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《一部抜粋》
■ネトウヨ多数は錯覚
メディア論の大阪大准教授辻大介(50)は2年前、「韓国や中国に親しみを感じない」「靖国参拝、9条改憲支持」などを満たしネットで政治的議論をした人を「ネット右翼」と定義し、
ネット利用者2347人から抽出した結果、ネット右翼は利用者の1・8%と算出した。「調査はネット多用者が多い調査会社の会員が対象。一般利用者が対象なら1%を切るだろう」
辻はネット右翼がサイバー空間で多数派を占めるように映るのは「錯覚」と見る。原因に挙げるのが雪崩を打って議論が多数派に流れる「サイバーカスケード」という現象。
「慰安婦」「尖閣」といった話題は少数が過剰に書き込み、見た人は「こんな大勢がバッシングしてる」という集団心理やノリで発言を加える。コピーがぐるぐる回って、ネトウヨの排外主義が圧倒している体をなす。
さらに「炎上」への恐れがこの種の話題をタブー化させる。
その結果、実態とは異なるゆがみを抱えるネット空間が、ヘイトスピーチや「嫌韓」「嫌中」にとどまらない多方面に及ぶ攻撃と、市民やメディアの自由な言論の萎縮を加速させる。
■大半が泣き寝入り
3月27日、京都府・京都市に有効なヘイトスピーチ対策の推進を求める会がヘイトスピーチを含む人種差別的言動を禁じる条例案を公表した。
案作成の契機は朝鮮学校の事件。裁判所は学校を被害者と捉えて賠償を命じたが、集団全体に向けた差別発言を不法行為とするのは「新たな立法なしにできない」とした。
案は被害の実態調査と救済を重視し、人種や民族を理由に憎悪や差別をあおったり誹謗(ひぼう)中傷する言動を禁じる。
さらにはネット被害者も含む支援措置や訴訟援助、差別行為者の名前の公表を盛り込んだ。「先進国なら当然あるべき法的対処がない」。集会で学者や弁護士が差別撤廃策を訴えた。
OECD諸国でヘイトスピーチ規制法がない国は日米など少数。国連人種差別撤廃委員会は政府に法整備を勧告した。
昨年、民進党などが対策法案を国会に提出、自民、公明両党も先月法案を出したが、罰則を設けない理念法と位置づけた。表現の自由への配慮からだった。
会の共同代表を務める同志社大教授板垣竜太(43)は「憲法が保障する平等の立場で全ての人が生きられるかを同時に重視しなければならない。
差別することが許され、『国から出て行け』『死ね』という暴言が野放しになっている社会では平等の立場で生きられない。
被害救済も現行法で可能とする見方もあるが、裁判に訴えられるのはごく少数。大半が泣き寝入りせざるをえない」と話す。
■強大な対抗言論を
憲法学者を中心に過度の法規制には、表現の自由の観点から「恣意(しい)的に運用され、政府に都合の悪い表現も規制される恐れがある」「国が『誤った思想』を認定し抑圧することには警戒的であるべき」など慎重な意見がある。
根底には、国家が言論を弾圧した歴史も鑑み、「危険な言葉」と「危険でない言葉」を区別して「危険な言葉」を規制し、その判断を国家権力に委ねることへの懸念がある。
辻は法規制に一定の必要性を認めつつも慎重派。例えば民族全体への罵詈雑言は政治的言説と境が曖昧なものがあり、法規制は正当な言論も萎縮させる恐れがある。
何より、人は誤りうる存在で、何が正しいか前提にしない討議が私たちを正しい方向に導く、だから言論の自由は擁護されるという宗教戦争以降培われた知恵に、表現規制は反しかねない。
「では方策は?」と問われると葛藤がよぎる。「正義にもとる行為への怒りは私も同じ。研究者の思考と個人の感情が分裂している」
辻が重視するのは言論には言論で対抗する原則だ。少数のネット右翼が発言を積み上げてネット空間で存在感を得て、「在特会」のような団体も生まれた。
今度はこちらが一日一言、こういうのバカだね、○○さん頑張れと書き続ける。3分あれば誰でもできる支援を広げて強大な対抗言論を築けないだろうか-。