07/11/21 20:34:01 7lnilYw50
御参考までに。
「月面に立った男 ある宇宙飛行士の回想 ジーン・サーナン」(P349~353)
飛鳥新社 より
『一日の仕事を終え、土埃にまみれ、疲れ果てて、チャレンジャーに引き上げたのは、
月面で七時間十二分を過ごしてからだった。私達は驚くほどよく働いたが、二十四時間
近く眠っていなかった。はしごの脇に吊るして置いた大きな刷毛は、備品の中で一番頼
もしい道具に思われた。それでお互いの土をきれいに払い落としてから月着陸船に這い
上がったのである。チャレンジャーは、もはや私達を宇宙空間から月面へと運ぶだけの
乗り物ではなかった。それはいま、私達の家であり、私達がこの新世界で安らげる場所
はここしかなかったのである。グラマン社の皆さんありがとう。
宇宙船は与圧すると、油の缶に空気を充満させたような形に膨らんだ。そして反り返
った薄いハッチのカバーは、このバッタを連想させる宇宙船の華奢な構造を私に思い出
させた。
手が痛んで、手袋を脱ぐのもつらかった。案の定、指の関節や手の甲は傷だらけで、
皮膚がむけて真っ赤になっていた。指は骨折したようにぎこちなく、私はそっと折り曲
げて動きを確かめないではいられなかった。数層からなる手袋は分厚く、宇宙服を装着
してから与圧すると、骨折した腕を保護するギブスのように硬くなった。そして、何か
をつかもうとすると、指の関節や手の甲が手袋の硬い内側で擦れるのだった。
私達は次に、お互いに手伝って宇宙服を脱いだ。脱いだ宇宙服は狭い宇宙船の中で信
じられないほどかさばった。しかも汗で濡れていたので、ヘルメットと手袋を取り付け、
ホースを差し込んで酸素を循環させて乾かした。二組の宇宙服は大きな風船のように膨
らんで、子犬用のテントにさらに大男が二人が潜り込んだようだった。リュック型の生
命維持装置は壁にかけたが、宇宙服は丸めることもできなかった。仕方がないので、船
内の中央部分に大きなゴミバケツのように突き出ている上昇用エンジンのカバーの上に
宇宙服をのせて、なるべく平らになるよう押しつぶしたのである。
私達はその後、汗で湿った下着姿で簡単な夕食を済ませた。そして無線で地球の仲間
に一日の活動報告をしてから、船内の箱に収めた岩石を取り出して遊んだ。