07/02/09 19:12:15
281 名前: 名無しさん@弾いっぱい [sage] 投稿日: 2007/02/05(月) 01:19:45 ID:xoqsrPEZ
「あ、お兄ちゃん・・・おかえり」
「ただいま。今日は大丈夫だったかい?」
「うん、今日は天気が良かったから・・・」
日の光が差し込む病室のベッドの上で、体を起こしている一人の女の子。
殆ど外に出ていない為かその肌は白く、腕は細々としていた。
「お兄ちゃんもお仕事色々大変なんでしょ?私のことなら大丈夫だよ。」
「お前はそんな事気にしなくていいんだ。お兄ちゃんなら大丈夫だから」
「ありがとう、お兄ちゃん・・・私、もう眠くなっちゃった」
「そうか・・・それじゃあもう今日はおやすみ」
「うん・・・」
俺は妹をベッドに寝かせ、布団をかけると部屋を後にする。
妹には、今自分は軍のパイロット訓練を受けているという事は言っていない。
妹の事だ、言ったら心配するだろう。余計な心配を掛けたくないから、その事は伏せていた。
基地と病院を往復する日々が続き、実際の戦闘機を用いての最終課目も済んだ。
そんなある日、空から降りて来た俺に教官を通して緊急の連絡が入った。
274:名無し三等兵
07/02/09 19:13:36
282 名前: 名無しさん@弾いっぱい 投稿日: 2007/02/05(月) 01:20:48 ID:xoqsrPEZ
病室に駆け込むと、妹の苦しそうな吐息と心計の電子音だけが響いていた。
妹の白い顔は時折苦しげに眉をゆがめるが、それ以外は至って静穏なものだ。
とても、不治の病に冒された患者には見えない。
なんで、俺じゃなくて妹なんだ。まだ中学生じゃないか。あんまりだ。
妹が初めて倒れ、医者からもう治らないと聞かされた時と同じ言葉が頭をよぎる。
「お兄ちゃん……」
いつもの祈りとも呪詛ともつかない思いが終わる前に、妹が静に口を開いた。
「……なんだ?」
「わたし、飛行機が見たいよ。」
飛行機どころか、この1年外にだって出られていないのに。
「飛行機か。……どんなのが見たいんだ?」
「うん。」
ちょっと考え込んだ妹は、儚げに笑ってこう答えた。
「……お兄ちゃんと一緒に飛んでいる飛行機が見たいよ。」
俺は驚き、固まった。妹は全て知っていたのだ。だがそんな事は今はどうでも良かった。
妹の手をとると、耳元で小さく囁いた。
「(わかった・・・あと少し、少しだけ待っててな。すぐに、戻ってくるから・・・)」
275:名無し三等兵
07/02/09 19:17:29
283 名前: 名無しさん@弾いっぱい [sage] 投稿日: 2007/02/05(月) 01:21:24 ID:xoqsrPEZ
妹はそれを聞くと、少しだけ笑顔になり窓の外を見つめる。俺は車を飛ばし、基地へと戻った。
妹に見せたい・・・普通ならこんな理由で、新米一人に戦闘機一機を貸してくれる訳が無い、そう思っていた。
「駄目だ、それは許可できない」
案の定教官は首を横に振った。無理も無い話だ・・・・戦闘機は玩具ではない。
「無茶な要求なのは重々承知しています。・・・それでも、それでもお願いします!!
妹の・・・最後の頼みなんです。今しか、見せてあげる事が出来ないんです・・・!」
俺は必死だった。じっと俺を見ていた教官が、口を開く
「・・・・お前にとって、その妹さんは何だ」
「妹は、俺にとって・・・俺にとっての全てです。妹が居たから、俺はここまで頑張って来れました。
辛いときでも、病院で妹の顔を見ると元気が沸きました。妹は俺の顔を見ると元気になると言ってたけど、
俺も妹に元気をもらってました。だから・・・」
「もういい、よく分かった。全く、お前という奴は・・・・」
そう言うと教官は格納庫との直通電話の受話器を取ると、整備班長を呼び出す。
276:名無し三等兵
07/02/09 19:18:06
「班長?あぁ、俺だ。急で済まないが、新米のスクランブル訓練をする事になった。
悪いが、ファントム一機、5分で行けるか?あぁ確かに、予定には無いな。
責任は俺が取る・・まぁそんなトコだ。すぐ戻ってくるから機内燃料だけでいい。ありがとう、それじゃ・・・」
「あの・・・教官?」
「何をぐずぐずしている!!言っただろう、これから”スクランブル訓練”だと。3分だ、3分で準備してみせろ!!ただし!俺も一緒だ・・・それでいいな?」
「ハイ!ありがとうございます!!」
俺はロッカールームに飛び込み、パイロットスーツを身に着けるとヘルメットをかぶりながら格納庫に向かう。
其処には、海洋迷彩の施されたファントムが一機、エンジンを温めていた。既に教官はチェックを済ませていた。
前席に飛び乗り、手早くチェックを済ませると滑走路に向かう。スクランブル訓練との事だったので、上空と滑走路は
クリアだった。スロットルを前に押しやり、A/Bを点火させる。
即座にJ79ターボジェットが咆哮し、車輪が宙に浮く。クリーン形態のファントムはどんどん加速していった。
277:名無し三等兵
07/02/09 19:18:36
284 名前: 名無しさん@弾いっぱい [sage] 投稿日: 2007/02/05(月) 01:22:37 ID:xoqsrPEZ
「・・・・いちゃん・・・・にぃ・・・ちゃん」
「・・・・頑張って、お兄さんはすぐに戻ってくるわよ。ね?」
「うん・・・」
病室では医師と看護婦が妹の様子を見守っていた。兄が病室を後にして約30分、いまだ兄の姿は無い。
このまま戻ってこないのではないか?そう思っていた看護婦と医師の耳に、聞きなれないカン高い音が聞えてくる。
「先生・・・この音ってもしかして」
「・・・あぁ、そうだ!お兄さんが戻ってきたんだ。窓を開けて、体を起こしてあげて」
「ハイ!」
看護婦は窓を開けると、妹の体を支えながらゆっくりと上体を起こさせる。妹は今にも閉じそうなまぶたを
必死に上げ、空を見つめた。とその時、病院の真近をA/B全開のファントムが横切っていく。
耳を劈く轟音、だが今の妹にとってそれはとても心地よい音色に聞えた。
「お・・兄・・・ちゃん。鳥に・・・なった・・・んだね」
病院の側を横切ると、俺は減速して妹の部屋から見える位置に機体を持ってくる。
妹は、俺の姿が見えているだろうか?急旋回し、見えるようにペイバーを引く。
頼む、見えていてくれ・・そう思いながらスティックを手前にいっぱい引いた。キツイGがかかるが
それでも引く手を緩めなかった。そして二度、三度機動した時、後席の教官から声がかかる。
≪・・・悪いが、時間切れだ。流石に増槽無しで低空A/B全開は無茶しすぎたな、もう燃料が無い。
基地へ帰投するぞ。もう・・・いいな?≫
≪ハイ・・・ありがとうございました教官≫
≪・・・・タワー、ディスイズタンゴ1、RTB≫
俺は最後に翼を振ると、機体を旋回させ基地へと進路を向けた。
278:名無し三等兵
07/02/09 19:20:53
285 名前: 名無しさん@弾いっぱい [sage] 投稿日: 2007/02/05(月) 01:23:12 ID:xoqsrPEZ
「ほら、見える・・・?」
「う・・ん。見・・えるよ。お兄ちゃ・・んが飛んでいるの・・はっき・・りと見える
よか・・・った。お・・・兄ちゃんが飛ぶとこ・・見・・・れて」
「そうね・・お兄さん、ちゃんと飛んでたわね・・・」
妹は、空を見つめながら小さな涙を流していた。入院当初から彼女の世話をしていた看護婦も、泣いていた。
「ありが・・とう、お兄・・・い・・ちゃん」
妹はそう言うと、ゆっくりと目蓋を閉じていった。
「・・・・妹に、見えたでしょうか」
「えぇ・・・しっかりと見ていましたよ。あなたの姿を・・・」
基地に降り立ち、病室へと戻った俺の眼に飛び込んできたのは
白い布を掛けられた妹と、その側で泣崩れている看護婦の姿であった。
「そうですか・・・先生、最後に・・・最後に妹の顔をもう一度・・・」
妹の顔にかけられた白い布を、医師がゆっくりとめくる。そこにあったのは
紛れも無く、妹であった。その表情はどことなく穏やかで、うっすらと笑みを浮かべているようにも見えた。
俺は妹の手を取ると、耳元で小さく囁いた。
「ありがとう・・・」
279:ラスト
07/02/09 19:21:30
≪バンディッツグループ、ヘディング090、機種はTu-95と確認。護衛機も多数見える≫
≪了解した。インターセプター各機、ここを突破されたら後がない、頼んだぞ!≫
俺は今空に居る。ここでは生と死が常に隣り合わせ、何時どちらに転んでもおかしくはない。
だが、俺は死なない。死ぬわけには行かない。空を飛んでいるのは、俺だけではないからだ。
「(さぁ、行こうか・・・)」
妹の遺灰が入ったペンダントを握り締めると、再び真っ直ぐに前を見詰める。
俺は妹と一緒に、妹のあこがれた空を飛んでいる。だから俺は、命ある限り飛び続ける。
たとえ俺の前にどんな壁が現れようとも、その壁を越えて飛び続ける。それが俺が妹にしてやれる唯一の事だから。
≪オメガ1、エンゲージ!≫
≪レイビア1、エンゲージ!!≫
敵が見えてきた。他の部隊は既に交戦状態にあった。
俺はファントムを捻りこみながら急降下させ、交戦の合図をする。俺の戦いが、始まった
≪メビウス1、エンゲージ!≫
280:名無し三等兵
07/02/09 21:31:45
>>273->>279
全俺が泣いた
281:名無し三等兵
07/02/09 22:17:33
ラストはオメガ11だと思った俺