04/09/04 16:11 ZARQW5sF
幼い頃に父が亡くなり、母は再婚もせずに俺を育ててくれた。学もなく、技術もなかった
母は、個人商店の手伝いみたいな仕事で生計を立てていた。それでも当時住んでいた
土地は、まだ人情が残っていたので、何とか母子二人で質素に暮らしていけた。
飲酒をする余裕なんてなく、日曜日は母の手作りのおつまみで、四畳半の部屋で
発泡酒を飲んでいた。給料をもらった次の日曜日には、おやっとさあとよっちゃんいかを買ってくれた。
ある日、母がインターネットでプレゼントの森伊蔵を当てた。俺は生まれて初めての
プレミア焼酎に興奮し、母はいつもより少しだけ豪華なおつまみを作ってくれた。
森伊蔵の販売サイトにアクセスし、パスワードなどを入力してアクセスとすると、吃驚した。
母が当てたのはプレゼントではなく購入権だった。購入画面で4410円払ってクレカ決済しないと
いけないとわかり、クレジットカードすら持っていなかった俺たちは、コンビニで
黒霧島を買ってきて飲んだ。帰り道で無言の母に「美味しいだろうね」と言ったら、
母は「母ちゃん、バカでごめんね」と言って涙を少しこぼした。
俺は母につらい思いをさせた貧乏と無学がとことん嫌になって、一生懸命に勉強した。
社会人学生として夜学に進み、いっぱしの大卒社員になった。結婚もして、母に孫を見せて
やることもできた。
そんな母が去年の暮れに亡くなった。死ぬ前に一度だけ目を覚まし、思い出したように
「森伊蔵、ごめんね」と言った。俺は「黒霧島美味しかったよ」と言おうとしたが、最後まで声にならなかった。
。・゚・(ノД`)・゚・。