06/03/15 00:09:52 EqZdSFzO0
堕胎させるために、妊婦を高所から突き落とす。
同じ目的で、妊婦を水に漬ける。
身勝手には違いないが、そうしなければ、多くの者が
生き残れない土地が、あちこちにあった。
細い流れの滝が作り出した、小さな淵。
黒っぽく光る水は、とんでもなく低温で、漬けた指先は
いつまでも冷たいままだった。
「何人くらいかな・・・数えた奴もいないだろうな」
そこら一帯の山について滅法詳しい男は、そんな言葉でしか
その淵の歴史を語らなかった。
彼の祖父は、母親の胎内にいる時に、この淵へ母親もろとも
叩き込まれたのだ。
幸い祖父は生まれ、そのおかげで彼も生まれた。
その淵を通って、一人で山の奥へ入ると告げると、
お前は、ここの人間じゃないもんな、とだけ言った。
来るはずのバスが来なかったり、知っているはずの山道が
見つからなかったり、そんなこんなで、予定が狂ってしまった。
通過するはずの、その淵にたどり着いたのは夕方だった。
その日の宿営予定地までは、まだ2時間以上かかる。
ここで寝るのは気色悪いが、諦めるしかなかった。
早く寝すぎたせいで、夜中に目が覚めてしまい、テントを出た。
ヘッドランプは一瞬だけ光り、電球が切れた。