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秋葉原の無差別殺傷事件から一年が経(た)つ。日曜日の歩行者天国を襲ったことや、
犯行直前まで続けられていた加藤智大被告本人による書き込み、事件が浮かび上がらせて
しまった派遣労働の問題、若い世代の生きづらさ、などが議論された。
それらは、事件とは直接関係ない人々によってなされた。
私が当時の事件報道に接して強い印象を受けたのは、取り押さえられた時の加藤被告の
横顔が私自身にそっくりだったということだ。事件とは直接関係ない人間として、これは
かなりの驚きだった。事件と自分が、関係ないまま結びついた。
本人の書き込みによれば、友人も彼女もいない、という孤独を抱えていたらしい。
派遣先で親しい人はいたようだし、一時期は彼女もいた、という話もあるが、
事件を起こす頃にはかなり追いつめられていたのだろう。
情けないことだが私は恋愛を経験したことがない。その原因が自分の容姿と性格にある、と
思っているとすると、私と加藤被告の相似は横顔だけではないことになる。彼は自らの内部に
溜(た)め込んだ力を外に向かって爆発させてしまった。25歳でだ。
私はいま36歳だ。30代のうちはまだいい。自分を情けないやつだと思いながら生きてゆける。
だが4年後、40歳になる時点で、果たしてどうなっているだろうか。私は力を外に向かって
爆発させはしないだろう。それは私がばかではないからだ。となると私は私自身の前で
たじろがなくてはならない。外に向けない力を、自分に向けてしまうかもしれないからだ。
加藤被告は働いていた。働く意思があった。私は高校卒業後10年以上、働く気もなくぶらぶらしていた。
人間としてどちらが真面目(まじめ)か。私が生き延びる道はそこにしかなさそうだ。不真面目であること。
ただしこれは私の話。誰にでも当てはまるわけではない。
■たなか・しんや■
作家。72年生まれ。新潮新人賞でデビュー後、08年に川端康成文学賞と三島由紀夫賞を
相次ぎ受賞。芥川賞候補にもなった。出身地の下関市で創作を続ける。
URLリンク(mytown.asahi.com)
ソース(asahi.com):
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