10/04/17 01:56:21 AlONPWpB0
「わかっているよ、エフゲーニヤ」
プルシェンコの声は優しい。
「絶望が、憎悪に変わったのは新型ウイルスのせいだ。僕の眠っていた心と、ウイルスがひとつになったのが彼女だ」
プルシェンコは抱えていたエフゲーニヤを降ろす。
「確かに、憎い。長老達が憎い。掟が憎い。でも本当に憎いのは・・・・・・何の力もなかった僕自身だ」
「ならば自分を消せばいい! そうすれば私がお前になって、長老を殺す!」
「ちょっと待ちなさいよ! あんた女の子のジェーニャが殺されたのを恨んで男のジェーニャに成り代わろうとしてたの? ならなんで女の子のジェーニャを攻撃したのよ?」
「長老を殺すのに邪魔だったからよ!」
完全に憎しみに支配されている。ジョニーはぞっとした。自分の大切な人を殺してまで、成し遂げたい復讐なのだろうか?
「ジョニー、説得は出来ないよ。二人とも下がって。危ないから」
プルシェンコはエフゲーニヤの盾になるように進み出た。
「僕は、自分を消すつもりも、長老に復讐するつもりもないよ」
「何で!? どうして!? あれほど絶望は深かったのに!! あれだけ悲しかったのに!!」
「・・・・・・僕には、地球で生きてきた記憶があるから」
そんなプルシェンコの声を、ジョニーははじめて聞いた。試合で闘志をむき出しにしているときとも、ふざけているときとも違う。
「この悲しみは、もう過去のひとつなんだよ。エフゲーニヤが死んだときのまま、記憶も感情も止まった君と違って」
口元にたたえられた微苦笑。プルシェンコの衣装が変わる。黒字に赤いスパンコールは、タンゴ・アモーレのものだ。
「僕は僕の絶望と憎悪を乗り越えないといけない。勝負しよう。それで決まる」
氷原に、どこからともなくバイオリンが響いてくる。また、マートンが弾いているのだろうか・・・・・・
(DIVA奪還したいのに隙が一切ないわ!)