝えるために
ああいう改行の使い方なんじゃなえぇか

あれが文章ごとに改行されると全く文章のイメージがわかんよ



華の中の人、タラオの中の人キニスンナ

海千山…海千山千からか それで海鮮組 マジオモロイよ
マスターも浦野だしw

296:774RR
07/02/10 10:19:07 ZaHqG8Z5
っと忘れてた 紫煙あげ

つ④

297:774RR
07/02/10 11:39:43 Jb5RNmed
>>295
同意

それはさておき、作者の皆さん乙

298:774RR
07/02/10 11:59:15 OoOzQrwE
>>295
>>292は教科書すら読まないよ。

299:774RR
07/02/10 12:21:12 AkVunItG
マンガじゃないと理解出来ないんだろうなぁ
可哀想に

300:774RR
07/02/10 14:45:19 sKiLxADQ
ゆとり世代は教科書すら読まなくてもいいのか。
いいなぁ。

301:774RR
07/02/10 14:56:26 CcCQphel
教科書すら読まない俺だが、初代スレからの全作品キッチリ読んでるぞ。

>>作者様
つ④

302:774RR
07/02/10 15:00:01 hSo8wh3h
そんなことばっか言ってるから盲目信者って言われるんだと思うんだがなぁ・・・
とりあえず下らんことでスレを荒らさないで欲しい

>>作者様
つ④

303:774RR
07/02/10 16:05:45 3So4cRA/
批判への批判は即信者という、短絡思考もいかがなものか。

304:774RR
07/02/10 19:50:11 m5togL1X
>>303
それも一理あるね
ただ>>295は言い方をもうちょっと考えるべき
>>257>>292も作品を頭ごなしに批判するようなことは書いてない
作風もあるが読者の意見は重要(まぁ作者諸氏はこれで食ってるわけじゃないが)

こういう議論て何度もループしちゃうよね
もっと読みやすく

批判は黙れ

盲目信者乙
みたいな流れが定期的に起こるのはなぜだろう・・・


305:774RR
07/02/10 20:25:48 7ZjTIn3P
スルーすればいいのにいちいち文句つけるから荒れるんだよ。
>>292>>257の話は>>258>>259で終わってるんだから蒸し返すな。
とりあえず>>292みたいなのはスルーに限る。

306:774RR
07/02/10 20:47:46 5cM/KUKX
みな、それぞれがこのスレを好きなんだよね。
ただ、好きだからこそ、少しの校正でもっと良くなる!って思っちゃうから
どうしても口出ししてしまう。

で、ここから提案なんですけど、Wikiでまとめると言うのはいかがでしょうか?
Wikiの利点としては皆さん、周知の通り、

・みんなで編集できる。
・編集履歴が残せる。

などがあると思います。(他にもあるかと思いますが、当方の個人的認識と言うことで)
デメリットとしては
・Wiki自体の管理が必要になる。
・Wikiの実行環境の管理(サーバなど)
があるとおもいます(他にもあるかと思いますが、当方の個人的認識と言うことで)

307:774RR
07/02/10 20:57:39 3So4cRA/
編集できちゃうのは、個人的には嫌だなぁ。リレー小説ならいざ知らず。
作者さんが意図して入れた改行なんかも勝手にいじられたり、と手垢だらけになりそうで怖い。

そもそも完璧を求めること自体、意味あるのかなぁ?って思っちゃう。


308:774RR
07/02/10 21:13:32 7ZjTIn3P
作者が一人なのにwikiにしたって仕方なくないか?

309:タラオの中の人
07/02/10 21:50:54 fcwdYYVe
あまり複雑なことは考え無いで行きましょうよ。

俺はここに楽しみながら書いていて、皆さんも俺の書いた文を単純に楽しんでいただければ良いと思う。
金銭が発生するわけでも、誰かに迷惑がかかるわけでもなく、なんら義務ももっていない状態で、
完璧を要求されるのは少々難儀です。

建設的なご意見は大歓迎ですが、所詮は余暇で書いているものですので。。。

改行について。
私の場合、ワードで書いた後に貼り付けています。
ワード上では、読みやすいのですが、貼ると今ひとつ読みにくいんです。
それでも、貼る際に編集して改善はしていますが、
あまりにやると文脈のの連続性が失われてしまうので、たいがいにしないといけません。

魔棲雄さんの文などは比較的短い単元でスペースを開けて、
読みやすさを出す事により疾走感を演出しているようですが、
私の場合、句読点が比較的多く、また体言止めなどを多用する文章のため、
あまりに改行やスペースを設けすぎると、「あざとさ」が出てしまいます。

まあ、個々の「味」と言うことで納得していただきたく。

ということで、この話は以上で終了。
後引かないようにお願いしますです。

310:華
07/02/10 22:08:13 UuioiWza
こんばんは。私、今日投稿するか悩みました…orz

でもタラオの中の人の言われる通り複雑な事考えないで行きたいです…
みなさん…Easy Go!です…orz

↓続き行かせてもらいます↓

311:華
07/02/10 22:09:06 UuioiWza
面接も無事に合格を貰い私は嬉しかった。働いて働いて合宿費用とバイクの費用を貯めてやるんだ!と鼻息荒く自宅に帰った。

自宅に帰ると父が何やら包装紙を綺麗に取り外し、中の木箱の蓋をそっと開く。「おぉ~!流石は博多の明太子だなぁ~見事だ」と嬉しそうに明太子を眺めていた。
「ただいま、とおちゃん。どうしたの?その明太子」と私が聞くと父は「おぉ、おかえり。田中さんがね、先日の件でお礼にと博多から送って来たんだよ」 先日の駐車場の件でのお礼との事だ。律儀な人だと感じた。

「しかし、今回は田中さん…不幸だった。」と父は呟き出す。父の話では田中さんは駐車場を借りた日の深夜に、福岡の実父が倒れそのまま息を引き取ったとの事。
次の日の昼頃、ウチに電話があったらしく急遽福岡へ帰る事になり奥さんと共に福岡に飛んで帰ったそうだ。
まだ暫く福岡に滞在しなくてはならないらしく多忙な日々を送っている、と父から聞いた。

私もアルバイトが決まり父に報告すると「ほほぅ 海さん所か あの人は一本筋の入った人だ。見た目は怖いが根は良い人だから」と言い出した。
不動産関連の仕事柄で昔から良く知っている人らしく、何やら嬉しそうに微笑んでいた。
私は早川さんへ「バイト決まった」とベルを打ち込み、続けて「明日もいつものところへ」と打ち込むと、すぐに「いいよ」と返事が返ってきていた。

312:華
07/02/10 22:09:48 UuioiWza
私は近くの本屋に走り、バイクの本を幾つか買い込んだ。買い込んだ本を部屋に持ち帰ってはベットに寝転びながら本に噛り付いた。
楽しくて仕方が無かった。どんなバイクに乗ろうかと、バイクの写真を見ては自分が跨っている想像をして楽しんでいた。
雑誌の記事に温泉へ入りに行く記事や郷土料理を食べにツーリングする記事には、当時カルチャーショックを受けた。と、言うのも温泉や郷土料理など食べに行くのは私は「旅行」でしか味わえないものと考えていた。
そもそも「旅行」というのは車や電車、飛行機などの乗り物に乗り込んで目的地まで行き、現地の景色、文化、食事を味わうものと考えていた。
だがバイクは違った。自分の手で、自分の意思で目的地へ赴く。なんて凄い乗り物なんだろうと改めてバイクの魅力にのめり込んでいった。

明日は退屈だった高校二年生の終業式。明後日からの春休みは海鮮組でアルバイトが始まる。
高校生になってから中学のみんなとバラバラになり何かを失いつつあった今の私の心に一つ一つ埋めるかのような充実感が埋まり始めていた。
ラジオから流れる「東京の開花は4月6日~7日頃です。」と言う言葉を聴いてパチッとスイッチを切り眠りについた。

313:華
07/02/10 22:10:31 UuioiWza
校長の何度も同じ事を繰り返し延々と続く内容を聞き終え、終業式は幕を閉じ私の退屈だった高校二年生も幕を閉じた。
早川さんの私立高校も同じ日に終業式で、私は自宅に帰り「珈琲・浦野」へと向かった。もちろん買い込んだバイクの雑誌を抱えて…

既に早川さんは奥の小さなテーブルに腰掛けており、昼間の店内は人でごった返していた。いつもは夕方頃に来店していた「珈琲・浦野」の雰囲気とはまた違った風景だった。
ガヤガヤとざわつく店内に笑い声が所々聞こえて来る。いつも60代くらいの男性が新聞紙を広げて読んでいたカウンター席もカップル達で埋め尽くされていた。
抱えていた雑誌とポーチを上にあげて「通りま~す」と言いながら奥の小さなテーブルに辿りついた。「凄い人ねぇ~」と手を小さく振りながら早川さんに挨拶した。

「でしょ~? 私もこの時間来るの初めてだけど凄い人ね」と嬉しそうに笑うと「そうそう、コレ!私も沢山買っちゃった!」と言いながら抱えていた本を小さなテーブルに広げた。
早川さんは突然笑い出す。どうしたんだろう?と首を傾げると早川さんも同じ雑誌を沢山広げ始めた。「親が公認してくれたから私もいっぱい買っちゃった!」
「ふふ」と早川さんが笑うと私も可笑しくなり「グフフ」と笑い出した。
「でも、よく早川さん説得できたわねぇ」と聞く。 「うん、最初は猛反対されたんだけどね。免許もバイクのお金も自分で出すっ!って大声出したらお父さんが渋々OKしてくれたの」と嬉しそうに話し出した。
ただ、条件として学力が落ちるような事があったらバイクには乗せない、という条件付らしい。

314:華
07/02/10 22:11:06 UuioiWza
私も明日から始まる海鮮組のアルバイトを話すと「ええええぇっ!は、花ちゃん…に、肉体労働?」と驚くも「は、花ちゃんらしい」とクスクス笑われてしまった。それもそうだ。そう感じた私も自分自身に笑い出してしまった。
それからバイクの雑誌を読み始め、コーヒーを啜りながらアップルパイを頬張る。合宿何処に行こうか?どんなバイク乗ろうか?何処にツーリング行こうか?と話が途絶える事はなかった。

「そうそう、私達が久し振りに会ったバイク屋さん覚えてる?」と早川さんが言い出した。「うん、ガンマが飾ってあった看板の無い所でしょ?」とコーヒーを啜った。
「あのお店まだオープン前らしいよ」と雑誌を左手で開き右手でアップルパイを口に運んだ。
どうやらバイク屋さんの諸事情によってオープンには至らないらしく4月にはオープン出来るという事だった。
「ねぇ!オープンしたら時間のある時にそのバイク屋さん覗きにいきましょうよ」早川さんが提案をしてきたが「う~ん…まだ免許もないのに冷やかしにならないかしら?」と不安そうに私は答えた。

ちょっとだけ!という早川さんの押しに負けてしまい、オープンしてお互いの時間が合えば覗いてみるという事に強引に決まってしまう。
この早川さんの強引な案が二つの再会を果たす事になる。

そしてまた未知なる世界のジグソーパズルのピースが一つ、二つとはめ込まれて行く。

315:華
07/02/10 22:16:48 UuioiWza
ね、寝ます…orz

316:銀のスカG ◆HAWK2rcsg2
07/02/10 22:37:17 bdyTrZJT
つ④④

安らかに眠れ、そしてまた面白い話をおながいします。
個人的には花沢さんの「グフフ」という笑い方がツボだったw

317:774RR
07/02/11 02:16:31 vfY/3NK/
サザエさん実写化するんなら、
花沢さんは渡る世間のカズちゃんだなと読みながら思った。

318:774RR
07/02/11 02:23:33 sDVgZY5y
15年位前かな?
実写版を見たなぁ。タラチャン出産の瞬間で終わった話。

319:774RR
07/02/11 03:06:29 ypAdOA5k
つ④

320:292
07/02/11 09:16:40 YUNt1qeu
>>309
そうか、もう一つ感じた違和感はコレか…

魔棲雄氏に比べ両名は偉そうで謙虚さがないから嫌なんだな…

321:774RR
07/02/11 09:53:17 2uV8+uzT
>>320
偉そう?
偉そうなのはお前だよ、とっとと消えろ



322:774RR
07/02/11 09:53:43 PuJ0fI2R
スルーage

323:774RR
07/02/11 10:02:27 Zmuu0xLS
>>320
アンチ必死だな。死ね。

324:774RR
07/02/11 10:08:23 jhOaEAld
取りあえずタラオ氏は早く次回作を…

325:774RR
07/02/11 11:29:25 H4l0elDa
お姉さんたちも鈴菌感染するのだろうか

326:774RR
07/02/11 12:18:15 pEXk/1UD
華氏つ④

堀川って誰だ?って調べたらあの刈り上げ君かw


327:774RR
07/02/11 14:48:48 N2OQqvxI
Wikiさ、なんにも書いてないのなら作った。
編集してくれるなら晒す。

328:774RR
07/02/11 15:09:21 GVOX84Rz
>>309
流れを読んでないのはわかるが、これだけは言わせてくれ。
タラオ氏の文章のどこに体言止めが多用されているんだ?


あと、読みにくいとか行ってる奴、CSSいじって行間をあけると読みやすくなるよ。

329:774RR
07/02/11 15:38:48 ki7YSZYI
いままで通りでいいんジャマイカ?

Wikiも誰か言ってたが手垢付くみたいで俺は嫌だな

330:華
07/02/11 20:36:25 LUvLb6Bf
いよいよ海鮮組のアルバイトが始まる。

私は朝日ヶ丘駅近くの建設現場へと向かった。到着すると現場は建設中のビルで建設予定の看板には「かもめビル建設中」と書かれていた。
「おぅ!花、はえぇじゃねぇか。」と海親方が声をかけてゆっくりと近づいてきた。
「おはようございます。今日から宜しくお願いします!」と気合を入れて豚足をピンと伸ばし深くお辞儀をする。海親方は「おうっ!宜しくな」ニコっと笑った。

するとブォォォォォ~ンという音と共に一人の男が現場へとやってきた。その車輌を見れば「KAWASAKI ゼファー400」という事は私にはすぐにわかった。

「Kawasaki ZEPHYR400」レーサーレプリカ全盛期に川崎重工が世に送り出した一台。46馬力2バルブの空冷ユニットを搭載し、その車体ラインは名車ZⅡを彷彿させるスタイル。
「ネイキッド」という言葉を生み出し、レーサーレプリカブームの流れを変える一石を投じた車輌である。

「おはようございます」そう言いながらフルフェイスを脱いだのは驚いた事に文学さんだった。 「ほほぅ、文学 お前バイクのるんか?懐かしいなぁカワサキか?」と海親方は文学さんに近づきながら挨拶をした。
文学さんは照れくさそうにゼファーという名前である事を海親方に説明しながら車輌を現場へ駐輪場へと押していた。文学さんもバイクに乗るんだと、心の中で少し親近感が沸き始めた。

331:華
07/02/11 20:37:19 LUvLb6Bf
私たちは作業着に着替えビル建設前の広場に集合した。そこには親方程ではないが肥大した筋骨隆々な男達と尖った眼鏡の事務員の女性が整列していた。
海親方の挨拶の後、私達の紹介が始まり、いよいよ仕事が始まろうとしていた。
文学さんは親方に恐る恐る質問し出した。「あ、あの… 面接の合格者って僕達二人だけなんですか?」 そういえばそうだと私も気付いた。
海親方の話によると合格者は私たち含め、たったの7人で残りの5名は突貫工事が進められている海山商事新社屋の建設現場へと向かっているとの事。

更に突貫工事の進められている新社屋にほとんどの重機類と海鮮組の若い衆が出向いているそうだ。
私達の現場にはほとんどの重機類は無く、数日間は階段を使って資材を上へ上へと運ばなければならない過酷な現場だった。

「心配すんなっ! こっちはよ!少数精鋭ってヤツだ!」と豪快に海親方は笑い出し作業が始まった。
10階建て予定のビルは既に図太い鉄筋が組み上がっており、私と文学さんは海鮮組の職人さん達へ下から階段を使って様々な資材を運ぶ事となった。

頼まれた資材を一段一段のぼり、職人さん達へ届けビル前の資材置き場に戻りまた一段一段のぼる。腰に力を入れ豚鼻を大きく開き酸素を送り込む。
まだ寒い季節にも関わらず作業着が暑苦しくなってくる。落とさない様に慎重に一段一段資材を担いでのぼる…

海親方は「ゆっくりでいい 自分の運べる量でいいから確実に上にもってこい」と私と文学さんに気遣ってくれた。
昼休みには二人ともグッタリしてしまい配られる特大のお弁当を食べる食欲が私には沸いてこなかった。
「花、おめぇ飯食わねぇともたねぇぞ」と職人達にからかわれたりしながら私はお弁当を食べ始めた。 「おいっ!文学!おめぇ隅っこいくんじゃねぇ! こっち来い!」と海親方が隅でお弁当を食べていた文学さんを呼んだ。

332:華
07/02/11 20:37:51 LUvLb6Bf
「飯ってのはよ!弁当であれみんなで食うのがうめぇんだよっ!覚えとけ」そう笑いながら文学さんの背中にバンッと叩くと「ごふっ」っと文学さんがむせる。
そんな光景を見て職人達はゲラゲラ笑い出した。
すると一人の職人さんが「文学!おめぇバイク乗るんだな 俺も昔は乗ってたんだよ」と言い出し、周りの職人達も嬉しそうにバイクについて語り出した。
W1やメグロ、ドリームナナハン、古い車種では赤トンボ(YA-1)の名前が飛び出していた。

「そういや、花はなんでウチ来たんだ?」と一人の職人が質問してきた。私は迷わず「バイクの免許とバイクのお金を貯めるために来ました」と言うと更にバイク話は盛り上がった。
バイクって不思議だと思った。今日初めて会う人達なのにバイク話でこうも盛り上がるとは思わなかった。そして嬉しさで胸がドキドキしていた。

そんな楽しい昼休みも終え午後の作業が始まった。資材を一段一段のぼり背中からは背脂がツゥーっと流れる。ググッと腰に力を入れ太股をあげる。
階段を踏み外さないように慎重に息を殺しながら一段一段とのぼる。 体力に自身のある私でもさすがにこの作業はきつかった。文学さんに到ってはフラフラと危なげながらも下唇を噛みながら重い資材を担いで一段一段のぼっていた。

18時になり今日の作業が終わる。汗びっしょりになった私達は糸が切れた様にその場に座り込んだ。だが充実感が私達の顔を緩めていた。
「花、明日も頑張ろう!」と文学さんが励ます。私も「明日も頑張りましょう!」と励ましあった。
厳しい肉体労働ではあったが昼休みのバイク談議や優しい職人さん達に囲まれながら私達は頑張って仕事を続ける事が出来ていた。

そんな初日から一週間も過ぎた日に「かもめビル建設現場」で事件が起きた。 3月末、桜のつぼみはまだ開いてはいなかった。

333:華
07/02/11 21:06:28 LUvLb6Bf
ね、寝ます…orz

334:774RR
07/02/11 21:19:07 BWusKgyK
>>華ちゃん
つ④

文学さんと俺には、大学生とゼファー海苔という共通点が。

335:774RR
07/02/11 21:19:18 PoazXaOv
携帯からで申し訳ないが乙です

336:774RR
07/02/11 23:26:44 D9RMgc75
また背油www

華さん乙です!つ④

337:774RR
07/02/12 00:36:59 hRnYK5wt
華さん④④④④④

338:華
07/02/12 11:35:52 RiW7jRng
おはようございます。

私、今日の夜は出かけてしまうので今夜分をアップしておきます。

↓続き↓

339:華
07/02/12 11:36:34 RiW7jRng
毎日汗をかき、家に帰ってはバイク雑誌に噛り付いて眠る生活が続いていた。今までは家に帰るとお菓子に噛り付いていた生活とは随分変わっていた。
そんな生活を続けるにつれ、体のコレステロールと無駄な脂肪が徐々に落ち始めていた。

過酷な肉体労働生活も一週間が過ぎていた。

新社屋建設に出向いていた鮫肌という名の25,6歳位の男が海親方と話し込んでいた。困った表情を浮かべながら職人達へ事を伝えるべく一旦休憩となった。
海親方の話によると新社屋突貫工事が思う様に進んでおらず、もう数日ほど重機類を新社屋現場で使う事になる。という内容だった。
「かもめビル」建設は少数精鋭の言葉通り順調に進んでおり海親方は重機類の件は問題無いと鮫肌という男に言った。
「おっし、一服いれるかっ!」と海親方が言うと職人達は座り出しタバコに火をつけ始めた。なんらいつもと変わらない一服休憩だった。

しかし休憩が終わろうかという時に事件は起こった。私は作業が始まる前にと御手洗いから戻ると先程の鮫肌という男と文学さんが口論になっていた。

340:華
07/02/12 11:37:30 RiW7jRng
「はっ! 東大?文学? ここで何の役に立つんだよっ!」鮫肌は腕を組みながら言い放っていた。文学さんは悔しそうにグッと堪えていた。
海親方や職人達はジッとその様子を伺っていた。 私は止めないの?と思っていた。
「大体文学で飯喰えるんか? 宮沢賢治だか知らんが銀河鉄道読んでなんになる くだらねぇ」と言い放つと職人の一人が「鮫!おめぇ言いすぎだよ」そう鮫肌に言い聞かせた。
その瞬間「うぉぉぉぉぉぉ」という声と共に文学さんが鮫肌に体当たりをする。職人達は「おぉ!やれやれ やっちまいなぁ」と何やら楽しそうに観戦し始めた。
鮫肌は咄嗟の出来事に不意をうたれ床に叩きつけられる。「み、宮沢賢治をぉぉぉぉ」と叫びながら鮫肌の顔を殴り始めた。

「こんのクソジャリィィ」と立ち上がり文学さんの腹に一発のボディーを入れると文学さんはくの字になり床に倒れた。「おめぇの知る文学ってのはそんなもんか」鮫肌は捨て台詞を吐き出した。
「鮫肌ぁぁぁぁ!!!」という声を叫びながら文学さんは鮫肌に蹴りをかまし、鮫肌は憤怒し転がっていた棒切れを手に取り始めた。

「バカヤロォォォ!!!」と太い声が響いた。

海親方がそう叫ぶと二人とも固まってしまった。二人の元へゆっくり近づき右手で文学さんを、左手で鮫肌の胸ぐらを掴み上げたまま吊るし上げた。
壮絶な光景だった。文学さんはともかく鮫肌という男は海鮮組の職人達と同じく肥大した筋骨隆々な男にも関わらず意図も簡単に海親方は腕一本で吊るし上げてしまった…
そして吊るし上げたまま海親方は二人にこう言った。

341:華
07/02/12 11:38:10 RiW7jRng
「文学!おめぇ自分に大義名分ある喧嘩に足使うなんざ無粋な真似すんじゃねぇ!」まずは文学さんを叱り出した。
「鮫!てめぇも喧嘩でモノ使おうとすんじゃねぇ!ちったぁ大人になれ!」と鮫肌に言い聞かせた。

二人は苦しそうに「すみません…」と言うと海親方は二人を降ろしバスッっと一人づつボディを入れ二人は海親方の腕に絡むように気を失った。
「貝塚ぁっ!貝塚いるか?」そう海親方は言うと職人達は「おぉ!出るか」と嬉しそうに様子を眺めていた。
「先程から後ろに居ます」そう言い出したのはツンと尖った眼鏡の事務員の女性だった。 「おぅ!こいつら寝かせとけ」そう言うと女性は細い華奢な腕で二人を担いで事務所へとスタスタ歩いていった。
「わぁははははは さすが貝ちゃん!見事な物干し竿だ!」と職人達はドッと笑い出す。驚いた…事務員といえど海鮮組は力が全てなのか…そう思わされた。

その後二人は揃って海親方の元へ謝りに来て鮫肌は新社屋現場へ、文学さんは持ち場へ戻った。
その日の仕事を終え、私は建設中のビル屋上へ上って夕日を何考えることなく眺めていた。沈みかけている太陽を見ながら私は海親方の先程の采配を思い返していた。
海親方から「何か」を教えられた感じがした。乱暴ではあるが一本筋の入った男の姿を見て一つの正義を見せ付けられた感じがした。そして色んな事を考え始めてしまった。
無言の失恋した。友人と再会した。異形の者に助けられた。そして決意を固めた夜の事。退屈だった高校二年生。気弱になった私の心。そんな事を考えていた。

「おぅ!花 まだ帰らないんか?」ポンっと肩に手を置いて海親方が現れた。「なんだ?悩みでもあんか?」そう海親方は言う。
私は首を左右に振る。「そうか それならいいけどな 夕日見てるのか?」と聞いてくる海親方に私は首を縦にコクンと下げた。
突然海親方は言いだした。

342:華
07/02/12 11:39:32 RiW7jRng
「夕日ってのは今のお前だな。」私は何の事だかわからず海親方の顔を見上げた。

「太陽ってのは昇ったり沈んだり輝いたり色んな顔を持ってやがる。」そう言いながら私の頭にポンと手を置き、優しく撫で始め「暗くなる前に帰りな」そう言い残して階段を下りていった。

私は再び沈みかけている夕日を見ると、豚頬に弧を書くように一粒の涙が流れていた。

343:華
07/02/12 11:42:31 RiW7jRng
長々とスミマセン…

もう少しだけ【海鮮組バイト編】続きます…orz

それでは失礼しますorz

344:774RR
07/02/12 12:33:00 +ebxGvN1
うっひょぉ!
つ④

345:774RR
07/02/12 14:26:34 L/HlXhk8
つ④
もうたまんねぇ!

346:774RR
07/02/12 16:16:50 EigdOtml
つ④
続きお待ちしております。

347:堀川くんの憂鬱
07/02/12 20:29:25 k26rknWf
「私を探して。」
受話器の向こう側で、彼女は言った。
そうして一方的に電話を切った。
「ガチャリ」
永遠とも思われる切断。
やれやれ。

僕は、すっかり温くなってしまった缶ビールを飲み干した。


彼女はFTRに乗って、僕の知らない何処かへ行ってしまった。
そして、「私を探して。」と彼女は言う。

OK。
時間だけは、たっぷりとある。
金も、3ヶ月くらいなら何とかなるさ。
仕事のことは・・・、また考えればいい。

まず、何をすればいい?

「教習所だな。」


彼女の名前は磯野ワカメ。
今までも、いろいろあったけれど、
僕のガールフレンドだ。

348:774RR
07/02/12 20:46:46 1PLENTw6
やれやれ=村上春樹

349:774RR
07/02/12 21:44:47 6ovtCfX1
おぉ、来たよ~

つ④

350:774RR
07/02/12 23:15:20 W9RkBkZn
堀川君って昨日の放送で、ワカメにいらん事教えた奴か?
みんなサブキャラよく知ってんな。

351:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/13 00:03:37 +jGRnjYG
【SCENE105】
4月も半ば過ぎ。完全なるバイク最適シーズン到来。
走っていて薄ら寒いくらいが丁度良い。都内では既に終わってしまった桜も、少し標高を稼げば再見する事ができる。
風と共に体に巻きつく桜吹雪は、バイク乗りにしか見ることの出来ないもう一つの「花見」だ。
僕とアナゴ君、そして鈴木さんは1985年初のツーリングを奥多摩にすることに決めた。

前月に賊に破壊されたNinjaのキーシリンダーの出費は痛かった。・・・だが、Ninjaは鈴木さんのおかげですぐに
手元に戻ったのだし、授業料と捉えれば決して高いものではない、と自らに言い聞かせた。
待ち合わせたアナゴ君、そして鈴木さんも道中で合流し、3台の大型バイクは国道20号を西へ。
新宿の高層ビル群がミラーの中で遠ざかる。うららかな春の陽気は、いつも以上に目に入る世界を明るく彩る。

そんな陽気のせいだろうか。先頭を行くアナゴ君のペースが上がる。まだ車が多い府中市内にも関わらずだ。
右に左に車をかわす。走っていようと停まっていようとお構いなし。決して褒められたような運転ではなかった・・・、が
予知予測に基づいて流れを読むのではなく、次々に発生する刹那の状況に対して若い反射神経任せのライディング。
今思えば、そんな走り方はその時が初めてでは無かったかもしれない。僕とアナゴ君はライディングへの、そして
スピードへの「慣れ」で、心のたがが緩んでいたのかも知れない・・・。



352:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/13 00:04:16 iq+y2xF3
遅い!遅い!僕もアナゴ君も、心地よい春風を切るライディングを妨げる無粋な4輪の群れを押しのけるように走った。
もはや渋滞を作り出す4輪車が悪であり、それら悪を切り裂いて走る僕達に正義があるような、おかしな義侠心すら
持ちあわせていたような気がする・・・。八王子付近に着いた頃、後ろに居たはずの鈴木さんの姿は無かった。

道路脇の自動販売機でコーヒーを買った頃、鈴木さんが追いついてきた。

「二人とも、大丈夫かよ。あんまり無茶するとあぶねーぞ。」

鈴木さんは口調こそいつものように穏やかだったが、目はいつに無く真剣だったような気がする・・・。

「ハハハ!平気っすよ~。大丈夫、大丈夫」

アナゴ君は鈴木さんの心配をよそに緊張感無く答えた。僕もまた鈴木さんの言葉を真摯に受け止めてはいなかった。
・・・それは、この先に知る事になる鈴木さんの持つ辛い過去を思えば、あまりに軽く能天気な受け止め方だった・・・。

その後も、多摩川の渓谷美に目もくれず僕達は走った。細く、前車をパスし辛い国道411号線にストレスを感じていた
僕とアナゴ君は、奥多摩湖で停まることなく料金所を抜け、奥多摩周遊道路へ。
冬場の鬱憤を晴らすが如く、僕とアナゴ君は走った。コーナーの先に潜むリスクなど頭に無かった。一般車両など当然の
ように瞬間的に追い越し、所々のコーナーに置いてある小さな花束など自分達には無関係なことだった・・・。
ステップを路面に擦り付けなければ「負け」だと思った。ブレーキを遅らせ、無理なスピードで突っ込む事が「勝ち」だと
思った。若く、そして愚かだった・・・。




353:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/13 00:05:47 iq+y2xF3
風張駐車場に僕とアナゴ君が着いた時、やはり後ろに鈴木さんの姿は無かった・・・。その代わり、そこには馴染みの
顔が居た。レッド達、横田基地所属の米軍人だ。
いつもの第三京浜常連組み4人と、初見のハーレーダビッドソンが3人ほど。どうやら彼らもこの陽気に誘われ、
ツーリングとあいなったようだった。そのうちに鈴木さんも合流。いつものようにバイク談義が始まった。

このヒョロヒョロの坊やがスピードのデビルだって?ウソだろ?・・・というような内容の事を、ジャンクフードとバドワイザー
によって丸々と太ったハーレーダビッドソンの大男に言われた。笑いが絶えない時間が過ぎてゆく。
いつもと同じ、バイクを軸にした心地よい時間が流れていた・・・。

米軍グループは勤務時間が迫っているという事で、僕らより先に奥多摩周遊道路を降りる事になった。
7台のバイクが駐車場を後にする際、CB900Fのマイケルがヘルメットのバイザーを上げアナゴ君に叫ぶ。

「Let's meet at the San-Kei!」

「OK!またな!」

僕らが彼らを第三京浜で打ち破ったあの日、一触即発の状態だった彼ら二人は、実は折り合いが良かったらしく、
妙に仲が良かった。彼らが二人で僕に仕掛ける小さなイタズラ・・・勝手にキルスイッチを切られていたり、燃料コックを
OFFにしておかれたり・・・などには僕も何度も餌食になった。



354:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/13 00:06:40 iq+y2xF3
その後も少しの間、僕ら3人は語り合う。話はやはりライディング。

「もっと速くなりてぇよなぁ。なぁフグタ君」

「そうだね。とりあえず目指すは関東最速?なんちゃって~」

鈴木さんは、そんな僕らの会話を聞くとも無く聞いていたような気がする・・・。

「どうしたらもっと速くなれますかね?やっぱ練習っすかねぇ?」

アナゴ君の突然の質問に、鈴木さんは驚いて我に返った。

「え?あ・・・あぁ、そうだな。うん、練習あるのみだよね」

そんな取ってつけたような言葉の後、少しの間を置いて鈴木さんは言った・・・。

「二人とも・・・。バイク乗りは、バイクで・・・」

そこまで言ったところで、鈴木さんは言葉を止め、タバコの煙を気だるそうに吐き出してから、
「・・・いや、なんでもない。忘れてくれ。」と言った。
その先の言葉が、場の雰囲気に相無い相応しくないと思ったのか、言うのが躊躇われたのかは解からない・・・。
その時の鈴木さんは明らかに浮き足立つ僕らとは正反対の心持ちでいたに違いない・・・。どこか憂いを湛えた彼の
瞳の、その理由が明らかになるのは間もなくの事だった・・・。



355:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/13 00:08:16 +jGRnjYG
「僕らもそろそろ行こうか」

3台はレッド達が数分前に降りていった檜原村方面へバイクを向ける。
下りというのに相変わらずのハイペース走行。そして少し走った頃、前方に異変を感じた。
クルマ数台の渋滞が出来ている。事故だろうか?その右コーナーの先は見えない。車線を跨いで停車するクルマの
列を追い抜いてゆくと、そこには信じ難い光景があった・・・。

センターラインを車幅半分ほどはみ出して停止する対向4輪車。そのバンパーとボンネットは何かが突き刺さったように
中心あたりがへこんでいる。フロントガラスも車体右側が蜘蛛の巣状に割れていた。
・・・そして、そのクルマの傍らには鮮やかなブルーのバイクが転がっていた。あの大きなテールが特徴的なバイクは・・・。
CB900F!まさか、先刻別れたばかりのマイケルのマシンなのか?
にわかには信じられず、さらにNinjaを進ませる。そうすると、CB900Fの先、対向4輪車の右後方にアスファルトに
仰向けで倒れている細身のライダーの姿。そして、周囲には慌しく動く数人の外国人の姿・・・レッドもいる!

心拍が上がる・・・。状況が知りたい・・・。だが知るのが怖い・・・。僕とアナゴ君は夢中でバイクを路肩に停め、彼らの
元へ駆け寄る。



356:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/13 00:10:13 +jGRnjYG
「マイケル!大丈夫かっ!」

アナゴ君が叫ぶ。マイケルは仲間達に介抱されていた。ヘルメットは脱がされていたが意識は無いようだった。右足からの
出血が著しく、血がアスファルトに流れていた。僕とアナゴ君はその光景を前に成す術がなかった。
それは、その悲惨な光景を前にして体が動かなかったという理由だけではない・・・。不幸中の幸いか、マイケルの仲間達は
世界最強の軍隊の兵士で、そのような不測の事態を前にした彼らの対応は機敏で、僕らの出る幕など無かったからだ。

こんなもの俺の戦友がベトコンの地雷で受けたキズに比べりゃ大した事無い、と言うような励ましを与えながら右足を止血したのは
先刻、僕をヒョロヒョロ呼ばわりしたハーレーダビッドソンの大男。後に聞いた話だが、彼はベトナム帰還兵だということだった。
日本語がほぼ完璧なジョージは、僕らが到着する以前に救急車を呼びに最寄の公衆電話まで走ったようだった。
彼らのプロの対応の前に、僕とアナゴ君はマイケルに励ましの声を掛ける以外、出来る事は何一つ無かった・・・。

その内、意識の無かったマイケルの顔が苦痛に歪み、声を発した。

「・・・Ow・・・Ouch!」



357:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/13 00:11:30 +jGRnjYG
・・・良かった!意識が戻ったようだ。彼は痛みに悶えながらも、アナゴ君に向かって「Here I am again!」などとジョークを
飛ばす。良かった・・・命に別状が無くて本当に良かった・・・。
どうやら彼は右足を解放骨折していたようだった。後に解かった事だが、足以外にもあばらや鎖骨を折り、肩も脱臼して
いたようだった。

「トリアエズ、ダイジョブダ」

レッドがフーと安堵の溜息をつき、僕らに笑い掛ける。アナゴ君は安心したのかヘナヘナとその場にへたり込む。


奥多摩で事故に遭うと救急車が来るまで時間が掛かる、と言うのは道沿いの看板に掲げられているほどで、実際に救急車が
来るまで相当な時間を要したが、その間のマイケルはアウッチアウッチと叫びまくったかと思えば、愛車CBの状態を気に掛けたり
相手のクルマの運転手に毒を吐いたりと、非常に元気に振る舞い僕らを安心させた。救急車に運び込まれる際、アナゴ君に
親指を突き立て再会を誓う。

マイケルが救急車に無事収容された事で安堵する僕とアナゴ君、そしてレッド達だったが、だが僕は気が付いてしまった・・・。
過去にアナゴ君のエンジンブローの時など、様々なトラブルに際し機敏かつ正確に対応し、頼れる兄貴分だった鈴木さんが
この状況下で微動だにせず立ち尽くしていたことを・・・。そして、蒼ざめた鈴木さんの体が、小刻みに震えていた事を・・・。







358:774RR
07/02/13 00:16:35 5TbcFh6i
つ④

359:774RR
07/02/13 00:39:38 cV7ScESL
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。

360:774RR
07/02/13 01:48:31 C1v5j2gT
つ④

361:774RR
07/02/13 02:15:09 FKkvMXn2
そういえば3年前、奥多摩帰りに青梅街道で横田基地の
白人のR1と黒人のCBRが事故ってたな。
急に思い出した…。

362:774RR
07/02/13 02:20:41 pIIEayai
ぁ~ ゾクゾクするぅ~(;´∇`*)
やっぱ魔棲雄はたまらんバイ!


つ④

363:774RR
07/02/13 02:31:14 pIIEayai
おっと!!
忘れちゃいけねぇ!

まとめサイトの中の人も現実忙しいとのコトですが、まとめ乙ですm(__)m 助かります!

364:774RR
07/02/13 05:29:20 RdqcBZ/P
華氏、魔棲雄氏

つ④④④④④④

最高だぜ!

365:774RR
07/02/13 06:41:38 QgOZm56p
泣きました。まじで。



366:774RR
07/02/13 10:31:03 EDV2LBbP
マスオ最高!!
つ④④④

367:774RR
07/02/13 16:40:24 LEEowcvr
サルベジ

368:774RR
07/02/13 18:08:04 OeBAofr9
久しぶりに鳥肌が立った

369:華
07/02/13 20:28:47 7u34GKU4
魔棲雄さん つ④ サイコーです!

ぁ、兄貴ぃ…(´;ω;`)

私も続きます。

↓続き↓

370:華
07/02/13 20:29:28 7u34GKU4
明日から高校三年の新学期が始まる。いつしかラジオに流れていた桜開花情報は見事にハズレ、この日は桜が満開である。

春休み最後、そして海鮮組最後のアルバイトとなった。少し寂しい気持ちもあったが何事も無くアルバイトを終えて私と文学さんは「かもめビル」前のプレハブに呼ばれた。
「かもめビル」の現場で残す作業は内装だけで海鮮組とは別の内装屋が受け持ち完成となる。つまりこの現場での海鮮組は全ての作業を終える事が出来た次第だ。

私達二人はプレハブに入り、海親方から給料を頂いた。「ありがとうございます。」と二人は声を揃えて海親方にお辞儀した。「おぅ お疲れさんな」と海親方は優しい目で言った。
初めて手にした給料袋に感無量の気持ちが湧いてきた。働く事の喜びを初めて味わえた瞬間だった。
「どうだい。文学、おめぇさえよけりゃぁまだウチで働くか?突貫じゃねぇから日給は下がるがどうだ?」と海親方が文学さんに提案してきた。無論あの一件以来の文学さんは海親方を心底尊敬していた。
「は、はい!お、お願いします!」文学さんは嬉しそうに答えた。

「おい、花 おめぇ進路決めてんのか?」と聞いてきたが、私はまだ進路を決めて無く悩みながら「いえ、まだ決めてません…」そう答えた。
「俺はな、三流だが大学出てんだよ。おめぇも大学行け。きっと人生の大きな糧となる。」海親方が私に優しく言う。
「で、でも…私…勉強は普通位だし今から受験勉強は難しいんじゃ…」おどろおどろ答えると「たった今、ここにいい教師が出来たじゃねぇか!なぁ!文学」そう海親方が文学さんへ顔に似合わないウィンクをパチッと飛ばした。
「ふふふ いいですよ 僕でよければ勉強教えますよ。」そう言いながら海親方にウィンクで返した。そんな文学さんの仕草を見て海親方は豪快に笑い出す。

371:華
07/02/13 20:30:06 7u34GKU4
「それで 花、おめぇまだバイクのお金貯まってねぇだろ?休みの時はウチにバイト来てもいいぞ。」と話は進んでいった。なんだか嬉しくなってきた。
更に嬉しかったのは文学さんが合宿までの受験勉強の合間に海鮮組敷地内であればゼファーでバイクの乗り方まで教えてくれると言う。
もう海鮮組とはお別れとなってしまうと思った私は嬉しくなり豚っ面がクシャクシャになった。

私の高校3年生の生活は、平日は文学さんの仕事が終わる18時~22時まで海鮮組事務所で受験勉強。そして息抜きは文学さんによるバイク教習。土日は海鮮組でアルバイトをする生活へとなる。
海鮮組でアルバイトを続ける事により高校3年生の春には私の体は大きく変化を遂げる事になる。
セルロースが取り除かれ引き締まった太股は、私の愛機を押さえ込む強靭なニーグリップに、過酷な資材運びで鍛えられた足首はバンク中の揺ぎ無い安定力となり、
体脂肪が落ちきり、磨き上げられた上半身は次々と現るライバル達と競り合うライディングフォームの土台となる。
そして最大の財産は夏の合宿までに160cmの身長が165cmへと徐々に伸び、足付きの面で大いに救われる事となる。体重については高校卒業には今の体重から15㎏ダウンした。その頃の体重はとても公表出来ない。

「おっし!話は決まった!貝塚ぁ!支度出来てるかぁ?」事務員の貝塚さんへ言うと「いつでも結構です」そう答えながらツンと尖った眼鏡を光らせた。
「行くか!」私達の背中をバ~ンと軽く叩き外に出る海親方。文学さんは貝塚さんに「ど、何処へ行くんですか?」と慌てて聞くと「花見よ。海鮮組の花見は凄くてよ」と笑いながら貝塚さんも嬉しそうに外に飛び出た。

372:華
07/02/13 20:31:09 7u34GKU4
公園に着くと既に沢山の人でごった返していた。桜が満開と言う事もあり近隣に住む人々が宴会を始めていた。桜の広場中央にある大きな桜の木の元に筋骨隆々な男達が所狭しと集い、花見の場所を確保していた。
新社屋へ出向いていた若い衆だった。遠くから見ると異様な光景でグフッと笑いが出てくる。
「お疲れ様ですっ!!!」と公園の端から端まで響くような声で若い衆は海親方に挨拶をする。手を上げながら「おぅ!おめぇらも新社屋、お疲れな」そういいながらドスンと座りだした。

簡単な挨拶の後、海鮮組の花見は幕を開ける。勢いよく詰まれたビールケースは直に空になり、有り得ない量の食事を海鮮組はガツガツ喰らう。極めつけは樽酒が空になり幾つかコロコロ転がり出す始末。
そんな転がる酒樽を貝塚さんがひょいひょい積み上げると職人達は笑い出す。
仕事っぷりも豪快だが海鮮組は呑みっぷり、喰いっぷりも豪快だった。 酷いのは海親方で、気分良く酔い始めると唄を歌い出す。コレがもの凄い音痴で職人達はゲラゲラ笑う。
先日喧嘩をした文学さんと鮫肌さんも肩を組んで和気藹々と宴を楽しんでいた。

楽しい宴は桜が舞う夜空の下でいつまでも続いた… そして私は明日からいよいよ高校3年生になる。

早川さんから「バイク屋オープンしてた」とポケベルにメッセージが入っていた。

373:華
07/02/13 20:34:38 7u34GKU4
以上で【海鮮組バイト編】は終わります…orz

次回から【鼓動編】になります。

長ったらしくてスミマセン…orz

374:華
07/02/13 20:38:11 7u34GKU4
平日は文学さんの仕事が終わる18時~22時まで = ×

平日は文学さんの仕事が終わり18時~22時まで = ○

嗚呼…反省して今日は寝ます…orz

375:774RR
07/02/13 20:43:53 RFkvNV3y
つ④

376:774RR
07/02/13 21:16:16 q/vg+t40
つ④





しかしながら、セルロースは植物の繊維です。

377:774RR
07/02/13 21:22:01 TobbVdZI
セルライトだな。


378:774RR
07/02/13 21:42:50 S526p2j8
つ④

ナイスバデー気になるなぁ

379:774RR
07/02/13 22:43:20 XOOdNu1q
つ�C
花沢さんはもう豚じゃないんだね?


380:774RR
07/02/13 23:09:32 KSgIyfC0
でも豚鼻は健在
つ①①①①

381:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/13 23:45:50 jW2qT+3y
つ④

巧みな文章やストーリーもさることながら、私的に華さんの文章に惹かれる最大の理由は、
登場人物の台詞回しです。
まるで本当に自分の目の前にその人物が存在するかのごとく、登場人物により一層の生命感を
与える台詞の数々・・・。どうぞ、ご無理なさらずマイペースで書ききって頂きたいです。

382:774RR
07/02/13 23:49:09 TobbVdZI
そう言う魔棲雄氏も頑張ってネ。次作wktk
つ④

383:774RR
07/02/14 00:54:44 WlE5NwFV
魔棲雄氏と華氏更新速すぎw
読むのたるくなる




























なんてことにならないのが不思議。本当に読んでて飽きない。楽しい。
つ④

384:774RR
07/02/14 02:47:50 gsXayIB3
>>383
コラー
ちょっとビックリしただろ

とにかく
つ④

385:774RR
07/02/14 02:53:56 9fbDFyw+
>>381
それをそっくり、あなたにも

386:774RR
07/02/14 10:22:46 pLV06Z+3
ヒャッハァーーー!ここは通さねえぜ!

つ④

387:774RR
07/02/14 12:31:00 t4N4jvNp
       .~旦 )
     (( 旦~  グラグラ
       .旦
       ..旦~
       (旦~~
      /⌒ヽ   
     / ´_ゝ`)
     |    /    すいませんがお茶をお持ちしましたよ
     | /| |
     // | |
    U  .U   ⊿
           ↑>>386

388:774RR
07/02/14 12:45:09 ipGLXHWl
↑危ない!危ない!

389:774RR
07/02/14 13:16:46 vRPnZNvm
マスオ氏 つ④
タラオ氏 つ④
頑張ってください

390:華
07/02/14 21:00:32 NheF/DH0
>>376
>>377
ご指摘有難うございます。セルライトですね…orz
セルロース…豚ロース… 勢い余って勘違いしておりました…反省します。

>>381
お褒めのお言葉有難うございます。

魔棲雄さんの物語を読むにつれ私も投稿してみたくなり始めてみました。

無理せず書ききりますので今後ともよろしくお願いします。

>>383
ありがとうございます。 素直に嬉しいです(´・∀・`)b

↓続きです↓

391:華
07/02/14 21:01:23 NheF/DH0
【鼓動編】

校長の何度も同じ事を繰り返し延々と続く内容を聞き終え、私の忙しい高校三年生は幕を開けた。新しい舎弟共とたわいのない会話を終えて今日は昼過ぎに帰宅できた。

帰宅してからは書類仕事をこなす父に海鮮組で暫くお世話になる事を伝えると「おぉ そうかそうか」と進路を決めた私に嬉しそうに喜んでいた。
「こんにちは~」と少し息切れをしながら花沢不動産事務所に入って来たのは早川さんだった。「久し振り~」と私が言葉を返すと「あ、あれ?花ちゃん痩せた?」そう早川さんが言い出す。
正直照れ臭かったが「うん 少しだけ痩せたのよ」と恥ずかしかったが自慢気に胸を張った。

「よっしっ!行くよ~」間髪入れず早川さんは私を事務所から引っ張り出す。「とおちゃん ちょっと出掛けてくるね」父は「ああ、いっておいで」と私達に手を振り見送った。

メイン通りを歩きながら海鮮組のアルバイト話で盛り上がり、合宿費用は十二分に貯めた事を話した。
「さ、さすが花ちゃん…もう合宿費貯めるだなんて でもずるいなぁ~現役東大生の教師かぁ」と私の腕を突きながらからかう早川さんも免許取得までにはある程度のバイク購入資金が貯まりそうだとの事。

メイン通り終わり際の細い路地を左に曲がる。例の看板の無いバイク屋に看板が掲げられていたのが遠くからでもわかった。
「昨日オープンだったみたいよ!」嬉しそうに早川さんが目をキラキラさせて足早にバイク屋へと急ぐ。
内心、私は「免許も無いのに…冷やかしにならないかしら…」そう思いながらも早川さんの後を追った。

392:華
07/02/14 21:02:29 NheF/DH0
≪POPモータース≫そう看板には書かれていた。当時では少し違和感のある名前だった。20坪のショールームには様々なメーカーの新車から中古車までが所狭しと並べられ、奥の作業場には30半ばの男が赤と白のキャップを深々と被り作業していた。
「ごめんくださ~い」元気よく早川さんは店内に入った。私も、えぇぃ!という気持ちで店内に入る。奥からキャップを深々と被った男が「は~い」と優しそうな声でショールームに姿を現した。

奥から出てきては「おぉ~ 花沢不動産の… お隣はご友人かな?」そう男は言う。咄嗟に「えっ?」と私は男を見ても誰だかわからなかった。「自分だよ!自分!」笑いながら深々と被ったキャップをスッっと取った。
「た、田中さんっ!」大声を張り上げてしまった。 「先日は駐車場ありがとね。 本当に助かったよ。そうそう、このお店だってお父さんからの紹介なんだよ」そう田中さんはニコッと白い歯を浮かべた。
「あっぁっ! せ、先日はご愁傷様でした…」と私は深くお辞儀すると田中さんはキャップを深く被り直し、キャップのツバに手を挟みながら「いえいえ、この度は…」と小さな声で言葉を前に出した。

「でもどうしたんだい?突然ウチの店に来るなんて ビックリしたよ」と田中さんは重苦しかった空気を振り払うかの様に私達に聞いてきた。
早川さんが事の経緯を話し始め「そうかぁ 君達免許取るのか」嬉しそうに無精髭を触りながら答えた。
「で、私達このお店の前で久し振りに再会出来たからここでバイク買おうと前々から決めてたんです。」と息をまいて早川さんがそう言い出した。ちょっと照れ臭かったが私も再会出来たここでバイクを買うのも悪くない、そう思った。
「おぉ~ 嬉しいねぇ 免許ある無しでもウチに遊びに来るといいさ。欲しい車輌は言ってくれれば何でも仕入れるよ」嬉しそうにキャップのツバをクイッと上げて田中さんは言う。

393:華
07/02/14 21:03:05 NheF/DH0
前からショーウィンドウに飾ってあったRGV250γ-SPは既に「売約済み」の札が付いていた。「もうガンマ売れたんですか?」と早川さんが質問する。
「そうなんだ。 開店直後に高1になったばかりの子がやってきてね。ちょっと別の場所で知ってる子で、免許取るからお願いします!って具合で気押しされてね。免許取るまで予約って形さ」と笑いながら田中さんは言った。
「へぇ~ そうなんだぁ~」と私達は何気なく相槌をうった。


[SUZUKI・RGV250γ-SP 形式VJ22A]
SUZUKI・2stクラスの花形クラスで250クラス初の倒立フォークを装備した車輌。当時ではまだまだ珍しかった湾曲スイングアームも装備されており足回りには大幅な進化を見せ付けた。
このSPモデルは乾式クラッチ、カセット式クロスミッション、リザーバー別体式サスペンションや34Фビックボアキャブレターを搭載した当時のワークスマシンテクノロジーを余すことなく投入された一台。
水冷2stクランクケースリードバルブV型2気筒で249cc・45ps この物語でのカラーリングはSUZUKIカラーの白・紺となる。


「そう言えば田中さん POPってどう言う意味なんですか?」と疑問に思っていた事を聞いてみた。深々とキャップのツバを下げて恥ずかしそうに「ポップってのは<親父>って意味さ」そう答えた。
「お父さんへの思いを…って事ですか?」と失礼ながらも私は聞いてしまった…

394:華
07/02/14 21:04:06 NheF/DH0
「いや、今思えばそうなるけどね…実は自分は…」と恥ずかしそうに言葉を出そうとした時「トトトトト」と軽く歯切れの良い聞き覚えのある音が店の前にピタリと止まった。
田中さんは「あ、あれ?何でウチに?…何の用だろう」そう呟きながら田中さんは店の外へ急ぎ足で出て行く。
早川さんは窓から見える車輌を見て「わぁ~ アレ、SRXじゃない?真っ黒だぁ~」嬉しそうに店を出ようとして振り返り私の顔を見た。

異形の者…そう、あのシンプソンの黒々とした骸骨のようなヘルメット。全身黒に覆われたレザー。右手には鮮明に覚えている椿のワッペン…

突然の出来事に声が出なくなった…

「どうしたの?花ちゃん? 見に行こうよ!」 私は「あっ…あっ…」と変な声を出していたらしく「もう!どうしたの?」再び早川さんが聞いてきて、ふと我に返った。
「あ、あの人!あの人よ!私のポーチ取り返してくれたのっ!」早口言葉の様に言う私に「それじゃ行かなくっちゃっ!」と私の手を引っ張り出した。
私は吸い込まれるように異形の者へと足を進めると無意識に早川さんを抜き去り先に店の外に出た。

「先日はどうもありがとうございました!!!」と全身全霊を込めて周りを気にせず、張り裂けるような声で深々とお辞儀をした。田中さんと早川さんは私の行動に驚いていた。

「はっ!はっ!はっ!はっ!」と声と共に黒々としたヘルメットが上下に揺れる。 それが私達への第一声だった事を今でも鮮明に覚えている…

今、この瞬間…POPモータースから私達の物語は桜舞い散る季節と共に始まろうとしていた… 

そしてまた…未知なる世界のピースがはめ込まれてゆく。

395:774RR
07/02/14 21:07:28 A7Gw+Dzp
                 ハ_ハ  
               ('(゚∀゚∩ 鈴菌!鈴菌!
                ヽ⊂彡 
                 ヽヽ_) 



396:774RR
07/02/14 21:09:21 NdVaBkm1
リアルタイムktkr!
つ ④

397:774RR
07/02/14 21:17:09 2uhta+g9
>>華氏
250クラス初の倒立フォーク搭載車はZXR250だよ
ガンマが1990年、ZXRが1989年に発売されてる

398:華
07/02/14 21:18:26 NheF/DH0
>>395
リアルタイム鈴菌㌧クス (`・ω・´)

>>396
有難うございます!


では反省しながら豚ロース食べて今日は寝ます…orz


399:華
07/02/14 21:21:39 NheF/DH0
>>397
あう…そうでした…250クラスだとZXR250ですね…orz

2ストローク250クラスと書けば良かったです… ご指摘有難うございます(つд;)

400:774RR
07/02/14 23:20:03 VLw4xu5x
つ④
マシン紹介文はアムロ声で脳内変換されたw

401:774RR
07/02/14 23:40:27 4ZEk2Z4A
つ④

>>400
カーグラTVwwwwww

402:774RR
07/02/15 03:41:10 34pADNDP
>>華さん④④④

間違いはウチラが勝手に脳内変換するから気にするなよ~
しかし物語の作り方が旨いね!早く続きが読みたいよ

403:774RR
07/02/15 09:34:33 GNErCxAu
気にするな つ④

イイヨ イイヨ~

404:華
07/02/15 20:35:53 btOGh6BI
>>400
お茶吹きました。

>>401
>>402
>>403

有難うございます(`・ω・´)


↓【鼓動編】続きです↓

405:774RR
07/02/15 20:36:24 WAh4hYyI
キタコレ

406:華
07/02/15 20:36:34 btOGh6BI
目の前の異形の者はギュッとあの時と変わらぬレザーの音を鳴らしながら黒々としたヘルメットのシールドを開ける。
眼鏡を外してヘルメットをズボッと勢いよく脱いだ。

「い、伊佐坂先生っ!?」 そこには小説家・伊佐坂難物の姿が私の瞳に飛び込んできた。

私は驚いてしまいその場に気が抜けた風船の様に座り込んでしまった。そんな私の姿を見て伊佐坂先生はまた笑い出す。
「いやいや、あの時花沢君は怯えきってたからね。怖がらせたくなかったんだよ。」伊佐坂先生は言う。私の頭は混乱し続けていたものの、ようやく座り込んでいた事に気付いた。
聞きたい事が沢山あったが何から聞けばいいのか、そう考えている内に伊佐坂先生はSRXを店内に入れ始めた。


[YAMAHA SRX600 90年式]
YAMAHAが世に送り出したスポーツシングル。90年式はフルモデルチェンジを遂げる。
90年からセルスターターが装備され始動性の改善が施されており、リアショックはツインショックからモノサスへと変更される。
モダンで流麗なスタイルとは裏腹に闘うスポーツシングルなどと言われる。
デュアルパーパスモデルXT600をベースにした空冷OHC4バルブ単気筒エンジン 608cc・42ps
伊佐坂難物の乗るSRXは外装・エンジン共に黒に覆われた難物カラーとなる。余談だが伊佐坂難物はSRX600以前の愛機はSR500・カフェレーサー仕様である。

407:華
07/02/15 20:37:14 btOGh6BI
伊佐坂先生が店内に入ってから私達も後を追う様に店内に入る。
伊佐坂先生は田中さんへ「先日はご愁傷様です。」一言告げるとキャップを深々と被り「この度は…」辛そうに田中さんは呟いた。
「それで今日はね、ポップ君が昨日お店開いたからと昨日電話で源の字から聞いてね。」ジャケットから取り出したハンカチで眼鏡を拭きながら伊佐坂先生は田中さんに伝えた。
思わず私達は「ポップ??」不思議そうに聞くと伊佐坂先生は可笑しそうに笑い出した。そんな姿を見て田中さんは「や、やめて下さいよ」と恥かしそうに言う。

「ポップってのは田中君のあだ名でね。彼の名前は<秀雄>なのさ だからポップと呼んでいるんだよ」笑いながら言う伊佐坂先生にググっとキャップを下げる田中さん。
聞けば田中さんの前の職場≪イナダモータース≫の親方が、福岡出身で秀雄という名前、なによりプライベーターチームでメカニックとしての経験もある田中さんをからかいながらポップ、ポップと呼ぶ様になりお客さんまでそう呼ぶ様になったそうだ。
田中さんは「イナダモータース」の兄弟子の後、直に門を叩いた二番弟子で親方に怒鳴られながらも数年勤め、奥さんの妊娠を期に独立を決めたそうだ。
屋号「POPモータース」の名付け親は「イナダモータース」の親方が笑いながら強引に決めたそうだ。

「そう、それで私のSRXをポップ君の所で見てもらおうと思ってね」ポンッとタンクに手を添えると「ええっ!じ、自分がそのSRXをっ?!」田中さんは後ずさりしながら驚いた。
「源の字がね。面倒見てやってよと頼むもんでね。ここの前はよく通るし、君の的確な腕は良~く知ってる。そうさせて貰おうと思ってね」 困惑した表情を浮かべる田中さんへ伊佐坂先生はもう一言、言葉を添えた。
「あいつの腕は確かだ。いいメカニックになる そう源の字は嬉しそうに言ってたさ」笑顔で田中さんへ伝えた。
「そんな…親方にはいつも怒鳴られてたのに…」右手を握り締め、うっすらと瞳が潤い出し、キャップのツバを左手で挟み顔を隠した。
暫く沈黙し、田中さんは右手の親指で目元を拭くと「わかりました。POPの名に恥じない様に頑張ります」真剣な眼差しで伊佐坂先生に答えた。その姿を満足そうな笑顔で見守る様に伊佐坂先生は見つめていた。

408:華
07/02/15 20:37:52 btOGh6BI
「ところで君達、暫く見ないうちに大きくなったなぁ。何故に花沢君と早川君はポップ君の店に?」私達に不思議そうに質問してきた。
「伊佐坂先生、私達は…」と早川さんが喋り出そうとするとポップさんは私達を止める様な手つきで「あ…」と声を出した。
それを見た伊佐坂先生は「いいんだよ ポップ君」笑顔でポップさんに言い聞かせた。事の経緯を早川さんが説明し「ほほぅ、君達もバイクか それでここに居る訳か」と頷いた。
「あ、あの、それで私、沢山聞きたい事があってっ!」豚鼻を開いて伊佐坂先生に言うと「まだ時間はあるのかな?お二人は?」そう聞いてきた。 私達は迷わず「はい」と答えた。

「今日は良い日だ。 ポップ君 開店祝いを兼ねて今日は寿司でも奢ろう。無論、君達もだ。」嬉しそうに伊佐坂先生は言うと「えぇっ!奢りですかっ?中トロと中落ち丼たのんじゃいますよ」無邪気な笑顔で田中さんは言う。
「はっ!はっ!はっ!君はマグロが本当に好きなんだね。結構!結構!」大笑いする伊佐坂先生。
伊佐坂先生は恋愛小説家で代表作は「うだつのあがらない男」「海鮮家族」 近年では「単車男」「HANA」などの作品を出している。

ポップさんの仕事が終わるのが19時頃になるとの事で伊佐坂先生は「それじゃ時間まで浦野さんの所で待ってるよ。ポップ君。」そう田中さんに伝え私達の背中をポンッと叩いて「浦野さんの所へ行こうか!」と言う。

浦…野…さん?そう思いながら私達はPOPモータースから近くの喫茶店「珈琲・浦野」へと歩き出していた。
桜が舞う細い路地を歩きながら私の頭の中で複雑に絡まっていた一本の糸が徐々にほどけ始めていた。

409:774RR
07/02/15 20:42:07 8oFgvTNP
>>408
つ④

何と言えばいいのか・・・、文章と文章の“連絡”が上手いですよね。尊敬します。

410:華
07/02/15 20:45:08 btOGh6BI
>>409

有難うございます(つд;)

私達に不思議そうに質問してきた。 = ×
私達へ不思議そうに質問してきた。 = ○

嗚呼…今日も反省して寝ます…orz

411:銀のスカG ◆HAWK2rcsg2
07/02/15 22:02:39 Dq7z1ZX6
>>400
スズキが社運を掛けて開発した(ry ←棒読みで

>>410 華氏
最初は「花沢さんまで出てきちゃったよwww」と読み始めたけど
なかなか楽しく読ませてくれる・・・楽しみが増えました。
というわけで華氏他作者各位に

つ④④④④④④④④

412:774RR
07/02/16 02:19:08 f5Pe9Baw
イササカ先生の作品タイトルに思わず爆笑した

413:774RR
07/02/16 05:49:10 5wo/jtyb
マスオ氏ありがとう
タラオ氏ありがとう

414:774RR
07/02/16 10:06:24 gRamywZE
アムロ声!ツボッた。
つ④

415:774RR
07/02/16 16:46:30 dcdY91SR
思わずようつべで若井おさむを見まくってしまった。

416:華
07/02/16 22:01:30 gE2vB6S5
>>411
有難うございます。


それでは今夜分です。

↓【鼓動編】続きです↓

417:華
07/02/16 22:02:28 gE2vB6S5
「マスタ~!こんにちは~!」早川さんが元気よく喫茶店「珈琲・浦野」のドアを開ける。

いつものニコニコした笑顔で「いらっしゃい やっと出会えた様だね」と野太く太い声で迎えてくれた。
カウンターに座り「じゃっ!ブルマンお願い」いつもの調子で早川さんは注文をすると伊佐坂先生は「私はいつものブレンド頼むよ」と白髭のマスターに注文し出した。

「いつもの?」不思議そうに私達は伊佐坂先生に聞くと白髭のマスターは「カッ!カッ!カッ!」と野太く低い声で笑った。
「ふふふ 君達、奥のテーブルに座って私を見ててごらん」と面白そうに言い出した。何が始まるのかと不思議に思いながら奥の小さなテーブルに私達は座り伊佐坂先生を見た。
新聞紙を広げ顔を隠す様に伊佐坂先生はカウンターに座って居た。

「ああああっ!いっつもカウンターに座ってる人だよ!花ちゃん!」早川さんが驚きながら大声で叫んだ。
「はっ!はっ!はっ!」新聞紙からチラッと顔を見せながら笑う伊佐坂先生。私達は再びカウンター席に戻る。
私は思わず「助けてくれてから何度も近くに居たんなんて…言ってくれれば…」小さく呟くと「あんまりにも君達が楽しそうに話しているものでね。老体が話に割って入るのも気が引けてね」
「ろ、老体だなんて」と答える私達を見て伊佐坂先生は笑い出す。「二人共、い~じ~わ~る~」と早川さんは笑いながら伊佐坂先生と白髭のマスターの顔を見ては二人共も大笑いした。

「でも何でここに伊佐坂先生の皮ジャンが吊るされてたんですか?」そう聞く私を見て白髭のマスターが「花ちゃん」と声を出すも伊佐坂先生が右手を出し言葉を止めさせた。
「いいんですよ。 浦野さん 私から説明しますから」と白髭のマスターに言った。

418:華
07/02/16 22:03:06 gE2vB6S5
「私がね、この格好をしている時は翁(おきな)って呼んで欲しいんだ。二人とも」淡々と語り出した。「仕事を忘れてバイクに乗る時は別の人間になる。そういう気持ちでね。」
「いつからか周りのライダーから翁、翁と言われるものでね。あだ名みたいなものだよ。」笑いながら差し出された熱々のコーヒーを啜りながら話した。
「そうなんですか それで伊佐坂…翁さんは…」と私は言うも「翁でいいよ お二人さん」と優しい目で見つめていた。

「あっ、お、翁は何でここに革ジャン吊るしてたんですか?」と今まで伊佐坂先生と呼んでいた私は戸惑いながらも翁に聞いた。
「ふふふ、浦野さんはね。縫い目のほころびを直したりレザーワックスが巧くてね。何かあれば浦野さんに頼んでいるのだよ」そう翁が答える
すると白髭のマスターがニコニコした笑顔で「本当に二人は大きくなったね。この前までランドセルだったのにね」と野太く低い声で私達に言った。

「ふふふ、気付かないかな?浦野さんだよ。浦野おじいちゃん」と言い出すとピンッと頭の中の絡まった糸が解けた。
「い、磯野君ちの裏のおじいちゃん?!」私は豚鼻を大きく広げ、大きさに比例する位の大声で聞く。浦野さんは親指を立ててニコッと笑った。

全く気付かなかった… 数年前からこのお店を開き翁は仕事の合間にコーヒーを飲みに来ているらしく革ジャンの補修なども時々お願いしているとの事だ。
浦野さん…いつも裏のおじいちゃんと聞いていたもので、まさか浦野という苗字だとは気付かなかった。花沢不動産の娘失格と言ったところか…
浦野おばあちゃんは浦野さんが喫茶店開店と時を同じく「第二の人生と思って」と梅酒製造会社を立ち上げ息子さんやお孫さんと忙しい毎日を送っているとの事だ。

419:華
07/02/16 22:03:53 gE2vB6S5
「君達もバイクに乗ろうとしているんだ。これだけは聞いて欲しい。」厳しく鋭い目で私達に何かを伝えようとしていた。
「いいかい、君達。バイク乗りはバイクで死んでは駄目だ。」と言うと間髪入れずに「私との約束、守ってくれるかな?」と優しい瞳で翁は私達に聞いてきた。
私達は「はいっ!」元気に答えた。 「翁、君は…いつまで伝え続けるのかい?」と浦野さんが翁に難しい表情を浮かべて言う。「私がバイクを降りるまで伝え続けるつもりだよ。それが私の役目、そう思っているよ。」とグローブをギュっと鳴らして握り締めた。

翁は立ち上がり「さて、私は着替えて伊佐坂難物に戻るかな。すぐに戻ってくるから待っていてくれるかな?」と言う翁に「はい」と答え翁は自宅へ一度戻った。
戻って来るまで浦野さんと早川さんと私でバイク話で盛り上がった。浦野さんがバイクに乗って全国津々浦々と旅に出ている事や毎年8月は子供の夏休みの様にお店を閉めて何処かに出かけると言う事も聞いた。

たった数時間の事なのに驚きの連続だった…ポップさん、翁、浦野さん… 私達は楽しくて仕方が無かった。

その後、着物に着替えた伊佐坂先生が仕事の終わったポップさんを連れてやってくると「浦野さんもご一緒しませんか?」嬉しそうに言うと「今日は店を閉めてご一緒させて頂きますよ」と自慢の白髭を触りながら答えた。
寿司屋に到着すると伊佐坂先生は「彼に中トロと中落ち丼 それと生を5つくれるかね」と言うも私達は「わ、私達まだ未成年で」と声を揃えて言うとポップさんが「ちょっとくらい呑んでみるといいさ」と言う。
浦野さんはそんな光景を見てニコニコし伊佐坂先生は笑い出す。

「それでは、ポップ君の開店を祝って 乾杯!!」と伊佐坂先生は音頭をとりグイッと私達はビールを呑んでみた。 初めてのお酒…美味かった…

早川さんは早くも3つめをグイグイ呑み、私もグイッと2つ目を飲み干す。「おぉ~ いい呑みっぷりだ 二人とも」とみんな笑い出す。
ポップさんは中トロと中落ち丼をガツガツと嬉しそうに口にかき込む。バイク談議に盛り上がるも私達は初めてのお酒に酔い眠ってしまった。気付いた時、私達は父が運転する車の中だった。


――だが、花子達が眠る中この開店祝いに数人の男達が現れ宴席に座る事になる――

420:華
07/02/16 22:10:09 gE2vB6S5
ね、寝ます…orz

421:774RR
07/02/16 22:26:34 TQ2Y9Zog
wktk!
おやすみなさい。
鋭気を養って、また続きをお願いします!!

422:774RR
07/02/17 01:38:16 riBep1AL
保守つ④

423:774RR
07/02/17 02:12:22 lSabX4aI
つ④


424:774RR
07/02/17 03:04:04 GKSnGGuW
さ、最後の2行が気になるー!!

425:774RR
07/02/17 09:36:17 UAZA4HFT
「バイク乗りはバイクで死んでは駄目だ」
名言ですな!
つ④

426:774RR
07/02/17 16:19:51 bG7JANE8
>>425
その名言に「バイクで出かけたら必ずバイクで帰って来い」てな続きがあった様な…。

427:華
07/02/17 20:24:52 VM4iW2kd
今夜分いきます。

今夜以降はマイペースで書いていきます。
シナリオは全部出来上がっていますので宜しくです…orz

↓【鼓動編】続きです↓

428:華
07/02/17 20:25:31 VM4iW2kd
「眠ってしまったか…」とイササカ氏は二人を見つめて言った。
「ふふ、大きくなってもまだまだ子供ですよ。」そう言いながら寿司屋店主から毛布を借り、二人へそっと掛けるウラノ氏。

暫く3人で話し込むとそこへ一人の男が宴席に加わる。

「おぅ 久し振りだな。」手を低く挙げ宴席に座ったのはイナダモータースのイナダ氏。
挨拶も終わる頃には、また一人の男が宴席に加わる。

「すまねぇな 仕事が忙しくてよ」そう言いながら大柄の体をドスンと宴席に座るのは海鮮組のウミ氏。
「うん? 難物、何でここに花が居るんだ?」とウミ氏がイササカ氏に質問し事の経緯を話す。
「そうか、それでここに居る訳だな。寝かせておいてやろう。ウチで働きっぱなしで疲れたんだろう」二人を見つめながらウミ氏は言う。

「おぉ~、これはこれは。皆さんお揃いで 娘達は眠ってしまいましたか。」そう言いながら宴席に加わったのは花沢不動産のハナザワ氏だ。
「そういえば磯野と中島は今日はこねぇのか?」とウミ氏。
「中島さんは尺八の発表会らしくてね。磯野さんは辛いでしょう…このメンバーでは…」とイササカ氏は言う。

それぞれの挨拶もそこそこに、昔を懐かしむ様に宴席は盛り上がる。

「しかし、こうやって集まったのは何年振りだ?」イナダ氏は徳利を持ちお猪口に注ぎながら言う。
「あの頃の皆さんは速かった…憧れでしたよ。今もですけど。」嬉しそうにハナザワ氏は言う。

「2,30年も過ぎたかな?皆、随分老け込んだ。」と笑いながらウラノ氏。
「そうだ。もうそんな経つのか…時が過ぎるのは早いね。」と言うイササカ氏に頷くウミ氏。
「あの頃つるんでいた連中で今居ないのは磯野と中島そして<あの人>か…」寂しそうにウミ氏は呟いた。

「………」暫くの沈黙が続いた…

429:華
07/02/17 20:26:10 VM4iW2kd
「あ、あの?皆さんは昔よくバイクで走っていたのですか?」とタナカ氏は重い空気を感じたのか質問してみた。
「あぁ、よくみんなで走ったさ。壊したら源の字がブツブツ言いながら直してくれてね」と笑いながらイササカ氏は言った。
「それを花坊(花子の父)が興味津々で近寄ってきてな」とイナダ氏はハナザワ氏をからかう。
「おぅ!花坊 呑め呑め」と言うウミ氏に「今日は車でしてね。久し振りの再会に酔うとしますよ」と答えたハナザワ氏。

「そんな私達もそろそろ<あの人>の所に近くなってきた…」と複雑な顔をしてウラノ氏は言う。
「そうだな… やはり磯野が一番辛かっただろうな。 上司として兄貴分として磯野が一番は慕ってた…」グイッ飲み干しウミ氏は言った。
「あれ以来、磯野さんはバイクに乗ってないらしくてね。たまに碁を打ちながら話しますよ。」とイササカ氏は言った。

「<あの人>というのは?」恐る恐るタナカ氏は聞く。
「昔ね。よくつるんでいたのさ。 みんなでね。もちろん磯野さんや中島さんそも一緒に…」淡々とイササカ氏は語り出した。

――そしてイササカ氏を中心としてタナカ氏に物語は語られた――

「そうだったんですか…あのグローブの椿にはそういう想いが…それで<バイク乗りはバイクで死んでは駄目だ>と…」悲しそうにタナカ氏は下を向いた。
「ふふふ、椿ラインの走り屋連中からはチャンピョンベルトみたいに思われているがね」と笑いながら言う。
「へっ!ったく、おめぇと波平は昔っから危なっかしい運転しやがってよ」と笑いながら茶化すイナダ氏。

「そうだったんですね…だからいつもそのセリフを言っていたのか…」悲しそうに拳を握り締めるタナカ氏。
「どうしたんだい?ポップ君。」不思議そうにイササカ氏は聞いてきた。

430:華
07/02/17 20:26:52 VM4iW2kd
「えぇ… 昔…近所に自分を弟の様に可愛がっていてくれた人が居ましてね…」淡々とタナカ氏は語る。
「いつもそのセリフを言ってましてね…」そう言うタナカ氏にウラノ氏は「ほほぅ…」と頷く。
「自分が高校卒業して海外のプライベーターチームのメカニックとして働いてましたが、数年は雑用にもならない雑用でしてね…」
「ようやく言葉もコミュニケーションも取れるようになって少しずつメカニックの仕事を貰える様になっていたんです。」
「チームの監督が大使館に怒鳴り込んでビザを取ってくれたり… 仕事を少し、また少しと覚えさせて頂いてました」
「毎日エンジンや車体をバラして組み立てて、またバラして… そんな時でした。その人が亡くなった知らせを聞いたのは…」

「でも、帰るにも仕事が忙しく二束三文で馬車馬の様に働いていた自分にお金はなかったんです。親に勘当同然でしたから頼るに頼れなくて…」
「結局帰国できたのはその人が亡くなって一年以上経ってなんです… 自分は思い出しましたよ。バイク乗りはバイクで死んでは駄目だという言葉を…」
「それからですよ。自分がレースではなく公道を走る人達にと道を決めたのは…」とタナカ氏は語った。

「そうか…おめぇにそんな事があったのか…そりゃぁ初耳だった ポップ…」とイナダ氏は言った。
「今でもCBの名を聞くとたまに辛くなるんですよ」とタナカ氏は言う。
「CBって おめぇ…」驚くようにタナカ氏の顔を覗くイナダ氏。 「えぇ…」と瞳を真っ直ぐにイナダ氏へ向け、首を縦にコクンと下げた。

暫くの沈黙が続いたがウミ氏は言う。

「せっかくの祝いの席だ。パァーっと行こうじゃねぇか!」明るく言う。
「そうだね。枯れた体じゃもう涙は出んだろ?みんな」とウラノ氏。 皆は笑いながら宴は続いた。

――開店祝いの一幕でこの様な出来事があったが花子達は知る事も無く父の運転する車で目が醒める――

431:華
07/02/17 20:28:07 VM4iW2kd
先程気付きましたが、まとめサイトの中の方有難うございます。

今後とも宜しくお願いします…orz

432:774RR
07/02/17 21:47:10 OEbdgeEm
また話が面白くなってきた~
つ④

433:774RR
07/02/17 22:15:43 n9MsLAmz
面白いですね!
いつもご苦労様です!

今思ったんですが、今後の展開、伏線等(未定の部分も含めて)について、一度執筆陣サミットをしてはいかがでしょう。
お互いの作品も気になると思うので、なるべくネタバレしない程度に・・・。
リンクしてるってことはある意味「シバリ」ですもんね。
差し出がましい提案ですみません。

434:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/17 22:50:58 l8M6ZVHT
>>433
何とかします!・・・と個人的には思っていますw
話し合っちゃうと、更なる「シバリ」を産みそうでコワイ・・・というのも理由の一つ。

設定を無言の内に共有しあうというのは、私は結構気持ちよいものと感じています。
現在、主に進行している物語(魔 華 タ)はそれぞれストーリーの年代も異なるので
何かあってもその辺はどうにでもなりそうかな?と。

それに、お二方(+カツオ氏)は読んでいて魔棲雄の世界観を侵害されている感じが
全くしないんです。(それは魔の今後のストーリーを知っている私だけが感じうる感覚なのかも
しれませんが・・・)
それぞれお会いしたことも無いのに、妙な安心感と信頼感を感じつつ読ませて頂いており、
どちらかといえばインスパイアされちゃったりしてw

それに、それぞれ作者の異なる別の物語ですから厳密にリンクしなくても構わないと思ってます。
リンクを楽しんで頂きつつ、細かい点はお目こぼし願えれば幸いです。



435:774RR
07/02/18 00:03:08 uFobmddT
っ④

436:774RR
07/02/18 00:36:53 ek9XHl5q
>それぞれ作者の異なる別の物語ですから厳密にリンクしなくても構わないと

ちょっとくらい違うところがあっても気にならないですから、今まで通りでいいと思いますよ。

つ④

437:433
07/02/18 01:11:59 dmls8IRx
>>434
魔棲雄さま そして作者のみなさま
いつも楽しませていただいてます。
わざわざお返事を聞かせていただいてありがとうございます。
言い訳がましいですが、僕なりに作品群をよいものにしようと、
またスレを活発にしようと考えた上での提案です。
お気を悪くされたらごめんなさい。
しかし「設定を無言のうちに~」のくだりですが、なるほど!って感じなので納得しました。
これは一読者としてのエゴですが、「あぁ、作者さんわかってくれてる」って感じでなんかほっとしましたw
これからも楽しみにしています。
暖冬とはいえ寒い日が続いていますので、ご自愛ください。

長レスすみません。

438:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/18 01:49:53 a0GDhg76
【SCENE106】
マイケルの事故から一週間後の週末。僕とアナゴ君、そして鈴木さんは鮒田食堂でこれから始まる週末はお決まりの
第三京浜での夜の宴を前に腹ごしらえをしていた。
話題はやはりマイケルの事故の件。最終的に軍の病院に搬送されたマイケルを、僕ら日本の一般人はおいそれと
見舞う事すら叶わず、ジョージからその後の顛末の連絡を電話で受けていたのは鈴木さんだった。
心配されたマイケルの容態は、全治5ヶ月の重症。だが、骨折箇所以外は至って健康で、早ければ来月くらいから
少しずつリハビリが始まるだろうとの事だった。
ちなみにレッド以下、その日奥多摩に行った連中は上官からバイクでの外出の一ヶ月禁止を言い渡されたそうだ。

だが、僕とアナゴ君はマイケルの事故から何も教訓を得ては居なかった・・・。それは、マイケルの命に別状が無かった
おかげだったのか、現場で意識を取り戻した後の彼の姿が滑稽だったからなのかは解からない。・・・いや、単に
僕らは若過ぎた為に、一つの事象から多角的に物事を見つめる視野の広さを持ち合わせて居なかったからなのかも
知れない。
・・・僕達は気がつくべきだった。また会おう、と別れた友が次の瞬間にアスファルトで倒れているという「怖さ」を・・・。
そして、運命の歯車を簡単に狂わせかねない代物に自らの命を乗せているという事に・・・。



439:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/18 01:50:37 a0GDhg76
「あいつ、目を開けたと思ったら、よう また会ったな、なんて言うんだぜ?信じられねーよな!」

「そうそう、相手の運転手にもすごい剣幕で叫んでたよね。さっきまで気絶してたのにさ」

僕らの話題はもっぱらマイケルの武勇伝。そこに自らもいつ遭うとも判らない事故への警戒心など微塵も無かった。
やけに浮ついていたその頃の僕ら。だからアナゴ君はうっかりとんでもない事を言い出す。

「おじさん!ビールね!」

すかさず鈴木さんが制する。

「おい!アナゴ君、これからバイクに乗るんだろう!?」

「うおっと!そうだった、そうだった。ゴメ~ン!おじさん、今のなし!」

ハハハと笑うアナゴ君と僕。・・・そんな僕らを鈴木さんは心配そうに見つめていた。
僕もまた、マイケルの事故のときの鈴木さんの様子が気になっていた。が、その時の鈴木さんのあまりにも普段と異なる
様子に、何も問うてはいけない様な気がして聞けてはいなかったのだ・・・。




440:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/18 01:51:20 a0GDhg76
一般車両を掻き分けるように進む夜の第三京浜。アナゴ君が先頭で、やはり鈴木さんは最後尾。近頃の鈴木さんは
切れ味が鈍っている、と僕は単純にそう思っていた。鈴木さんよりも速くなったと自画自賛すらしていたように思う。

僕らの行く追い越し車線上に、軽自動車がいた。その前にはトラックがいた。それら一般車両との相対速度は100km/h
にも達しようとしている。
中央車線に進路変更しそれら二台をパスしようと思った。アナゴ君だってそうするに決まっている。そして次の瞬間に
僕とアナゴ君はシンクロするように中央車線に進路変更した。
すると、その動きにシンクロするもう一台の車両。トラックの後ろを走っていた軽自動車だ。

まだ距離には少し余裕があった。せっかくクリアになったと思った前方の景色を、軽自動車にもう一度塞がれてしまった
わけだが、特に危険を感じるようなシチュエーションではなかった。減速、もしくは左車線にさらに進路変更すれば
やり過ごせる状況だ。

だが、アナゴ君はスロットルを緩める事も、さらなる車線変更も試みなかった。そのままのスピードと位置を保ちながら
真正面の軽自動車と右斜め前のトラックに迫る。そして彼はクラクションを鳴らしながら、あえて軽とトラックの隙間を
駆け抜ける。・・・100km/hの相対速度を保ったまま、200km/hで・・・。
そして僕もまた、同じラインを駆け抜けた・・・。数秒後、ミラーを確認するとそんな僕らに鈴木さんは着いて来ては
いなかった・・・。



441:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/18 01:52:02 a0GDhg76
「ホント、邪魔だよなぁクルマ。こっちは気持ちよく走ってるんだからよ。前に出て来るなってんだよ!」

保土ヶ谷でタバコの煙を吐き出しながらアナゴ君はそう愚痴をこぼす。正直なところ、僕も彼の意見に同意だった。
マイケルの事故によって、僕らの運転に慎重さが生まれることは無かった・・・。
なおも僕らの口からこぼれ出る愚かなる言葉と軽薄な笑いを遮るように鈴木さんが言った。

「・・・二人とも。聞いてくれ・・・。」

鈴木さんの深刻な顔に、僕は「しまった」と思った。今日は少し悪ふざけが過ぎたか?とその時初めて思った。
僕はてっきり、僕らの無謀な運転について怒られると思っていた。主犯格のアナゴ君もそんな空気を察したようで
やや首をすぼめて目線を斜め下に送っていた。・・・が、鈴木さんが語りだした話は僕らの予想とは全く異なるもの
だった。

「・・・僕が群馬の出身なのは知ってるだろ?実家の隣の家に一つ年上の男が居てね・・・」

鈴木さんが群馬は前橋の出身なのは知っていた・・・。しかし、そんな事よりも鈴木さんが突然昔話を始めた事に
僕は驚いていた。


442:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/18 01:52:54 a0GDhg76
「物心ついた頃からいつも一緒に遊んでた。長男で下にしか兄弟のいない僕にとって兄貴みたいな存在だったよ。
いつのまにか兄ちゃん、兄ちゃんって呼んでたよ。」

笑顔で、だが少し寂しそうに、鈴木さんは語った。

「なんでも教えてくれた。木登りも、虫取りも、魚釣りも・・・。本当の兄貴みたいだった。僕がいじめられて泣いていると
いつも助けてくれた。僕はいつも兄ちゃんみたいになりたいと思ってたんだ・・・。」

「兄ちゃんは高校に入ると原付の免許を取ったんだ。そして、半年もしないうちに中型の免許を取って学校に黙って
バイクを買ったんだ。」

僕とアナゴ君は、突然の昔話に違和感を覚えながらも黙って鈴木さんの話を聞いていた。

「兄ちゃんのホークはカッコよかった・・・。僕は兄ちゃんに憧れて、追いつきたくて、バイクの免許を取ったんだ・・・。
休日の朝はいつも赤城に走りに行った。250のKHで兄ちゃんの背中を必死になって追ったよ。」

「東京の大学に進学した彼を追ったわけではないんだけど、僕も同じく翌年に東京に出てきてね。今度は東京に
場所を変えて僕らはバイク三昧さ。楽しかったよ・・・。」

そんな鈴木さんの語る言葉の節々に、僕は一抹の不安を感じ始めていた・・・。それは、「兄ちゃん」に関する表現の
全てが「過去形」だったからだ・・・。

443:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/18 01:53:53 a0GDhg76
「僕が東京に出てきたとき、もう兄ちゃんは限定解除をして大型バイクに乗ってたんだ。いつも僕の前を走っていた・・・。
いつも、いつも僕の憧れだった・・・。」

・・・僕は無意識に、鈴木さんに質問していた・・・。多用される「過去形」にかき立てられた不安感が僕の心を押し潰しそうに
なったからだ。

「・・・あの・・・今、その「兄ちゃん」はどうしてるんですか?」

ここまで語り続けてきた鈴木さんは言葉を止め、哀しすぎる笑顔で僕ら二人に言った。

「二人とも・・・悪いけど、ちょっと付き合ってくれるかな?」

僕とアナゴ君は、不安そうに顔を見合わせた。

444:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/18 01:55:34 a0GDhg76
3台のバイクは保土ヶ谷PAを後にする。鈴木さんは、一般車両の流れよりやや速い程度のペースで僕ら二台を先導する。
横羽経由で首都高へ。料金所では僕ら二人分の料金を支払いながら、鈴木さんは首都高を都心方面へ向かう。
当時、僕もアナゴ君も首都高、特に都心環状線と呼ばれるC1方面は不案内だった。複雑に入り混じるジャンクションと
その度に表示される覚え切れないほどの地名が、地方出身者である僕とアナゴ君が入り込む事を拒否しているようで、
興味こそあったものの、積極的に走りに行く事はほとんどなかった。
そんな複雑に入り組んだ首都高の都心方面へ、鈴木さんは迷い無く僕らを導き走った。

C1 首都高都心環状線に入った瞬間、それまで退屈とも思えていた鈴木さんのペースが上がった。怒涛のペースだった・・・。
着いてゆくのが精一杯・・・。第三京浜とは比べ物にならない曲率でコーナーが迫る。
ほとんど意味を成さないような細い路側帯と左右を圧迫するコンクリートウォール。ジェットコースターのような高低差。
高い密度で存在する4輪車の群れ・・・。僕とアナゴ君にとって、未知の首都高環状線を鈴木さんは凄まじいペースでゆく。
とても鈴木さんが先導してくれなければこのペースでここを走ることは無理だった・・・。そして、鈴木さんより速くなったなどと
思い違いをしていた先刻までの自分を恥じる。
・・・それにしても、鈴木さんは僕らを何処に連れてゆこうと言うのだろうか・・・。まるで憑き物を振り払うかのような鈴木さんの
走りは、何故かとても辛そうに見えた・・・。

環状線を一周しないうちに鈴木さんはペースを落とした。あれは江戸橋付近だったろうか・・・。鈴木さんはコーナーを
立ち上がると左にウィンカーをあげ、道路脇の作業帯にCB1100Rを停めた。僕とアナゴ君もその後ろにマシンを停める。

「どうしたんですか!? トラブルですか!?」

駆け寄る僕とアナゴ君を尻目に、鈴木さんはゆっくりとヘルメットを脱ぐと僕らの後方、たった今立ち上がってきたコーナー
の方を指差して言った。


445:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/18 01:56:29 a0GDhg76
「・・・見えるかい?あそこのコンクリートウォールに着いた痕が。」

鈴木さんの指す方向のコンクリート壁に目を凝らす。それは街灯で照らされた周辺だったが、別時期に付いたであろう
複数の接触痕が確認でき、鈴木さんの指し示す「痕」が正確にどれを指していたのかは判らなかった。

「え?あ・・・はい・・・。それがどうかしたんですか?」

狭い首都高。僕らの至近距離を大型トレーラーや速度の高いクルマが通り過ぎ、その度に尋常ではない風圧が僕らを襲う。
大型車両が通過するたびに訪れる道路の揺れが僕らの不安を増幅させる。アナゴ君は言った。

「鈴木さん!危ないっすよ!こんなところに停まってちゃ!」

鈴木さんは、そんなアナゴ君の呼び掛けに応えず、そして衝撃的な言葉を発した・・・。

「あれがね、兄ちゃんのCB750Fがぶつかった痕さ。・・・兄ちゃんはここで死んだんだ・・・。」

「えっ・・・」

僕とアナゴ君は次の言葉を失った・・・。

446:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/18 01:58:24 a0GDhg76
「僕達は速さを追い求めていた・・・。そして、ここをその場所にしていたんだ・・・。僕が大学3年の時だった・・・。大学4年の
兄ちゃんはここで人生を終えたんだ・・・。」

「僕の目の前だった・・・。兄ちゃんのミスなのか、何かを踏んだのかは解からない。リアの滑ったCBはコントロールを失って、
兄ちゃんと一緒にコンクリートウォールに吸い込まれて行ったんだ・・・。そして、反動で隣の車線まで転がった兄ちゃんは・・・」

僕達は無言で立ち尽くしていた・・・。一瞬言葉を失った鈴木さんは軽い深呼吸の後、言葉を続けた。

「・・・兄ちゃんは、後続車に轢かれたんだ・・・。僕はここで一部始終を見てしまった・・・。二度とここには来ないつもりだった・・・。」

「マイケルの事故のとき、兄ちゃんの事を思い出して体が動かなくなった・・・。同じ形のバイク・・・。アスファルトに流れる
真っ黒な血・・・。兄ちゃんを思い出して僕は動けなかった。・・・僕は・・・僕は・・・ここで兄ちゃんの腸をかき集めたんだ・・・。」

鈴木さんの頬を涙が伝った・・・。そして、それまで憂いを湛えていた鈴木さんの哀しい瞳は、打って変わって僕らを強く真っ直ぐに
見据えて言った。


「いいかい、二人とも。バイク乗りは、バイクで死んじゃいけない・・・。愛するバイクで死ぬなんて、それはとても哀しい事だ・・・。」






447:魔 棲 雄 ~マスオ物語~
07/02/18 01:59:21 a0GDhg76
「残された者の心にも、バイクという乗り物が呪いのよう絡みつくんだ・・・。
バイクに乗らない残された者は、大切な人を奪ったバイクを一生憎しみながら生きていく・・・。バイクに乗る残された者は
愛車に跨る度に辛い過去を思い出し、それでもバイクを降りることの出来ないジレンマに苛まれながら生きていく事になる・・・。
愛するバイクで・・・自分はおろか、家族や仲間をも不幸にする・・・。それはあまりに哀しい事だよ・・・。

僕とアナゴ君は、動けなかった・・・。

「いいかい二人とも・・・バイク乗りはバイクで死んではいけない・・・。どうか・・・どうか、忘れないで欲しい・・・。」

1985年 春。若かった僕らの心に、大切な何かが突き刺さった夜だった・・・。







448:774RR
07/02/18 02:05:19 1FLV8Izz
(´;ω;`)

449:774RR
07/02/18 02:44:22 QNPQ1+SX
つ④・・・涙

450:774RR
07/02/18 02:44:45 ickDxM02
。・゚・(ノД`)・゚・。

451:タラオの中の人
07/02/18 02:56:10 bSuFk/mv
引っ越してネットに繋がってないので携帯からです。

マスオさんの言う通り、基本的には今のままでいけると思ってます。

最近、華さんが登場人物を大きく増やしてきたので、
タラオの方も、プロットにかなり影響を受ける気配がありますが、
既にお二方の進展から微妙な修正は沢山入れて来てますし、
それはそれで、楽しみのひとつです。
じゃんじゃん自由にやってください。


一応、お二方&カツオさんへの参考情報としてあげておきますが、
タラオでは10万字程度を予定しています。
現在、約1/3です。


452:タラオの中の人
07/02/18 03:09:36 bSuFk/mv
ああ…兄ちゃん

453:774RR
07/02/18 05:11:33 kjK42hsD
もう無茶しません…多分…
つ④

454:774RR
07/02/18 05:43:06 o+ncCeaQ
バイクで死んだ仲間を思い出した…(´;ω;)

つ④

455:774RR
07/02/18 06:28:44 LQe+MyzF
>>454
おれも・・・。・゚・(ノД`)・゚・。

456:774RR
07/02/18 08:24:45 ks504iID
>>454 >>455
。・゚・(ノД`)・゚・。オマイラ…

>>魔棲雄氏つ④

457:774RR
07/02/18 08:45:05 io3H9scz
なんでだろ。俺がいっぱいいるT_T




458:銀のスカG ◆HAWK2rcsg2
07/02/18 09:48:37 1I4MEIek
>>魔棲雄氏
朝っぱらから(´;ω;`)つ④


他の作者各位にも④

459:774RR
07/02/18 13:14:58 J+T3bED6
マスオ氏ありがとう

460:774RR
07/02/18 13:38:46 Wsu8g8BR
心臓麻痺で死んだ友達を思い出した 。゚(゚´Д`゚)゜。つ④

461:774RR
07/02/18 13:45:04 ff4Ahuv0
>>魔棲雄氏
ホントにありがとう。

読み物の『物語』としてでなく、何と言えばいいのかな…
とにかく、感謝です。

462:774RR
07/02/18 13:57:06 IjLWt4pQ
読み物で久し振りに泣きました
なぜか感謝の気持ちでいっぱいです

463:タラオ
07/02/18 15:03:14 erhKF2W9
友人のところから、久々にUpしてみます。

ターンパイクの続きから、です。

464:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:04:03 erhKF2W9
『ドライブイン大観山』
ターンパイクは意外に短く、10分もしないうちに頂上にたどり着いてしまった。
約10km/hの全開走行。互いが直接的に絡むことは無かったにしろ、バトルと言って良いかも知れない。
結局、英一に追いつくことは出来なかったが、彼の背中を完全に視界から見失うことは、最後まで無かった。
大観山の駐車場に滑り込み、エンジンを止めたいまでも、恐怖感を抑制するため放出されているアドレナリンに灼かれた脳が、冷たくくすぶり続けていた。
顔は、まだ少し青いかも知れない。

「おーおー!フグタ速いじゃないか!」
メットをミラーにかけながら興奮気味に言う英一。声でかいって…
「いやいや…英さんのが全然速いじゃんか。がんばったけど、追いつける気がしなかったよ」
「いや、僕も全開だったよ。あれ以上はきついね!…こりゃおもしろいことになってきたよ…」
にんまりと笑う英一。
「…?面白いことって?」
「バトルするに足る相手が出来たってことさ!」

どうやら…無我夢中の俺の走りは、英一に認めてもらえたらしい。
今まで、人の走りと自分の走りを意識したことは無かったが、自分の"速さ"を認めてもらえたことに、こそばゆいうれしさを感じた…



465:774RR
07/02/18 15:04:56 l72jD/5T
リアルタイムキタ━━(゚∀゚)━━!この前起こしてあげれなくてすいません(笑)

466:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:06:28 erhKF2W9

「あっ、英さんちょっと待ってて!」
俺はふと思いつき、メットを地面において小走りで自販機へ。
「ほい!」
UCCの冷えた缶コーヒーを英一に投げ渡した。
「・・・?」
「これからさ、負けたほうが缶コーヒーをおごる…OK?」

一拍おいて、英一は満面の笑みを浮かべた。
「OK!いいね!」

親父とアナゴさんの伝統。
悪くない。
英一ならいいだろう?な、親父…


467:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:07:32 erhKF2W9
観山でしばしの休憩の後、少しだけステダンの効きを強くなるよう調整して出発。熱海箱根線を経て伊豆スカイラインに入る。今度のリーダーは俺。
このあたりは箱根峠や十国峠など、すばらしいパノラマが随所に広がり、ついつい速度もゆっくりになってしまう。

伊豆スカイラインはターンパイクと比べてツイスティな道だった。距離も長く軽快なワインディングが延々と続いていく。
展望の良いポイントはゆっくりと景色をめでながら、森の中を走る場合は全開で…といったように緩急をつけて走る。
全開といっても若干の余裕を残して、というような感じ。
互いに、抜きつ抜かれつを楽しみながら進む。

都会から1時間と少しでこんなにも美しい景色を、道を味わえる…この上無い自由。

真夏の太陽が透明な大気を貫いて、ハンマーのようにアスファルトを叩いている。
空は何処までも高く、影一つ落ちてこない。
視界の端で、空の蒼さ、木々の緑、道の灰色が渾然一体となり、穏やかに交じり合う。

…俺の右を、英一が駆け抜けて行く…俺も右手に力を込める。

森に入れば、道にかぶさる木々のアーチ。
頭上の枝葉を押しのけるように打ち抜いてきた木漏れ日が、数千分の1秒単位で俺の眼を灼き、路面に、数車身前を走る英一の背に、フラクタルな光の迷彩柄を描き、そして刹那に流れて消える。
灰色のアスファルトの上。轟くエキゾーストノート。耳を叩く風の音。
2台は力強く、そして美しく優雅に踊る。

すでに法定速度の倍をゆうに超えている。意識では恐怖を感じるものの、不安は無い。
身体は自然に、何のためらいも無く動く。脛を焼くエンジンの排熱は気にならない。
乗れている。右コーナー。クロスラインで英一をインから一気にパスする。アスファルトがステップを削ってゆく。さらに高鳴るエンジン音。

高原の森を抜け、土の匂いを含んだ涼風がメッシュジャケットを通して身体をなでていく。

俺たちは言葉なき会話をかわしながら、互いにじゃれあうように、走り続けた。


468:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:09:02 erhKF2W9

伊豆。
大観山を出てから1時間と少しで、海に出ることが出来た。相模湾だ。
海沿いを南に向かって下る。ちょうど昼前で、腹が減ったと思っていたとき、国道沿いのアジの開きの看板を出している飯屋、兼土産物屋を見つけた。
休憩もしたかったし、「まずはもう、伊豆といえば、なにしろ相模湾の「アジ」である…」という熱い想いが俺の中に存在しているため、
英一の意見も聞かずに駐車場に直行し、TLを止めた。

「おっ飯か?アジか?」
英一が、ヘルメットをあわただしく脱ぎながら聞いてきた。
「おう、飯だ。アジだ!…畜生…マジ旨そうじゃねぇか…」
土産物屋の店先に並ぶアジの干物のあめ色が、俺の腹の虫を刺激して止まない…

二人して、いそいそと階段を上り2階の食堂へ。
「いらっしゃーい。2名さまね?適当に座って選んで。」
割烹着姿のおばちゃんに促されて卓につき、壁のメニューを一瞥して即決した。

「俺はアジの開き定食にするわ。英さんは?決まった?」
英一はメニューを見ながらまだ迷っている。
「うむ。僕は塩焼き定食にするが、サイドメニューはどうする?」
「ん?他にたのむの?」
「ああ、例えばあの、お任せ刺身大皿盛りなどはどうかい?」
英一は壁の写真を指差した。確かに旨そうだが…5800円…

469:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:09:57 erhKF2W9
「英一殿…高すぎます…」
「フグタよ…先輩として一言忠告しておこう。」
英一はため息混じりに言った。
「カネで経験が変えるなら、そんな経験はすべて買っておきたまえ。
男が大きくなるために金を惜しんじゃだめだ。必要な犠牲と言うものが世の中にはあるのさ…」
―なぜだか、良く判らないが、とてつもない説得力を感じてしまった。
「…英さん、わかったよ…しかしここは先輩として多少なりともご支援を…」
被せる様に英一は小さく首を振り、机に身を乗り出して俺の目を真直ぐ見て囁いた。
「フグタよ。痛みを伴ってこそ、経験は経験たりうるのだよ。」

…もういい。まあ、俺も刺身食いたいし。店員さんを呼んだ。
「えーと、塩焼き定食と、アジの開き定食と刺身大皿盛り合わせ、お願いします。」
英一は満足そうにうなずいて店員にいった。
「おばちゃん、あとサザエのつぼ焼き、2人前追加」
「!?」
「はいな、ありがとうございまーす」
 
 ―もういい…好きにしてくれ…


470:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:11:06 erhKF2W9

腹いっぱい食った。アジの開きはうまかった。刺身も最高で、特に甘エビとイカ、そして刺身のアジは絶品だった。
ちなみに、その後、英一は1階の土産物屋で、アディダスならぬ<アジダス>のTシャツを買った。
アディダスの葉っぱマーク(?)の代わりに、3匹のアジの開きが描かれている。
ネタとしては面白いが、普段、絶対に着られない…恥ずかしくて。。。

「英さん、それ着るつもりか?」
俺の冷たい視線に、英一は堂々と答えた。
「ん?なんで?着るよ?
このアジのつぶらな瞳が可愛いじゃない」

「そうか…いや、いいんだ…」
彼は本気だった。。。

俺にはまだ、こいつが良くわからない。

471:774RR
07/02/18 15:11:54 nfXkVCfr
つ④

472:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:12:21 erhKF2W9

飯の後は温泉と相場は決まっている。
幸いに伊豆は温泉が名物。しばらく南下すると、すぐに小さな温泉旅館を見つけた。
前を走っていた英一のFZが左ウィンカーを出しながら、駐車場に滑り込んでいく。

受付のおばちゃんに2時間の風呂代を払い、われ先にと男湯へ。
少しばかり狭苦しい、古びた木の匂いが漂う脱衣場で汗で張り付いたTシャツを苦労して脱ぐ。ジーンズも重い。
風呂上りに、コレをまた着るのは少し嫌だが、まあ仕方ない。
あっ!!…英一のやつ、そのための<アジダス>か!!
 ―さすがだ・・・

「うはぁぁぁぁ」
「あっぁぁぁぁ」
待ちかねた露天風呂。二人とも思わず、おっさん臭い声を発しながら肩まで湯に沈め、バイクに乗り続けてこわばった腰や首筋を伸ばした。
スポーツバイクであるTLは前傾がきついポジションのため、このように長時間の乗り続けるのは、少々堪える。
英一のFZはもっと楽なはずだが、あれだけのスポーツ走行をこなして来たのだから、やはり多少なりとも疲れているのだろう。

湯船のへりに首を持たせかけ、脱力感に身を任せながら、大きく息を吐くと、
多少ぬるめで、海が近くだからだろう、少ししょっぱい湯に筋肉の疲労が溶かされていく。


473:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:12:59 erhKF2W9
「ところで英さん…」
身体を起こしながら英一に声をかけた。
「ん?なに?」
「ぶっちぎりで俺の勝ちだから、後でコーヒーおごってくれよな?」
英一の下腹部に視線を流し、腕を組んでニヤリと笑ってみせた。
「?…っな!!コレは関係ないだろ!」
「そうかな?まあ、あれだな。経験で男は大きくなるが、もって生まれたものは変えられないという教訓だな…」
「…男は大きさじゃない!硬度と飛距離と思いやりだ!」
「ふむ。コレが俗に言う負け犬の遠吠えと言うヤツか。いやはや、勉強になるわ。」
遠い眼で、竹の垣根越しに海を眺めながら、独白。
 ―飯どきのリベンジ成った…虚しいが、決して譲れぬ勝利だ…

静かに立ち上がる。
露天風呂。太平洋。潮騒。黒潮の香り。
裸の背に、照りつける太陽が熱い。
英一はまだ何かさわいでいる…

474:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:14:08 erhKF2W9
風呂上りの気だるい身体を休憩所で休ませ、アクエリアスで潤してから、俺たちは熱川バナナワニ園へと足を伸ばした。
俺の要望だ。一度、このファンキーな名を持つ場所を訪れたいと思っていたから。

で、結論から言ってしまうと、まあ…バナナとワニだった。。。

二人とも、首をかしげ、いまいち釈然としない思いをかみしめつつ帰途へ。
伊豆半島の東岸、R135を北へ向かって登っていく。観光客の車両で道は混んでいるが、流れはそれほど悪くない。
後方、すでに陽は大きく傾きつつあり、視界はにじむように染み出してくる紅に支配されつつあった。

紅く染まった海には、少し白波が立っている。

熱海ビーチラインを経て真鶴道路へ。
すでに陽は後方に落ち、紫の残滓をおびた東の空には、月がさりげなく存在を主張し始めていた。

早川インターから西湘バイパスへ。長大な砂浜に沿った快適な有料道路だ。
英一を従えて、140km/h程度で流しながら走っていると、熱気と風に飛ばされた塩がヘルメットのシールドに白く堆積してくる。
苦笑。…これは明日、洗車しなくちゃな…


475:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:14:44 erhKF2W9
橘PAで休憩を取った後、更に西湘バイパスを走り、そのままR134に入った。
平塚あたりのガストでゆっくりと夕飯を取り、ツーリングマップをみて帰路を確認した。

「R134から鎌倉あたりで北に向い、横浜鎌倉線で横浜方面へ、でもって第三京浜で玉川まで、って感じでどう?」
「いいよ」
俺にはこのあたりの土地勘が無いため、よくわからない。英一に任せた。

ガストを出て、セルを廻した。
バイクに跨り、低回転で暖機しながら出発。
既に時間は午後10時を回っている。
さっき食べたスパゲッティが、胃に少し、もたれていた。

476:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:36:30 erhKF2W9
横浜、第三京浜、保土ヶ谷インター。
疲労も溜まっているため、途中のコンビニで適宜、休憩を取りながら、たどり着いた。
眼は冴えているが、けして軽くないクラッチを握り続けた左手は、重い。
時計の針は天辺を過ぎようとしている。
英一を前にして、高速のランプを登っていく。この時間だ、道は結構すいていて流れは良い。

英一は60km/hほどで俺の前を走っていた。後方からのクルマが、次々と俺たちをかわして行く。なぜそんなに遅い?
と、彼の左踵が二度動き、エキゾーストが甲高いものになった。後ろを振り向き、俺を見て、赤いグラブに包まれた左の拳を突きつけた!


477:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:37:32 erhKF2W9
…第二ラウンド。やる気だ…
…いいだろう…
俺は受諾のサインとして2度パッシングライトを瞬かせ、ヘッドライトをハイビームに切り替えた。
ギアを一速に落とす。
英一が前を向いたまま、左手を上げ、大きく指を開いた。1泊置いて、親指を折る。カウントダウン!
英一はゆっくりと左手で3までカウントする。手がハンドルに戻された。
後は、心の中で、数える。

…2…1…

「Go!!」

FZのリアが一瞬、白い煙を上げ、それに連動するかのように俺の右手も大きく翻った。
フロントが、少しだけリフトする。スロットルを緩めることなく、ハンドルに体重を預け、押さえ込んだ。
一瞬で120km/hを通過する。2速。確実に蹴り上げる。
英一と俺との距離は十数車身程度か。初期加速で多少出遅れた分、あいだは開いているがまだ、たいしたギャップじゃない。
時間にしてコンマ何秒…その程度だろう。

しかし、そのコンマ何秒が、遠い、俺にとって許せない距離に思えてきた。
・・・距離を、埋めなければならない。


478:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:38:29 erhKF2W9
速度は既に200km/hを大きく超えている。ヘルメットが切り裂く大気の叫びが鼓膜を震わせ、レッドゾーン付近でエンジンは猛烈な鼓動を繰り返している。
モラルも常識も、すべてを背後に置き忘れた、公道では狂気と呼ぶにふさわしい速度。
とても、バイクにのり始めてまだ一年にも満たない、初心者が安寧としていられるスピードではない。
猛烈な勢いで迫り来るコーナー。FZのテールが赤く光る。一瞬遅れて、俺もブレーキを握り締める。前方に飛び出そうとする身体を膝と腕で受け止め、フルバンク。
前輪がバンプに乗り上げてはねるが、前足とステアリングダンパーが何とかそれを吸収した。
コーナーを抜けると、不意に前方に一般車。トラックが併走しているため、あいだが狭い。抜けるか?英一は…速度を緩めない!
俺も…立ち上がりでスロットルを微妙に調整しながら、出来るだけ速度を殺さず駆け抜ける。拳一つ分の、見切り。

まさに狂っている・・・しかし、俺は、何故か奇妙に落ち着いていた。
確かに興奮はしている。でなければこのような高いテンションを、プレッシャーを耐えていられない。
魂は熱い。だが、心は醒めている。冷静に、俺自身を見つめている。決して悪いことじゃない。そんな気がした。

クールラン・・・熱く、冷たく、全力でFZの赤いテールランプを追う。


479:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:39:20 erhKF2W9
俺のがんばりにもかかわらず、彼我の距離は縮まらなかった。しかし離されることも無い。
当たり前だ、俺は英一のラインをトレースしているのだから。

近づくことはあっても抜けない。英一がしっかりとインを閉め、ラインを殺しているのだから。

超高速域では空力の関係か、エンジンの特性か、TLのほうが速度の伸びは良いようだか、一般車が邪魔になって抜くには至らない。
英一のほうが、クルマを、障害物を処理する技術、経験に長けている。

俺には、このストレートの先のコーナーがどんなRを持っているのか、路面のつなぎ目、バンプの有無、それらを知らない。
英一はおそらく熟知しているのだろう。

仮に、俺が彼より前にいたとしても、このペースで走り続けることは不可能だろう。
英一はそんな俺を、苦も無くパスしていくことだろう。

要するに、俺は現時点で、完全に英一に負けていた。認めざるを得ない。

しかし・・・納得できない。
すべきではない。そう思った。

480:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:41:11 erhKF2W9
玉川インターにはすぐにたどり着いてしまった。そのまま高速を下り、北へ。
俺たちは、最初に見えたローソンにバイクを止めた。

「英さん、完敗です」
ミラーにメットを掛け、素直に負けを認めた。
「まぁな!フグタ君も、まだまだだね!
・・・でもさ、フグタは道知らなかったろ?だからまあ、しょうがないよ。」
「しょうがないか・・・」

英一はうなずいて、つづけた。
「そう、しょうがないさ。俺は首都高や京浜は結構走りこんでるからね。
コーナーとか、路面の特長とか、その辺はたいてい頭に入ってる。じゃなきゃあんな速度で走れないよ。」

リアシートに身体を持たせかけながら、英一は言う。
「初めてバイクで京浜走って、あの速度について来ただけでも大したもんだよ。
走ってきた年季が違うんだ。今日、俺が勝つのは当たり前さ。だからコーヒーはいらんよ?」
ウィンクしながら、そう、のたまう。
俺は黙ってタバコに火をつけた。

481:タラオ~Acceleration of The Blood~
07/02/18 15:41:48 erhKF2W9
「そうだな、英さん…勝てるわきゃねえよな…全然本気出してなかったろ?
・・・くっそー、このままじゃ済まさんぞ!英一!覚悟しとけよ!!
でだ、コーヒーは付けにしておいてくれ!!」
「おう、わかった!ちなみに言うと、俺コーヒーは甘党だからね」
その言葉に、俺はニヤリと笑ってみせ、宣言した。
「俺が、あんたの好みを知っとく必要はねぇな。…なぜなら次以降、俺がコーヒーをおごる必要はないからね!」
「俺に勝つってか?!おうおう、ぬかすぜ小僧っ子が!!」

英一の言った"しょうがない" , "あたりまえ"・・・
上辺でははしゃぎ合っている俺の、脳の奥底に潜む獣が、その言葉に猛っていた・・・



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