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続き★チベット人のナムカイ・ノルブ著 『虹と水晶』から抜粋
「1952年、チベットの私の生まれ故郷に、一人の年老いた男が住んでいた。
男は若い頃、ゾクチェンのラマの召使か助手のような仕事をしていたので、自然に、沢山の教えを耳にするようになった。
だが、その後の一生を、石にマントラを彫って生計を立て、非常に素朴な生活をしながら送ったのである。
そうやって何年も何年もずっと生活していたので、誰も彼に対して注意を払わなかった。
まして修行者などと考える者もいなかった。ところがある日、男はみんなに自分は7日後に死ぬと告げた。
そして僧侶だった息子に使いをやって、自分の財産は全て息子の住んでいる僧院に寄付したいと伝言させたのである。
僧院では男が、死ぬための7日間、部屋の中に閉じ込めたままにしておいて欲しいと言ったというニュースを
遠くの地方まではるばる広めた。誰もが、この言葉の持つ重要な意味を知っていた。
そこで、大勢の人々がやってくることになり、できごとの全体は、まるで公開の見世物のようになってしまった。
仏教の全宗派の大僧院から派遣された代表者たち、それに加えて、中国政府のメンバーまでやってきた。
当時、彼らは全員軍人だった。
男は七日間、閉じ込められ、それから部屋が開けられた。多くの人々がそこに居合わせていた。
そして、全員が男が身体を残さずに去っていったという事実を、目の当たりに見たのである。
残されていたのは、彼の肉体の不純物である髪の毛と爪だけであった。
ヨーガ行者だった私の叔父は、その事件を目撃した直後、父の家に私に会いにやってきたが
この話をしてくれたとき、その目は涙でいっぱいだった。
叔父によれば、これは全くひどい悲劇だった。私たちのうちの誰一人として
この男のすぐ近くに住みながら、彼が外見上何の変哲もなく見えるけれど、実際には偉大なゾクチェン修行者で
彼から教えを受けることができるということに気がつくだけの理解力を持っていなかったのである。」