【IF系統合】もし種・種死の○○が××だったら 12at SHAR
【IF系統合】もし種・種死の○○が××だったら 12 - 暇つぶし2ch291:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 22:59:28
「ミリアリア……」
呟いた少女の肩を、隣にいた天然パーマの少年が励ますように撫でた。
デニムのミニスカートとジャケットという服装から、元来の少女は明るくも女の子らしい性格なのだと窺える。が、今の彼女は少年の励ましに力無く笑うのみで今にも泣き出しそうな程の不安を顔に広げていた。
もう一人、背の低く少しばかりふくよかな少年が戦艦の壁にもたれ掛かって顔を歪めている。
「まだ外にザフト艦いるんだろ? また戦闘になるのかなぁ」
先程の突然の攻撃で何とか生き延びたというのに、こんな戦艦へ逃げ込んだのでは生きた心地がしない。出来ることと言えば緊張で乾いた唇をなんとか舐めて気を紛らわす程度だ。
「カズイもさ、元気だせって! なるようになるさ」
「こんな状況で元気だせって言ったって……!」
天然パーマの少年が明るく言ってみせると、カズイと呼ばれた少年は何を根拠にとでも言いたげに不満の声を絞り出した。
「トールはさ、良いよな……前向きで」
「俺だって……そりゃ。でも今更そんなこと言ったって仕方ないじゃん! こんな戦艦の中に入れてラッキーとでも思わないとさ! ……思えないか」
カズイにため息混じりに言われて、トールという少年は持ち前のウェーブ髪を揺らしながら明るく言い放った後、ほんの少し顔を歪めた。
しかしすぐさま思い直ったのかブンブンと頭を振るう。
「でもキラがいなかったら俺たち今頃ガレキの下敷きになってたんだぜ? ほら、九死に一生を得た人間は強いってよく言うだろ?」
だから大丈夫、と何とか仲間を元気付けようと表情を明るくしたトールにミリアリアがあ、と思い出したように口を開いた。
「キラ、あのモビルスーツのOS……書き換えたって言ってたよね? あんな物の操縦しちゃうなんて……ねぇ」
「まあ俺たちもゼミで作業用モビルスーツのプログラムテストとかやってたじゃん? キラはいつもカトー教授に頼まれて解析とかやってたし、慣れてんだよ」
工業科に通う学生なんだから何とかなったんだろう、と答えたトールにミリアリアは訝しげに懸念を孕ませて呟いた。
「あのモビルスーツ、モルゲンレーテで作られたんだよね? ひょっとして、教授の手伝いって……」

いくら工業科の学生でも急にモビルスーツに乗って戦闘など出来るはずないからだ。
だからこそ、キラがやれたのはそれなりの理由があるはずなのだ。
つまりは何らかの形であのモビルスーツ開発に関わっているのではないか、とミリアリアは感じた。
教授に言われるままにOSの解析等をやってきたキラは自分が何をさせられていたかなどもちろん知らないだろうが、ひょっとしたら―と、悪い考えが過ぎって頭を抑える。
そこでカズイがハァ、とため息をついた。
「やっぱりキラってコーディネイターなんだよな。成績だっていつもトップだったし……」
「カズイ! コーディネイターでもキラは俺たちの大事な友達だろ!」
「そりゃそうさ! 俺が言いたいのは……ザフトは、キラみたいな能力を持ったヤツらの集団だってことだよ」
眉を顰めたカズイにトールとミリアリアも顔を見合わせる。

オーブ国民は基本的にナチュラルで構成されているとはいえ、コーディネイターも数多く住んでいた。
ミリアリア達も日常ではあまりその能力を意識した事はなく、オーブにいる限りはナチュラルであろうとコーディネイターであろうとそれは些細な問題だった。
が、今現在自分たちがいるのは連合艦。
ナチュラルから見れば特殊能力を持っているコーディネイターばかりのザフト軍。そんなザフトと戦うための戦艦にいるのだと思うと戦慄を覚えるなというほうが無理な相談だ。

「母さん達……無事かな」
迫り来る恐怖を何とかかき消そうとしながら、少年達はそれぞれに安否の確認すらままならない家族のことを思った。

292:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 23:10:34
支援

293:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 23:31:21
その頃のキラは、一人艦長室へと呼び出されていた。
この艦の本来の艦長は急なザフト軍の強襲で乗組員共々戦死してしまったため、何とか生き延びた少数の兵士の唯一大尉であったマリュー・ラミアスが臨時の艦長へと納まっていた。
キラの目の前にはマリューの他に、臨時の副長へと就任したナタル・バジルール少尉、モビルスーツ輸送の護衛任務で来たものの乗ってきた艦を落とされ、この艦に急遽乗員したムウ・ラ・フラガ大尉の姿があった。
フラガはマリューよりも先任の大尉であったものの、本業はパイロット。更にこの極秘製造の戦艦及びモビルスーツの詳細を知らなかったため必然的にブリッジクルーのマリューがその任に就いたのだ。

「冗談じゃないですよ!」

艦長室にキラの声が威勢よくこだました。一切の甘さもない否定の声。それはマリュー達の要望を却下する叫びだった。
要望の内容は、もう一度あのモビルスーツに乗って戦ってくれ、というもの。ヘリオポリスを離脱する際には必ず外にいるザフト艦が襲撃してくると予測されるため離脱を援護しろというのだ。
「僕は中立国の民間人なんです、もうこれ以上こんな事に巻き込まないでください!」
「ええ、分かっているわ……でも、あのストライクに搭乗するはずだったパイロットはさっきの攻撃で戦死して、もうあれに乗れるのは君しかいないのよ」
「こんな状態じゃお前等を降ろしてもやれんし、敵はそんな事情お構いなしに攻撃してくるんだぜ?」
神妙な面もちのマリューに対して、フラガはヤレヤレと言った具合に両手の掌を上に向けて首を竦めた。
「と、とにかく……何と言われても僕は乗りませんから」
目の前で困っているマリュー達を気の毒には思う。だが、キラとしてはそんな同情だけで戦火に身を投じるのはまっぴらごめんだった。
ハッキリと突っぱねたキラはとマリューに背を向け、もう話すことはないとばかりに艦長室を出る。
「キラ……!」
艦長室の扉を開けるとキラに目には真っ先にミリアリア、トール、カズイの姿が映った。
なかなか戻ってこない自分を心配してここまで来てくれたのか、直ぐに走り寄ってきて「大丈夫だった?」等の言葉をかけてくれた。緊張に強ばっていたキラの表情がほのかに緩んだ。

294:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 23:32:37

一方キラが出て行った艦長室では頭を抱えるマリューにナタルが次の案を、とヘリオポリス離脱のための指示をやんわりと促していた。
「ラミアス大尉、どうされるおつもりですか……? 彼が乗らないと言っている以上こちらにそれを強要する権利はありません」
ナタルとしては、自軍の最高機密を他国の民間人―それもコーディネイターに扱わせるのには消極的であったのだ。
「俺のゼロは修理中だしねぇ……こりゃ大人しく投降するかい?」
「大尉!」
フラガが軽口を叩いてみせるとすかさずナタルが意志の強そうな瞳で睨みを効かせる。
ハハッ、とフラガが頬を引きつらせるとマリューはフ、と一度瞳を閉じた。
「私たちはこの残されたアークエンジェルとストライクを持って本部へ行かなければなりません。投降は……できないわ」
ナタルとは打って変わって柔らかい口調ながらもその言葉には確かな決意が感じられ、ナタルも同意するように軽く頷いた。

「ラミアス大尉! ラミアス大尉! 至急ブリッジへ戻ってください!」

そこへ急に艦内警報が鳴り響き、どうしたのかと士官三人が艦長室のモニターを凝視する。焦り顔のオペレーターは急くように告げた。
「スクランブルです! ヘリオポリス全体に強力な電波干渉!」
間髪入れず艦長室に響いたのはフラガの強い舌打ちだ。
「やっぱこっちが出てくまで待つわきゃねーか!」
ともかくブリッジへ急ごうと艦長室を出た3人に、まだ艦長室の傍にいたキラ達が不安そうに声をかけてきた。
「あの……この警報は?」
「この艦は間もなく戦闘になります。あなた達は居住区で大人しくしていて」
そう告げて走り去るマリューにカズイが声にならない悲鳴を上げる。
「そんなぁ……じゃあ俺たちどうなるんだよ」
青ざめる少年達を見てナタルは一瞬眉を顰めたが、直ぐに切り替えてフラガの方へ向き直った。
「大尉はCICに入られるので?」
「いや、俺はストライクで出る」
「え……!? しかし、あれは」
「まあ動かせるとも思えんが、このまま黙って艦を沈められるよりはマシだろ?」
驚いたナタルにフラガがサラリと言い返せば少年達は、ヒ、と慄いた。
「沈む……!?」
艦が沈む―それは死ぬという事に等しいくらい少年達にも容易に想像できたのだ。
カズイは頭を抱え、トールは目尻に涙を溜めるミリアリアの手をギュッと握った。
そんな友人達を見てキラは唇を震わせながらグッと拳を握りしめた。
「……僕が……」
戦争には巻き込まれたくない。
「僕が……乗ります!」
だが、この大切な友人達の乗った艦を沈められるわけにはいかない。
「坊主……!」
「だけどこれは連合のためじゃない、僕たちが生きるために乗るんです!」
友人達を守らなくては―その一心でキラはハンガーへと走った。
途中、一人の不安そうな面もちをしたニットワンピースの少女と擦れ違ったものの声をかけている暇など無い。
全力で走ってハンガーへ入ると、そこは物資の搬入作業を急ピッチで進めていた整備兵達でごった返っていた。

295:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 23:33:39
「エールストライカー装備だ! 換装急げ!!」
整備兵をまとめる年輩軍曹の指示がハンガーに飛び、皆が忙しなく動いている。
「なぁ……あれ、コーディネイターなんだろ? 良いのかよ、乗せちまって」
「ツベコベ言ってんじゃねぇ! とっととやれ!!」
整備兵の一人がそう呟けば軍曹は怒声を飛ばして作業へ戻させ、コクピットへ入ったキラにモニター越しに声をかけてくる。
「どうだ坊主、分かるか?」
「はい……えっと、エールストライカーは中距離戦闘用……、なんとか、いけます」
キラは同じモニターに映し出された武装の詳細を確認して頷いた。
キラの乗るモビルスーツはストライクという名称が付いていた。
エールストライカーとはストライクに装備するバックパックの一種で、4基の高出力スラスターを背に持っており、武装はビームサーベル2本とビームライフル。
他にソードストライカーとランチャーストライカーという2種のバックパックもあり必要に応じて換装可能というデータも出ているが、今はエールの確認にのみ集中する。
「それならいい、俺は勇敢なヤツが好きだ。コーディネイターだろうがナチュラルだろうがな」
軍曹の声にキラは目を丸めた。
連合の性質上コーディネイターに向ける目は厳しい。それは中立国オーブの人間―つまりキラに対してといえどそう変わらなかったために「好きだ」などと言われて驚いたのだ。
「頼んだぞ!」
「……はい!」
驚きと嬉しさが混じり、キラは改めて力を込めて返事をした。

その頃、敵影捕捉に努めていたブリッジでは騒ぎが起こっていた。
「爆破されたコロニー壁面からモビルスーツ接近! 数4! これは……」
アークエンジェルの通信席に座るチャンドラ伍長はモニターを見て一瞬言葉に詰まるものの、驚きを抑えて何とか報告をあげる。
「1機はX-303……イージスです!」
チャンドラの声に少なからず皆が動揺した。
「そんな……もう実戦に投入するなんて……」
艦長席に座るマリューなどは愕然としていた。
イージスとは奪われたモビルスーツのうちの1機だったからだ。つまり、慣れ親しんだ我が子に等しい。
「今は敵だ! 切り替えろ!!」
フラガの声がブリッジクルーの頭に響き、艦長席の一段下に儲けてあるCIC・兵器管制席のナタルはハッとしてハンガーに通信を入れた。
「ストライク、出撃だ。……ストライク? ストライクはどうした!? キラ・ヤマト!」
「は、はい……! キラ・ヤマト、ストライク行きます!」
ナタルに促され、発進準備の整っていたストライクはリニアカタパルトからアークエンジェルの外へと飛び出す。モニターは確かに敵であるザフトのジン部隊を拾っていた。

296:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 23:34:58
支援

297:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 23:35:07

「マシューの隊はあの艦の足を止めろ! アスラン……無理矢理付いてきた根性、見せて貰うぞ!」
「……ああ」

へリオポリス内に侵入したのはクルーゼの部下達。出撃要望を却下されたにも関わらず無断で出撃したアスランもいた。

「さあ落ちろォ!!」

マシューの率いた3機のジンがアークエンジェルへと突進する。
アークエンジェルは弾幕を張って艦を守り、主砲の照準をジンへと向けてきた。が、ジンはへリオポリスの建物を盾に易々と避けてしまう。
「ハッ、そんな散漫な攻撃など!」
主砲の直撃を受けた建造物は音を立てて崩れ、その影からマシューは再びアークエンジェルを襲おうと狙う。しかし―トリガーを引くよりも先に確かにモニターは背後からの熱源を察知した。
「なにっ……!?」
不幸にもマシューの反応はコンマ単位で遅れた。その熱源が何かを確認する間もなくマシューの身は爆炎に包まれる。

「マシュー!?」

アスランと共にいたジンが爆発したマシューのジンのほうへ頭部を動かした。ジンの特徴でもあるモノアイが鋭く光り、トリコロールの機体を捉えてパイロットに示す。
「何だあれは……取り逃がしたモビルスーツか!?」
見慣れないモビルスーツにパイロットの瞳は揺れた。それこそがまさに自分たちが捕獲すべき目標。そして今マシューを討ったモビルスーツなのだと確信し、彼は眉を吊り上げた。
「コイツ、よくもマシューを! ―アスラン、手を出すなよ!!」
言うや否や、ジンはそのままストライクに猛進した。
ストライクはというと、持ち前の機動力を活かして一方的に攻撃をただ避けるのみに留めていた。
ヘリオポリスを傷つけまいとしたのだろう。
だが、避ければ避けた分だけジンのライフルはコロニーの至る所に傷を付けていく。そして、パイロットの苛立ちも募っていく。

「何なんだよあの機動力はッ、ナチュラルごときがァ!」

苛立ったような動きでジンは対戦艦、対要塞用のミサイルをストライクに向けて放ってきた。
「うわッ―!」
ストライク―、キラはとっさにストライクのシールドを翳した。心臓が跳ねる。ミサイル爆破と共に壊れたシールドを手放した。
汗が全身から噴き出るのがリアルに伝う。
シールドを捨てたのだ、もう攻撃は防げない。
逃げてばかりもいられない。防げないなら攻めなくては―とキラは無我夢中で背中のビームサーベルを抜いた。
敵はいまだ、硝煙の中。パイロットはいまの派手な爆発を見て気を抜いているかもしれない。
「やったか!?」
事実、ジンのパイロットは一瞬だけ気を緩めていた。しかし煙の中から猛進してくる何かを確認して目を剥いたなどキラは知るよしもない。

「なんだとッ、あの攻撃を……!?」
「うおおおおおおお!!」

キラはそのままフットペダルを強く踏み込み、暴走とも言える動きで敵機目掛けて一心不乱にビームサーベルを突き立てた。
コクピットを一突きされたジンは操縦者の蒸発で動きを止め、そのまま落下していく。

298:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 23:37:50

「オロール!!」

手を出すなと言われたアスランはそれを助ける事もできず、ただ目の前の戦闘を眺めているしかできなかった。

「シャフトに当たるわ! もっと攻撃に注意して!」
「それではこちらが落とされます! 向こうはコロニーへの損害など気にもかけていません!」
アークエンジェルブリッジではマリューとナタルのそんな声が飛んでいた。
攻撃を強めればこの中立コロニーへの破壊に繋がる。しかし敵機は重装備で容赦なく攻撃を繰り出してくる。
ジレンマを抱えながらの戦闘にクルーの疲労はピークに達していた。
「照準! マニュアルでこっちよこせ!!」
CICにフラガの声が飛び、敵機をロックして副砲を撃ったフラガのそれは見事ジンに命中した。
しかしCICが沸き、フラガがガッツポーズをしたのも束の間。なんと撃たれたジンはパイロットの制御不能で暴走し、ジンに装備されていたミサイルがシャフトへと一直線に向かったのだ。
為す術もなくそのミサイルは外壁に当たり、激しい爆発を起こした。
あまりに大きすぎる打撃を受けてしまったコロニー。マリューは言葉を無くし、呆然とした。

アスランはというと、目の前で同僚がジンもろとも爆散した事よりもトリコロールの機体の方へと気を取られていた。
「……キラ?」
違うかもしれない。間違いかも知れない。
そんな思いを抱きつつも、目の前のモビルスーツへ通信を入れてみる。

「キラ、……キラ・ヤマト」

それを受けて、キラは大きな瞳を零れんばかりに開いた。
聞き覚えのある声だ。
モルゲンレーテの工場区で再会した時は人違いかと思った。いや、人違いだと思おうとした。
しかし、その声は間違いなく自分の良く知る人物のものだ。

299:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 23:38:37

「アスラン? ……アスラン・ザラ!?」
「やはりキラ……! キラなのか!?」

キラの返事にアスランもまた大きく瞳を開いた。
「アスラン、どこだアスラン!? アスラ―ッうわあああ!!」
アークエンジェルの相手をしていたジンからの必死の救援要請も今のアスランの耳には全く届いていなかった。
それはそうだろう。
親友であるキラが、敵である連合軍機に乗っていたのだ。援護要請よりもその事実の方が何倍も重くアスランにのしかかっていた。
「お前……何故そんなものに……」
「君こそどうして……どうしてザフトなんかに」
互いに狐につままれたとも言った様子で互いのモニターを睨み、言葉を探した。

だが、崩壊の始まったコロニーがそれ以上の会話を二人に許さない。
急なコロニー内の気圧の乱れで二人の機体は姿勢制御不可能な状態に追いやられ、疾風のような勢いで外へと吸い出されてしまった。

「キラァァーー!!」

遠ざかるキラのモビルスーツに必死で声をかけるが、アスランの方もこの流れに逆らうことは出来なかった。


「コロニーが崩壊します、ストライク、イージス共にロスト!」
「エンジン出力最大! 艦の姿勢保て!」
アークエンジェルもこの衝撃に耐えようと、各クルーが対応に追われていた。


300:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 23:40:39
支援

301:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 23:41:07
PHASE - 003   「これも任務だから」


「ヘリオポリス、応答ありません……!」
「入港許可は取ったはずだぞ……!?」
「機長、左舷40の方角距離3000に熱源確認。……これはザフト艦……ローラシア級、ナスカ級各一隻と思われます」
「何故ザフトがこんな所に……? ともかく、乗客にノーマルスーツを!」

ザフトがヘリオポリスへ再襲撃をかけた頃―、進路をヘリオポリスへと変更したアカネの乗るシャトルの操縦室は俄に騒がしくなっていた。

機長の指示でノーマルスーツを着用しながら、学生達は突然の進路変更に続いてまたも腑に落ちないと頭を捻っていた。
アカネにもまた目の前のコロニーの中で何が起こっているかは分かるはずもなく、ノーマルスーツを着用せよとの艦内放送に近場に設置してあった船外活動用の宇宙服を急いで着こんだ。

ヘリオポリス内はD装備のジンが連合軍の新造戦艦アークエンジェルと取り逃がした新型機動兵器ストライクの奪取及び撃破を狙って再攻撃をかけ交戦状態となっていたが、アカネ達がその事を知る術はない。
「入港準備、相対速度合わせ……!?」
「何だこれは……コロニー内に熱源? 様子がおかしいぞ」
異変を察知し、機長達は互いの顔を見合わせる。

その時だった。

不意に、ドン、と船体が絶壁にでも打ち付けられたかのように揺れた。
突然の揺れにシートベルトを締めていなかった乗客の身体は投げ出され、乗客室が悲鳴で染まる。

「ぐ……!!」
アカネも急な事態に何とか付いていこうと思考を巡らせた。
今の自分の状況。
―シャトルの外に飛ばされようとしている。
―反射的に船体の枠を掴んで耐えている。
そんな活字が浮かんだ。
「何……なの……!?」
数秒前、コロニーの方角から強い衝撃を感じた。
気付いた時には何かの破片が窓に刺さり、気圧の乱れた船内はさながら掃除機の吸いだし口状態になっていた。
宇宙用のシャトルだ。ちょっとやそっとのデブリ接触ではそうそう壊れたりはしない。
だが、今陥っている状況はその有り得ないはずの出来事だった。
最後尾の休憩室と乗客室は別区画に別れていたため学生達を巻き込まずに済んだのは幸いだったが、ぼんやりもしていられない。
いつ乗客室に被害が及ぶとも限らないからだ。
「……長、機長、乗客ブロックとの気密隔壁閉鎖を……ッ!」
着ていたノーマルスーツに附属している直通にセットしてあった通信機でアカネはコクピットにそう呼びかけた。
「何が起こっているんだ!?」
「船体の一部が破損……早く! 私は大丈夫ですから!」
両手で何とか身体を支えながらアカネは鋭く呼びかけた。
ありったけの力を込めているがそう長くは持ちそうにない。
幸い、すぐ傍にはヘリオポリスがある。
ノーマルスーツにはスラスターも付いている。
何もない宇宙空間に放り出されたのであれば死は免れないが、この場所ではそう焦ることもない。
そう、大丈夫だ。
そう確信して、アカネは震える腕からふ、と力を抜いた。
轟風のような勢いで身体が宇宙空間へと投げ出され、素早くスラスターを噴かせたまさにその瞬間だった。ヘリオポリスへと方向を定めたアカネの背が抗えない程の力で揺さぶられたのは。

302:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 23:42:08

「うわああああ!!」

悲鳴がノーマルスーツの中でこだました。
自分の声ではなかった。
洗濯機の中に投げ入れられたように身体をあちらこちらに回転させながらアカネは必死でスラスターを噴かせた。
「く……こんなものッ!」
破片という破片が容赦なく漂っていたが、なるべく身体に当てないように器用に避けていく。
剣先だと思えば、カンや本能というものが意識より先に勝手に避けてくれた。
そうしてアカネはハッと思い立つ。
「!? シャトルは……!?」
あの悲鳴は通信機を通して聞こえのだ。シャトルのコクピットからのものだ。
揺られながらシャトルを探すアカネの瞳に、戦艦クラスの大きな白い艦が映った。それもシャトルの直ぐ傍にだ。
この状況で、今更驚くことなどないと思っていたアカネの瞳孔が反射的に開いた。
「機長……!!」
接触する―!と額に汗が滲む。
事実、さっきの悲鳴は何らかの緊急事態が発生したに違いない。
「操舵……不……」
機長の声が微かに聞こえたと同時にアカネの身体は再び強い力により宙を舞った。

懸命にスラスターを用いて速度を落としたアカネの身体は人の倍ほどある残骸にぶつかり、一瞬クラッとしていたアカネの頭は何とかすぐに意識を取り戻した。

「シャトル……」
身体を安定させたアカネは周囲を見渡す。
だが、アカネの視界にスーツ越しに映ったのは無惨にも跡形もなく爆散したシャトルの残骸だった。
「なんて事を……!」
顔をしかめる間もなく周辺のデブリにぶつかりそうになり、ショックを抑えてアカネは器用にスラスターを噴かせてそれらを避けていく。
周囲を見渡せば、先程まで確かに存在していたはずのヘリオポリスさえも跡形なく消え去っており、アカネは漂うデブリの正体を悟ると背筋が凍る思いで首を振るった。
「機長……! 応答願います、機長!」
そうしながらアカネは、もはや意味はないとは悟りつつもコクピットに向かって声をかけた。
だが、当然返事が戻るわけもなく、ス、と眉をよせる。
「……接触したのか……学生達は……?」
そもそも何が起こっているのか。
目の前のヘリオポリスは突然四散。自分もこんな宇宙空間へ投げ出されてしまった。
このままでは残骸と共にデブリの仲間入りになってしまう。

303:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 23:43:06

通信回線を弄りながらアカネが呆然としていると、暫くしてジ、ジ……とどこかの雑音を拾った。

「…ラ……マト、キラ・ヤマト……無事なのか?」
「……キ……ラ?」
それは聞き取れない程乱れた音声だったが、アカネの耳にはそう聞こえた。
ぐるりと辺りを見渡すと、右斜め下―5時ほどの方角に前方へと移動するモビルスーツの姿。トリコロールの外観に頭部のツインアイが映り、一瞬言葉を失う。
「……何? ザフトのジンじゃない……」
モビルスーツは、今現在はザフトの主力兵器であり連合はそれを持ち得ない。
しかし、目に映るそれは見知ったザフトのモビルスーツのどれとも違っていた。
それ故アカネは一瞬、国際救難チャンネルを開いて救難信号を送るのを躊躇った。
どこの所属ともしれないモビルスーツに拾われるわけにはいかない。
一瞬そんなことを考えてふと気づく。
救助要請を出さねばならない事態なのだ、と。
シャトルやヘリオポリスの残骸がふよふよと視界に漂っている。あてもなく宇宙空間に投げ出されてしまっているのだと改めてハッキリと強く自覚した。
このまま空気が底を付けばどうなるか、そもそも無限の闇を漂っていつまで正気を保ち続けられるのか。
ス、と顔から血の気が引く。
刹那の恐怖。
だが孤独とはこういうものか、とどこか冷めた感情も交差する。
このままだとデブリの仲間入り―、再びそんなことを思って遠くを眺めながらアカネはゆっくりと瞼を閉じた。
広がる無音と無限の闇。
だがアカネの瞼の裏に真っ先に浮かんだのは青く煌めく地球だった。
そして、その地球上の自国から見上げる眩い月夜の情景が過ぎる。
脳裏に浮かんだ映像さえ美しい、とアカネは思った。
同時にこんな場所を未来永劫彷徨う訳にはいかないという強い意識がその奥にハッキリと芽生える。
「宇宙では……死ねない」
そう呟くと同時にアカネは救難信号を出した。
おそらくは戦闘があった後なのだ。きっと近くに誰かいる。
そういう確信はあった。


304:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 23:44:06

「おーい、ショーン。こっちに面白いモンがあるぜ!」
「何だよ、予備の装備の類があれば全部クルーゼ隊長にお持ちしろ。……ん?」
D装備のジンとは別に、モルゲンレーテの探索に出ていた二機のうちの一機、ショーンのジンはとある信号を拾った。
「これは……救難信号か?」
とっさにその信号の方へ向かう。

「艦長、ショーン機より通信です」
オペレーターの声がブリッジによく通り、アデスとクルーゼはそれに耳を傾けた。
「なに、ノーマルスーツのまま投げ出された人間を拾った? オーブ人か!?」
「いえ……それが……」
ショーンからの報告を受け、アデスは思わずクルーゼの顔を見た。
最終的な判断は、自分より隊長が下すべきだと判断したからだ。
フッ、とその仮面の下の口元で笑ってからクルーゼはショーンにこう告げた。
「放っておくわけにもいくまい。連れてきたまえ」
それに、ハッ、と返事をしてショーンからの通信は途切れる。
「隊長……」
アデスは驚きの色を顔に広げた。
てっきり捨てておけ、とでも言うと予測していたからだ。
そんなアデスの瞳にクルーゼは気づかぬふりをして、ただ口の端を上げていた。


305:通常の名無しさんの3倍
10/03/24 23:46:03
作者さん
自分のサイトで2ちゃんにアップしていることを明記したほうが
よいと思うよ
今のままでは本当に作者本人かわからない

306:通常の名無しさんの3倍
10/03/25 00:05:13
アカネの着ていた作業用のノーマルスーツではジンのコクピットに入れるのは困難で、ショーンは仕方なくジンの両手で包み込むようにして母艦へと向かった。
「……ナスカ級、ザフトの高速艦か」
アカネの瞳に段々と近づいていく空色で包まれた戦艦が映り、状況を理解しようと眉を寄せる。
「何故こんな所にザフトの艦が……」
先程シャトルを沈ませた所属不明艦を思い出し、不意に瞳が曇った。
そうこうしているしているうちに、ジンはブリッジ下部のハッチからハンガーへと帰還した。機体を安定させるとショーンはジンの腰を折ってその両手を床へと近づけ、その手を開いた。
解放されたアカネの身体がノーマルスーツごと無重力の空間に浮く。
が、救助に胸を撫で下ろす暇などアカネには与えられなかった。
解放と同時に待機していたザフト兵が一斉にアカネに銃口を向けたからだ。
流石にアカネは面食らって瞼を極限まで持ち上げた。
整備兵と思われる青年、緑の軍服に身を包んだ青年らが一様にこちらを睨み付けてくる。
仕方なしにアカネは両手を上げた。
「……救助感謝致します。でも、銃は降ろしてもらえません? 仮にも同盟国の人間相手に」
随分なご挨拶だ、との言葉は飲み込んだアカネとは裏腹に周りのザフト兵達がざわつく。
「女……!?」
「何……じゃあニホン人か!?」
「でもナチュラルだろ、コイツ」
それに今度はアカネが動揺した。
救助してくれたジンのパイロットにちゃんとニホン人だと告げたはずなのに何故情報が行っていないのか。腕を上げたまま顔をしかめる。
「おい、銃を降ろせ」
アカネと兵士達が睨み合っているとジンのコクピットからショーンが出てきた。
パイロットスーツのヘルメットを脱げば、栗色の髪が露わになってふわりと宙に浮く。
「ショーン! でもナチュラルだろ!? ニホン人ってのも怪しいもんだぜ」
「クルーゼ隊長が連れてこいとご命令だ」
ナチュラルナチュラルと連呼していたザフト兵がその一言に押し黙った。隊長命令とあらば、退くしかなかったのだろう。
アカネの目に、ゆっくりとコクピットから降下してきた自分を助けてくれたパイロットの姿が映った。
22、3歳ほどの精悍な眼差しをした整った風采の青年だった。
「救助、感謝致します」
「これも任務だから」
今度は心からそう言ったアカネにショーンは肩を竦めてみせた。

307:通常の名無しさんの3倍
10/03/25 00:08:26

ノーマルスーツを脱いだアカネを連れて、ショーンは隊長室の前に立った。
「ショーン・ブラウン、出頭致しました」
「入りたまえ」
部屋の奥から独特の抑制のない低い声が聞こえた。
アカネは少々気を張りつめさせていた。
先程ザフト兵に銃口を向けられたのは仕方ないとしても、何故救助した人間を戦艦の隊長室に呼び出す必要があるのだろう?
見られても差し障りのない場所で保護して本国へ帰すべきではないのか?
そんな風に思ったものの、一方では好都合だとも考えていた。
どちらにしろコーディネイターだらけのこの場所で、弱さや隙を見せるわけにはいかない。
自動で隊長室のドアが開き、ショーンに促されて中へと進んだアカネの目の前に執務椅子に深々と腰をかけた白い軍服の仮面の男が姿を現した。
その容貌に初対面の者が驚くのは無理からぬ事だろう。
例に漏れず小さく眉を寄せたアカネを飛び越え、仮面の男の視線はまず部下へと向けられた。
「ショーン、ご苦労だったね。君はもう下がりたまえ」
「え、ですが……」
隊長のいきなりの申し出に目を瞬かせたショーンだったが、2、3度目線だけでアカネと仮面の姿を往復させると、指示通り敬礼して隊長室を後にした。
取り残されたアカネは仮面越しにも分かる不貞不貞しそうなこの男をただジッと見ているしかなかった。
座ってはいるが長身だろうということが見て取れる。波状の金髪は肩につくギリギリの長さで、仮面に覆われていない顔半分は美しく均整が取れており、さぞや素顔も整っているのだろうと見る者の想像を掻き立てる。
が、胡散臭いことにはかわりなく、隊長室には重苦しい静寂が流れた。
先にフ、と笑みを漏らし沈黙を破ったのは仮面の男の方。
「災難だったね。私はこの艦を指揮しているラウ・ル・クルーゼ。巻き込んで済まないと思っているよ」
「ラウ……!?」
それにアカネの眉がピクリと反応した。
「何かな?」
「……グリマルディ戦線でのご活躍、ニホンにも届いています」
「ほう……君のような人が私の名をね」
クルーゼはほんの少し仮面の下で驚いたような様子を窺わせ、息を漏らした。
アカネもまた、フ、と息を漏らすと身に付けていたIDカードを取り出した。
それをクルーゼの前に差し出す。
「私はニホン自衛軍、内閣総理大臣直属特別情報工作機関所属、アカネ・アオバ特尉。グリマルディの戦いの折りには私も月基地にいましたから、あなたの名はよく覚えています」
ほう、と喉を鳴らしてクルーゼはアカネのIDカードを手に取った。
「特尉……?」
「階級は二尉と一尉の間に位置し、機関の略称は"特関"もしくは自衛軍に属しているので陸海空に倣い"特自"とも」
事務的に説明を終えて、アカネは予想外の反応に眉を寄せた。
少なからず驚かれるだろうと予測したものの、当のクルーゼはそんなそぶりを見せる事なく舐めるようにIDカードに見入っている。
「何故こんな所にニホン国の特務兵いるのかな?」
IDカードから仮面越しの目線をこちらへ向けたクルーゼに、アカネは先程より強く眉を寄せてみせた。
「それはこちらが訊きたい。何故オーブのコロニーが崩壊して、その側にザフトの艦がいたのか……!」
しかしながら質問に質問で返すのは卑怯だと思い、その一言を絞り出すとこれに至った経緯を語り始める。

308:通常の名無しさんの3倍
10/03/25 00:10:33
「私の乗ったシャトルはL3宙域見学を経てプラントへ向かう予定だった。防衛省所属アカデミーの武器科の学生の研修をプラントで行うためにね。
その途中で機体にトラブルがあったらしくて、最寄りのヘリオポリスでメンテナンスを行おうと一時進路を変えて、ヘリオポリスの崩壊と同時に出てきた戦艦と接触して沈んだわ」
「……助かったのは君だけということか」
「いくら軍属扱いだからって、まだ学生で……民間機だったのに」
爆散したシャトルを思い出して、アカネは僅かに瞳を落としたが、クルーゼは気にせず先を促すようなそぶりを見せた。
アカネが肝心の質問には答えていなかったからだろう。察してアカネはそれに応えた。
「私は休暇中で、プラントを見られる機会は滅多にないから要請を出して同行の許可を得た。IDカードは必要な事態になることを懸念して持参したまで」
そして説明を終えるとアカネは目線をクルーゼに戻した。
先程の質問の返答を今度はアカネが求めたのだ。
軍事機密、と逃げられるのを避けるための布石としてこちらの状況と身分を先に明かしたのだ。答えてもらわなくては困る。
そんなアカネを見抜いたのか、クルーゼはフフ、と笑みを漏らした。
「君はオーブをどう思う?」
またも問われて、アカネは口をへの時に曲げた。
オーブは表向きニホンとは外交上特に問題のない国だ。しかしその内情は常に諜報員が注意を払ってもいる。
が、そんなことをわざわざここで告げる必要はない。
一個人としてあの国をきな臭く思っているのは全くの私情であり、この場で話す価値もない。
その沈黙を回答と理解したのか、クルーゼはようやく話を始めた。
「ザフトの主力兵器であるモビルスーツの開発を地球連合軍が行い、それにオーブが関わっているとの情報を我々クルーゼ隊は手にした。その連合の新型モビルスーツが運び出される前に奪取するというのが我々の今回の任務だったのだ」
「……モルゲンレーテ社が連合に開発協力を?」
「そういう事だな。驚かない所をみると、そちらでも何かしらの情報をつかんでいたのかな?」
白い手袋を付けたままの指が仮面の下の口元へと添えられる。
アカネはクルーゼのその答えで、ほぼ全ての状況を理解した。
連合の軍事開発協力を極秘に行っていたヘリオポリスと、それを掴んだザフトとの戦闘が肥大してコロニーが四散したこと。
それに巻き込まれて、シャトルが沈んだこと。
惨劇の最大要因はオーブの裏切りか、と眉を顰める。
「シャトルを落としたあの白い所属不明艦は連合の新造戦艦……?」
「足つきを見たのか」
「もう一つ、トリコロールのモビルスーツを見たわ。さっきハンガーでも似たような機体を見かけだけど、あれは?」
「……恥ずかしい話だが、1機奪取に失敗したのだよ。変わりに拾ったのは君だったがね」
ククッ、と冗談なのか本気なのか分からない笑みをクルーゼが漏らすと、アカネはふっと神妙な顔つきをしてみせた。
そして淡いローズのルージュを引いていた唇をゆっくりと動かす。
「"軍事同盟条約第21条・不測の事態において、ニホン自衛軍所属軍人及びザフト軍所属軍人は互いの戦局に応じてこれに協力すべし"」
するとその言葉をまるで予測していたかのように受け止めて、クルーゼは無言で口の端を上げた。


309:通常の名無しさんの3倍
10/03/25 00:17:44
PHASE - 004   「ザフトレッド」



アカネはどうにも解せないという面もちで、拾われたザフト戦艦ナスカ級の廊下をふよふよと漂っていた。
こちらの要望は同盟軍の士官らしい扱いをしてくれという一点のみであったというのにどうも手応えが違う。


ニホン・プラント間の軍事同盟―それはもちろん双方の利害関係により成り立っているものだ。

古来、独立を保っているというのが東洋の島国、ニホンの最も誇るべき一つの奇跡であった。
無論それは語り継がれる奇跡などではなく、決して列強に屈せず本土だけは防衛するというニホン人の気概により太古から今に至っている。
そしてもう一つ、ニホンは技術大国として栄えてきた流れを今に正当に受け継いでいた。
それ故、かつての国々が次々と連邦国家となる中、一つの国家として今も世界にその名を連ねているものの中国大陸からなる東アジア共和国を始めニホンを取り込もうとする大国のもくろみは常々付きまとう。
それは開戦の兆しが強くなるに比例して激しさを増していった。
地理的に東アジア共和国の更に東、南下すれば大洋州連合という対立する勢力を抱えたニホンは選択を迫られていたのだ。

プラントの技術力―、それは技術大国ニホンにとって魅力的なものだった。
プラントにとってもまた、ニホンの独占技術は一目置く存在であった。
故に両国は国営企業の相互技術譲歩及び自衛軍の軍事派遣等の同盟を結ぶことでプラントとの関係を強め、大洋州連合が親プラント表明をしたこともあり南半球との海・空の強化を計ろうとした。
しかし、ナチュラルの援軍など必要ないとの声がザフトで小さくなかったのもまた事実。
そこで現ニホン国内閣総理大臣が発案したのが直属の情報工作機関の特務兵であった。
能力が劣るから、と言われるなら高い能力値を示せば良いのだとある特定の分野に特に秀でた人間のみを集めたのだ。
それのサンプルデータをプラントに示すことで、一応の軍事同盟締結問題は決着した。

とはいえ、開戦してからもザフトは表だって自衛軍の派遣要請をしてくることはなかった。
ニホンとしても本土や月基地の防衛に手一杯でそれを懸念する事はなかったが、アカネは常々不満を感じていた。

310:通常の名無しさんの3倍
10/03/25 00:20:35

アカネ自身、コーディネイターと全く接したことがないわけではない。
だが、プラントという国がどういうものかほとんど知らなかったのである。
任務が降りればザフトと共に戦うことに抵抗はなかったが、コーディネイターという存在に思うところは一つ二つではない。
だからこそ今回のプラント研修はまたとない機会だったというのに、プラントを知るどころか未来を担う若者を大勢失ってしまった。
おそらく本土では今この瞬間もシャトルロストで騒動になっているだろうことは想像に難しくない。
何より自分自身も死亡ないしは行方不明扱いだろう。
同盟軍の艦にいるのだから取りあえずは安心―とはいえザフト軍を心から信頼することなど今の段階では無理な相談である。
しかしながらこの艦が、あの仮面の男が自分の命を握っているというのは変えようのない事実だ。

だからこそ士官らしい処遇を、と望んだのにこの扱いは何なのだろう?
好きなようにしていろ、と軍艦だというのに軟禁されるでなく放り出されてしまった。

「……どうなってるの、ザフトって」
窓の外には相変わらずの闇が無限に広がっていて、アカネはその縁にそっと手をやった。
そもそもザフト軍という存在自体がアカネには解せない。
義勇兵からなるプラントの軍だというのは周知の事実であったが、ザフトには階級というものが存在しないのだ。
更に地上でいうところの陸海空に部隊が別れているという事もなく、全ての兵士が全ての分野をカバーする。
能力の高いコーディネイターだから出来ること、などとザフトは吹聴しているようだが一兵士としてアカネはニホン兵がザフト兵に劣っているとは思わない。
階級がないというのも指揮系統に乱れが出るというのが容易に想像でき、どうにもメリットが見いだせない。
なによりこの制度の所為でアカネ自身、対応に困っていた。
仮にも一戦艦を率いるのなら最高指揮権は一佐に準ずるであろう艦長にあるはずだが、どうもこの艦のトップはあのラウ・ル・クルーゼらしいのだ。
一佐の更に上となれば将であるが、しかしクルーゼは将官というにはあまりに若い。
仮面で素顔は隠れているとはいえ、見たところ二十代半ばといった所だ―などとこちらの概念で考えた所で、基本は皆同格なのだ。
故にクルーゼに対し上官対応で接しようとするも、同格が前提にあるため調子が狂ってしまう。
かといって妙に下手に出て、更にニホン人を舐められてはこちらの威信にも関わる。
どちらにせよ早々に本国と連絡をつけて欲しいところであったが、あの仮面の心次第という状況はどうあっても変わらず―アカネは納得のいかないままにクルーゼの意向に添う事にした。

311:通常の名無しさんの3倍
10/03/25 00:22:04
そもそも私用での航宙だったため未だに私服を着ているのが戦艦にはどうにも不似合いで滑稽だ。
ため息混じりでそんな事を思いながら、アカネは壁を一押しして身体を前方へと進ませた。
どうにも身体がふわふわ浮くというのは好きになれないというのに、もうずっとこの無重力空間に浮いたままだったのだ。
この身に少しでも重力を感じたかった。
聞けば突き当たりのエレベーターを降りれば重力区画だと言う。
身体の重さを感じて少し冷静になるべきだと判断し、アカネはそこへ向かうべくエレベーターに乗った。
下の階に着いて扉が開くと、前方に重力区画の注意を促すマークが見えた。
本物と比べればやはり軽い。
が、重力区画に足を踏み入れて床に足を付け、アカネはホッと息を吐いた。
と、同時に急に胸が騒ぐ。
感じた重力の分だけ今まで覚えていなかった"不安"という言葉がこみ上げてきたのだ。
それはたった一人でコーディネイターの艦にいるという現実からか、シャトル爆発のショックなのか明確な理由は分からない。
ク、と軽く唇を噛んで右手で胸元をギュッと掴み軽くかぶりを振ってから、一歩一歩と踏みしめるように歩く。
すぐ傍に見える休憩室の一角とおぼしき場所まで歩き、何気なく中を覗いたアカネはつい今感じた不安を吹き飛ばす程の懐かしさと驚きに思わず声をあげた。

「囲碁……!?」

その突然の声に、休憩室で盤を挟んでいた少年二人と、それを見守っていた少年が一斉にアカネの方を向いた。
少年の一人がアカネの姿を見てヒュウ、と口笛を鳴らした。
「なんだ貴様……!?」
すぐさま碁石らしきものを持っていた銀髪の少年が金切り声を上げたが、さして気にする様子もなくアカネは誰とはなしに声をかけてみた。
「へぇ、プラントにも囲碁ってあるのね」
囲碁とはニホンで盛んに行われている盤上ゲームである。
同盟国のゲームとしてここにあっても別段不思議ではないのだが、いわゆるナチュラルのオモチャでもあるため少々意外だったのだ。
それに、なによりアカネには懐かしかった。

312:通常の名無しさんの3倍
10/03/25 00:24:06
「なーに、私服なんか着ちゃって職務放棄?」
アカネをこの艦の軍人と勘違いでもしたのか口笛を鳴らしたノリそのままに軽い口調で、銀髪の少年と碁を打っていた金髪に浅黒い肌をした少年がアカネに視線を流してきた。
「あ……いや、私は―」
問われて説明しようとしたアカネはギョっとする。
見るからに三人とも十代中盤といった少年然としていたからだ。
「……なんでこんな所に子供がいるの……?」
「な、何だと貴様! この俺を愚弄するか!!」
「ッおい、イザーク!」
驚いた面もちでそんな事を漏らしたアカネに掴みかかろうとした少年を金髪の少年が肩を掴んで止めた。
その間に、先程イザークという少年達が碁を打つ様を見ていた一番年少と思われる少年が立ち上がって冷静にこう言い下した。
「あの、失礼ですけどここはパイロット用の休憩室なんですよ」
その少年の自然では有り得ないような新緑を思わせる髪の色にアカネの瞳が僅かに開く。
コーディネイターなのだ、と一目で分かるほど特徴的であった。
「……あ、ごめんなさい。ラウ・ル・クルーゼ隊長が好きにしてろって……え、パイロット!?」
君たちが?と更に瞳孔を開いたアカネに、目の前の少年はごく自然に頷く。
「……こんな子供をモビルスーツに乗せるなんて……」
即答されて、アカネは反射的にボソリと少年から目線を外して呟いた。
「ザフト、相当ヤバいんじゃないの」
そういえばこの少年達ほどではないにしろ先程ハンガーで銃を向けてきた兵士達も総じて若かったような気がする、などと思案していると先程のイザークという少年がアカネの腕を強く掴んできた。
「貴様何者だ!? ザフト兵じゃないなら何故ここにいる!」
頭に血が昇りやすい性格なのだろう。
だがアカネにしてもいきなり腕を掴まれて気分を害さない訳もなく、イザークの腕を振り払いながら自分はニホン人だということを口調を強めて伝えた。
イザークの瞳は分かりやすいほどに開き、若草色の髪の少年はあ、と声を漏らした。
「先程ショーンが救助したという方ですか?」
「……ええ」
イザークとは違って、落ち着いた様子の少年にアカネは幾分ホッとしたように首を縦に振るう。
しかし、まだ納まらないと言った具合にイザークはまくし立ててきた。
「何がニホン人だ、ナチュラルが俺たちと同じ艦に乗ってるだけで虫酸が走るんだよ!」
叫びながら力任せに台を殴り、先程まで打っていた棋譜はバラバラに崩れてしまった。
「ナチュラルでも、ニホンはプラントと同盟を―」
「ナチュラルの役立たずなどザフトには必要ない!」
言い返せばそんな風に一蹴されて、アカネはこの艦に降りた時に銃口を向けてきた兵士達の視線を思い出した。
侮蔑と憎悪の眼差し。
同盟国の人間を同盟国人だとも思っていないような風潮はやはりここにはあるのだ。
そう感じつつも、自分を睨み付けてくる少年の姿を見ながらアカネはやはりこの子もコーディネイターなのだと今更なことを考えた。
プラチナブロンドの髪。綺麗に切り揃えられたオカッパともとれる髪型は奇抜だったものの、透けるような肌に切れ長の目。縁取る長い睫の奥の瞳は吸い込まれそうな深い蒼を宿した、恐ろしいほどに整った顔をしていたからだ。
「あーもー、隊長がいいって言ってんなら仕方ねーじゃん。ホラ、行こうぜ」
イザークを見かねたように、金髪の少年が間の抜けた声を出してイザークの背中を叩いた。
そしてそのまま休憩室の外へと向かう。
イザークは最後まで目線でアカネを睨み付けると、プイと顔を逸らして後を追うようにその場を去っていった。
アカネはというと、嵐が去ったというような面もちでイザークの出ていった休憩室の入り口を気が抜けたように見つめていた。
そしてヤレヤレと頭に手をやると、クルリと後ろを向いてバラバラになってしまった碁石を手に取る。

313:通常の名無しさんの3倍
10/03/25 00:25:50
「あーあ、折角の棋譜が……」
そのアカネの呟きに、同じくイザークの言動にあっけにとられていたらしき緑の髪をした少年がハッとしてそれの片づけを手伝い始めた。
「済みません、不快な思いをさせてしまって……」
イザークの非礼を詫びて神妙な顔つきをする少年にアカネが「君が謝ることではない」と苦笑いを漏らす。
「でも……同盟国の人間なのに、随分嫌われちゃってるのね」
「そ、そんなことはありません! 僕は……とても頼もしい同盟国だと思っています」
苦笑いに混じってほんの少し落胆したようにアカネが呟くと、少年は急いでそう取り繕ってみせた。
アカネがキョトンと少年の瞳を見返すと、少年はほんの少し頬を染めて目線を下に流す。
「……僕たち、プラントで育ちましたからナチュラルと接したことなくて、それできっとイザークもあんな態度を」
「え、それじゃ……ナチュラルに会ったことは……」
「ええ、初めてです」
アカネは少年の言葉に軽い衝撃を覚えた。
地球にいれば双方接する機会は少なくないが、プラント生まれの若い世代はナチュラルに接する機会などなくて当然なのだ。
コーディネイターだけの環境でナチュラルに接する機会もなく育てば、ああも一方的にナチュラルに対して好意的とはいえない感情を抱いても致し方ないのかもしれない。
イザークに接して改めてその事を実感したアカネだったが、少なくともこの目の前の少年はそういう感情を含んでいないように思えた。

アカネはそれから少年と話をした。
プラントへ向かう途中、シャトルが連合の新造戦艦との接触で沈んでしまったこと。
D装備のジンと連合軍との戦闘でヘリオポリスが崩壊してしまった事に心を痛めていた少年はシャトル沈没に驚き、何度も頭を下げてアカネを困惑させたりもした。
ともあれ、やっと張りつめていた肩の力をほんの少し抜くことが出来るほど、このコーディネイターの少年が心根の優しい人間だということはアカネには良く分かった。

あ、とアカネは思い出したように口を開いた。
「君、名前は? 私は青……いや、 アカネ・アオバ。ごめんね、言うの忘れちゃってて」
アカネが頬を緩めると少年もあ、とそれに続く。
「ニコル・アマルフィです。こちらこそ失礼しました」
「……アマルフィ……?」
それに若干表情を緩めていたアカネの顔が俄に引きつった。
そのファミリーネームには確かに覚えがあったのだ。
「まさか、プラント最高評議会議員の……」
表情の凍ったアカネとは裏腹にニコルはハイ、とごく自然にその後を繋いだ。
「ユーリ・アマルフィは父です」
「え……ええっ!?」
ガタン、と衝撃を抑えきれずにアカネは腰を下ろしていた平面のソファから勢いよく立ち上がった。

プラント最高評議会。
それはプラントの最高意思決定機関であり、ニホンでいうところの内閣である。
プラント12の市からそれぞれ選ばれ、いずれも何らかの分野の権威であることが多い。
事実ユーリ・アマルフィはロボット工学の権威であり、最高評議会議員兼国防委員でもあり、モビルスーツ開発の最高責任者だった。
評議会内では冷静な中立派と知られており、なるほどこの少年のナチュラルへの偏見のなさは父親による所が大きいのか、などと頭の隅で考えもしたアカネだったが、しばらくは立ち上がったまま虚空を眺めていた。
想像しがたい事だ。
よりにもよってわざわざ議員の子息の、まだこんな少年をこんな前線へ出すなどと。

314:通常の名無しさんの3倍
10/03/25 00:29:29

暫くしてニコルと別れた後も、アカネは頭を抱えていた。
ニコル達に触れてほんの少しザフトがどういうものか分かったような気がしたが、実際は疑念が深まっただけであった。
そもそもあんな年少の、しかも議員の息子まで投入しなければならないほど戦況が厳しいのなら何故自衛軍に援護を要請しないのか。
まさか上層部までがイザークのようにナチュラルの力など要らぬと考えているのか?
そんなことを思いながらアカネが隊長室へ戻ると、相も変わらずクルーゼは中央の隊長席に深々と腰を下ろしていた。
「少しは気が晴れたかね?」
「……訊きたいことがあるんだけど」
意味深なクルーゼの物言いは今は深く考えない事にして、アカネは先程の疑問を率直にクルーゼに訊いてみた。
「赤い軍服を着てた……あのニコルって子、アマルフィ議員のご子息なんですってね」
「……ああ、ニコル達は今ヴェサリウスにいるのだったな」
ヴェサリウスとはこのナスカ級の名前であった。
本来はヴェサリウスの僚艦であるローラシア級・ガモフの方に乗艦しているとは先程ニコルに聞いていたためクルーゼの言葉をサラリと流してアカネは更に詰め寄った。
「おまけにモビルスーツのパイロットだなんて。広告塔? にしてもこんな前線に出すなんてどういう事なの? 戦局は拮抗していると聞いていたのに……」
「君が会ったのはニコルだけか?」
「……いや、銀髪の……イザークって子と、金髪の背の高い子にも会ったわ。三人とも見たこともない赤い軍服着てたけど、ザフトに階級はないはずよね、少年用?」
そこまでアカネが言えば、クルーゼは隊長席から腰を浮かせて立ち上がるとアカネに背を向けた。
「イザークもディアッカもニコルと同じく評議会議員のご子息だよ。エザリア・ジュール議員とタッド・エルスマン議員といえば分かるかな?」
フ、と不適な笑みが背中越しに伝わり、アカネはニコルからそれを聞いたときと同じように眼を極限まで丸めた。
「……そういえば、そっくりね、あのイザークって子とジュール議員」
浮かんだ二人の議員と先程の少年達を重ね、虚をつかれたようなアカネの口から絞り出されたのはそんな一言だった。
もっとも、容姿が似ている、という意味でそう言ったアカネだったが、エザリアは反ナチュラルのタカ派最右翼として知られていた。
先程のイザークの態度を見るに母親の影響を多分に受けている事は想像に難しくない。
タッドもタカ派寄りの議員のため、あのディアッカという少年もおそらくそうなのだろうと何とはなしに思う。
「じゃあ、あの赤軍服はVIP専用なのね……」
ハハ、と乾いた笑みと共に軽く目眩のする頭を押さえていると、クルーゼは何やら緑色のザフト軍標準軍服を取りだし、アカネの前のデスクの上にそれを置いた。
「ザフトレッド……あれはアカデミーの成績トップ10のエースにのみ着用を許された軍服なのだよ」
「え……?」
「もっとも、その制度が出来たのは開戦後でニコル達がその一期生だがね」
そんな話をしながら目の前には普通の緑の軍服を置かれ、アカネはふいに眉を寄せた。
階級はないと定めておきながら、実質そんなもので色分けしているとは釈然としないものがあったからである。
「……お坊ちゃまを広告塔に据えるだけじゃなくそんなご褒美まで用意するなんて、よほどプラントの状況は芳しくないようね」
「有能な者に相応のものを与えているだけだよ。地位と権力のある者の子が結果的に優秀になる……簡単な図式だと私は思うがね」
含みを込めた物言いに、アカネはクッと喉を鳴らした。
彼らはコーディネイターなのだ。
確かに相応の権力や富があれば、より高度なコーディネイトを子供に施すことが可能であろう。
暗にそれへの賛辞とも憎悪とも取れるようなクルーゼの言い回しをアカネは敏感に察知したが、それに今は気付かないふりをした。
話を逸らそうと目の前に置かれた軍服を手に取る。タイトスカートの軍服。女性用だ。
「……この軍服は?」
「今のその格好では目立つだろう? 赤でなくて悪いが、君に合うような予備はなくてね」
言われるまでもなく戦艦でジーンズにカットソーではアカネ自身も不味いとは思っていた。
今後それを着ろと言われたようなもので、アカネは手に取った軍服をキュッと強く握りしめる。

315:通常の名無しさんの3倍
10/03/25 00:32:03
「別に……色なんてどうでも―」
「そうはいかんよ。君は特務部隊に所属する同盟軍のエリート士官なのだからね」
クルーゼの分かりやすい皮肉の籠もった声にアカネの眉が微かに撓った。
「特務兵ってのはただの雑用係よ。我が国のエリートというのはアカデミー卒業後海上自衛軍士官に―」
明らかにそれを知って言ったクルーゼの物言い。分かってはいてもムキになって答えてしまったアカネだったが、それすら予測していたらしきクルーゼがククッと喉を鳴らし、決まり悪さにそこで言葉を切った。
クルーゼの方はお構いなしに話を続ける。
「確かにニコル達がプラント市民の戦意昂揚の一翼を担っている部分があるのは否めんよ。だが……広告塔という意味では、君はどうなのかね、アオバ特尉?」
ピクリ、とアカネの指が反応する。
軍服を握りしめてクルーゼを見上げると、クルーゼは面白そうに口の端をあげていた。
「先程君を見つけた時、ショーン達はもう一つ面白いものを拾ってきてね……」
「面白いもの?」
「これを見たまえ」
言ってクルーゼはデスクの上のモニターにある図面を映し出させた。
「これは……モビルスーツのデータ?」
そこにはザフトの主力モビルスーツ・ジンとは明らかに開発系統が異なるモビルスーツが描き出されていて、アカネは興味深そうにそれに見入った。
「ヘリオポリスの残骸から発見された物だよ。奪取した連合のモビルスーツに似てはいるが違う点が多々ある。……大きな特徴の一つは、より操作面にアナログな技術を取り入れた事だ」
「……それで?」
「シャトル沈没……君とてあの新造戦艦が憎いだろう?」
頭上から相変わらずの含みを込めた物言いが耳に届く。
だがアカネは今度はモニターからすぐさま目線を外してクルーゼを凝視した。

微かに、仮面の下の隠された瞳が鋭く光ったように思えた。



――to be continued...   

316:通常の名無しさんの3倍
10/03/25 00:36:32
投下乙。
ここまでは楽しく読めたよ。
次も楽しみにしてる。

317:通常の名無しさんの3倍
10/03/25 21:10:39
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
189 :通常の名無しさんの3倍 [sage] :2010/03/25(木) 16:58:43 ID:???
不可能を可能に~といって死亡させるのはさすがに考えてたんじゃないか?
言いたいことは沢山あるが、折角死に華を咲かせたんだからそのまま殺しておけば良かったのに
無茶な状態から復活させるからアレ?って思うわけで…
そして更に言うとネオというキャラがムゥ以上に斜め下すぎるキャラだったのが余計にややこしくさせる

195 :通常の名無しさんの3倍 [age] :2010/03/25(木) 18:35:12 ID:???
そうは言うけど、じゃあネオのポジションとして相応しいキャラクターって
他に居たのか? ってのがさ……別に前作のキャラクターをネオ役にしろとは言わないけど。

198 :通常の名無しさんの3倍 [sage] :2010/03/25(木) 18:54:45 ID:???
ネオという新しいキャラでいいだろ、普通に

202 :通常の名無しさんの3倍 [sage] :2010/03/25(木) 19:34:46 ID:???
>新しいキャラ
その場合は素性と役職をどうするんだ? って問題がね……
パイロットで無きゃ余り話にも絡めないだろうに、と。
まあエウレカセブンのドミニクみたいなヤツにすれば未だいいと思うんだが。

203 :通常の名無しさんの3倍 [sage] :2010/03/25(木) 19:41:17 ID:???
強化人間三人を率いる特殊部隊の隊長兼エースパイロット
で、新キャラとしては十分な肩書きじゃないか
シンがステラを返すってイベントがあるからシンとも絡めるし
若いパイロットに情が移っても、任務に使わなきゃいけない葛藤とか描けば
最後死ぬとしても良いキャラになれるんじゃ、どうかね
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
この辺りの題材で誰かSSやって戴けませんか? 「もしネオ≠ムウだったら……」

318:通常の名無しさんの3倍
10/03/25 21:27:49
自分で書け

319:通常の名無しさんの3倍
10/03/25 23:29:59
>>279
ステラ「もう良いの? シン……」
シン「ああ。行こう、共に――」

320: ◆vVIrExpeHunv
10/03/26 00:17:07
必要あるか分からんが一応トリップ付けておく。

>>315の続き。

321: ◆vVIrExpeHunv
10/03/26 00:19:48
PHASE - 005   「ガンダム……?」



クルーゼへの疑念はアカネの中で益々深まっていた。
人手が足りないからモビルスーツに乗ってくれと正式な要請があれば、それに応じることは別に構わない。
が、まずは本国と連絡を取り評議会からも承認を得ることが先だ。

『シャトル沈没……君とてあの新造戦艦が憎いだろう?』

そういったクルーゼの意図はアカネにはすぐ読めた。
最初から知っていたのか調べたのか、先程の物言いからクルーゼが自分の個人データを把握していることもすぐに分かった。

―君は現時点では死んでいるのだよ。

本国及び評議会に話を通してくれ、と言えばはぐらかされた末にそう突きつけられたアカネはいよいよ頭を抱えた。
あの男はあの仮面の下で一体何を考えているのか。
プラントからはネビュラ勲章を授与されるほどのエースパイロットだ、とその噂は聞き及んでいたがどうにも胡散臭い。そもそもあの仮面が更にそれに華を添えている。
そうは思うものの、このままシャトル沈没の真相を本国に伝えられずに死んだ事にされるわけにもいかない。
だが自分を死亡扱いするメリットなどプラントにあるのだろうか?
いや、普通ならばないだろう。プラントとしても、シャトル沈没は重要事件のはずだ。なぜなら今回の騒動についてオーブに対し連合への兵器開発協力を責めた所で、中立の民間コロニーを破壊してしまった点の責任を逆に攻められるのがオチだからだ。
どう取り繕ってもコロニー破壊をチャラに出来るほどの言い訳をプラントは持ってはいまい。
その際に活きてくるの今回の同盟国の民間シャトル沈没だ。
事故とはいえ、このカードをみすみす逃す手はないことはプラントも良く分かっているだろう。
故に、例え自分が死んだ事にされたとしてもニホンにシャトル沈没の事実が知らされない訳がない―という確信はある。
大勢の青年達の死をも外交カードに使われる。何ともいやな話だ。
だが全てを無かったことにされるよりはずっといい―などと考えたところで、現時点ではあの仮面男の心次第なのは揺るがぬ事実。

「……これが、ニホンのためになるのなら」
そんな事を思いながらアカネは胸に手をあて、懐かしいニホン国旗を脳裏に浮かべるとハンガーへと向かった。
時折擦れ違うザフト兵に眉を顰められるのがたまらない。
ナチュラルへの侮蔑ではなく、ひょっとしたら見慣れぬ顔だと思っているだけなのかもしれない。が、気分のいいものではない。加えていくら同盟軍とはいえ他国の軍服に袖を通しているのも抵抗がある。
ハンガーに顔を出すとやはり整備兵達が忙しなく作業にあたっており、こういう風景はどこの軍でも変わらないものだと少々安堵してアカネはふわりと無重力空間に身を投げ出すと収めてあるモビルスーツ群を一望した。
奪取してきたと思しき機体が4機。そして今、整備兵が作業にあたっているフレームが白と紫で彩られた機体が目に映った。
「あれか……」
一旦身体を沈めて勢いよく床を蹴り、そのモビルスーツの元へと向かう。

322: ◆vVIrExpeHunv
10/03/26 00:21:37

クルーゼ曰く、ショーン達が見つけてきた機体は連合用のものとは少し開発経路が違うらしい。
技術の盗用が確認されたためおそらく連合に譲与する物とは別にオーが自国用に開発中だった機体だろうという推測だった。
何より違うのはハード・ソフト共に複雑かつデフォルト状態では使い物にならなかったらしい連合用の機体とは違い、より扱いやすいよう特化されているという点だ。

思えばモビルスーツの操縦シミュレーションはいつも平均値ギリギリだった、と顔を引きつらせて思い返しながらアカネが機体の傍に行くと、コクピット付近で整備にあたっていた一人の整備兵がアカネの方を向いてきた。
目があったアカネは声をかけてみる。
「その機体、見せてもらえる?」
「お前……ショーンの連れてきたナチュラルか!?」
見覚えがあると言った具合に整備兵は表情を歪め、ここにアカネが来た時さながらに強い視線を投げつけてきた。
「そうだけど……」
そのあまりの態度に、仮にも士官に向かってメカニックが、とピクリと眉を動かしたアカネだったがここは階級の概念のないザフトなのだと直ぐに切り替える。しかし、相手は収まらない。
「何故ナチュラルがその軍服を着ている!」
顔を合わせるザフト兵全部がこんな調子じゃ会話をするのも一苦労だ。構わず押し切ることにした。
「コクピットを見たいんだけど、良いかな?」
「ちょ……っ待て!」
そして返事を待たずにコクピットを開けてみる。
「おい、降りろ!」
が、しつこく怒鳴り続けられるのもうんざりなため、アカネはこう言ってみた。
「クルーゼ隊長に許可は得てるんだけど。軍服もクルーゼ隊長の指示で着てるだけよ」
クルーゼ、という一言が効いたのか整備兵はグッと喉を詰まらせる。
今すぐクルーゼ本人が艦内放送で自分が同盟国軍人として乗艦していることを伝えれば状況はマシになるのではないか? 押し黙った整備兵を見ながらそんな思いにかられつつ、アカネはOSを起動させる。
ちょいと画面を動かしてみてアカネが率直に思ったことは、マズイ、ということだった。
こちらにガンをとばしている整備兵に目線を投げてみる。
「これ……動かせるの?」
「まだ調整中だ! ナチュラルのバカどもが作ったOSなんざ使えるわけがねーだろ」
冷や汗を浮かべて整備兵に訊いてみればそんな返事が来て、アカネは落胆の溜め息を吐くともう一度重ねて訊いてみた。
「ひょっとして他の機体のOSもこんな感じ?」
「あれらは全てパイロット自らOSの書き換えをして調整が済んでいる。ま、ナチュラルにゃ理解できないだろうがな」
フン、と腕を組んた整備兵は明らかにこちらを軽視した目線を送っており、アカネは肩を落とした。
理解以前に、OSの書き換えなど出来るはずもない。
ナチュラルだから出来ないのではなく、自分の専門ではないからだ。
しかし反論した所で暖簾に腕押しだろう。眼前の彼と口論を繰り広げるよりは調整されたOSとやらの方に興味がある。見てみようと思い立って、アカネはコクピットを出る。
「あっちに置いてある機体、見てもいい?」
「あ……おい!」
言うが早いか機体の壁を蹴り、すぐ傍のモビルスーツへと向った。
慌てて整備兵が後を追ってきたがいちいち気にしてはいられない。
コクピットに乗り込み、OSを起動させると先程の機体と全く同じ画面が現れた。
そこに浮かんだ文字をアカネは小さく口にした。
「ガンダム……?」
縦に並んでいた「GUNDAM」の文字。
ニホンの縦書きに慣れていたアカネはつい習慣で縦に読んでしまったのだ。
「そういえばさっきの機体にも確か"GUNDAM"って縦に並んでたような……OSの名前?」
さしずめこのOS搭載機のコードネームは"ガンダム"とでもするか、と思いつつアカネは画面を操作した。
すると機体の型式番号と名称が表示され、小さく読み上げる。

323: ◆vVIrExpeHunv
10/03/26 00:22:59
「GAT-X207・BLITZ……ブリッツね」
更にはスペックが表示され、アカネは一つ一つ確認するように声に出して読んだ。
「武装は50mm高エネルギーレーザーライフル、ビームサーベル……装甲はフェイズシフト……」
機体内容の確認もそこそこに、ピ、ピ、とマニュアル通りコントロールしていったアカネだったが、数分とたたない内に軽く青ざめてコクピットから顔を出した。
あんなものの操作が出来るわけがない、と悟ったのだ。
複雑な操作機構に加え、およそ常人の考えの及ばないほどの情報処理能力を必要とする事は理解できた。
これを操作しろというのは、戦場で的になれと言われているに等しかった。
ザフトに奪取されず無事連合にこの"ガンダム"が渡っていても、おそらく誰も使えなかったのではないかと思う。
果たしてOS調節したためにコーディネイターしか使えないようなOSになってしまったのか。
元からそういう構造なのか。
それは定かではなかったが、先程自分が確認した白と紫のガンダムは明らかにOSの調整不足であり弄らないことには動かせない。
かといってこのブリッツのように複雑にされては自分が乗ることはできない。
予備のパイロットを早く連れてくれば良いのに―と尻目でチカチカ光るモニターを睨みながら思う。
が、ニコル達のような少年を借り出さねばならないザフトの状況を思うとそうも言ってられないのか、と額を押さえて一つため息を吐くと、付いてきていた先程の整備兵に声をかけた。
「……あなた、OSの調整できる?」
訊くまでもなくそれがメカニックの仕事だろう。などと思わないでもないアカネだったが、この整備兵が自分の搭乗予定機の担当ならばなるべく仲良くしておきたいため余計な事は口にしない。
「それがどうした?」
「あれに、私が乗れるよう調節を頼みたいんだけど」
「ハァ……!? 誰が乗るって?」
「だから、私」
一瞬素っ頓狂な声を出した後、整備兵は有り得ないとでも言いたげにケラケラと笑い始めた。
「何でナチュラルなんぞをモビルスーツに……!」
明らかに目の前でバカにされている事実はともかくも、アカネ自身も自分が何故モビルスーツ乗らなければならないのだ、と思うところは皮肉にも同じだ。
しかし他にパイロットがいないのなら致し方ない。
何よりこの艦の責任者の指示なのだからどうしようもない。
少しの間笑い声とともに目の前の青年の油で汚れた作業着が揺れるのを眺めていたアカネだったが、全く取り合おうとしない整備兵に痺れを切らせてついに軍服のポケットから持参していたIDカードを取り出した。
「私はニホン自衛軍のアカネ・アオバ特尉」
そういってIDカードを突きつければ、流石の整備兵も笑い声を収める。
「クルーゼ隊長からあの機体を乗れるよう調整しておくようにと指示を受けたから頼みたいの。あなた、あれの担当なんでしょ?」
そして、アカネの声を耳に聞き入れながら整備兵は徐々にその顔に驚きと怒りとも取れる色を浮かべた。
「じょ、冗談じゃねえ! 何で俺がナチュラルのためにそんなことを―」
「ナチュラルでも私は同盟軍の士官なんだけどね」
やれやれ、とアカネは息を吐いた。
コーディネイターとはまともに会話も出来ない人種なのか。
二言目にはナチュラルナチュラル。
目の前で息巻く整備兵に半ばうんざりしかけていたアカネを助けたのは不意に二人に割って入った声だった。
「何やってるんですか!?」
聞き覚えのある声だ。
アカネが振り返ると、赤服に鮮やかな緑色の髪をふわふわ浮かせた少年がこちらに向かって浮いてくるのが見えた。
「……ニコル君」
そしてアカネ達が言い合いをしていた傍の機体―ブリッツに手をついて身体を止めると彼は怪訝そうに眉を歪める。

当然ザフト軍服を着ていたアカネを訝しがったため、アカネはニコルにクルーゼからの指示を一通り説明した。

324: ◆vVIrExpeHunv
10/03/26 00:24:19
「じゃあ、僕があの機体の調整をしますよ」
そうして整備兵と揉めていることを知ると、ニコルは代わりに自分がそれを手伝うとアカネに提案した。
「でも……」
「なっ、コイツはナチュラルですよ!?」
すぐさま反発した整備兵だったが、一瞬キッとニコルが睨み返すとグッと声を詰まらせたように彼は押し黙ってしまった。
微かに目を見張ったアカネは息を呑んだ。意外と気の強い子なのだな、と感じたからだ。
やはり階級がないとは言え赤服の方が格上の扱いを受けているのか、それとも議員の子息だから逆らえないのかと色々な邪推をするも、ここでニコルの好意を受けてしまうのは気が引けた。
ニコルはニコルで自分の機体をチェックしに来たのだろうし、何よりこんな事でニコルと整備兵を仲違いさせるわけにもいかないからだ。
「ありがとうニコル君。でも……私はあなたにお願いしたいの」
そう言って整備兵の方を向いたアカネに、「え……?」とニコルと整備兵の声が重なる。
「な、何だよ、やるっつってんだからニコルにやってもらえば良いだろ。ヘッ、良かったじゃねーか、俺よりずっと優秀だぜ?」
フン、と先程と同じように腕を組んでそっぽを向いた整備兵だが、動揺を見せつつもニコルへの劣等感とも思われる感情を吐き捨てた。
アカネは彼の様子にコーディネイター特有の差異の感情らしきものを感じ取ったが、素知らぬ振りをしてふわりと体重移動をさせるとそっぽを向いた整備兵を正面から見つめ直した。
「何だよ!」
「あなたがいい。だって、パイロットは自分の命を機体に預けてるけど、同時にメカニックにも預けてるもの」
その言葉に整備兵も、傍にいたニコルもハッと顔をあげる。
「あなたの腕と、あなたの整備した機体に自信を持ってこの艦を護りたい。だからヴェサリウスのためにも……お願い」
パイロットと整備兵の信頼関係。そんなものは万国共通だと思っているアカネがこの整備兵との関係をちゃんとしておきたいと思うのはごく自然の感情であった。
だが、ある種万能型であるコーディネイターにとってはパイロット自ら整備を完璧にこなせる能力を有している場合がほとんどなのだ。アカネの言葉は酷く新鮮に響いたのだろう。
「俺に命を預ける……?」
瞳をパチクリさせる整備兵にアカネがコクリと頷く。
「……おかしな女だ」
「デューイ!」
ボソッと毒づいた整備兵をニコルが制する。
それに対してデューイと呼ばれた整備兵はかったるそうにガシガシと頭を掻いた。
整備兵に命を預ける。
そう言われたのも確かに新鮮だったのだろう。ニコルは赤服を纏うザフトのエースだ。その彼が整備してやると言っているのにわざわざ自分の方が良いと言われた。こそばゆい感情が入り交じっていたのかもしれない。―そんな自分に驚いたようにデューイはチッと舌打ちをする。
「……俺はナチュラルなんて認めない。ヴェサリウスのためだ」
そうして言い終わる前にブリッツの太もも辺りを蹴ると、先程の調整不足の機体の方へと向かった。

デューイのそんな行動にアカネとニコルはどちらともなく互いの顔を見合わせる。ふふ、微笑み合ってからアカネはデューイの背を追った。


325: ◆vVIrExpeHunv
10/03/26 00:27:16

OS調整も終わったかという頃、アスラン・ザラは呼び出しを受けていた隊長室から出て晴れない面もちでヴェサリウスの廊下を自室に向かって進んでいた。
ヘリオポリスへ再出撃した際、ストライクのパイロットが幼年学校時代からの親友であるキラ・ヤマトだと判明したものの、クルーゼにその事を報告すべきかアスランは迷っていた。
が、行動に迷いがあるのを鋭く見抜いたクルーゼに出頭を命じられ、結局はそれを告げる事となり、いま報告を済ませたばかりなのだ。
確認してもなお信じられない心持ちだったというのに、クルーゼに報告したことでキラが敵軍のモビルスーツに乗っていることを再認識させられたアスランは酷く胸が痛んでいた。
キラが敵軍のモビルスーツ―ストライクに乗っているということは、もし、また戦闘となってストライクが出撃してくれば必然的にキラと戦わなければならないことになるからだ。

「キラ……」

廊下の小さな物見窓の所で足を止めて、アスランは無意識にキラの名前を呟いていた。
「キラ?」
するとそれを鸚鵡返しする声が背後から聞こえて、ハッと後ろを振り返る。
振り返ったアスランの瞳には、確かにザフトの軍服を着てはいたが見慣れぬ顔立ちをした黒髪の女性が顔を顰めている姿が映った。
「……あの?」
「あ……いや、あの乱れた回線から……キラ・ヤマトって……」
「キラ・ヤマト!?」
自分へというよりは、何か思い返すようにして額に手を当てて呟いたその女性に向かってアスランは思わず声を上げた。
「キラを知っているのか!?」
掴みかかりそうなほどの勢いに女性が少々慄く。
そして、あ、と唇が無言で動いたかと思うと、女性の髪の色と同じ漆黒の瞳は、まさか、というような色を覗かせた。
「……その名前、オーブ人?」
ニホン人と似たような名前だから何となく耳に残っていたけど、と呟きながら女性がきつく眉を寄せる。
「あの時、私が見たのはトリコロールのモビルスーツだった。あれは連合の物よね? 何故オーブ人があれに乗ってるか知らないけど、何故ザフトの軍人がそれを知っている!?」
逆にそう詰め寄られて今度はアスランが慄いた。
冷静に状況を見ればこの女性がザフト軍人でないことは明らかであったが、意識がキラに支配されていてそこまで考えが及ばない。
チッ、と舌打ちをして女性の肩を振り払ったと同時に廊下の壁を蹴り、勢いよくその場を離脱する。

「あ、ちょっと……!」

残された女性―アカネはあっけに取られて10秒ほどその場に立ちつくした。
パクパクと開いた口が塞がらない。
「……なに、あの子」
見たところ赤服を着ていたためニコル達と同じアカデミー好成績のルーキーなのだろうが、ともかく今の出来事を放ってはおけない。そう判断したアカネは今ちょうど向かう所だった隊長室へ急いだ。

326: ◆vVIrExpeHunv
10/03/26 00:29:10
「おや、機体の調整は終わったのかね?」
隊長室のドアが開き、アカネの姿が見えるなりクルーゼはそう声をかけてきた。
「あの青い髪した赤服の子、この艦の軍人?」
アカネはというと、開口一番にクルーゼにさっきの少年の事を詰め寄った。
赤服の青い髪、ということでクルーゼが直ぐにああと頷く。
「アスランのことか、彼が何か?」
「……いや」
よもやスパイか、と思ったアカネだったが流石にそれをハッキリ口に出すのは憚れる。
少年のあの態度から何か事情があるのだろうとは察したが、それはそれとして伝えておく義務はあるだろうとスッと息を吸い込む。
「私、ショーンのジンに救助される前に回線を開こうとしてたらある雑音を拾ったの……"キラ・ヤマト無事なのか?"って女の人の声。聞き取り難かったけどそう聞こえた。多分私が見たトリコロールのモビルスーツのパイロットの事だと思う。でもあのアスランて子が……!」
そこまでアカネの話を聞いて、クルーゼは音を立てて隊長席から立ち上がった。
「その事ならばたった今アスランから報告を受けた所だ」
「……え?」
「あのモビルスーツ、ストライクに乗っているのはアスランの旧友と言うことだ。しかし何故?」
「いや……あの子がさっき廊下で"キラ"って呟いてたから、気になって」
そうしてアカネはアスランと言い合いになった事を話し、クルーゼからはキラ・ヤマトがオーブの人間なのかそれとも連合に所属しているのか当のアスランにも分からないという話も聞いた。
「可哀想な事だな、仲の良い友人だったというのだから」
「そんな……! それじゃこのままあの子を放っておくつもり!?」
まるで他人事のようにそう言い放ったクルーゼにアカネは食ってかかった。
「あの子、パイロットなんでしょう!? また戦闘になったら……」
軽く焦りの色を見せているアカネの顔をクルーゼが冷ややかに見下ろす。
「では訊くが、君はもし敵陣に友人がいたら戦うのを止めるかね?」
「……いや、それが命令なら」
やるけど、と瞳をそらしてアカネは先程のアスランの悲痛そうな呟きを思い出した。
あの様子ではとても気持ちの切り替えが上手くいっているとは思えない。それは仕方のない事ではあるが危険なことでもある、と強く首を振るう。
「ならせめて他のパイロットにそれを伝えないと……! ストライクに乗ってるのはアスランの友人だって」
「そんなことをすればパイロットは混乱するだけだよ、アスランへの疑念さえ出てくるかもしれない」
浅はかな、と言い捨てたクルーゼにアカネがグッと口を噤む。
クルーゼの言うことも一理あるが、戦場で迷いのある兵士ほど厄介なものはないのだ。
「君は私の部下ではないが、今のことは他言しないようお願いするよ」
更にそう続けられて、アカネはピクリと眉を動かした。
「そう心配することはない、アスランは私に闘えると言ってくれた。それを信じてやりたまえ」
「……了解」
瞳を閉じて、グッと拳を握る。

「で、あの機体の具合はどうだ?」
本題に入ろうとするクルーゼの声を聞きながら、アカネはモビルスーツに乗る理由が一つ出来た、と感じていた。


アスランとキラ―、そしてアカネのこれから続く長い戦いへの序曲は既に鳴り終わろうとしていた。



――to be continued...   

327:CROSS POINT
10/03/26 23:48:27


「キラが動いたというのは、本当ですか!?」

大きな声を上げながら、焦った表情でアスランはミネルバのブリッジに飛び込む。
急いで来たので自分の着ている軍服が若干乱れていたが、この際それはどうでもいい。
艦長席に視線を向けると、席に座っていたアーサーが軽く頷いた。

「ああ、つい先ほど情報が入った。彼らの次の狙いは討伐軍……いや」
「シン=アスカ」
「だよね、やっぱり。ボルテールが狙われそうな理由って他に無いし」
「それよりもこのタイミングで動いた事を気にするべきでしょう。
 討伐軍が出航してからミネルバと合流するまでの、この短い時間に狙われた。それはつまり」
「情報戦でも後手に回っている、か。向こうにはマルキオ導師がいるからね。
 ったく、まためんどくさいのが敵に回っちゃったな」
「正直キラが彼を受け入れるとは思いませんでした。いや必要不可欠な人物であるのは間違いないのですが……」
「ひどく嫌ってたとか?」
「はい」

まるで打ち合わせでもしていたかのように話を進める2人。そして同じタイミングで溜息を吐いた。
考察なんてしたところで大した意味は無い。
現状を一言で表すなら 「キラ達に振り回されている」 の一言で済むのだから。

「アスラン=ザラではなくシン=アスカを狙った、か……情けない話です。
 格付けが済んだとでも思われたのか、もう向こうにとって俺など眼中に無いようですね」
「それは此方も同じ事さ。最新鋭機積んでるのに見向きもされず、民間人の方に行かれてるんだから」

そして、その選択はあながち間違いではないと言う事実も自分たちの溜息を深くした。
今のアスラン=ザラとシン=アスカでは敵の注目度が違う。
つい最近敗れたばかりのアスランに比べて、シンは最近のデータが何一つ無いため現在の実力は謎に包まれているのだ。
謎を恐れるのは人の性。ブランクがある筈だから大丈夫と情報の無さを気にしないのは簡単だが
そうなると 「かつてキラに勝利した」 という事実だけがクローズアップされてしまうことになる。
キラの強さだけが支えの向こうが、そんなシンに注目するのも無理は無い。

「「はあ……」」

年齢を重ねて立ち位置が変わっても、無力感を乗り越える方法とはそう見つかるものではない。
こんな感情を引き摺っても仕方が無いので、2人は目の前のモニターに視線を向ける。
丁度画面の中では赤い矢印と青い矢印がお互いに近付き合っているところ。そして地球からも黄色の矢印が伸びた。
言うまでも無いが、青がザフトで赤がキラ、黄色が自分たちの進行ルートである。


328:CROSS POINT
10/03/26 23:50:28

「僕たちは予定を変えずにこのまま討伐軍との合流を目指す。
 ただ到着と同時に戦闘に入る可能性も高い。MS隊はその事も考慮しておいてくれ」
「わかりました。ですが」

宇宙に上がってすぐに戦闘と言うのは、地上勤務が長い者が多い自軍にとっては好ましい事ではない。
だがそれ以上に気になるのはザフトとキラ、両者の交戦予想ポイントまで少し遠いということだ。
チャートを見たところ、この位置からだと時間が掛かりそうだが。

「間に合うのか? ここからで………」
「ポイントまで最大船足で向かうが、最悪の場合、合流が救出作業に変わる可能性もあるね。
 シンの力は良く知ってるつもりだけど、流石に今回ばかりは楽観的になれそうもないよ」
「そうですね……」

アーサーの言葉に眉を顰めるアスラン。
ボルテールにどれだけのパイロットがいるのか、神ではない自分には分からない。
だがキラ相手に有象無象が増えたところで何も変わらないだろう。戦闘は実質、シンとキラの1対1だ。
そして艦隊の行軍というものは1番遅い船に合わせるため、此方はこれ以上進行スピードが上がらなかったりする。
だから今回、できれば彼らには一旦退いて貰って、自分たちとの合流を優先して欲しかった。
しかし討伐軍がその対象を確認したのに大した理由も無く逃げる、ということは普通考えられない。
両者の交戦はまず避けられないだろう。
願うとすれば自分たちが間に合う程度に、戦闘の開始が遅れてくれれば良いということぐらいか。


「頼むぞ、シン……。俺たちが行くまでやられたりするなよ……」


思わずシンの無事を祈るアスラン。
しかしそんな彼の願いもむなしく。

数時間後、ボルテールがエターナルと戦闘を開始したという連絡が届いた。





第19話 『強く儚い者たち』






329:CROSS POINT
10/03/26 23:52:25

「………すごい」

息をすることも忘れ、少女は食い入るように画面の中の光景を見つめる。
蒼と紅の光が周囲に爆発を起こしながら、絡みあう2匹の蛇のように螺旋を描く。


「これが、アスカさんの本当の力なの?」


まるで野生の獣のようにフリーダムに襲い掛かるデスティニーを見ながら、オペレーターの少女は呟いた。

強い。あの人は本当に強い。
自分も今までたくさんのMS戦の映像を見てきたが、この戦いはそのどれともレベルが違った。
先日アスラン=ザラが逆転負けした例もあるし、今のキラ=ヤマトが実力を隠しているという可能性も否定できない。
けれど思う。彼のこの力を超える者がいるなどと、どうして考えることができるだろう?
やはり彼はあの金髪の赤服が吐き捨てていたような英雄の成り損ないなどではない。彼は本物の――

「そういえば」

先程まで他の艦に命令を出していた艦長が、ポツリと呟く。彼も2人の戦いを見ていたようだ。

ザフト兵士は連合に比べてMS間の連携がそこまで上手くない。ナチュラルと比べてエリート意識が高く、
また物量の問題から1機で複数の敵を相手することが多かったからだ。
そのため命令を此方から小出しにするよりは、細部を各艦長やMS小隊長に任せた方が良い場合も多い。
そして2機の戦いはこの戦闘の行く末を決める重要事項でもある。
指揮官である彼が見ているのは当然とも言えた。

「地球に古くから伝えられている神話で、確かこういうのがあったな。
 全知全能の神を巨大な狼が飲み込む、という話が」

自分もその話は知っていた。と言っても家にその本があったので、子供の頃読んだ事があるというだけだが。
北欧神話の世界における、神々と巨人族の最終戦争。ラグナロクと呼ばれる終末の日。
全知全能の神、最高神オーディンはオオカミの姿をした怪物フェンリルによって飲み込まれたという。
そんな内容を思い出しながら、少女は再び目の前の戦いに視線を戻した。

画面の中で戦っているのは、人類の可能性の極致と呼ばれたスーパーコーディネーター、キラ=ヤマト。
それに挑むのは世界を牛耳ったクライン派すらその力を恐れたシン=アスカ。
獣の様に荒々しく襲い掛かるデスティニーと、技術の結晶とも呼べる華麗な動きでそれを捌くフリーダム。

確かに似ている部分もあるかもしれない。
そして彼らの戦いは、神話のそれに当てはめても違和感を感じないほど、美しく激しいものだった。
ありえないほどのスピード。確実に急所に迫る鋭い一撃。
その攻撃の一つ一つが、全て必殺。
人としてのレベルは既に超越している。


330:CROSS POINT
10/03/26 23:55:15

「アスカさん……」

だが自分には、そんな事はどうでもよかった。
艦長の声を聞きながら少女は思う。戦いの映像を目に焼き付けながら少女は祈る。
何だっていい。いっそこれが艦長の呟いた通り、神話の焼き増しでも構わない。
その話の内容と同じく、彼がキラ=ヤマトを倒して無事に帰ってきてくれるのならば。

「だが」

画面の中のフリーダムは両手のライフルを連結し、高出力のビームを放つ。
その一撃はデスティニーから連射される光弾を飲み込んでいき――


「やはり、神話の中だけの話のようだ」


デスティニーのマシンガンを吹き飛ばした。







「強いね、シン―――」

青や赤に点滅するランプ。カタカタと素早い音を立てるキーボード。
ここはストライクフリーダムのコックピットの中。
嵐の様に吹き荒れるアロンダイトの剣戟を捌きながら、キラは呟く。

吐き出された言葉は嘘や過言ではない。確かに今の彼は強かった。
アスランと違って自分を殺すことに躊躇は無い。
自分の攻撃に対する反応も良い。
機体の性能も此方と互角かそれ以上。
ジャスティスに乗っていたアスランと力は互角、いや今戦えばまず彼が勝つだろう。
現役を離れていた筈なのに、そう断言できるほどの強さだった。

けれどキラの目に光は無い。……はっきり言おう。
この程度の力では、自分に届くことは到底無いからだ。

「こんなもの、なのか?」

困惑、そして失望。キラの声色が優しい声から冷たい声へと変わる。

331:CROSS POINT
10/03/26 23:59:25

今の彼には以前と比べて何かが足りなかった。
まるでピースが1つ欠けているような。今は万全ではないような。
そもそも今乗っているのは本当に彼なのだろうか。実は戦意高揚の為に彼の名を騙った別の人間なのではないか。
そんな馬鹿みたいな事すら考えてしまうほどに。
いやそんな筈は無い。目の前にいるのは確かに彼だ。そしてシン=アスカがこの程度な訳が無い。
あのギルバート=デュランダルが見出した戦いの天才が、これしきの力などと。
そう現実を否定しながらフリーダムのライフルを連結させる。放たれた一撃はいとも容易くデスティニーのマシンガンを吹き飛ばした。

「………」

失望はやがて苛立ちへと変わっていった。

どうしたんだ、シン。こんなのも避けられないなんて。
君は僕を倒してくれるんじゃなかったの?

僕と、同じ存在じゃなかったの?

人では自分を倒せないと言うのならば。同じ狂戦士である彼なら自分の全力を受けてくれると思っていたのに。
疲れた自分を眠らせてくれる、最後の味方だと思っていたのに。
あの暗闇を照らしてくれるのは、君の炎だと思っていたのに。

自分が抱いていた歪な希望。しかし、その全ては否定される。
心を満たすのはアスランと戦ったときと同じ感情。失望という今自分が最も欲しくなかったもの。
期待して喜んで待ちわびてようやく会えた彼が与えてくれたのは、こんなものかという落胆だった。

「はは……そっか。そうなのか」

疲れた。渇いた。心が枯れた。
何故自分は彼にここまで期待していたのだろう。何故彼に終わりを感じていたのだろう。
今ではそれすらわからない。
戦いの前にコックピットで感じた悪寒はまあいい。
自分の期待する心が暴走して、感じるはずの無いものを勝手に想像してたとか理由はいくらでも思いつく。
しかし、ベルリンで出会った時も自分はしっかり感じたのだ。
彼ならば可能性はある、と。自分が全身全霊を込めて戦っても、受け止めてくれると。
それなのに――

「もう、いいや……」

これ以上考えても傷が深くなるだけだ。もう終わらせよう。
キラは戦いながらデスティニーと通信を繋ぎ、そしてゆっくりと口を開く。
今から吐くのは現在の彼を否定する言葉だ。だが別に彼を追い詰めて窮鼠とすることなど考えてはいない。
ただ、期待を裏切られたから。
彼が最も傷付くような言葉を、八つ当たりの言葉を吐き出すだけ。


332:CROSS POINT
10/03/27 00:01:44


『――ねえ、シン』


君に、今敢えて問う。





「くっそぉ……」

左手から離れたマシンガン。それの爆発する様を見ながら、シンは吐き捨てた。

やはり強い。実力差ははっきりしている。
だがこの戦いに判定は無い。そして自分もまだ、戦闘不可能な損傷は受けていない。
勢いがあるうちに自分がキラを速攻で落とせるか、それとも力及ばず倒されるか。
許される終わり方はそのどちらかだけだ。誰に許しを乞うのかはわからないけれど。

高速で移動しながら放つフリーダムのクスィフィアスを避けつつ、再びアロンダイトを抜くデスティニー。
レールガンの類は当たってもダメージは無いが、致命的な隙ができる事は間違いない。
必然的に全ての攻撃を回避しなければならなかった。

『――ねえ、シン』
「まだまだぁ!!!」

キラの声を聞き流し、長剣を右手に握ったまま飛び込む。
スコールが無くなったため中距離で戦うのは厳しかった。だからこのデカブツに頼るしかない。
というかそもそもキラ相手に何発も攻撃が当たるとは思えない。狙うは運良く防御を掻い潜った攻撃による1発KO。
とはいえ雑な大技を繰り返していても半永久的にキラを捉える事は無く。なんだこの八方ふさがりは。
割に合わない。何でこの依頼受けたんだろう俺。
そう思いながら目の前のキラに叩きつける。

『君に一つ、聞きたいことがあるんだけど』
「何だよ!!」

サーベルを交差させてアロンダイトを受け止めるフリーダム。
圧力をかけるものの押し切れない。アロンダイトには劣るだろうが、ヤツのサーベルもかなりの出力だ。
そのまま睨み合う2機のMS。
光の翼が輝き、デスティニーの圧力が上がる。

『僕を憎んでいないと君は言ったね。被害者ぶって誰かを憎む資格は俺にはないって。
 ――それは本当に君の気持ちなのか?』
「何が言いたいんだよ、アンタは!?」
『君はただ、大切な人の事を過去のものにしてしまっただけなんじゃないのか!?』
「何だと……!!」


333:CROSS POINT
10/03/27 00:04:38

敵のレールガンがデスティニーに狙いを定めた瞬間、シンは後ろに、そして左に跳ぶ。虚空に消えていく黄色い閃光。
引き離されまいと再び飛び込んだアロンダイトの斬撃は宙返りのような動きで避けられた。
フリーダムから放たれるドラグーン。機体を左右に振って攻撃を回避するが、その隙に大きく距離を取られる。
デスティニーに再び豪雨の如きビームが降り注いだ。

『かつての君はデストロイを撃った僕を倒した!!
 僕に大切な人を殺されて、怒りながら僕を討ち敵を取った!!』

ドラグーンを収納、そして再びライフルを連射するフリーダム。
放たれた閃光はデスティニーから放たれたパルマとぶつかり合い、霧散した。
威力は五分。力負けしなかっただけマシか。

『でも今の君に僕への憎しみは無い!!
 君から何もかもを奪い、叩き潰したこの僕に!! 昔の君なら復讐した筈なのに!!』

キラの言葉は聞き流せ。こちらに話す余裕は無い。
喋る余裕があったらもっと集中して、感覚を研ぎ澄ま――

『――何故か!? 答えは簡単だ、忘れてしまっただけだ君は!!』



おい。
お前、それは。



「―――ッッ!! 違う!!」
『違わないさ!!』

流石に今の言葉だけは聞き流すことができなかった。
否定する声と同時にデスティニーの両掌が光を放ち、1つ、2つとドラグーンを破壊する。
だがキラに動揺は見られない。
あっさりとシンの言葉を切り捨てて、怨嗟の声をぶつけた。

『なんで憎まない。なんで憎んでくれない。なんで君は僕と同じ道を歩かずにいられるんだ!!
 ――決まってる。大切な人たちの事を忘れて!! 憎しみを忘れて!!
 他人の為に怒る事に、疲れ果てただけなんだよ君はぁぁッッ!!』

叫びと共に、今度はフリーダムがデスティニーの懐に飛び込んだ。両手にはいつの間にかサーベルが握られている。
速い。そして鋭い。


334:CROSS POINT
10/03/27 00:07:00

「黙れ………」
『そう、僕は君とは違う……君なんかとは違う!!!
 絶対に忘れない。忘れるわけがない! 忘れることができないッッ!!!』
「黙れと言っている!!」

2本のサーベルを振り回しながら攻めるフリーダム。
デスティニーは長刀を軽々と振るいながらそれを防ぐものの、少しずつ押されていく。
そもそも長刀はリーチを生かし相手の間合いの外から攻撃する為の武器であり、懐に入られての防御には全然向いていないのだ。
しかも相手は二刀を完璧に使いこなしていた。
このままでは回転の速さに対応できなくなる。一旦距離を取るか、どこか早い時期に攻勢に転じなければならない。
それは理解しているのだが

『でやぁぁぁっっ!!!』
「くっそ、がぁぁぁぁッッッ!!!!」


押し切られる―――







335:CROSS POINT
10/03/27 00:08:08
今日はここまでです



336:通常の名無しさんの3倍
10/03/27 00:52:23
GJ
うわーここで次回へ続くとは・・・
キラは失望したままなのか続きが気になる

337: ◆vVIrExpeHunv
10/03/27 01:31:23
こんばんは。
>>326の続きから。

338: ◆vVIrExpeHunv
10/03/27 01:32:49
PHASE - 006   「守りたい人達がいるんだ!」



「MBF-P05・ASTRAY-purple_frame……」

クルーゼに機体状況を報告しながら、アカネはハンガーでのやりとりを思い返していた―。


「アストレイ? 武装は……頭部バルカン……だけ!?」
自身の搭乗予定機のあまりにシンプルな作りにアカネが目を丸めると、一緒に機体チェックをしていたデューイは作業を続けながら呟いた。
「アンチビームシールドもあるぞ、後はアサルトナイフか……ま、デュエル辺りの予備パーツ回せば何とかなるだろ」
「そ、そう……」
「あ、でも装甲はフェイズシフトじゃねーから弾当たったら即あの世行きだなお前」
サラリとそんなことを言ってデューイがアカネの顔を引きつらせる。
「……当たらなきゃ良いんでしょ。この機体ブリッツより大分軽いし要するに避ければ良いのよ、避ければ」
そんなやりとりを繰り返しながらもアカネはなんとかデューイともコミュニケーションを取り、後は微調整のみという段階まで終えた。
そして、アカネはもう一度アストレイと名付けられた機体の前に立つ。
他の奪取した機体はフェイズシフトを展開している時のみ発色するという装甲になっていたため、元からホワイトとパープルで彩られたアストレイはハンガーに華を添えていた。
白と紫―それはニホンでは古代から気高い色として重用されてきた色でもある。
そのためアカネはこの機体を一目見た時から気に入っていた。
身軽で動きやすいというコンセプトも自分に向いていて、図らずもこの機体に巡り逢ったのが運命とさえ思えてくる。
「宜しく、アストレイ」
そう機体に声をかけると、アカネはクルーゼの待つ隊長室へと向かったのだった―。


「以上よ」
「うむ、ご苦労だったね、後は休んでいたまえ」
報告を終えて、アカネはクルーゼにあのシャトル沈没の際に目にした白い戦艦の事を訊いてみた。
「その前に敵が知りたい。特にあの新造戦艦のこと……」
あの戦艦があんな所にいなければシャトルが落ちることはなかったのだ、と軽く唇を噛んだアカネにクルーゼが困ったように手袋に包まれた指を顎に当てる。
「生憎、あの艦の詳細はまだ不明だ。唯一分かったのはイージスのライブラリ照合で"アークエンジェル"と名付けられてるという事のみでね。もっとも、我々はあれを"足つき"と呼んでいるが」
「……そう。あの戦艦、向こうは月本部に運んでいくつもりなんでしょ? 護衛は?」
「護衛艦らしきものは我々が沈めたよ。今のところ足つきの護衛はストライクと……モビルアーマーが1機確認されたのみだ」
クルーゼの説明にアカネは、そう、と相づちをうつ。
モビルアーマーとは連合が主力としている歩行機能を持さない戦闘用航宙機の事である。機動力に優れてはいるものの、1機のスペックとしてはジンに及ばず、そのことが数で勝る連合が苦戦を強いられている一因でもある。
「だがそのモビルアーマーが少し厄介でね」
「え……?」
厄介、と言った割には口元に笑みを湛えてクルーゼはアカネへと視線を流した。
「どうもエンデュミオンの鷹が護衛についているらしい」
え、とアカネが瞳を開いたのと同時にデスクのモニターからクルーゼを呼ぶアデスの声が響いた。

339: ◆vVIrExpeHunv
10/03/27 01:34:19

「どうしたアデス?」
「足つきと思しき艦影、後方距離5000の位置まで来ました!」

それを皮切りにヴェサリウス艦内は慌ただしくなる。

「コンディションレッド発令! コンディションレッド発令! 各パイロットは搭乗機にて待機せよ! コンディションレッド発令―」

オペレーターの艦内放送を受け、それぞれ休息を取ったり機体チェックをしたりと自由に過ごしていたパイロット達は揃って慌ただしくロッカールームへ急いだ。
「模擬戦も行わずに実戦……大丈夫でしょうか?」
赤のパイロットスーツに腕を通しながらニコルがそう呟けば、同じく着替えていたイザークはわざとらしく見下したように腰に手を立てる。
「模擬戦だぁ? そんなもの、俺たち赤には必要ない」
「そうそ、ま、臆病な誰かさんなら心配しちゃう気持ちは分かるけど?」
続けてディアッカもハハハッと肩を震わせる。
言われたニコルは一瞬顔をしかめたものの、反論せずに受け流した。しかし模擬戦どころか機体データの解析もまだ完全に終わっていないのは気がかりだ。
「アスランはどう思います? 何か作戦を……」
「……ん?」
そして右隣にいたアスランに声をかけてみるが、目線を送った先に居たのは心ここにあらずと言った具合でぼんやりしているアスランの姿。
「アスラン?」
「あ、ああ……うん、何とかなるだろ」
訝しんで顔を覗き込めば、あまり話したくないという具合にそっぽを向かれてしまった。
どうも様子がおかしい。
そう感じたニコルだったが、今は芽生えた違和感を追求している暇などあるはずもなく着替え終わると同時にハンガーへ駆け込む。


同じ頃、アークエンジェル艦橋ではひたすら進路モニターを睨む艦長マリューの姿があった。艦内はいまだ警戒態勢が敷かれている。
幸いにもヘリオポリス崩壊のゴタゴタでザフト艦がこちらをロストしてくれたとはいえ、あのような形でヘリオポリスを離脱してしまい補給もままなっていない。
故に直接大西洋連邦月本部への進路を取るのは不可能に近く、アークエンジェルはこのL3に存在する同盟軍のユーラシア連邦軍事要塞・アルテミスへと入港することを決めたのだ。
「これで上手く行ってくれるといいけど……」
月本部への進路へデコイを撃ち出し、慣性移行でザフト艦の眼を眩ませる作戦を取ってはいるが、向こうがそれに気づいていない補償はない。


340: ◆vVIrExpeHunv
10/03/27 01:35:54
「またアレに乗れって言うんですか!?」
マリューが艦長席で神経を削らせている頃、居住区ではフラガの来訪にキラが声を張り上げていた。
「いやぁ……そう言ってもねぇ、この艦は俺とお前で守るしかないんだよな」
パイロットスーツを着てコクピットで待機しろ、との艦長命令を伝えに来たフラガに激昂したのがキラが大声をあげた理由だ。
「クルーゼのヤツぁ、あんなデコイに引っかかってくれるほどヌルイ男じゃないぜぇ? アイツのしつこさは俺が補償する!」
「……知りませんよ、そんなこと」
キラがそっぽを向き、茶化してみせたフラガはハハハと苦笑いを漏らす。
「でもよ坊主、こうなった以上は逃げててもなんも始まらないんだ。やれる力があるならやるべきだと俺は思うがね」
「僕は……こんな事がいやで中立のオーブにいたんだ」
「んで、そう言い続けてここで死ぬか?」
瞳を伏せたキラの真上からフラガが声を強め、二人を直ぐ傍で見守っていたトール達もビクッと肩を震わせる。
「わ……私……!」
少しの沈黙をやぶり、細い声でフラガに声をかけたのはミリアリアだ。
「私、これでも工業科の学生なんです。戦艦は扱ったことないけど機械の操作は慣れてます。私にも何か出来ることはありませんか?」
「ミリィ……」
隣にいたトールが唖然として目をパチクリさせるも、彼女は穏やかでいて申し訳なさそうな視線を彼に送った。
「だって、いつも私たちキラに守って貰ってばかりで……」
同調を促すような目にトールも軽く頷く。
「そうだな……課題でも実習でもいっつもキラに助けてもらってばっかだった」
ハハッ、と今はもう取り戻すことの出来ないヘリオポリスでの思い出を一瞬頭に蘇らせたのだろう。苦笑いののち、切り替えたようにトールも勢いよく手を挙げた。
「ハイハーイ! 俺、俺もやります! やらせてください!」
「トール、ミリアリア……」
突然の二人の提案にキラもまた驚きに瞳を開いた。
「お、俺も……やるよ……!」
トールとミリアリアの発言にオドオドしていたカズイも拳を震わせながら声を絞り出せば、フラガが3人に駆け寄って勢いよく肩を叩き、誉めるようにして頭を撫でる。
「よーし、よく言った坊主達!」
そうして艦長に話をつけにフラガが3人をつれてブリッジへ向かうのをキラは黙り込んだまま見送った。
ふいにヘリオポリスでの戦闘を思い出して、キラは強くかぶりを振る。
ジンのコクピットにビームサーベルを突き立てた事。
あの時は無我夢中だったが、アークエンジェルへ帰還したと同時に身の毛がよだった。―その戦慄は今なお続いている。
「いや、あれはただの機械なんだ……! モビルスーツなんだ!」
出撃したくて出撃したわけではない。
友達を守るためなのだ。仕方なかった。
仕方なかったのだ、と自らの行為に対する理由をひたすら求める。


341: ◆vVIrExpeHunv
10/03/27 01:37:34
『キラ……やはりキラなのか!?』

けれども、どれほど理由を探しても否が応でも旧友の声が耳に甦って消えてはくれない。
「あれはモビルスーツ……なのに、なんでアスランがいるんだよぉ」
呻くように唇を噛みしめて、キラは居住区の壁の力無くもたれ掛かった。
アスラン。
アスラン・ザラ。
月面都市コペルニクスの幼年学校で共に学んだ幼なじみが何故ザフトなどにいるのか。
卒業前にアスランがプラントへと戻って数年、あれから一度も会うことはなかったというのに何故あんな場所で再会してしまったのか。
アスランは、また戦闘になれば来るのだろうか?
このアークエンジェルを沈めに―と、瞼をきつく閉じてそんな事を思う。

「ね、ねぇ……みんなは?」

ふと、壁にもたれ掛かっていたキラの耳に微かに怯えたような声が届いた。
顔を上げると、赤みがかったセミロングの髪。青を含んだ薄いグレーの瞳が印象的な美しい少女の姿が映る。
「フレイ……アルスター」
フレイは同じ工業カレッジの学生であったが、キラ達の一級下だった。
ヘリオポリス最初の戦闘でガレキに足を取られ、気絶していた所をストライクが救助してそのままアークエンジェルに乗り込んだのだ。
持ち前の美貌も手伝い学園のアイドルだったフレイの事をキラは良く知っていたが、面識はゼロに近い。
「あ、みんなは……艦の仕事を手伝うってブリッジに行ったよ」
「えっ!? じゃあ、みんな戦うの?」
「うん、やれることをやる、って……」
フレイが驚いたように口元に手を当てるのを見ながら、キラは先程の出来る力があるならやるべきだと言ったフラガに応えた友人達を浮かべて自嘲気味に俯いた。やれることをやる。ならば自分はどうするべきなのか、と。


「ヴェサリウス180度回頭。―前方に足つき、距離5000です」
「よし、モビルスーツ隊を発進させろ!」
一方のヴェサリウスでは、オペレーターの声と同時に艦長のアデスがそう指示を出していた。
クルーゼの方は、既に戦闘態勢に入っているというのにそう感じさせないほど落ち着いた様子で艦長席の背もたれに手をかけながらアカネの方を振り返った。
「足つきの後方からはガモフが追ってきている。……ここであれが落ちれば君の出番はないな」
流石に現段階で出撃できるはずもなくブリッジに入ったアカネだったが、アカネとしてはここであの戦艦が落ちてくれてお役御免になるのが一番良い。
気がかりがあるとすれば、それはアスラン―そしてストライクを駆るキラ・ヤマトの事だ。
そんなことを思いつつクルーゼへの返答を渋っていると、ブリッジのモニターに大きくアスランの姿が映し出された。
クルーゼはアカネからモニターに視線を移すと、画面越しにアスランへ声をかける。
「アスラン……先刻の言葉、信じるぞ」
「……ハッ」
発進スタンバイに入ったアスランはどこか歯切れの悪い返事と共に出撃していく。
アカネもそれを見送って、ふと呟いた。
「……ガンダムだけで大丈夫かしら」
「心配はいらんさ、4人とも赤を与えられたエースなのだからな」
クルーゼは相も変わらず含みのある物言いで答えた。


342: ◆vVIrExpeHunv
10/03/27 01:38:28
「艦長! 前方にナスカ級1、モビルスーツ発進を確認。……距離5000です!」
「後方にも……ええと、ローラシア級!」
アークエンジェルのブリッジでもザフト艦の動きを捉えて通信席に座るチャンドラ伍長の声が響くと、続いて慣れない手つきで伍長とは背中合わせの通信席に納まったカズイが声を震わせた。
マリューは歯軋りしながら肘置きに乗せていた手を強く握りしめる。
「読まれていたってわけね……! デコイに引っかかったふりしてレーダー圏外から先回りなんて……流石ラウ・ル・クルーゼ!」
しかし憤っている間もなく、更なるチャンドラの声がブリッジを震撼させる。
「機種特定、モビルスーツはXナンバー……デュエル、イージス、バスター、ブリッツです!」
「あの4機!? チッ、奪った機体全てを投入してきたということか!」
CICの中心でナタルが強く眉を寄せた。

「第一戦闘配備! 第一戦闘配備! パイロットは至急搭乗機へ!」

警報と共に艦内放送が流れ、ぐずっていたキラはその音に呼応するように勢いよく顔を上げた。
―トール、ミリアリア、カズイ!
あれこれ考えるよりも、いざ戦闘になると思ったら真っ先に友人達の笑顔が浮かんだのだ。
「僕、行かなきゃ……!」
傍にいたフレイに告げると、キラは一目散にハンガーへと駆けだした。

「おお、やっとやる気になったか」
キラが一般兵用の白と橙のパイロットスーツに着替えてハンガーへと出ると、自分専用の紫と黒のパイロットスーツに身を包んだフラガが声をかけてきた。
一瞬、眉をひそめたキラはパイロットスーツの首元を閉めつつ呟く。
「この艦には大事な人達が乗ってますから」
「まあ理由はなんでもいいさ。ハッキリ言って今の俺たちは戦力的にかなり不利な状況にいるわけよ、そこで、だ」
「え……?」
ガシッ、とキラの肩を豪快に抱いてフラガは今回の策を耳打ちした。
「メビウス・ゼロ式フラガ機、カタパルトへ。発進スタンバイ―」
そうして発進していくフラガに次いでキラもコクピットで待機する。
「キラ!」
敵モビルスーツを引きつけておけ、とのフラガの指示を頭で復唱しているとモニターに良く見知った姿と声が届いた。
「ミリアリア!?」
「以後私がモビルスーツ及びモビルアーマーの戦闘管制担当となります。ヨロシクね」
ミリアリアはオペレーター席に収まったのだろう。聞き慣れた明るい声に、緊張していたキラの顔がほころぶ。
ストライクは先のヘリオポリスでの戦闘と同様、エールストライカーを装備するとミリアリアの誘導に従いリニアカタパルトから発進した。


一方のヴェサリウスから真っ先に飛び出て先頭に立ったモビルスーツはイザークのデュエルだ。すでにアークエンジェルは目前だ。
「一気に足つきに取り付いて落とすぞ、遅れるなよ!」
「敵艦の性能が分かっていません、接近は危険です!」
「相変わらずだねぇニコルちゃん、そんなに怖いならそこで黙って見てな」
イザークに慎重論を唱えたニコルをディアッカが一蹴して彼もまたアークエンジェルへと突っ込んでいく。
「ディアッカ! あなたの機体は前に出るタイプでは―」
「ごちゃごちゃと煩いんだよ腰抜け!」
「くっ……!」
更にイザークにも言葉を遮られ、ニコルは眉を寄せながらも二人の後方についた。
敵艦の性能どころか自分の機体さえこうしてキチンと動かしてみるのは初めてなのだ。
あまり無茶はニコルとしては望むところではなかった。

343: ◆vVIrExpeHunv
10/03/27 01:39:45
「アンチビーム爆雷! 同時に主砲用意、撃てーッ!!」

アークエンジェルのCICでは指示を出すナタルの声が忙しなく飛んでいた。
左右両方の舷に格納されていた主砲が展開され、現れた経口が呻るように火を噴く。
イザークは自分目掛けて発射された主砲を避けて後方に下がり、その間を縫うようにしてバスターは94mmの高エネルギー収束火線ライフルを放つ。―が、周辺にばらまかれた粒子によりビームは緩和され、なんとアークエンジェルに届く前に掻き消されてしまった。
バスターを駆っていたディアッカは予想外のことに驚いて額に汗を浮かべる。
「アンチビーム粒子かよ……大した武装じゃないか」
「ブリッジ付近は弾幕で近づけそうもありませんね……艦底部から行きます、援護を!」
「あっ、オイ、命令すんな!」
鉄壁の守りを見せたアークエンジェルを見てニコルはそう判断し、ブリッツをアークエンジェル底部へと沈ませた。
ブリッツのレーザーライフルは50mm。
つい今しがたのバスターの攻撃が効かないのであれば、より付近から撃ち込まないと厳しいだろう。
考えながらアークエンジェルの下へとブリッツを潜り込ませたニコルの目に映ったのは、迫り来るバルカンの渦だ。
「艦底部に対空バルカン!?」
慌てて右腕のシールドを翳し、凌ぐ。
本来裸同然のはずの艦底部にこんな武装が付いているとは―などと分析する間もなく眼前の戦艦は眼にも止まらぬ速さでロールし始め、舷上部の砲台を回旋させてこちらに照準を向けてきた。
「―なんて艦だ!」
とても戦艦とは思えぬ驚異の機動力にブリッツは逃げるようにして射線上から離れる。
「ディアッカ!」
「わーってるって。あんまり騒ぐと手元が狂って味方に当てちゃうかもよ?」
援護しろと言ったのに、と言いたげなニコルの声におどけて返事をしたディアッカは再び高エネルギーライフルのトリガーをアークエンジェル目指して引いた。見る者を圧倒するような熱の渦だ。手応えを確信してディアッカは声をあげた。
「よっしゃ、ヒット―ッ!?」
しかし、確かに掠ったというのにアークエンジェルの装甲はその熱をモノともせずに傷一つつかない。ディアッカの叫びは驚愕で喉が収縮し途中で途切れてしまった。
こりゃとんでもない艦だ、と彼ですら思う程に今まで見てきた戦艦とは比べものにならない性能だった。

「ラミネート装甲、廃熱は!?」
「まだいけます!」
アークエンジェルブリッジでは、バスターの砲撃に艦体が揺れはしたものの今のところは何とか4機相手に対応できていた。
「ストライクは?」
「イージス、デュエルと交戦中です!」
ブリッジモニターの光学映像に戦闘中のストライクが映し出される。2機相手に手一杯の様子だ。
前方からはナスカ級、後方からはローラシア級が迫っていてそう時間もない。
出来ることなら早々にこの宙域を離脱したいアークエンジェルだったが、今はストライクとフラガのメビウス・ゼロの活躍に期待するしかない。


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