04/06/17 21:01 ubH/WSRD
ある夜の事、一人の少年が喉が渇いたので土間に下り、台所で水を
飲んでいた。
すると、開けっ放しにしていた出入り口の端から狸が頭を覗かせて
彼をじっと見ているではないか。
少年は狸が家の中に入って来るとまずいので、「こら!!」と一喝。
すると、狸はゆっくりと頭を引っ込めて逃げて行った…と思ったのも
束の間。
その日はちょうど満月で、明かりを付けなくても全く問題が無い位
明るい夜だったはずなのに、ほんの一瞬で少年は自分の手元すら
見えない真っ暗闇の中に放り込まれてしまったのである。
それも、困った事に自分の部屋に戻ろうとして手探りしながら歩き
出しても、平坦などこかを進み続けるばかりで一向に部屋どころか
家の中に居るのかすら分からない始末。
「こりゃあいかん…どうも、狸に化かされたみたいだ。これ以上無理
に動き回らない方が良いな…」
少年は腹をくくり、相変わらず真っ暗な視界の中、どことも分から
ない場所にごろりと横たわって寝てしまった。
さて、それから何時間過ぎたのか。
少年はふいに眩しさを感じて目を覚まし、身体を起こして驚いた。
そこは、山の中腹に作られた狭い畑のど真ん中。
少年の家から行こうとすると、かなり急な道を下らなければ辿り着け
ない場所であり、そこから更に下っていたら石垣から落ちて大けがを
していた所だった。
「諦めて寝て正解だったなぁ。ま、晴れた日で良かったわ」
少年は自分を化かした狸を恨むでもなく、良く寝たと思いながら家に
帰った。