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電柱に5時間、濁流逃れる でも目の前で自宅が…
2009年8月16日15時23分
豪雨のあの夜、佐用川の氾濫(はんらん)で胸までの水に襲われた佐用町久崎(くざき)地区の
泉幸男(ゆきお)さん(65)は、とっさの判断で自宅そばの電柱によじ登って難を逃れた。
ただ、退職金をつぎ込んで改装した我が家が目の前で濁流にのまれた。15日、朝日新聞の取材に応じ、
当時の状況を語った。
「川があふれそうやわ」。朝から降る雨が激しさを増した9日午後9時ごろ、地区の会合が開かれていた
福祉センターに知人が駆け込んできた。泉さんは妻(59)のことが心配になり、100メートルほど
離れた自宅に戻った。留守を確認した後、水たまりがあるくらいだった道路が、みるみるうちに冠水。
あっという間に胸くらいの高さになった。
これは、やばい―。自宅前にある高さ約8メートルの電柱に飛びついた。「バーン」「ゴー、ゴー」。
ものすごい音とともに水が押し寄せ、佐用川の堤防付近に立っていたはずの大きな桜の木が
電柱のそばを流れていった。自宅に目をやると、まさに土台が傾こうとしていた。
NTT西日本を6年前に辞め、退職金を使って改装した「終(つい)の住処(すみか)」だった。
「大好きなビールをおいしく飲もう」とサウナまでこしらえた家を濁流は容赦なく攻め立て、
壁や窓をぶち抜いた。「まるで、映画の撮影のようだった」。雨が峠を越したことを知らせる
町内放送が流れるまでの約5時間、自然の猛威になすすべもなかった。
幸い、妻は友人の家に避難して無事だった。被災後には、泥水に流された妻の財布や先祖の
位牌(いはい)を拾ってきてくれた人がいた。絶望のふちで、地域のぬくもりや人の優しさに触れた。
「佐用は泥だらけになり、家も住めへんようになった。けど、人情に厚いこの町が好きなんや」。
泉さんは傾いた家を見つめ、つぶやいた。(川田惇史)
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