06/07/20 23:32:40 mOUvQntX0
曇り空、山も空も灰色で、細かな水滴が
あたりを満たしている。
風は感じなかったが、水滴は斜めに降っている。
足元からは、影さえ伸びない。
その足元の、はるか下。
岩だらけの斜面を、まっすぐ登ってくる一団がある。
黒装束の女どもだ。
洋装で、葬式帰りといった風情だ。
一人一人は、鉛筆の先ほどに小さく見える。
急傾斜、ゆっくりと、歩いて登ってくる。
山にふさわしい格好、集団ではなかった。
傍に来て欲しくはなかった。
そして無論、どうすべきか分からなかった。
石でも落としてやろうか。
だが、と思った。
そんなことをすべきではない。
その日、友人の母親が死んでいた。
子供の頃から、よく小言を頂戴した。
山を始めてからは、小言が長くなった。
俺と同じ頃に登山を始めた友人は、母の小言に
耐えかね、早いうちに山をやめてしまった。
お節介には、違いない。
俺が山へ出かけたと聞くたび、
「馬鹿だねぇ、あの子は」
そう言っていたと、後になって聞かされた。