07/12/15 00:59:46 mqMdQ87wO
「友達の法則」というものがあるらしい。自分が友達だと思う人間の数と、自分を友達だと思っている人間の数は天文学的な確立でしか一致しないのだという。
それを証明したのがその法則で、そこには難しい理論とかがあるらしいが、簡単に言えば人間の感情とは一方通行で、意思が疎通できることは殆どないという証明なわけだ。
人間が如何にくだらない生き物で、友情や愛情といった類のものがどれほど脆いものかを実にうまく説明している。
と、僕は蘊蓄を聞かされた。
その蘊蓄話を語って聞かせてきた当の本人は、意味不明なことを突然聞かされて惚けてる僕を尻目にヘラヘラと笑いながら野良猫と戯れている。
「要するに、幽霊も同じだよ」
又しても当然、そいつは言い出した。何を隠そう、ナナシである。ナナシに幽霊はつきものだが、さっきの話と幽霊と何の関係があるのか。僕は惚けるしかなかった。
しかしそんな僕の考えを読み取ったかのように、ナナシは猫を抱き締めて言った。
「化けて出てる本人たちは、まさか誰かに見られてるなんて思ってない。だからあんな醜い様でいられるんだよな。でも俺にはそいつらが見えてる。
そいつらを見て、薄気味悪くて嫌悪を感じる。」
ナナシの腕の中で猫が喉を鳴らす。
「逆に、お前みたいに」
ナナシは僕を見る。
「すぐ後ろで手招きされてるのに、見えてないやつだっている。」
ナナシがケタケタと笑った。僕はゾッとして振り返る。が、そこには何もいない。
いや、僕には見えなかった。
「いようといまいと、見えてなければ同じことだ。人間は、生きても死んでも一方通行なんだよ」
ナナシの腕から猫が逃げた。ナナシは追いかけることはせず、黙って猫を見ていた。
僕は後ろを気にしながらも、ナナシの話を思い返していた。
ナナシは僕にとって友達だけど、ナナシにとって僕は友達なのだろうか。そんな疑問が頭を過ぎる。
その疑問を投げ掛けることも、その答えを聞くこともできないまま、
ナナシはいなくなってしまった。
もしかしたら今も、ナナシは僕の後ろでヘラヘラ笑ってるんじゃないかと、僕は後ろを振り返るけど。
やっぱり、僕には何も見えなかった。