10/01/20 03:41:26 O
「おい、まだかよ?」俺は、女房の背中に向かって言った。どうして女という奴は支度に時間が掛かるのだろう。「もうすぐ済むわ。そんなに急ぐことないでしょ。ほら翔ちゃん、バタバタしないの!」
確かに女房の言う通りだが、せっかちは俺の性分だから仕方がない。
今年もあとわずか。世間は慌ただしさに包まれていた。俺は背広のポケットからタバコを取り出し、火を点けた。
「いきなりでお義父さんとお義母さんビックリしないかしら?」「なあに、孫の顔を見た途端ニコニコ顔になるさ」俺は傍らで横になっている息子を眺めて言った。
「お待たせ。いいわよ。…あら?」「ん、どうした?」
「あなた、ここ、ここ」
女房が俺の首元を指差すので、触ってみた。
「あっ、忘れてた」「あなたったら、せっかちなうえにそそっかしいんだから。こっち向いて」
「あなた…愛してるわ」女房は俺の首周りを整えながら、独り言のように言った。
「何だよ、いきなり」「いいじゃない、夫婦なんだから」
女房は下を向いたままだったが、照れているようだ。「そうか…、俺も愛しているよ」こんなにはっきり言ったのは何年ぶりだろう。少し気恥ずかしかったが、気分は悪くない。俺は、女房の手を握った。「じゃ、行くか」「ええ」
俺は、足元の台を蹴った。