13/05/09 06:43:14.80 5ZBRw4Xn
メンタリスト
220:Trader@Live!
13/05/10 17:26:09.71 k40LjGya
☆ チン 〃 ∧_∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ヽ ___\(\・∀・)< 更新マダー?
\_/⊂ ⊂_)_ \_______
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221:stream ◆7BCqQNeXLU
13/05/13 10:58:09.22 RpurUAgn
『The Children』
I'll be back.
誰かが言った。
戻りたい未来に、果たしてなっているのだろうか。
―デヴィッド・コールフィールド博士『もうひとつの未来』
(1)
こんな未来を、俺たちは望んでいたのだろうか?
人類が繁栄を求め、突き進んだ結果がこれなのだろうか?
そもそも未来とは、あらかじめ決まっているものなのか?
仲間からスペードと呼ばれる少年は、少しかびが付着したブドウパンを噛み千切りながら考え続けていた。
食糧については贅沢を言っていられない、なにせ三日ぶりの食事なのだ。
いつもどおり周到に注意深く視線を走らせながら食べる―決して気を緩めたりはしない。
ガチャリ。倉庫の扉に誰かが手をかけた音が聞こえた。さっと緊張が走る。
扉の向こうから小太りの少年がひょいと顔をのぞかせ、小声で合い言葉を言う。
合図が正しいものだと分かると、小太りの少年―クローバーと呼ばれていた―は倉庫の奥に通された。山積みされた荷物の最上段から別の少女が拳銃で狙いを定めていたが、仲間だと分かると照準を外した。
「スペード君、お待たせ。大漁だったよ!」クローバーは両手で抱えた茶色の紙袋を見せながら言う。
「おう、やるなクローバー。中身は何だい。さてはまた食料だな」と倉庫の中央ブロックからスペードが飛び降りて言う。
「どうせまた、バタークッキーでしょ」最上段で銃を構えていた少女も降りてきて会話に加わった。
「鋭いなあ、ハートちゃんは。聞いて聞いて、おれ死にもの狂いで盗って来たんだからさ。ちょうど奴等の運搬車の幌が開いてる隙にね……」クローバーが息を弾ませて答える。
「わお、やるじゃない、クローバー。あなたの分のブドウパンは残しているから、それと一緒に食べましょう」
彼らは三人は皆、名前すらないみなしごだ。名前がないと不便なので、それぞれをトランプの柄になぞらえて呼んでいる。
リーダー格の短髪の少年がスペード。小太りで大食いの少年がクローバー。気が強いが、優しい少女のことはハートと呼んでいる。
三人とも十代半ばの少年少女で、親はいない。と言うより、大人たちはすべて自分たちの敵と認識していた。意味論的な敵ということではない。この時代の大人たちは、彼らのような少年少女を全力で殺しに来る。
手には火炎放射器などの武器を携えて―大人たちによる、子供狩りが行われていた。
222:stream ◆7BCqQNeXLU
13/05/13 10:59:05.62 RpurUAgn
(2)
最近も少年たちの仲間の一人が殺された。それは彼らがダイヤと呼んでいた少年だった。敵は防護マスクで顔を隠し、少年を丸焦げにし焼き払った。後には骨のかけらひとつ残らなかった。
「で、他に何か分かったかい、クローバー? 奴等に接近できたんだろう」スペードが問う。
「それが、盗むものの吟味に夢中で……でもあいつら何も喋らないんだ。無言のまま、子供を殺していくんだ」
「俺たち以外にまだ生き残りがいたんだ! ちきしょう……ダイヤの仇も討ってやらないとな」スペードは小刻みに体を震わせる。
「そうね……あっ、そう言えばさっき通信端末にデータ受信があったわ。そっか、今日はハイローの日ね」
ハートが腰の小物入れから携帯端末を取り出した。透明な四角いフィルムだけで構成される代物で、そこに情報を映し出す。ハイローというのは中央政府が行っている一種の公営賭博で、質問の答えを二択形式で答えるものだ。
ハイローに正解すると、この時代の通貨を獲得できる。子供だと言う素性さえばれなければ、買物もすることができる。いつの時代も、金は生きていく上で少なからず役立つ。
『質問―現在、全世界に存在する十六歳未満の子供の数は、百人より上か下か?』
「えっ? 何これ? こんなの分かんないよ。スペード、クローバー、どう思う? ハイかローか」
フィルムに制限時間が表示される。残り一分で答えを導き出さなくてはならない。しかしどんなに子供が減っているとは言え、全世界で百人未満はないだろう。スペードは『ハイ(High)』と言った。クローバーもそれに同意した。
しかし、ハートの考えは違った。前回のハイローのときの質問を思い起こしていたのだ。
前回の質問は『子供狩りを正しい行いと考える大人の数は、全体の九十パーセントより上か下か?』というものだった。そのときも同様の壁に突き当たった。そのときはまだ生きていたダイヤが言った。
「そんなの、九十パーセントもいるわけ無いよ。馬鹿げてる。ロー! ローに決まっている」彼はそう言ったのだ。
答えはフィルム上に『ハイ』であると映し出された。おかげで賞金を獲得できないばかりか、全員を落胆させた。実に九十九パーセントの大人が、子供を虐殺する行為を正とみなしていたと言うのだから。
ハートはフィルムを隅々まで眺め、やがて決したように『ロー』を選択した。
クローバーは悲鳴にも似た声を上げた―これでまた、ブドウパンを好きなだけ食べる夢から遠ざかってしまう。
今回の結果もすぐに示された。スピードはその内容に複雑な表情を浮かべ、クローバーは単純に喜んだ。
『全世界に存在する十六歳未満の子供の数は、既に五十人を切っている(中央政府調べ)』
「まあ、何にせよ。賞金獲得を喜びましょう。結構張り込んだから当座の資金は確保できたわ」ハートは長い黒髪を揺らす。
スペードはハートを見て思った。
《彼女の綺麗な髪も、カットしてやることもできねえ、もっと着飾ってもおかしくないのに。この時代の大人共は何をしたいんだ? どうしてこんなに俺たちを追い込むんだ? いいだろう、ここまでするのなら全力で戦ってやろうじゃないか。あの兄貴のように》
223:stream ◆7BCqQNeXLU
13/05/13 10:59:56.36 RpurUAgn
(3)
スペードには、少し年の離れた兄貴がいた。孤児たちが結束し徒党を組んだとき、彼はその伝説的なリーダーであり、キングと呼ばれていた。
二十名ほどの集団で始まったそのグループ『Nothing All(何も持たざる者たち)』は、次第に力をつけて武力を駆使し、大人たちに恐れられるほどになった。
凄惨な銃撃戦もあった。火炎弾が飛び交い、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開した。それでも大人たちの攻撃がやむ事は無かった。
数の理論で、子供は次第に蹂躙されていった。なぜ大人が子供を襲うのかは、誰にも分からなかった。それと同様に、スペードの兄貴が不意に姿を消した理由も誰にも分からなかった。
―ハートが稼いだ賞金で、キングが好きだったシュレップスでも飲むか。そうスペードが提案すると、食いしん坊のクローバーは即座にうなずいた。彼は、食欲と睡眠欲の権化だった。美味しいものを食べて、ぐっすり眠る事が一番の幸せだそうだ。
ハートもすんなり同意した。彼女の場合は、好奇心や向上心が旺盛で知識欲が強い。おそらく美の欲望も少女なりにあるのだろうが、おくびにも出さずかみ殺しているようだった。
自分はと言えば……性欲かなとスペードは自嘲した。こんな戦禍にあってハートに恋心を抱くなんてどうかしてる。自分に何度も言い聞かせた。しかし、日増しに彼女への思いは募っていった。それでも戦闘が終結するまではこの思いを成就させることはないだろう。
恋人は自分の生命線、すなわち弱点になると考えているからだ。そのフラストレーションを爆発させるために戦っているという一面があることも否定できなかった。
シュレップスを買いに行くのに、俺たちの誰かが行くわけにはいかない。いくら変装したとしても子供だということはすぐにばれてしまう。しかし、いつの時代でも抜け道はある。ちょっとしたお金で協力してくれる大人はいるのだ。
まあ、フミばあさんの場合は小銭稼ぎと言うよりは単に俺たちの味方をしたいらしいのだが。
そのフミさんが、倉庫に姿を現した。
五十代という話は聞いたことがあるが、とてもそうは見えなかった。そういう女性に対しては、妙齢と言うのが良いそうだ。スペードはよく理解できなかったが、耳年増のハートに教えてもらった。
フミは若い頃、旅のサーカス一座で大砲ショーに出演する看板女優だった。そのスレンダーな肢体は観客を魅了し、今でもその片鱗を残している。
目じりや首にしわは残っているが、まだまだ現役と言わんばかりの小柄な体躯は贅肉がほとんどなく、十代のハートとあまり変わらない。社交ダンスの先生、と言えば一番しっくり来るかも知れない。
「あんら、スペードちゃん、クローバーちゃん、ハートちゃん。元気にしてた? しばらくぶりね? あれ、ダイヤちゃんの姿が見えないようね」
その質問に対して、誰も答えなかった。フミは声のトーンを落として、話を続けた。
「それで、何か必要なものでもあるのかな。私で良ければいつもの所から仕入れてくるよ」
ハートがフィルムの端末をフミに手渡す。端末を市場の決済システムにかざすだけで買物はできる仕組みだ。ただしそこでの監視カメラで、簡単に子供は判別されてしまい、店の奥から大人が飛び出してくる算段だ。そして直ちに殺戮が開始されるのだ。
「フミさん、風のうわさで聞いたんだけど虚無の塔って聞いたこと無い? 何でもそこに子供が大勢幽閉されているらしいの」ハートが尋ねた。
「何だって? 俺はそんな情報初めて聞いたぜ。どこで聞いたんだハート?」リーダー気取りでスペードが聞く。
「えっと……ごめん。ダイヤがやられる間際に、私だけに……」ばつが悪そうに言う。
「そ……そっか。それならいいんだ。悪かったな、話の腰を折って」
スペードは言葉の端々から動揺を隠せなかった。何となく、ダイヤの気持ちが分かった気がした。きっと俺と同じ感情を抱いていたのだろう。
「虚無の塔? 港の灯台を言ってるんかねぇ。確かにあそこに子供たちが隔離されているという噂はよく聞くさね。それでもあそこはダメさ。もの凄い警備で幾らあんたたちでも蜂の巣にされちまうよ」
「大丈夫だよ、俺たちがいつまでも無防備だと思ってるのは、バカな大人どもだけさ」
スペードはそう言って、一番上の箱から三丁の自動拳銃を取り出した。
224:stream ◆7BCqQNeXLU
13/05/13 11:01:16.50 RpurUAgn
(4)
三人は虚無の塔に乗り込んですぐに、ここに来た事を後悔し始めていた。
警備兵が多かったのではない―その逆だ。あまりにも人の気配が無く、銃を片手に意気揚々と乗り込んで来たことが馬鹿らしく思えてきたのだ。
さらに言うと、通行手段の螺旋階段は海への吹きさらしで、吹き上がる夜風が凍りつくほど冷たかった。
それでも三人は、黙々と屋上へ歩を進める。しかし中腹ほどの高さへ来たときハートが口を開いた。
「ねえ、スペード、今夜はやめにしない? 多分上まで行っても何も無いよ。ほら、ここら辺もクモの巣だらけじゃない」
「僕も賛成だな、スペード君。それにこんなに急な階段は、僕にはとてもきついよ」
「いい運動になってちょうどいいじゃないか、クローバー。でも、ハートの言うとおりだな。帰るとするか。でも、せっかくここまで来たんだから屋上の景色でも拝んでいかないか?」
「エーッ」と二人から反対の声が上がる。
そのとき……
「いやー、今日の見回りはきついな」
「大体、こんな薄気味悪いところ、誰もこないぜ。ったく人使いが荒いよな、うちのボスも」
上の方から二人の男の声が耳に飛び込んできた。
螺旋階段は一本道でどこにも逃げ道は無い。このまま後戻りするにも、足音でばれる可能性の方が高い。
スペードはハートの顔を見た。顔面蒼白だった。クローバーは、先ほどまでの辛そうな表情とは異なる顔を見せていた。
「ここは僕に任せて。見張りがいるってことは、やっぱりここで合ってたんだよ。二人はその手すりからちょっとの間だけぶらさがっていてもらえればいい」
「何言ってる! 俺たちも戦うよ」
「そうよ」
「ごめん、押し問答してる時間はなさそうだね」そう言うと、クローバーは二人を手すりに追いやった。押し出される格好となった二人は、勢い宙吊りになる。
「何だ、貴様は!」衛兵が上段から、小太りの少年を見つけて叫ぶ。
その声に呼応するように、クローバーが階段を全力で駆け下りていく。二人の衛兵はそれを反射的に追った。暗闇にまぎれてぶら下がっているスペードとハートに気づく素振りは無かった。
クローバーは疾走した。しかし、登りで体力の半分を使い切ったらしく足がもつれてしまった。階段をもの凄い勢いで転げ落ちる。海に落ちることは免れたが、全身を打ちつけてしまい起き上がれそうも無かった。
階段で倒れこむ少年を見つけ、見下ろす二人の男。
「何だこいつ、自分でのびちまいやがった」
「おい、ガキだぜ。ってことは、また殺さなきゃならないのか」
「そうだな、おっ、便利なものがあるぜ。こいつ自分で殺されるために、わざわざ銃を用意してきたのか」
「間抜けなやつだ」片方の男が銃を取り、クローバーに突きつける。
クローバーはぐったりした体を起こされるとカッと目を見開き、男につばを吐きかけた。そして言った。
「俺は最後までこんなんだな。でもな……」
ドウリャア! という掛け声と共に、男二人に両手を回して突進した。
意表を突くその動きが勝負の明暗を分けた。男二人は、真っ直ぐに突っ込んでくるとは予測していなかったのだ。何せ、その先には断崖が切り立つ漆黒の海が待ち構えているのだから。
スペードとハートは、クローバーの決死の覚悟を受け止めつつも、やはり見過ごす事はできないと階段を駆け下りた。しかし彼の最後の姿を見ることはできなかった。二人が聞いたのは、海に落ちていく大人の絶叫だけだった。
「クローバー、何でだよ……格好つけやがって」
「ほんとバカよ……こんなことなら……私のブドウパン、もっと分けてあげたかった。……バカ」
225:stream ◆7BCqQNeXLU
13/05/13 11:03:06.69 RpurUAgn
(5)
屋上は想像していた以上に広かった。そしてその光景に圧倒された。
鎖でつながれた幾つもの人間。月明かりが十分に届き、その異様な景観を映し出していた。
全員が子供でなく……老人の姿だった。
「何、これ……どうなっているの」
鎖でつながれた老人たちは、言葉を忘れた子供のように見えた。
広い空間に、明かりが付いた。心臓が早鐘を打つ。スペードは拳銃を持ち、身構えた。
奥に一人の男の姿が見える。それは防護マスクを被った男で、前に子供を火炎放射器で殺すところを見たことがあった。何度か見た他の男たちと雰囲気が違うことは明らかだった。
全身で威圧するような足取りで、ゆっくりとスペードたちに近づいてくる。
スペードは拳銃を構え、声を上げた。
「これからあんたは、俺を殺すつもりだろ。それなら最後に教えてくれないか? どうして大人どもは俺たちを殺そうとするのか、それに何の意味があるのか知りたいんだ!」
男はマスクを外さずに答えた。それでもその声は、闇夜に響き渡った。
「ミドリムシ理論を知っているか?」
スピードはハートの方を見た。仲間内での知識担当―その彼女が首を横に振った。
「―聞いたこともない。それが何なんだ」スペードが答える。
「では、質問を変えよう。この世界が平和になればいいと考えた事はあるか?」
それには即答できた。
「あるさ、もちろん。争いのない平和な世界になればどれだけいいかって、いつも考えてるさ」
「それが過ちなんだよ」少年の反応を待つ前に、男は続けた。
「生物が本当の意味で平和になると……つまり食物連鎖や弱肉強食がなくなるとどうなるか考えてみればいい。互いに殺し合わなくていい世界になると、そこでの一番の強者は、太陽だけで生活できる生き物になる。
それがすなわちミドリムシ理論だ。強い者など必要が無くなり、生物のバランスがすべて崩壊する。惑星は緑色に埋め尽くされ……永遠に時を止める」
「それと、子供たちを殺す事に何の関係があるんだ!」
「大有りだよ。食物連鎖の頂点に君臨する人間が戦うことを放棄し始めたのだから。お前らみたいな反抗的なガキを除いて、世界中のガキがどうなっちまったのか知らないだろう」
「そりゃ知るわけ無いさ。お前ら大人どもが様々な情報を統制し、俺たちには何も教えないようにしたんだからな」
「……それは、ある種の不可抗力だ。まあいい、教えてやろう。ある時期から、世界中のガキどもはな、大人になるまでに自ら死を選ぶようになったんだ。世界や社会に何の希望を見出す事ができず、絶望する。
そして必ず自殺を図るんだ。必ずだ。そこには完全な平和を見ているのかも知れない。そして生物界のバランスは無に帰した」
226:stream ◆7BCqQNeXLU
13/05/13 11:03:53.16 RpurUAgn
(6)
「そんなのって……」ハートが言葉を漏らす。
「そこのつながれた奴らを見てみろ」男はあごをしゃくった。「こいつらをガキの頃からつなぎとめて学者連中が観察してたらしいが、誰一人として生きようとするものはいなかったんだよ。
鎖を外そうとすらしないし、外してやってもすぐに死のうとするだけなのさ。ただ繋がれているだけの、抜け殻のような成れの果てさ」
「それは、こんなところに縛り付けているからだろ!」スペードが怒鳴った。
「どこであっても結果は同じだよ、スペード。世界各国で実験はすでに終わっている。これは生物学的な問題なんだ。人間がそういう具合になっちまったんだよ。その絶滅への道を回避するためには……」
「生存競争をしかけて、種の保存特性を発現させようという試みね」
「いい答えだよ。大づかみに言えばそういうことだ。危険な状態にさらされて始めて、生きようという意識が働くらしい。子供の世話を焼く大人もそれなりに大変なんだぜ」
そう言うと男は、ゆっくりと防護マスクを取り外した。
年を重ねてはいたが、その顔は紛れもなくキングだった。
「キング……ちくしょう! 兄貴だったのかよ!」
キングは無表情で弟を見つめた。
「俺もまだガキの頃は、お前らと同じ考えで抵抗していただろ? だが事実を知って何もかもバカらしくなった。分かるだろお前なら、スペード?」
「だからと言って、殺し合いに自ら加担する事はないだろう。他にやり方はなかったのかよ!」
「俺が言いたい事はそこじゃない。人間が進化を遂げて、無性に死を選ぶ種族になった。それは分かるな? 生きる意識を完全に失ってしまったってことだ。そこで立ち現れるのが―需要と供給。全ての経済活動がそうだが、不思議とその両方が無いと成立しないんだ」
「いったい何の話だ?」
「死を望む者が生まれるのと同時に、それを供給する側の進化も始まったってわけだ。俺はある時期から、ただ殺す事が生きがいの人間に変化した。息を吸うように、食事をするように、あるいは眠るように殺す。
そうしなければ全てのバランスや秩序が保たれない。それが俺のたどった進化なんだよ」
言霊に聞き入ってしまい、スペードとハートの反応が遅れた。スウッと構えられたキングの手には、この時代には珍しいリボルバー式の拳銃が握られていた。
227:stream ◆7BCqQNeXLU
13/05/13 11:04:10.37 RpurUAgn
(7)
「どうやら、お前らが最後の二人のガキらしいな。お前らより上の世代はすでに絶望に支配されて、交尾するやつなどひとりもいなくなっちまった。これで終わりさ……」
キングはゆっくりと引き金を引き絞った。照準はスペードに合わされている。外す事は無いだろう。スペードとハートは目を固く閉じた。
ドスンッ! パァァン!
何かの塊が激突する音と、乾いた音が交錯した。
黒い影がキングに覆いかぶさっている……
「フミさん!」スペードは叫んだ。
キングに馬乗りとなって、拳銃を床に弾き飛ばしたのはフミだった。大砲ショーのように、遠くの物陰から一直線に空中ダイブをしたのだ。床に滴り落ちる血液と硝煙の臭い。
ハートはキングの手からこぼれ落ちた銃を右足で踏み、倒れているキングに銃口を向けた―チェックメイト。
スペードはフミの下に駆け寄った。キングの上から崩れ落ち、仰向けに横たわっている。腹部からの出血がおびただしい。
「フミさん、何でだよ。どうしてこんな無茶を……」
スペードはフミの手を握り、くたっとなった弱々しい小さな体を胸に抱きすくめた。
「いいんだよ、私はもう十分に生きた。これがきっと私の役目じゃろうて」呼吸を整えながら、フミが言った。
「フミさん、俺まだあんたに何もしてあげられてないよ」
「いいさね。子供なんてそういうものさ。その成長していく姿を見せてくれるだけでいんだよ」
「……ごめんよ、フミさん」
「そうでもない。まんざらでもないさね。若い子の腕の中で抱きしめられながら、死ぬのものね……」
フミは軽くウィンクしてみせた。それは若かりし頃サーカス団で大いに観客を魅了した、チャーミングな看板女優の笑顔だった。
228:stream ◆7BCqQNeXLU
13/05/13 11:06:49.03 RpurUAgn
(8)
ハートは拳銃を持っていない手で、思わず嗚咽がこみ上げる自分の口を押さえた。その瞬間をキングは見逃さなかった。
ハートの拳銃を平手で叩き落し、すばやく奪い取った。キングの拳銃はハートの足で押さえたままだが、それを拾い上げる前にキングに撃ち抜かれてしまうだろう。
キングは拳銃をひらひらさせた。
「これで逆転だな。お二人さん。スペードはそのばあさんを抱えたせいで両手が使えない。ハートは足元の拳銃を拾い上げるにはとても間に合わない。どうだ? 論理的だろ。これが大人なんだよ。もう諦めな」
スピードはその言葉に逆らうように、事切れたフミを両手でしっかりと抱え上げた。
「それがそうとも限らないんだ、キング」
「な、んだと……?」
「お前からは見えなくても、存在するものは確かにある。お前の言葉を借りるなら、生きる意識ってやつかな。俺はそれを持っている」
「ほう、そうかい。それは残念だな。そのせっかくの芽を俺が摘み取ってしまうんだからな」
キングは残忍な目を光らせる。それはもう、スペードの思い出の兄貴ではなかった。ただの獣のぎらついた目だった。
「いや、お前には見えていない」
雷霆のような銃声が鳴り響いた。フミを持ち上げる両手の下から、煙が立ち昇った。
「こういう持ち方だってあるだろ。角度的に見えなかったとしても、それは存在する。大人の上からの目線からだと死角になって、見えなかったんだろうよ」
フミの体をゆっくりと床に下ろす手には、しっかりと拳銃が握られてた。
「なるほどな……旧式のリボルバーと違って、自動拳銃なら、銃身の上に何があっても撃てるってわけか。見事だ」
それだけ言うと、キングはよろめきながら手すりの近くへ向かった。
「最後は決めてあるんだ。それが定めだろう。自分のことぐらい自分で殺させてくれよ、なあ、スペード」
キングはふっと笑ったかに見えた。最後の瞬間に人間らしい感情を取り戻したのかもしれない。
キングは夜の海へ吸い込まれていった。その後には、静寂だけが残された。
「スペード……」
ハートが胸に飛び込んできた。彼女の体を、フミと同様に強く抱きすくめる。
229:stream ◆7BCqQNeXLU
13/05/13 11:07:18.99 RpurUAgn
(9)
「フミさん、ありがとう」ハートが泣きながら言う。「スペード、私たちはこれからどうなっちゃうの?」
「それは俺たち次第ってことだろう。戦わなきゃ守れないものがあるなら、俺は戦い続ける。決して自分の運命を諦めたりはしない。決してだ。最後まであがき続けてやるさ」
「それも悪くないわね。じゃあ、戻りましょう。ここは寒すぎるわ……んっ、ちょっと待って。こんなときに……」
ハートは苦笑しながら、携帯端末のフィルムを見せた。
「ねぇ、この質問にはどう答えればいいかな? しかもこれ、ハイ/ローじゃなくて、ハイ/イイエになってるわよ。壊れちゃったのかしら」
『質問―ここは、あなたとあなたの隣の人しか存在しない世界です。あなたは隣人と共に歩み、世界を繁栄させていこうと思いますか?』
二人は互いの顔を見合わせ、そして端末の回答ボタンをじっと見つめた。
せーのっ! 二人は掛け声に合わせて、同時にボタンを押した。
答えはもちろん―決まってるだろ?
Fin
230:三日月丸 ◆u16xjoLub8vy
13/05/13 18:33:21.02 Fz5lUon7
うわあああああ
stream先生が帰ってきたよー!
+。:.゜ヽ(´∀`。)ノ゜.:。+゜
これから出かけなきゃいけないから後で読ませてねー。
おかえりー!
231:三日月丸 ◆u16xjoLub8vy
13/05/17 18:15:07.24 Rdh9JWuF
ヾ(´^ω^)ノ わーい面白かったよー。
いつもよりは推敲する前のスケッチみたいな段階の作品なのかなあ。
練り込んだら良作になる予感!
俺は日頃小説を読まないけど、こうやってstream先生の作品を読むようになって発見したことがある!
物語の面白さって、長さ自体はまったく無関係だね。その物語の世界に
浸れるかどうかで面白さの半分以上が決まると思う。
昔アルジャーノンに花束をは短編も長編も両方読んだけど、
長編は短編の持つ斬新さや鮮烈な儚さや切なさが失われて極端につまらなかった。
それもきっとその世界に引き込む力の差だよね。
232:stream ◆7BCqQNeXLU
13/05/20 12:38:57.99 adoGlCRW
三日月丸さん、レスありがとうございました。
いつもながら示唆に富み、とても助かります。
アルジャーノンに花束を、名作ですね。
書き込み規制でしょうかね。。気配がない。。。
さて、ラノベの長編(ジャンル的には勇者ものですかね)がようやく完成しました。
今度、何かの折りでもご紹介できたらと思っています。
それでは。
233:Trader@Live!
13/05/28 19:57:08.62 9IsATeUb
∩(゜∀゜∩)age↑
234:Trader@Live!
13/06/02 19:30:41.02 1PXZLpUD
f
235:Trader@Live!
13/06/02 19:32:42.64 1PXZLpUD
やっとアク禁解除された~
stream先生、新作楽しみに待ってます!
236:Trader@Live!
13/06/05 14:33:10.53 gSNB6mfx
解禁age
237:Trader@Live!
13/06/10 22:39:18.72 09aal+EP
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\(* ´∀`)/
Y Y
238:stream ◆7BCqQNeXLU
13/06/19 15:56:11.89 dpqI7nEg
ご無沙汰しております。
ここまでの作品のいくつかを「小説家になろう」というサイトへUPしてみました。
URLリンク(mypage.syosetu.com)
お時間のあるときにでも、足を運んでいただけますと幸いです(評価などもいただけると励みになります)。
また書いてみたいテーマが、ふつふつとわき上がっている次第です。その際には、よろしくお願いいたします。
※長編の執筆を、長々と続けており、文筆活動はずっと続けております。
それでは、またお会いしましょう ノシ
239:Trader@Live!
13/07/08 18:26:32.43 gbYotfrh
アク禁解けたぞな