09/09/16 20:55:34
その背中を微笑みながら見送った戒道は、震える足で立ち上がって護が飛び出した扉の前に陣取ると集った兵士に鋭い視線を向けた、すると黒い服をきた男が二人進み出てきた。
「おいおいもう逃げないのか、随分諦めがいいんだな?」
「ははっ、足を打ち抜いておいて逃げるも何も無いもんだろうが」
ゲラゲラと品無く笑い始めた兵士を前にして、戒道は護を逃がす為に時間を稼がねばならない、そして迎えに来ると言ってくれた友達を信じるからこそ真っ直ぐに前を向いて決然と言い放った。
「来るなら来い、此処から先へは行かせないぞ!」
その気迫に気をされる兵士達。戒道の孤独な、しかし誇りと友情に満ちた抵抗であった。
宇宙へと飛びだした護は全速力でGGGとゾンダーが戦っている場所へと向かっていた、戒道に逃がして貰ったからには、約束通りに助けを呼んでくる事が今の護にできる精一杯の事だからだ。
「待っててね戒道。直ぐに助けを呼んでくるから、それまで無事で居て」
決意を胸に宇宙を行く護の姿をモニターで見ていたシーゲルは傍に控えていた眼帯の女に向かってつまらなそうに呟く。
「折角のサンプルを一匹逃がしてしまうとはな、この失態には罰が必要だ」
そう言って女の前に立つと眼帯をずらして、吸っていた葉巻を瞼に押し付ける。ジュッという音と肉が焼ける匂いが部屋に流れる。
「行け、もう一匹は逃がすな」
部屋の外へ出た眼帯の女ヒルダ・ハーケンは眼帯の上から愛しそうに瞼を撫でる。この痛みがシーゲル様との絆、思い出すだけでイッてしまいそうだ。そこまで考えた所で頭を振ってから意識をやるべき事へと戻す。
「あいつ等、遊びすぎてしくじりやしないだろうね」
未だ騒動の収まらぬ場所へと足を向けるヒルダ、護と戒道が再び出会うには今暫らくの時間が必要となる。
護が戒道の援護によってファクトリーからの脱出を成し遂げた頃、凱達とEV-02との戦いは次の段階へ移行しようとしていた。
シン達MS隊もゾンダーとの戦いに身を投じていた、特にシンとスウェンの機体はGGGでの改造によってゾンダーとの融合が起こらないうえに、
武装にもGパワーが使われているので他のMSよりも有効な攻撃を与えられるのだが、与えたダメージが見る間に回復していくのを目の当たりにすると気が滅入ってくる。
シンのインパルスは現在ブラストシルエットを装備しているのでバリアが破られた時にケルベロスのビームを撃ち込んでいるが効いた様子が無い。
「くそっ、本当にこんなヤツ倒せるのかよ!」
悪態を吐きながらも攻撃を繰り返すシンにスウェンから通信が入る。
「落ち着け、俺達の機体に装備された《GSライド》はパイロットの精神状態で出力が変動する。熱く燃えるのと焦るのとでは違うぞ」
GSライドはギャレオンがもたらした数々のオーバーテクノロジーの中でも中心的存在である、命の宝石とも呼称される緑に輝く六角形の結晶体であるGストーンを触媒としたエネルギー抽出機関である。
このGストーンは無限情報集積回路であると同時に、結晶回路を利用した超々高速度の情報処理システムでありながら優秀なエネルギー抽出源でもあり、使用者の勇気に感応する形で更に莫大なエネルギーを発生させる事が可能である。
このように多くの特性を持つGストーンであるが、その基本的な性質は《対機界昇華反物質サーキット》という説明がもっとも端的であろう。
対機界昇華反物質サーキットであるGストーンはゾンダー達が放出する《素粒子Z0》とは反物質であり、対消滅する関係にあるGパワーと呼ばれるエネルギーを発散させており、ゾンダーとの直接接触ではエネルギー値の小さい方が消滅する事になる。
GGGのメカは基本動力としてこのGSライドを内蔵したGドライブといわれる動力機関によって、GSライドが抽出したGパワーを人間でいう所の血液にあたるGリキッドを媒体に機体各所に送り出すことでゾンダーとの融合を防いでいる。
その措置を施されたインパルスとノワールはEV-02との戦いでも融合を気にせずに、無論エネルギー総量ではEV-02の方が大きいので油断は出来ないのだが他のMSよりも戦える。
しかしダメージを与えてもゾンダーの特殊能力である高速再生によって回復されるので、此方の疲弊具合に応じてじわじわと気力が削がれていた。