12/07/15 08:22:28.64 G2xyMbst0
さやか「あ、マミさんだ」
まどか「おはようございますマミさん」
通学途中、マミさんは一歳年下の友達に会いました。
先日魔法少女になったさやかと、魔法少女候補のまどかです。
QB「やあ、まどか。願い事は決まったかい?」
QBはすかさずまどかに聞きました。
まどか「ううん。まだだよ」
QB「それじゃあ決まったら教えておくれ」
横ではマミさんとさやかが飽きたようにその様子を眺めています。
毎朝同じやり取りを繰り返しているからです。
さやか「大事な願い事なんてそう見つからないしね」
さやかはしみじみ言いました。さやかも幼馴染が怪我をするまで願い事を決めかねていたのです。
3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 08:27:07.11 G2xyMbst0
QBの今日の仕事はおしまいです。
あとは日がな一日、マミさんと友達のおしゃべりを聞いているだけです。
まどか「駅前に新しいケーキ屋さんができるそうです」
マミ「できたら皆で行きましょうか」
QB「マミはケーキが好きだね」
さやか「ケーキが嫌いな女の子はいません!」
時にはほんのちょっぴり参加しながら。
QBの仕事は魔法少女の契約をすることです。
今日も立派に勧誘して、そして失敗しました。
失敗したのならしょうがありません。
失敗が続くのもまたしょうがないことなのです。
4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 08:28:01.99 EvKQksv2O
語呂がいいスレタイ
5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 08:32:31.78 G2xyMbst0
まどか「ほむらちゃん、おはよう」
ほむら「…おはよう」
向こうからもう一人の魔法少女が現れました。
といっても、相手は少し離れたところからマミさんたちを観察しているだけで、近づこうとしません。
マミ「佐倉さんとは仲直りできそうなのに、彼女は難しいわね」
さやか「まあ、杏子のほうもたいがいですけどね」
まどか「ほむらちゃん……」
三人をよそにQBは別のことを考えていました。
ここのところ営業成績は上がりません。
なにしろさやかと契約する以前の実績は数年ほども遡らなければならないのです。
こんな事態はQBにとって初めてでした。
こんな事態になった理由、それはマミさんと契約したあたりから始まっているような気がしました。
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 08:37:41.77 G2xyMbst0
QB「マミ、メソメソしてばかりじゃダメだよ。早く魔女を退治しに行かないと」
マミ「うぅ、でも……」
マミさんの両親は交通事故で死んでしまいました。
かろうじてマミさんだけが生き残り、QBと契約したおかげで助かったのです。
けれど小さいマミさんは両親を恋しがってソウルジェムに穢れを溜め込んでいきました。
QBは考えました。
最終的には魔女になってもらうのですが、あまり早すぎても効率がよくありません。
充分に魔法を使って、魔女を倒してグリーフシードを手に入れて、その上で魔女化するのが一番良いのです。
QB「わかったよマミ。今日はぐっすり休んで明日からまた頑張ろう」
だから計画を変更しました。とりあえず言いくるめておいて、少しでも働いてくれるようしむけたのです。
QB「僕は他の子を勧誘してくるよ」
マミ「待って、行かないで」
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 08:41:58.00 2PRTCQXJ0
しぇん
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 08:44:14.66 G2xyMbst0
QB「なんだい?」
マミ「寂しいの……今日はここにいて」
QB「僕には仕事があるんだよ」
マミ「でも……」
マミさんは今にも泣き出しそうです。
QBは妥協しました。インキュベーターは目的のためなら柔軟な対応ができるのです。
QB「わかった。それじゃあ君が眠るまで一緒にいてあげるよ」
マミ「!」
マミさんは大喜びです。大きな瞳が細くなりました。
すると今度は別の問題が起こりました。
マミさんは嬉しすぎて目がさえてしまったのです。ベッドの中でQBを抱きしめてニコニコしています。
QB「早く寝ておくれよ」
QBの任務には宇宙の命運がかかっています。
現状において多少の計画変更を行ったにしろ、本来ならもたもたしている暇はありません。
しかしインキュベーターの優秀な思考能力はとっておきの打開策を発見しました。
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 08:48:07.76 G2xyMbst0
歌です。
人類の子供は子守り歌を聴かせるとすぐに眠ってしまうはずです。
QBはさっそく実行しました。
QB「しーんぱーいないからねー きーみーのおーもーいーがー」
マミ「?」
QB「だーれーかーにーとーどーくー あーしーたが…」
マミ「なぁにそれ?」
QB「なにって子守り歌じゃないか。君たちは眠るとき歌を聴くんだろう?」
マミ「そんな子守り歌聴いたことない」
QB「歌に種類があるのかい?」
マミ「それに下手くそ…」
QB「音程はこの前見たテレビから完全コピーしているよ」
マミ「子守り歌は…」
マミさんはQBに子守り歌を唄って聴かせました。
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 08:53:07.69 G2xyMbst0
QBは腑に落ちません。曲こそ違えどQBのほうが上手く唄えているはずです。
マミ「~♪」
それなのに確かにマミさんの歌のほうが良いと思いました。
QB「ふーむ。これはどういうわけだろう」
マミ「QBのために唄いました」
QB「そうかい」
マミ「では続けてもう一曲」
QB「もう寝ないとだめだよ」
人類の生態を研究するのも仕事をする上で必要なことです。
QBはもっとマミさんの歌を聴きたいと思いましたが、子供は早く寝かすのがこの国の常識でもあります。
QB「歌はまた明日にしよう」
QBはもっとも妥当と考えられる提案をしました。
11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 08:55:50.26 G2xyMbst0
次の日のテレビで有名な歌手がこんなことを言っていました。
「『が』の発音は『ga』ではなくて『gua』。言葉は美しく使うものです」
「人間は汚い生き物ですからせめて心構えと言葉くらいは美しくしなければいけません。そう努力することではじめて綺麗になるのです」
QB「やはり人間は理解し難いね」
どうもQBにはわからないようです。
マミ「QB、なにみてるの?」
QB「少し人間の文化を勉強しようと思ったんだけど……マミにはこの歌手の言ってることがわかるかい?」
マミ「この人変な恰好~。妖怪?」
どうやらマミさんには少し早いようです。
マミ「でも天上の美? っていうのはカッコいい!」
通じるものもあるようですが。
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 08:56:54.19 mFHSmMId0
気になる展開だ
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 08:59:33.15 G2xyMbst0
それからというもの、QBは多忙でした。
マミさんの親族はマミさんの養育にあまり熱心ではなかったので、マミさんには生活に必要なもろもろの負担がかかりました。
家事や社会的な手続きは小さいマミさんには大変な作業でした。
魔法少女といえど日常生活のしがらみを無視するのは難しいのです。
QB「これは染みになるからすぐ洗わないとね。洗濯機の使い方は覚えたかい?」
QB「給食費は忘れずに先生に渡すんだよ」
マミさんが一人でも暮らせるように、QBはたくさんの世話をしました。
料理を教えたり。
しつこいセールスマンの追い返し方を教えたり。
全てはマミさんを効率よく動かして魔女にするためです。
反対に、営業する時間はどんどん減っていきました。
14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 09:04:54.27 G2xyMbst0
QB「ねえ、マミ」
マミ「どうしたの?」
QB「君のやり方は効率的じゃないよ」
数年が経ちました。
マミさんもベテランの魔法少女になり、大抵の魔女には負けません。
家事も一人でできるようになりました。
QB「緊急性の低い使い魔まで退治している。魔力の無駄だしリスクが大きい」
QBはいまだにマミさんと一緒に暮らしています。
マミさんにそそいだ時間と労力を無駄にしないためです。最後まで見届けるつもりでした。
マミ「でもQB、使い魔も放っておけば被害を出すわ」
QB「それは君にとって重要なことかい? 被害が出るとしても、
君とは縁もゆかりもない人物である可能性が圧倒的に高いさ」
QBはこれまでで学習していました。
人間には優先度があるということを。
奉仕と献身は賞賛される行為ですが、無関係な人間にまで施す決まりはどこにもありません。
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 09:11:11.54 uKWKMVZQ0
ほほう
16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 09:11:11.56 G2xyMbst0
QBはあくまで理知的に説きました。
それはこの国の法律からいっても、道徳からいっても、非の打ちどころがありません。
QB「君が誰かのために頑張らなきゃいけない理由はないんだよ」
マミ「理由ね……あなたが親切にしてくれたから、じゃダメ?」
あまりに唐突でQBには理解できませんでした。
マミ「困ってる時にあなたが優しくしてくれて、とてもうれしかったわ」
そうではありません。QBにはQBの目論見があってマミさんの世話をしたのです。
マミ「だから今度はわたしが困ってる人を助けたいの」
QB「君に助けられた人は、君に助けられたなんて少しもわからない。君の場合とは全然違う」
マミ「それでも、わたしが助けた人がまた別の困ってる人を助けるかもしれない。
それがどんどん広がったら素敵でしょう」
17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 09:11:51.64 EJxXDYUn0
>>1がきゅっぷいちゃんが好きなのは痛いほど分かった
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 09:16:09.00 G2xyMbst0
やっぱり人間は論理的じゃないね、とQBは思いました。
第一、マミさんに無理をされたらQBが困るのです。
それをどうやって伝えようか思案していると、またマミさんが言いました。
マミ「心配してくれてありがとう、QB」
QB「わけがわから…」
QBが言い終わる前にマミさんは行ってしまいました。
迷子らしい子供を発見したからです。
魔法少女に変身しなくてもマミさんは困っている人を放っておかないのです。
QB「わけがわからないよ」
QBはつぶやきました。
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 09:24:10.48 G2xyMbst0
まどか「QBはどう思う?」
QB「え?」
まどか「どうしたらほむらちゃんと仲良くできるかな」
しばし昔のことを考えていたQBでしたが、すぐに頭を切り替えました。
QB「彼女の行動になんらかの意図があることは間違いないけど、目的がわからないことにはね」
さやか「そうだよねー。魔法少女にはなるなって言われても、こっちは納得できないし」
マミ「なにか不都合でもあるのかしら?」
QB「それは…」
さやか「あ! もうすぐ始業時間だ」
マミ「ちょっとおしゃべりしすぎたみたいね。急がなくちゃ」
皆は早足で学校へ向かいます。
真面目なマミさんもこんな日だけは遅刻ギリギリです。
けれどマミさんはどこか嬉しそうでした。
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 09:29:44.58 G2xyMbst0
QBの仕事は相変わらず滞っています。
まどか「ごめんね、まだ決まらないの」
QB「それじゃ仕方ないね」
朝一でまどかを勧誘して断られ、
QB「暁美ほむら、そんなに気になるなら思い切って近づいたらどうだい?」
ほむら「お前にしては妙なことを言うのね」
遠巻きに眺めるほむらを少しだけ注意し、
杏子「この世に正義の味方なんていないんだ。自分の好きにやりゃいいじゃねえか」
さやか「いないからあたしたちが好きにやってんじゃない」
時折角を突き合わせる杏子とさやかをなだめ、
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 09:35:17.71 G2xyMbst0
QB「さやかは前に出すぎだ。もっと冷静にならないと」
さやか「面目ない」
杏子「へへっ、突撃バ~カ」
QB「杏子もだよ。もっとさやかと連携するんだ」
ほむら「フォローするこっちの身にもなってほしいわね」ボソッ
さやか「ん?」
ほむら「」ザワールド
まどか「今ほむらちゃんがいたような…」
マミ「きっと『敵か味方かわからないけどピンチにはなぜか助けてくれるミステリアスな戦士』を装いたいのね」
QB「マミもそういうの好きだね」
ほむら(おかしなイメージをつくられてる……)
魔女退治が終われば皆を労う。
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 09:42:08.85 G2xyMbst0
人間はわけがわからないので思い通りに動かすのは骨が折れます。
いつも気を配っていなければなりません。
だから他のQBたちのように営業ばかりできないのです。
QB「この生活はとても疲れるね」
マミ「どうしたのQB?」
QB「なんでもないよマミ」
そして楽しそうな顔のマミさんと家に帰るのです。
QBは今の生活が変わることを考えませんでした。
考えられませんでした。
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 09:49:10.59 G2xyMbst0
ある日、QBのところに別のQBがやって来ました。
あまりにも仕事をしないQBに帰還命令を伝えに来たのです。
新QB「君の思考にはノイズが混入している。母星で速やかにクリーニングを受けるんだ」
QB「ノイズだって? 僕は正常だよ」
新QB「リモート検査の結果がそうなっているんだ。現に今も命令に従おうとしないことが証拠さ」
QBはなにも言い返せなくなりました。
そもそもインキュベーター同士で見解の相違が存在することがおかしいからです。
新QB「君の担当区は僕が引き継ぐよ」
しかしQBは決して承諾しませんでした。自分がいる限り誰にも代わりは任せないと断言したのです。
新QB「しょうがない。しばらくは留任を認めよう。でももし君がインキュベーターの力を不正に使おうとしたら、
その時は自壊プログラムが作動するからね」
24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 09:54:04.83 G2xyMbst0
QBは初めて「気持ち」を自覚しました。
これが人類の持つ感情と同じなのかはわかりません。
ただ、今の生活がずっと続けばいいと思っている自分に気付いたのです。
けれどQBはインキュベーターです。
やがて変化は起こりました。
さやかが魔女化したのです。
マミさんと皆はとうとう魔法少女が都合の良いシステムではないと悟りました。
ほむら「魔法少女というのは……」
ほむらが真相を話します。ソウルジェムのこと、グリーフシードのこと、魔女のこと。
マミ「嘘でしょQB?」
マミさんが震える声で尋ねました。
QB「全て事実だよ。僕たちは嘘がつけないんだ」
インキュベーターは嘘がつけないのです。
25: 忍法帖【Lv=40,xxxPT】
12/07/15 09:55:45.36 ujwYCjiB0
支援
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 09:58:33.40 G2xyMbst0
皆がそろうことはもうありませんでした。
魔女になったさやかは退治され、杏子もその時に死んでしまいました。
QB「まどか、願い事は決まったかい?」
まどか「…………まだ」
まどかは以前のように打ち解けなくなりました。
落ち込み、暗い顔をしています。
それでもQBはいつものように勧誘を続けました。
それがインキュベーターの仕事なのです。
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 10:04:56.27 G2xyMbst0
マミ「パトロールへ行ってくるわ」
真実を知ってからふさぎ気味だったマミさんも、しばらくすると普段の調子を取り戻しました。
魔女や使い魔から街を守らなければいけないからです。
しかしマミさんでも平静ではいられません。
再び一人きりになった負担もあります。
QB「マミ、必要最低限の魔女とだけ戦うんだ。ほむらだってそうしているよ。
このままじゃ遠からず君も限界がくる」
マミ「あなたはわたしたちを魔女にするのが目的なんでしょう?」
QB「……そうだよ」
インキュベーターは嘘をつけないのです。
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 10:09:49.37 G2xyMbst0
マミ「わたしに親切にしてくれたのも、全部そのため?」
QB「……そうだよ」
マミ「そう……そうなのね……」
QBは嘘をついていません。
でも本当のことを言っているわけではないと叫びたくなりました。
それがなぜかはわかりませんでしたが。
マミさんはこの話題についてはもう口にしませんでした。
QBを追い出したりはしませんでしたが、
会話はとても少なくなりました。
29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 10:14:39.70 kxrz4dfOO
支援
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 10:14:52.45 G2xyMbst0
決定的な日が訪れるのに時間はかかりませんでした。
QB「マミ、ここの魔女は強力だ。今の君では危ういよ」
マミ「暁美さんにはなにか別の目的があるようだし、わたしがやるしかないわ。この街はわたしが守らなきゃ」
QB「だからそれは…」
マミ「QB」
マミ「心配してくれてありがとう」
魔女を退治することはできましたが、マミさんは魔女化が避けられないほど消耗しました。
もう、どうすることもできません。
31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 10:16:02.02 3HmOsV6D0
マミさんのデカパイ揉みたい
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
12/07/15 10:21:18.16 G2xyMbst0
QBははじめてまどかに一日二度目の営業をしました。
規格外の素質を持つまどかなら、願いでマミさんを助けられるかもしれないからです。
QB「さあ、まどか。僕と契約して魔法少…」
QBは言いかけて止まりました。
まどかと契約してマミさんが喜ぶのか?
まどかが魔女化したら地球はどうなるのか?
それらの疑問はインキュベーターにとってどうでもよいことです。
インキュベーターならば、ここはとにかく契約を迫るのが正しいのです。
しかし、
QB「ごめんよ、まどか。なんでもないんだ」
QBははじめて仕事をさぼりました。