07/12/28 00:18:56 cf9/9PNIO
僕がその犬に気付いたのは、店へと続く坂を登っている時だった。
僕の奇妙な友人―古美術店を営む坂さんの店は、その名の通り坂の途中にある。
傾斜が緩やかだとはいえ、距離は結構なものだ。
その長い道のりを、犬は最初から最後までずっとついて来た。
犬と僕の距離は大体3mほど。だけど爪がアスファルトに当たる音や荒い息遣い、
静かに僕の背後を狙う気配は、まるで犬がすぐ側にいるかのようにありありと分かった。
僕は特に急ぐこともなく―そもそも、今回はこれ自体が用事だ―だらだらと坂を登り続けた。
犬は大人しく後をついてきた。途中一度、犬が唸るように鳴いた。
瞬間、背筋が凍るほどの寒気を感じたが僕は振り向かなかった。