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続き
そしたら、馬鹿者は、教官の話の腰を折って、とんでもないことを言いました。
「へええ、そんなこと思い込んでるんですか。HK先生は『カタカナは、20世紀半ばに、外来語を書くために発明したものだ』と言っていましたよ」
講義中、大概のことでは穏やかな話し方を崩さないF爺先生も、この時は、瞬間的に湧き上がった激しい怒りと深い軽蔑を隠すことが出来ませんでした。
自分の声が荒くなっているのを感じましたが、敢えて制御せずに、言うべきことを直截な厳しい言葉でぶちまけました。
「日本人の日本語教官に向かって、日本語の歴史に関することで『そんなことを思い込んで』とは、何という無礼な言い方だ。黙りなさい。HK先生が本当にそんなことを言ったのだとしたら、『HK先生は無知蒙昧だ。馬鹿だ。日本語教師失格だ』ということになりますよ。私の言ったことは、教養ある日本人なら誰でも知っている歴史的な事実です。何も知らない初心者のくせに侮辱を意図した『思い込み』などという傲岸不遜な言い方は赦しません。撤回しなさい」
傲岸不遜な馬鹿者は、押し黙っただけで、一言(ひとこと)も撤回しませんでした。
当然のことですが、他の受講者全員が教官を支持しています。
F爺先生が続けました。
「そういう物言いを敢えて弄するとなると、あなたは、何も知らないくせに〈自分は正しい答えを知っていると思い込んでいて、教官がどれくらい物を知らないか、試したつもり〉なんですね。上から目線の態度のその行動がどれほど無礼で笑止千万なことか、認識できないんですね」
馬鹿者は、押し黙ったままで抗弁しませんでした。
フランス社会では、【抗弁できない者は、議論に負けた】と見做します。ですから、この時は、これ以上のことを言う必要はありませんでした。