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シュテファン・ツヴァイク著 「昨日の世界」1 (みすず書房刊) 「一九一四年、戦争の最初の頃」より
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一九一四年の大戦のこの最初の数週間のうちに、誰かと道理にかなった対話を交わすことは、次第に不可能になった。
最も平和を好む人々、最も気立てのいい人々も、血の臭いに酔ったようであった。
いつもは断乎たる個人主義者であり、精神的なアナーキストであるとさえ信じていた友人たちが、
一夜にして狂信的な愛国者に変り、更に愛国者から飽くことのない併呑主義者に変っていった。
どんな対話も次のような愚かしいきまり文句に終わった、「憎むことのできぬ者は、真に愛することもできないのだ」。
あるいは人に粗野な嫌疑をかけることで終るのであった。
数年来一度も争ったことのない仲間たちが、私のことをもうオーストリア人ではない、と全く乱暴に非難した。
君はフランスかベルギーに移ってゆくべきだ、と言うのであった。
そればかりではない、彼らは慎重に次のようなことをほのめかしさえした。
この戦争がひとつの犯罪であるなどというような意見は、本来なら官憲に知らせるべきである。
なぜなら「敗北主義者」―この名文句はちょうどフランスで発明されていた―は、祖国に対する最も重い犯罪人であるからだ、ということであった。