09/07/20 22:50:46 MULpQF4g0
長い廊下の突き当たりから小走りで向かって来る数人の陰があった。
先頭は民夫と一緒に出版社の前でシュプレヒコールをしていた女優だった。
ぼくは電話を止めて応対することにした。家族の許可を受けて女優ともう
一人の男だけが安置室に入った。入るとすぐに男性が民夫の腹の上に小さな本を乗せた。
「どなたなんですか?」
長女がきつい目をして低くしっかりした声で言った。もちろん長女は
この女性が誰だかを知っていたに違いない。ぼくはその場を取り繕うように
民夫の友人だと説明した。女優は部屋の天井を見てこう言った。
「そう、ここよ、あたしは見たわ。この部屋で景山さんが亡くなったときに
天井を天使が舞っていたのよ」
「父が息を引きとったのはこの部屋じゃありません」
長女は毅然とした態度で言った。女優は聞こえない振りをして、
なにやら連れの男性と打ち合わせを始めた。
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