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J1リーグ第30節現在、FC東京はリーグ最少失点を誇っている。
その堅牢な守備力によって年間総合順位で3位につけ、セカンドステージでは熾烈な優勝争いを演じる。
27失点は1試合平均で0.9失点。すなわち、最少得点で勝利できることを表している。
「ウノゼロ」
イタリア語で1-0を意味する勝利式は、今や東京の代名詞になった。今シーズンはすでに7度、
このスコアで勝利。”ゴールに鍵をかける”イタリア人監督マッシモ・フィッカデンティの色が濃く出ている。
「守備を固める」というと、日本では人海戦術に流れやすい。ゴール前で人垣を築き、
あとは個人の肉弾戦に頼る形だ。しかしイタリア人監督はポジショニングを重視、ゾーンでの守りを確立し、
要塞化している。
「つまらない」
そう揶揄(やゆ)する声もある。なにしろリスクを冒さない。積極的なビルドアップはせず、
中盤でボールをつなげて丹念にゲームを作る作業は求められない。ボールを失う危険は、
ウノゼロにとって悪なのだ。
「ザック(ザッケローニ)もそうでしたが、マッシモは”どうやって失点をゼロにするか”という部分で、
(自分が経験した監督の中では)最も論理的だと思います」
東京のMFとして「戦術を司る」高橋秀人は、”イタリアの流儀”について説明している。
「マッシモは練習のときから、”カバーする位置取りながら、なおかつチャレンジにもいける”という
ポジショニングにすごくこだわりがありますね。俺はこいつしか見ない、というような守備は絶対に許さない。
ゾーンディフェンスで、その網目の意識は強く持っています。例えばサイドの選手は、中のコースを切るのが絶対。
とにかく中を切って、敵に侵入させず、とりあえずバックパスを出させたらOKというか。ボールにチャレンジしたい、
というストレスは少なからずあるんですが、そこは我慢をしながらですね。チームとして徹底的にリスクを回避しているんで」
東京は伝統的に「攻撃サッカー」の印象が強いが、実は守りに強い選手が多い。
ウノゼロが浸透したのは必然だった。
例えばリオ世代のMF橋本拳人も、ウノゼロで覚醒した選手の一人だろう。1点リードで逃げ切りの場面、
(敵攻撃に)”ふたする”クローザー役から台頭。間合いとタイミングに優れ、タコが獲物を絡め取るように
ボールを奪える。”どこにいつ入ったら、ボールを奪えるのか”という勘の良さも持ち、それを守備だけでなく、
攻撃でも使える。インサイドハーフとしては巧妙にゴール前へ入って得点力も示しており、
将来的には日本を代表する守備者になり得る。
「マッシモのおかげで、チーム全体の守備意識が上がっています。“ポジショニングが良くなったな”と思う
選手がいるんですけど、それは本人も気づいていない。無意識の成長と言えるかもしれません」
高橋が証言しているように、チーム全体の進化がウノゼロの現象を生み出している。
フィッカデンティ監督就任2年目で、戦術は着実に浸透。システムは4-3-1-2、4-4-2、4-1-4-1
(4-3-3)、3-5-2と多彩だが、守備理念は変わらない。11人がカバー&チャレンジで同じ意識を持ち、
ゾーンに入ってきた敵を殲滅(せんめつ)する。守備の安定を得たことで選手間の距離感が向上、
攻撃にも好循環をもたらしつつある。
論理的に構成されているだけにショートカウンターは鋭く、セカンドステージ第10節のヴィッセル神戸戦は
会心の出来だった。1点目は高い位置で米本拓司がボールを奪い、それを高橋秀人がドリブルで
カウンターを仕掛け、パスを受けた前田遼一が突き刺した。その間、わずか数秒の出来事だった。
2点目も最終ラインから逆サイドへのロングフィードを東慶悟が持ち込み、それを同じく前田が中央で合わせた。
3点目も自陣深くから高橋が左サイドの東に長いスルーパスを通し、これをまたも前田が蹴り込んだ。
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