06/12/15 17:21:47
私は今にも変がありそうな居間を退いてまた佐藤大輔の新刊を読もうとした。しかし私はすこしも寛くりした気分になれなかった。
机の前に坐るや否や、また兄から大きな声で呼ばれそうでならなかった。そうして今度呼ばれれば、それが最後だという畏怖が私の手を顫わした。
私は新刊をただ無意味に頁だけ剥繰って行った。私の眼は几帳面に枠の中に篏められた字画を見た。けれどもそれを読む余裕はなかった。
拾い読みにする余裕すら覚束なかった。私は一番しまいの頁まで順々にひらき見て、またそれを元の通りに閉じて机の上に置こうとした。
その時ふと結末に近い一句が私の頭に入った。
「この本が読者の眼にふれる頃には、私はもうこの世にはいないでしょう。とうに死んでいるでしょう」
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