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3年前の春、九州北部のある公立中学校。入学式に新入生の陽介(仮名、12)の姿はなかった。2日目も、3日目も。
母親は電話で「体調が悪いから」と説明するばかり。ぴんときた担任教諭は学校指定の制服業者に電話した。
「ああ、その子、受け取りに来てませんよ」
採寸して注文はしたが、約3万5千円のお金がなくて取りに行けず、登校させられなかった-。母親は、そう打ち明けた。
校長が立て替え、制服を陽介の家に届けた。担任の勧めで母親は就学援助を申請し、校長に少しずつ返済すると約束した。
4日目、陽介は真新しい制服に身を包み、ようやく校門をくぐった。
翌年からこの中学では、制服を取りに来ていない生徒がいないか、入学式前に制服業者に確認するようにした。
スタートから子どもがつまずくようなことがあってはならない。
「制服だけじゃない。収入のある家庭には何でもないことも、貧しい家庭の子にとっては関門なんです」。福岡市の学校関係者は打ち明ける。
市立中学校に修学旅行をためらっている佳純(同、14)がいた。
担任が「旅行代は就学援助で賄えますよ」と説明すると、母親は消え入りそうな声で答えた。
「でも、きれいな下着やパジャマをそろえてあげられない。お小遣いも1万円なんて無理。惨めな思いをさせるくらいなら」。佳純は結局、参加しなかった。
〈男子11万2972円。女子12万1572円〉
福岡市のある市立中学校で、入学前後にかかる制服や運動着、通学かばん、校納金(テスト代など)の保護者負担金の合計だ。
就学援助を受けても、1年生への年間支給額は約4万8千円で約4割しか賄えない。
さらに部活に入れば、例えば野球部ならスパイク、グラブなどで初年度に約15万円かかる。
「義務教育は、これを無償とする」。憲法26条はこううたうが、実際は公立校であっても保護者の負担は重い。
家庭の懐事情によって学びの場に格差が生じる。それを防ぐため、対策に乗り出した自治体もある。
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