10/01/24 17:17:10 0
俺は軍需物資工場から馬肉缶詰5缶を持ち帰った。
工場長がどういう工作をしたのか、上前をはねたものの一部だ。昭和19年も
暮れの今、馬肉缶なんか庶民の口には絶対に入らない。
家に帰ると、非常時にもかかわらず醜くブヨブヨと太った妻は馬肉缶に異常
に喜んだ。
「これが靖子ならなぁ…」。
同僚の原田の妻は、俺の妻なんか足元にも及ばない美人。ガリガリのフケ顔
でうだつの上がらない原田の妻というのが信じられない。でも、そんなこと
はどうでもイイ。もう靖子は俺のことしか見向きもしない。俺達の絆は深い。
馬肉は美味かった。妻は残りの4つを棚の奥に大事そうにしまいこんでいた。
翌日工場に行ったらビックリした。工場長一家が入院。まず助からないだろ
うと。
事務方がこっそり教えてくれた。「K-」の製造番号の馬肉缶はボツリヌス菌
にやられているから絶対に食べてはいけないと。
俺は慌てふためいて家に帰った。
いつも家でぐうたらしている妻が珍しく居ない。
昨晩俺達が食べた缶詰の空缶は捨てられもせず台所に転がっている。だらし
ない妻だ。製造番号「F335」。俺はほっとした。
棚の奥の馬肉缶の番号を確認した。「F673」「F409」「F141」、そして
「K944」。
あわてて「K944」を取り出そうとしたが、しばらく考えて、そのままにして
おいた。
数日後、工場から帰ったら妻がちゃぶ台に寄りかかって馬肉缶を食べている。
『あなたの分も半分残しておいたわよ』。
俺はさりげなく台所の馬肉缶を確認した。残りは「F409」「F141」「K944」。
俺は残り半分を美味しくいただいた。
2日後、帰宅したら妻が寝込んでいる。
『あなた、気分が悪いから横になるわ。晩御飯は馬肉缶ですませて…』。
俺は嬉しくなって台所に確認に行った。しかし、棚に残っていたのは「F409」
と「K944」の2缶だった。
『チェッ!まだ、残ってやがる』。
俺は小さくつぶやいた。ちゃぶ台にすわって晩飯を食べていると、気分の悪い
という妻が俺の顔をじっと見つめている。
「こんなブスに見つめられたら、旨い馬肉もまずくなってしまう…」。
『あなた、馬肉美味しい?』
『旨いよ、お前も少し食うか?』
『いや、いいわ、あなは全部食べて。だってその馬肉缶、原田さんがわざ
わざあなたに食べさせて、って言って昼間に持ってきてくださったの』。
俺はビックリして台所に行って見た。
いつもはだらしない妻が、空になった馬肉缶をゴミ箱の奥に見えないように
捨てている。
製造番号は「K347」だった。