07/02/02 13:18:20 ifgikE0X
くるくると回転しながら、突然に彼が現れた。
回転をとめるとき、自ら「しゅたっ」と擬音を発して指先までぴんと伸ばした右手を挙
げ、ポーズをとっているかのようにそのまま静止したのだった。
花見に来ていた客たちは咄嗟に俯いた。
やや後方では立ち上がって逃げ出そうとするものもいる。
誰もが皆、恐れている....芸人？怪人？変質者？得体の知れないざわめきが心の中
に広がってゆくが、とりあえず目を合わせないことでやり過ごそうとしている。
しかし、そうした中、すぐ後ろに座っている老人は、覚者の如く落ち着いた様子である。
界隈で大工を50年勤め上げた権造が右隣にいる孫に諭すよう話しているのであった。
「ええか、得体の知れない危険ではあるが、あれはメドゥーサではないんじゃ。だから
目を合わせたところで石になったりはせん。ただな、石にならん代わりにイシーになっ
てしまうんじゃ。」
孫の安二郎は幼い頃から祖父に語りかけられる時の常であったようにおずおずと体操
座りの体制に姿勢を直し、あれはオックスだと祖父に教えたものか迷うばかりであった。
権造の後ろでは幼馴染の亀次郎が大きな溜息をついている．．．．
「はぁ～、権の野郎また出鱈目語っていやがる、まったくよぉ。」
そうしたことに構うことなく回転しながらやってきた男は電話をかけ始めた。
なぜかポーズは崩すことなく....
「あ、今着いたぴょん。右手挙げたら愚民どもがこうべを垂れてるぴょん。きもちいいな
りよ。え？脚短いって．．． そんなことよりラーメンまだかにゃ？」