10/01/31 20:37:28
「ムラムラした」 耳元で囁かれた言葉に、クリスティナの思考回路は終点の無い迷路状態に陥った。
ムラムラって、なんて直球な言い方をするのだろう。何故彼の部屋で彼の寝台に寝るはめになったのだろう。何故彼は寝ている私に伸し掛かっているのだろう。そもそもこの現状を生んだ原因とは何なのだろう。
クリスティナは一連の流れを回想した。
「プログラムが誤作動した。直してくれ」 そんな依頼が、ティエリアの部屋を訪れたきっかけだった。詳細を問い質すと、次のミッションの対策を練っていたら、急にコンピュータの画面が黒くなり、数式のような文字が羅列したというのだ。
しかしクリスティナからすれば、それは子供が転んで傷を負ったようなものでしかない。実際プログラムを目にしたら、切り傷どころか掠り傷程度だったので、さっさと絆創膏を貼り付けてやった。
「助かった。に、しても早いな」
「これでもスカウトされた身ですからっ」
クリスティナは親指を立てると、コンピュータから離れて、後方にある寝台にちょこんと腰掛けた。
するとそれまでコンピュータの様子を見ていたティエリアが、おもむろに近寄ってきた。上目をやればじっと見つめ返されて、照れくささに肩を縮めてしまったことをクリスティナは憶えている。
見つめ合いは随分続いた。ティエリアに突然二の腕を掴まれたクリスティナの体勢が、ゆっくり崩れるまで続いた。
回想終了。さて。
(原因って、私? ……)
冷や汗が額に流れる。そうだ。仮にも男性の寝台に、考えなしに腰掛けた自分こそが原因だ。大体にして他に見当がつかない。
ティエリアがあんなことやこんなことやそんなことをする為に、クリスティナを部屋に呼んだとは思えない。というより、有り得ない。
「あ、あのティエリア? 私、別にム……ムラムラ、させるつもりは……」
クリスティナは、カーディガン越しにティエリアの肩をそっと押した。
「だけど、そう思わせた」
手が静かに払われる。
「で、でも」と、まごついた唇に、柔らかい感触が降りた。クリスティナは驚いて、きゅっと目を瞑る。
一、二回、擦り合わせるだけの口付け。回数を重ねるごとに、ついばむようなものに変わった。
「んっ」
ティエリアの舌に下唇をなぞられて、クリスティナは肩を竦める。
「ティエリア、あの本当に、やる……の?」
「やる」
潔い、かつ簡潔な返答だった。
クリスティナは、改めて強く唇を奪われる。ティエリアはクリスティナの唇を吸って、歯で弱めに噛んでくる。それから口内に舌を押し込んできた。