06/03/25 19:02:11 pIokClNM0
(続き)
しかし、音が気になって寝られるものではない。
皆は息を殺して、ただオルゴールの発条が切れるのを待っていたそうだ。
やがて音が間延びし始め、直に何も聞こえなくなった。
やれやれ、やっと寝られる。
ホッと一息ついた、その直後。
きりっ きりっ きりっ
誰かが、ゆっくりと発条を巻き始めた。
誰も声を発することが出来ない。誰もテントの外を確認出来ない。
ただそのまま、オルゴールの音色が流れてくるのを、黙って聞いていた。
発条はくり返し何度も巻かれたという。
夜明け前になって、ようやく静寂が訪れた。
発条を巻き上げる音も、それ以上は聞こえてこない。
恐る恐る顔を出してみる。オルゴールは姿を消していた。
テントから出て来た部員は皆、疲れて冴えない顔をしていたらしい。
「・・・オルゴールの音、聞いて貰いたかっただけなのかな」
誰かがポツリとそう漏らした。
何となく、そうかもしれない、そう思ったのだそうだ。