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被災マツ、「送り火」に使われず 鎮魂の思い書かれた薪
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東日本大震災で津波になぎ倒された岩手県陸前高田市の景勝地「高田松原」の松で作った薪(まき)を、
京都の伝統行事「五山送り火」の大文字で燃やす計画が中止になった。
放射能汚染を心配する声が京都市などに寄せられたためという。
放射性物質が含まれていないことは検査で確認したものの、主催する地元保存会は「世論をみて難しいと判断した」。
400本の薪に書かれた鎮魂の思いは、広がり続ける放射能不安にかき消された。
計画は、高田松原の松が薪になって売られていることを知った大分市の美術家、藤原了児さん(61)が発案。
京都の「大文字保存会」に呼びかけて、震災で亡くなった家族や復興への思いを書いた薪を、五山の送り火で燃やそうと準備を進めていた。
だが企画が報道されると、「放射性物質は大丈夫か」「灰が飛んで琵琶湖の水が汚染される」などと不安がる声が、
保存会や京都市に電話やメールで数十件寄せられた。
市と保存会は7月下旬、すべての薪を検査し、放射性物質が検出されないことを確かめた。
保存会では「これで大丈夫」との意見が出る一方、牛肉などの放射能汚染が問題になる中で、
「放射能への不安を完全に取り除くことは、世論をみると難しい」という慎重論が消えず、苦渋の決断をしたという。
保存会の松原公太郎理事長は6日、頭を丸めて、陸前高田市で被災松の薪を集めた鈴木繁治さん(66)の元を訪れた。
「被災松の断面はとてもきれいで、丹精込めて育てられてきたと分かる。
結果として被災地の方のつらい思いに追い打ちをかけてしまうことになってしまい、申し訳ない」とうつむいた。
鈴木さんによると、薪は市内の避難所や旅館などに置き、被災者がメッセージを書き込めるようにした。
話を聞きつけた人たちが市外からも訪れ、400本ほど集まったという。
「いつまでも空の上から家族を見守って下さい」「お袋殿 オヤジと仲良くやってくれよ」。
1本1本に、亡くなった家族の元へ届けたい思いがフェルトペンでつづられている。
「遠くからわざわざ来て『天国に伝えて欲しい』という方もいらしたから、本当に残念です」と鈴木さん。
代わって保存会は、鎮魂と復興への思いを受け継ぐため、薪に書かれた被災者全員のメッセージを護摩木に書き写して、
16日に大文字で焚(た)くことにした。陸前高田市にある薪は、保存会の会員らが8日に現地で「迎え火」として燃やすという。