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朝日新聞 1989年10月07日朝刊
平和賞は何をもたらすか(社説)
チベットのダライ・ラマ14世に、ノーベル平和賞が授与されることになった。チベットの宗教・政治の指導者として、非暴力の闘争を長年続けてきたことを評価したのだという。
これに対し中国側は「内政干渉だ」と強く反発している。
ノーベル平和賞はこれまでにも、ポーランドのワレサ氏やソ連のサハロフ氏ら、東側の体制の中で抵抗運動を続けてきた人物に与えられ、政権の神経を逆なでしたことがあった。
今度のケースも、ダライ・ラマがインドに亡命政権を樹立しており、授賞自体が政治的性格を帯びている。
選考委員会は、中国の政治指導者への非難を意図するものではない、と言ってはいる。しかし、87年秋から4回も起こったチベットの暴動に対する武力鎮圧、
今年3月にラサで発動され、いまも続いている戒厳令、さらには北京・天安門の「血の日曜日」事件など一連の中国の強硬政策に対して不快の念を表明しようとする西側の意図が背後にある、
と見ても見当違いではないだろう。
中国の反発は当然予想されたことであり、全世界がこぞって祝福する授賞にならなかったのは残念である。平和賞があまりに政治的になり、
対立を助長することにもなりかねないことに違和感を持つ人も少なくない。平和のための賞が結果として、チベットの緊張を高めるおそれさえある。
こんなことになれば、「平和賞」の名が泣こう。
チベットの人々にとって、この受賞の意味は大きい。チベット問題が広く世界に認識される足がかりとなるからだ。
しかしあくまでダライ・ラマの「非暴力」が評価されたことを忘れてはなるまい。