自分でバトルストーリーを書いてみようVol.28at ZOID
自分でバトルストーリーを書いてみようVol.28 - 暇つぶし2ch2:名無し獣@リアルに歩行
08/10/16 13:23:46
  \
:::::  \            >>1の両腕に冷たい鉄の輪がはめられた
\:::::  \
 \::::: _ヽ __   _     外界との連絡を断ち切る契約の印だ。
  ヽ/,  /_ ヽ/、 ヽ_
   // /<  __) l -,|__) > 「刑事さん・・・、俺、どうして・・・
   || | <  __)_ゝJ_)_>    こんなスレ・・・たてちゃったのかな?」
\ ||.| <  ___)_(_)_ >
  \| |  <____ノ_(_)_ )   とめどなく大粒の涙がこぼれ落ち
   ヾヽニニ/ー--'/        震える彼の掌を濡らした。
    |_|_t_|_♀__|
      9   ∂        「その答えを見つけるのは、お前自身だ。」
       6  ∂
       (9_∂          >>1は声をあげて泣いた。
                                            完

3:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/18 09:46:15
【第三章】

 あの日……魔女に敗北の傷を癒された後、ギルガメスは幾許かの月日を獲得した。その
何割かは逃走に費やさねばならないのが辛いところだ。ある時は闇の帳に身を委ねること
ができたが、ある時は残酷な朝日にその身を晒さねばならなかった。
 その間にも水の軍団は追ってくる。連中を躱し、蹴散らし何度か背負う十字架に涙も流
して、気が付けば秋風が身体に染みた。心地よい朝日を受け、背伸びをしても小さな五体
にのしかかる気怠さは抜けない。
 しかし大事なものはどうにか失わずに済ませることができた。……深紅の竜は少年の前
でしゃがみ込む。両腕の爪を地面に突き立て、田畑でも耕すように削り込んでいるところ。
 子供の一人遊びのような作業なれど、竜の巨体ならものの数分で十数メートル四方を掘
り起こせる。終わると一声甘く鳴いて合図。すごすごとその場から立ち退きうずくまった。
 少年は如何にも乗り気でない竜の気持ちを汲み、感謝と気遣いを込めて両手を伸ばして
やる。ぬっと降ろしてきた竜の鼻先を抱き止めるためだ。主従は入念にキスを交わした。
 人と機獣の仲睦まじいやり取りを、中断させた風斬る音。竜は顔を見上げて甲高く鳴き、
少年が振り向くや否や、目前に迫ってきた大車輪。恐れることなく右手で受け止めた少年
には、それが何かすぐにわかった。朽ちかけた革の鞘。短い刀身は勿論、少年の危機をた
びたび救ったゾイド猟用ナイフだ。
 だが襲撃の第二波は、鞘の重みを確かめるよりも早い。少年は左手を鞘に添えた。その
まま横一文字で乾いた音を受け止める。
 鞘が受け止めたのは竹箒。それでさえ今の少年には圧倒的な攻撃たり得た。何しろ竹箒
を振りかざしてきたのは紺のジャージに身を包んだ女教師エステルその人だからだ。
 少年を続けざまに第三の波が襲い、それはあっさり目的を果たした。円らな瞳に映る女
教師はぐらり傾く。……否、それは少年の小さな身体が横転した証。足首に感じた軽い疼
痛に、少年は足払いをもらったと理解した。
 恐るべきは女教師だ。面長の端正な顔立ちは凍える彫刻のように無表情。地に伏せた愛
弟子目掛け、竹箒の先端を矢継ぎ早に打ち込んでいく。正確に攻撃を繰り出すしなやかな
身体は、機獣でさえも及ばない戦闘に特化した自動人形を想像させて余りある。

4:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/18 09:47:49
 息詰まる攻防を目の当たりにして、深紅の竜は両腕を眼前にかざし、爪の上からちらり
ちらりと覗き見ていた。魔装竜ジェノブレイカーと畏怖された竜ではあるが、愛すべき師
弟が繰り広げる実戦さながらの光景は胸に痛み、凝視するのさえ苦しい。それでも悲痛な
鳴き声は何とか押し殺して観戦を続ける。
 少年は横転を繰り返し、竹箒の殺気を紙一重で躱す。たちまち純白のTシャツが泥にま
みれていく中、少年が何度目かの刺突に見出した好機。振り降ろされた竹箒の先端目掛け、
正確に合わせたナイフの柄頭。竹箒とナイフの柄は蜘蛛の関節のように合わさった。少年
はすぐさま鞘に左手を添え、じりじりと押し返す。
 どうにか劣勢を挽回したかに見えた少年だったが、攻防はこのすぐ後、いとも簡単に決
着した。女教師は無表情のまま、不意に首元まで締めたジャージのチャックを掴むや一気
に降ろす。少年は目が釘付けになった。ジャージの下は一糸まとわず、真っ白い素肌のみ
が隠されていたからだ。
 そう、認識したときには竹箒の圧力が失われた。少年は押し返すべき力のやり場をなく
し、虚しく柄を突き上げる。と、そこに女教師がしゃがみ込んだ。何気ない正拳の振り降
ろしだが、これを正確というのは彼女に失礼な位、無防備な少年の腹部に見事命中。……
よくよく見れば鮮やかな寸止め。
 師弟の顔は二の腕程まで接近していた。女教師は切れ長の蒼き瞳を細め、悪戯っぽく笑
みを投げ掛ける。
「死因はムッツリってところかしら?」
 これには少年もふて腐れたが、何も言い返すことができない。女教師は手を差し伸べる。
「柄で受け止めるアイディアは良いわ。受け切ったらすぐに反撃しないと」
 すぐ後ろでは相変わらず深紅の竜が、心配げに師弟を見ている。竜にはわかる。女教師
は「蒼き瞳の魔女」とまで呼ばれ、恐れられてきた女性だ。少年が指の長い掌を掴んだ直
後、彼女はきっとすぐに技を仕掛けてくる。少年をあっさり投げ飛ばすかもしれない。或
いは関節を決めてしまうかもしれない。或いは、或いは……。
 そうこうしている内に目前で少年の悲鳴が聞こえ、竜はますます視界を閉ざさざるを得
なくなる。
 この何とも形容のし難い取っ組み合いこそ、実は女教師エステルの発案によるものだ。


5:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/18 09:48:42
「本当はね、二、三年の内には貴方に剣の基本を教えようと思っていたの。ゾイド操縦の
腕前だけ突出しても、貴方の成長が止まってしまうのは目に見えていたからね。視野を少
しずつ、広げて欲しかった」
 今二人と一匹がいる場所とはまるで違う風景なれど、荒れ果て加減だけは大差ない地面
を踏みしめ、二人は向き合っていた。少年の片手に鞘に収められたナイフはあるが、女教
師は全くの素手。
「だけど『B』が……『ブライド』が復活して、そうも言っていられなくなったわ。水の
軍団だけならいざ知らず、あの女まで現れてはね……」
 女教師は暫し、沈痛な面持ちを隠さなかった。唇を噛む少年。
 剣の修行も、元はと言えば自らの心中に宿った暗殺者に対する恐怖心から望んだものだ。
しかし彼女の視野はもっと広く、先を見据えていた。きっと、数年先も必ず二人で生き延
びてやると決意した上で、彼女は尚地道な成長を望んでいたのだ。しかしそんな彼女の気
持ちなど、剣の修行を願い出たあの時の少年には思い付きさえもしなかった。自分がどれ
だけ幼稚なのか今更ながら、理解できる。
 少年も決意を胸に秘める。あの「B」という美少女は少年を辱めたが、事はそれだけで
は済まなかったからだ。
(エステル先生にこんな辛い顔、金輪際させてたまるか)
 正直なところ、彼女がどんな未来を描いていたのか想像もつかない。少年も男だから
図々しい事が多少、脳裏をよぎりはする。だが、それよりもっと大事なことがあった。
「……ギル、剣は約束通り、これからも教えてあげる。但し特別なメニューを一つ、追加
するわ」
 蒼き瞳に宿る輝きは太古の聖剣にも似た。突き刺さる美しさに息を呑んだ少年。
「め、メニュー……ですか?」
「私は素手でも、貴方を致命傷を負わせることができるわ。
 ……そうね、十分で百回位は、ね」
 つまり六秒で少年を殺す事もできるという事になる。唐突な一言だが、流石に今更それ
で驚く少年ではない。問題は、続く言葉だ。
「毎日十分、私の技を受け切りなさい。その間、もらう攻撃を百回以下に抑えなさい。
 そして一回でも私に剣を当てたら合格よ」


6:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/18 09:50:01
 彼女の提案に少年は面食らったが、すぐに首を縦に振った。勿論、相手が相手だ。簡単
にできるとは到底思えないが、それでも目標は具体的である。あの「B」という美少女に
一矢も報いることができなかった少年。だが憧れの女性はまず間違いなく「B」と互角の
腕前に違いない(実際の手合わせを目にせずともそれ位は彼にだって実感できる!)。
「B」攻略にはそれ位の領域に近付くことが不可欠だ。
 そう、決意するや否やその日の稽古は始まっていた。……三分、持たずして実戦ならま
ず致命傷になる技を百回受け、挙げ句の果てに足腰も立たずフラフラになった。
 汗だくだく、息も絶え絶え仰向けに横たわりつつ、少年は改めて女教師の懐深さに恐れ
入った。たった三分でここまで疲労困憊になるとは思わなかったし、そもそも百回「死ん
だ」中で同じやられ方がどれだけあったか。
(これがエステル先生の……領域!)
 以降、かような応酬を既に数ヶ月は続けている。未だ五分も持たない自分自身に呆れ返
りはするものの、女教師は決して罵倒もしなければ(叱りはするが)止めようともしない。
大事な練習なのだということはひしひしと伝わってくる。
 とはいうものの大事な相棒にはこの練習、極めて不評だ。しばしば大きな爪を真上から
伸ばして二人を引き離そうとする。勿論今日も、視界を閉ざす両腕がしばしばピクリと動
く(その度女教師に睨まれるのはご愛嬌だ)。幸か不幸か、今日に限ってはどうにかその
機会に到達することなく、少年は百回目の攻撃を受けた。
 ポケットからハンドタオルを引っ張り出す女教師。足下では少年が大の字。しゃがみ込
んだ女教師は穏やかな……しかしどこか悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「お疲れさま。もう少しで五分の壁は越えられそうね」
 少年は苦笑いした。それではまだ目標の半分にも到達していないではないか。だが今日
は、まだこれでは終わらない。
「すぐ風呂に入りなさい。試合場まではブレイカーなら一時間も掛からないけれど、余裕
を持って乗り込みましょう」
 少年は飛び起きた。余力が残っていたのも驚きだが、それより今日はこれから大事な試
合なのだ。



7:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/18 09:52:20
「おい、これから支度かよ。大丈夫かよあそこは……」
「ぶったまげた話しだが、あれでいつも勝ってるんだぜ。……おっと」
 岩陰に隠れた影、二つ。深紅の竜はその方角をじっと見つめている。
 二人組の声や人相は余り問題とならない。強いて言うならベールに身を包んでいた。乾
いた荒野が大半を占める西方大陸では、ゾイドに搭乗せずの移動に不可欠な装備だ。似た
ような風体による似たようなリアクションはそこかしこで見受けられる。
 深紅の竜は辺りをじろじろ見つめていたが、女教師はつまらぬものでも見るかのように
諭した。
「大方、賭けの下見でしょう。殺気も感じられないし、放っときなさい」
 竜も彼女の推察に同感のようだ。地に付いていた前足を畳み(有事には四肢もろともバ
ネのごとく跳躍する狙いだ)、おとなしく地に伏せた。
 ビニール製のカーテンの中にはいつも通りの薬莢風呂。少年は深々と浸かるが、後ろが
つかえていることまで忘れてはいない。
 さて第二章でもちらりと述べた「タリフド山岳地帯」に、チーム・ギルガメスは乗り込
んでいる。西方大陸の東端付近に当たるこの地域は、千年を超えるヘリック共和国の歴史
の中でも厄介な問題を一際沢山抱えていた。
 事情は簡単だ。ここを超えればデルダロス海岸線に辿り着く。デルダロス海を渡れば中
央大陸……かつてのゼネバス帝国領だ。ゼネバスが滅ぼされた時、ここタリフドには大量
の難民が押し寄せた。又、西方大陸が戦火にさらされた時、中央大陸に脱出できなかった
者達はここタリフドで潜伏するより他なかった。つまり長年の戦火がこの地域を難民の住
む土地にしてしまったのだ。
 今、深紅の竜がゆるゆると滑空する辺りは至る所に小高い丘や岩山がそびえている。多
数のZi人が丘の上に住居を建設して暮らしているのは言うまでもあるまい。勿論ゾイド
を恐れてのことだが、農作物は当然ながらこういう土地の上で育てざるを得なくなる。難
民が集まり、土地も有効活用し難い、貧乏そのものと言えるタリフドの住民は大半が貧困
層だ。日頃不満を抱えるこの地域は政策が拙いといつでも暴動が爆発する火薬庫のような
土地だと言えよう。
 その分、住民の娯楽に対する関心は高い。
「父ちゃん、あれ、ジェノブレイカーじゃあない?」


8:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/18 09:53:07
 とある丘の上で、痩せた畑を耕す親子が鍬の手を止めた。
「おや、チーム・ギルガメスが来たとは聞いていたが、もしかしたらあれが……」
 二人は興味深く蒼炎吐き出す鶏冠を見つめていた。
 一方、別の丘では。
「ギルガメス--! ジェノブレイカー--!」
「頑張れ--! 必ず勝てよ--!」
 別の親子が声援を送り、手を振っている。深紅の竜はこうした声をくまなく拾い、きょ
ろきょろと左右を向いた。正直なところ「ブレイカー」ではなく「ジェノブレイカー」と
呼ばれるのは不本意だが、声援が圧倒的多数を占めるのは喜ばしい。少しは愛想を振りま
く気にもなる。
「ブレイカー、そわそわし過ぎだよ--」
 竜の胸元・コクピットハッチ内部で少年が呆れていた。それでもニヤニヤしてしまうの
は、この頼れる相棒が自分以外の赤の他人にもそれなりには愛想良く接しているからだ。
タリフドは貧しいが、ひとまず相棒が穏やかでいられる程度の平和は確保できていた。
「私には……声援がないのよねぇ」
 全方位スクリーンの左側に開いたウインドウ内には頬杖して溜め息つく女教師が映し出
されていた。凛々しい彼女でもこんなに不満そうな表情を浮かべるのが驚きだ。
 彼女も又いつも通り、竜の掌中に抱えられたビークルに乗っている。主などより余程頭
の上がらぬこの女性に対し、竜は鼻先を近付けると戯けて鳴いてみせた。こんなことに張
り合うのが如何にもこのゾイドらしいが、少年としては正直、彼女への声援など無くて結
構である。彼女のような美人への声援はいかがわしい内容に決まっているのだから。
「ギル、どうしたの? そんなしかめ面して……」
 いつの間にか、ウインドウ越しに覗き込まれていた。
「あ、その、これは……今日の、対戦相手……」
 どうにか誤摩化したつもりだ(切れ長の蒼き瞳はじっと凝視して訝しんだが)。但し嘘
はついてなどいない。こんなに和やかな時でさえ、試合の相手なり水の軍団の刺客なりを
イメージするのはゾイド乗りとして当然のこと。
 しかし彼女は事も無げ。自信ありげに拳を握り、浮かべた不敵な笑みがたたえる戦乙女
の凛々しさ。
「大丈夫よ、練習通りにやれば必ず、勝てるわ」


9:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/18 09:58:10
 対照的に苦笑いを浮かべた少年。話題を反らすためだけに振った話題なのに、彼女の自
信は愛弟子の抱いたそれをはるかに圧倒する。しかも勝負の厳しさなんて、彼女は知り尽
くした上で断言しているのだ。
 不思議なことに、最近はこういった彼女の挑戦的な言葉にも重圧を感じない。勿論気持
ちに応えようと決意を抱くのは当然と、ひたむきな彼女の笑顔をウインドウ越しに垣間見
たのだが……その時、少年はようやく気が付いた。
 蒼き瞳は本当に、真っ青だ。時折見せる凄まじい殺気も近寄り難さも、瞳の奥底さえ覗
き込めば本当のところは全てわかる。今、サファイアやラピスラズリかと見紛う眼差しで
微笑む彼女を見た時、少年は改めて、魅入られた。……可愛いなと、思った。
 不覚にも口元が不自然に緩んだ。少年は慌てて口元を押さえ、咳払いした。

 少年ギルガメスが魔女エステルの笑顔を可愛いと思ったのなら、かの金髪銀瞳の美少女
がたたえる禍々しき眼差しを覗き込んだ時、どんな感想を抱くのであろう。
「ドクター・ビヨー! ギルガメスの所在はまだわからんのか?」
 美少女は長いソファーに両腕広げてもたれ掛かる。小柄な身体なれど足を組めば長さが
目立ち、スタイルの良さがはっきりした。ワンピースの裾がはだけて細い脛が、そしてう
っすら脂の乗った腿が露になるが彼女には些細なこと。足下では相変わらず銀色の獅子が
うずくまる。
 彼女の目前にはガラス製の膳。左方には白衣の男がノート大の端末を弄っていた。恐る
べき美貌と暴力で鳴るこの美少女を隣に置こうが何ら動じるところが無い。
 それが美少女には気に食わなかった。するすると、彼女の両耳上に束ねた髪二本が蛇の
ように伸びていく。首締めなど彼女には手ぬるいこと。瞬く間に長い金髪は男の目や鼻、
口に迫っていく。
「静かにして下さい」

10:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/18 10:00:34
 穏やかな口調で美少女の脅迫を迎撃。白衣の男は頗る落ち着いていた。牛乳瓶の底程に
分厚い眼鏡がキラリ輝く。……美少女はますます面白くない。元々この白衣の男、初対面
の彼女に死を迫られた時でさえ、死への恐怖よりも自らの研究結果が正しかったことへの
感動の方が勝ったのだ。蒼き瞳の魔女でさえひどく動揺させる彼女が、ちっぽけな一科学
者風情を手玉に取れぬ事実。苛立ちに転じない訳がなかった。
 全てを見透かしたかのように、白衣の男は言葉を続ける。但し分厚い眼鏡の奥底が銀の
瞳と視線を合わせようとしていたかは反射光に遮られてわからない。
「チーム・ギルガメスはタリフド山岳地帯へ逃げ込みました。
 タリフドの奥にレアヘルツで覆われた地域があるのはご存知でしょう?」
 美少女は髪をスルスルと戻した。苛立ちを抑えるに足りる話題だったからだ。……レア
ヘルツはゾイドを狂わせる。Zi人の叡智をもってしても有効な対処方法は見つからぬた
め、レアヘルツに覆われた地域は大抵、国境として機能していた。
 魔女エステルはレアヘルツに覆われたレヴニア山脈の地下深くで冷凍睡眠を続けていた。
今や美少女の相棒となった空色の獅子も「勇者の山脈」の奥底に眠っていた。だから美少
女も平凡ながら皆と同じ疑問を抱かぬわけにはいかなかった。
「……何があるというのだ?」
 白衣の男はちらり振り向き、眼鏡の奥底から厳しい眼光を覗かせた。
「惑星Ziに地獄があるとするなら、きっとあそこです。
 ……おや、今日はチーム・ギルガメスの試合があるみたいですよ」
 美少女は身を乗り出してきた。外見相応の驚いた表情は中々新鮮だ。
「馬鹿な! 何ヶ月も日課のように調べてきたが、半年先まで全く予定が掴めなかったと
いうのに……」
「タリフド程の辺境だから情報も伝わりにくかったのかもしれませんね。放送リストに追
加されたのもついさっきですよ。……もう、始まってますね」
 美少女は白衣の男から端末をむしり取るとキーボードを乱打。二人の目前に広がるスク
リーンは、大人が両手を広げてようやく足りる程大きい。早速輝きを取り戻した黒い壁は
彼女の意志に恭しく従い、求められるままに映像を浮かび上がらせる。

11:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/18 10:02:01
 食い入るように見つめる美少女。白衣の男は微笑みつつ様子を見守るが、口元の緩みは
どこか冷ややかだ。この男は全くもって底知れない。

 今日の試合場は何という名前だろうかと考えもせぬ自分に気が付き、ギルは苦笑した。
試合をしては東へ東へと移動しているものの、どの試合場も似たり寄ったりの風景なのだ。
興味が湧かなくなるのは無理もない。
 実際、赴いてみればここもすり鉢状の地形を生かした天然の試合場だ。すり鉢の底にゾ
イドが降り、試合をする。外周はリングサイド、関係者が集う(勿論、エステルもここよ
り下には降りることができない)。試合場ごと、サイズやすり鉢の深さなど全くと言って
良い位、同じことがない。貧困者が集うタリフドにおいては当然と言えた。そんなことに
金を掛ける余裕はないのだ。裏返せば、タリフドではすり鉢状の地形にゾイドが二匹降り
られさえすれば試合が成立するのである。
 突如警告音が鳴り、少年は咳払いしてかしこまる。女教師エステルからの通信だという
ことはすぐに想像がついた。
「ギル? そろそろ……」
 少年が頷くと同時に前方を包む風景に亀裂が入った。否、ハッチが開いたのだ。全方位
スクリーンの真っ正面をも構成するから、風景に亀裂が入ればその隙間より先には外界が
広がっている。
 身を乗り出した少年。目前には女教師がいつも通り、覆い被さってきた。
「チーム・テンタクルは死角が少ない相手だわ。
 鉄壁の守りをくぐり抜けるのには正攻法では駄目よ」
 そう言われて少年は円らな瞳を見開いた。「B」との敗戦が脳裏をよぎらずにはいられ
ない。あの美少女が操る空色の獅子ブレードライガーも死角は限りなく少なかった。僅か
な隙でさえ、オーガノイドユニットなる秘技で無に帰されたのだ。
(そうだ、これは仮想「B」なんだ……そう考えて挑もう)
 こくりと頷く少年。負けていい試合など一つたりとてないが、今日の試合こそはいつか
訪れるだろう「B」との再戦に向けて、超えなければならない一つの壁だ。憧れの女性は
言わなくとも自分の中では間違いなく、そうなのだ。


12:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/18 10:04:02
 女教師は少年の目の色が変わったことに満足した。実のところ、いつだって色々なこと
を言ってこの愛弟子に奮起を促しているが、今日の手応えはその中でも上々だ。……彼女
はおもむろに、長い指を額に当てる。
「例え、その行く先が!」
 詠唱の開始。額に青白く輝く刻印こそ、身震いする戦いの合図。少年も又、決意新た。
「……いばらの道であっても、私は、戦う!」
 深紅の竜の胸元より、漏れる閃光の青白さ。胸部ハッチより開いた隙間は竜の両掌が覆
い隠してはいるが、それでも刻印二人分の輝きは太陽光を切り裂いた。周囲に群がる人や
ゾイドは驚いて彼らを見遣る。
 不完全な「刻印」を宿したZi人の少年・ギルガメスは、古代ゾイド人・エステルの
「詠唱」によって力を解放される。「刻印の力」を備えたギルは、魔装竜ブレイカーと限
り無く同調できるようになるのだ!
 女教師は愛弟子のひたむきな表情を見て自信に満ちた笑みを浮かべた。両者の距離が徐
々に離れていくのは、試合を間近に控えて竜が両掌を引き戻したからだ。只、すぐこの後
少年は不意のことに心臓を打ち抜かれるような思いをした。
 離れていく女教師は長い指を自らの唇に当てた。刹那、手裏剣を投げるような仕草で離
してみせつつ瞬き。
 投げキッスだ。如何わしいことは何度妄想したか知れないが、これは想像だにしなかっ
た。だからこそ不意打ちの効果は大きい。単に戯けてやってみせただけなのかもしれない
が……出会った当初なら、彼女はこんな難しいタイミングで戯けただろうか?
 色々なことが、徐々に変化しているような気がする。少年は胸元をぐいと鷲掴み。

 実は同じように、女教師も胸元を鷲掴みにしていた。しかし彼女は背広の襟を掴むと爪
を立て、今にも引き裂かんばかりだ。
 咄嗟に顔を伏せ、サングラスを掛ける。面長の顔立ちがどんな表情を浮かべていたかわ
からぬが、切れ長の蒼き瞳を覆う黒レンズの下を光るものが一瞬垣間見えたのは間違いな
い。それをさりげなく彼女が指で弾いたのも。
(「売女」ね。言い得て妙だわ)


13:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/18 10:06:04
 彼女の呟きを深紅の竜は聞き止めたようで、ちらり背後を伺った。……竜の分厚いレン
ズに覆われた真っ赤な瞳には、いつも通りの毅然とした古代ゾイド人の女性に見える。竜
は軽く首を傾げてみせた。しかし彼女の表情に変化はない。やむを得ず、竜は正面を向き
直す。優しい竜の行く手には戦場が広がっているからだ。

「何だこれはーーっ!」
 中継された少年の表情を食い入るように見ていた美少女は激しくいきり立った。問答無
用で白衣の男からノート大の端末を奪い取ると両腕で高々と持ち上げた。さしもの男もこ
れには溜まったものではない。
「『B』よ、『B』よ、落ち着いて! それはスクリーンです! 『蒼き瞳の魔女』は遥
か彼方です!」
 慌てて目前に立ち塞がり、抱きつくように立ち塞がる。美少女は男の言葉を耳にして、
ようやく平静を髪の毛程ながら取り戻した。
「ドクター・ビヨー、スクリーンを良く見ろ。ギルガメスの瞳に生気が宿っている。
 次に出会った時には目配せだけで籠絡できる程打ちのめした筈なのに、だ!」

 虚空に咲く桜花の翼。背より鶏冠六本逆立てるや吐き出す蒼炎。深紅の竜はふわり浮か
び上がり、すり鉢の下へと滑り降りていく。砂利の華が咲き乱れて後に続くものだから、
女教師は自ら駆るビークルの車体前方を持ち上げて、舞い昇る破片を防いだ。
 深紅の竜は底へと降り立つや、反時計回りに巨体を捻る。波打つ砂利、舞い散る砂。ブ
レーキ代わりの回転は小気味良く決まるが、元々竜は道化を好まない。無言ですり鉢の対
角線上を睨む。
 チーム・ギルガメスが挑む今日の相手は、砂利の斜面でさえ小刻みに踏み込みながら駆
け降りてきた。おかげで地響きが凄まじいが、太鼓を打ち鳴らすような低い音は軽快と言
うには程遠い。
 相手は全身包み込む程の砂を巻き上げるものだから、目視では容貌を確認できかねる。
少年の円らな瞳、そしてガラスに包まれた竜の紅い瞳は、慌てることなく砂嵐の奥をじっ
と見つめる。


14:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/18 10:08:03
 すると砂塵の中から太い足をにょきにょきと出してきた。その本数や特徴は大きなヒン
ト。成る程、事前に女教師エステルより知らされていた通り、相手は四脚獣だ。それも深
紅の竜でさえ圧倒される体格の持ち主。四肢だけでも竜の胴程はありそうだが、軽快さが
失われているのは見ての通り。
 四脚獣は全ての足を深く折り曲げ、地べたに這う蜘蛛のように滑り降りた。停止と同時
に素早く膝を伸ばし、威勢良く地面を踏み鳴らす。心臓に響く音は圧倒的な迫力を感じる
が、実際は鈍重さを補う技巧の持ち主と見た。少年は気を引き締める。
 その風貌、余りに突飛。少年も似たようなものを見た覚えがない。……長い首が、三つ
ある? そんな馬鹿なと、少年が目を凝らせば首らしき箇所の先端にはいずれも顔が付い
ていない。これは触手の類いだ。本当の首は触手の根元より上に巨大な橙色の一つ目を妖
しく輝かせている。あれだけの大きさだ、内部はコクピットになっているのだろう。更に
一つ目の後ろには羽と呼ぶには少々小さいヒダが左右に一枚ずつ、生えている。できれば
背中や尻尾の特徴も知りたいところだが、こういう時巨大な相手は有利だ。全体像を容易
には掴ませない。
「……マンモスとは、こういうゾイドなのか」
 深緑の巨象マンモスは触手(※象を知らぬZi人にはあれが鼻や牙に相当することなど
わかる筈もない)を高々と振り上げ、風斬るような雄叫びを上げた。三本の触手の下に口
らしきものがあるようだが、これ程の異様だと安易に口と看做して良いものか、どうか。
「それより問題は、あの触手だよな」
 少年は肩を怒らせてみる。肩から押さえつける拘束具はいい具合に彼の小さな身体を固
定していた。満足してレバーを握り締める。ブザーが鳴れば、大決戦の幕開けだ。
                                (第三章ここまで)

15:名無し獣@リアルに歩行
08/10/19 04:54:27
ツマンネ

16:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/19 07:45:56
【第四章】

 すり鉢の中に響くブザー。決戦の合図だが今更動じるギルガメスではない。初めて見た
ゾイドを相手にしても、落ち着いた口調で挑むことができた。
「ブレイカー、行くよ」
 桜花の翼を今一度水平に広げ、深紅の竜は一歩又一歩とにじり寄る。
 それにしてもと少年は全方位スクリーン越しに試合場を見渡す。狭い。すり鉢の縁の直
径が三百メートルもあるか、どうか。底の部分はせいぜい直径二百メートルといったとこ
ろだ。試合場として使うにはギリギリの広さである(※深紅の竜は全長23メートル。つ
まり試合場はその十倍もない)。これだけ狭いと自慢の脚力も余り意味を持たない。深紅
の竜に限らず、神速で鳴らすゾイドの殆どが助走を必要とするからだ。安易に離れれば狙
われる。
 只、似たようなシチュエーションは主従も散々直面してきた。どんなに広い試合場・戦
場も様々なチームそして刺客が策を巡らし、密室の処刑場と化してきたのだ。
 そして、そんな厳しい戦いを乗り越えることができたのは……少年は両腕のレバーをぐ
いと握り、相棒と気持ちを通じ合わせる。女教師にはウインドウ越しに眼差しを合わせた。
 女教師は無言で頷きを返すとコントロールパネルを弄る。たちまちメモ帳程に縮小する
ウインドウ。サングラスを黙秘の仮面代わりにして少年に決戦を促す。
(さあ、貴方の思う通りに戦ってみなさい)
 黒いレンズは表情さえ隠したが、彼女の気持ちは却って良く伝わった。今は一瞥だけし
て、少年はレバーを捌く。
「翼のぉっ! 刃よぉっ!」
 翼の下より双剣、展開。両翼の先端でハサミのように伸びるや否や、竜は瞬き程に素早
く踏み込む。腰を起点に右へ左へと巨体を捻り、双剣の切先で狙い撃つは巨象の腿、膝、
そして足首。
 巨大なゾイドといえども関節部分は急所中の急所。中でも足回りを砕きさえすればすぐ
に身動きが取れなくなる。しかし敵も去る者。すぐさま高々左足を持ち上げるや、脛を
高々突き上げる。
 鐘つくような響きが二発。塵さえも振るわす斬撃なれど、掲げられた脛には傷一つつか
ない。と、上がった脛が、ふわりと地面に降りる。眼見開いた少年、すぐさまレバーを倒
して相棒に合図を送る。

17:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/19 07:47:09
「来るよ!」
 巨象は単に左足を降ろしたのではなかった。たった一歩の……しかし大砲を打ち鳴らす
ような踏み込みは怒濤。寸胴の一歩前進はそれだけで丸太を打ち付けるような圧力だ。
 深紅の竜は右へと跳ねた。易々と巨象の全身を受け止めるわけにはいかない。それにこ
れだけ大きく長いゾイド。側面にはきっと隙がある。
 竜は右へ、巨象は前進。かくて巨象は竜の左脇へ。敵の懐は隙だらけだ。……そう、い
っぱしのゾイドウォリアーなら誰もがそう判断するところだが、女教師だけは少年主従に
迫る危機を見逃さない。唇が少々動きかけたがすぐに口元を手で押さえる。
(この程度でアドバイスするようではお互い先が知れるわ……)
 巨象は三本の触手を花弁のように開いた。地球産の象ならば少々器用な鼻と鋭利な牙に
過ぎないこの箇所だが、惑星Zi産の巨象ならば獲物を搦め取り引きちぎる文字通りの触
手に相当する。
 薄気味悪い触手の一本は、左脇に回り込む深紅の竜にまでするりと届いた。短い首へと
巻き付いた狡猾な枷。竜は既に右の翼で斬りつけるべく腰を、足首を捻っていたところ。
思わぬ力に引き寄せられてはバランスを崩さざるを得ない。
 上半身を反り上げて仰向けに倒れかかった竜を、今度は別の触手が受け止めた。一見す
ると地面に全身を打ち付ける衝撃が緩和されたかに見えたが、代わりにこの触手も竜の胴
体に巻き付き、巨象の喉元へと引き寄せられていく。
 只、今日の試合運びはいささか妙だ。
 竜は不安定な体勢の中、胸元に注意を行き届かせる。まだまだ経験に劣る若き主人を案
じてのことだが、竜は激闘の最中いささか首を傾げざるを得ない。
 というのも、確かに少年は形勢不利を実感してはいたものの今までのようにむやみに感
情を先行させたりはしない。慌てふためき泣いたり力んだりせず、まるで他人事のように
己が置かれる状況の把握に努めている。相棒たる深紅の竜が不思議がるのは無理もないが、
正直なところやり易いのは確かだ。優しき相棒はだから、若き主人の指示を黙して待つ。
(密着されるとまずいな)
 自分より体格の大きな相手にそうされるたら不利は明白。それだけで、弱点に手が届き
にくくなる。
(そうなる前に……)


18:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/19 07:48:02
 慣れたレバー捌き。求めに応じた深紅の竜は左右の肘をぐいと曲げる。引き寄せられる
勢いに乗って、相手の嫌がりそうな部位にカウンターを一発お見舞いしてやろう。さあど
こだ、どこだと少年が眼を凝らしているうちに、彼は気付いた。
(ヒダ[※象で言うところの耳と思われる]が、うねってる?)
 少年が気付くまでにも、継続されるレバー捌き。
 触手の根元に打ち付けられた竜の肘。触手は不意の一撃に緩み、そこに竜がしなやかな
足で前蹴りをお見舞い。脚力をバネに変え、宙返りしつつ間合いを離す。
 竜は左右に翼広げ、身を伏せるように着地。じりじりと腰を持ち上げつつ、背負いし鶏
冠を逆立てて威嚇。巨象も負けじと三本の触手を奇妙にくねらせる。前足を数度、地面に
打ち付けヒダを小刻みに揺らして。
 少年は目を凝らした。あのヒダ。巨象は何か狙っているのではないか。
「エステル先生、彼奴のヒダ……何か武器でも仕込まれているんですか?」
 ビークルのコントロールパネルより不意に問いかけられ、切れ長の蒼き瞳は輝きをその
ままに、少し丸みを帯びる。
 愛弟子のたった一言に、女教師は手応えをひしひしと感じた。彼は敵を、己を、そして
次にすべき動作を冷静に、理性的に知ろうと努めている。今までならば絶体絶命の危機に
陥らない限り、中々できなかったことだ。
 彼女が強いた特訓は愛弟子を根本から変えつつある。蒼き瞳の魔女という絶対的な「壁」
を相手にし続けた結果、今までになく落ち着いた気持ちで試合に、戦闘に臨んでいる。
 彼女は愛弟子の成長を、もっと見たい。だから。
「……武器だとしたら、何故すぐに使わないのかしらね?」
 口元に笑みをたたえながら、その実少々嫌みな言い回しだなと女教師は思った。案の定、
モニターに映る少年はいささかムッとしている。しかし彼は、そういう返事もある程度は
想定していたようで、努めて声を押し殺すと。
「わかりました」
 一方、全方位スクリーンの左方には再び縮小したウインドウが見受けられる。横目で睨
んだ少年はしかし、すぐさま正面を向き直した。左手で頭を軽く小突く。
(ギルガメスの馬鹿。あれだけ先生と特訓したのにそれ位、観察できないでどうする……)


19:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/19 07:49:16
 腹を立てるべきは己自身だ。少年の憧れる女性は、もうそれ位のことは戦闘の最中に見
極められると信じているに違いない。
 だからこそ少年は、円らな瞳を努めて凝らす。
 深紅の竜は腰を低くしたまま吠え立てる。甲高い雄叫びは威嚇を狙ったものではない。
相手の反応を見極めるためだ。その証拠に、若き主人の視線を受け継ぎ顔や足下、三本の
触手といった各部の動きをちらりちらりと睨んで伺っている。
 竜は全方位スクリーンに文字を浮かび上がらせ、次の動作を催促した。観察は不調。だ
ったらもっと、こちらから動いてヒントを得るより他にない。
 レバー捌きを重く、小刻みに。主人の求めに応じ、竜は右へ、右へとカニ歩き。巨象も
歩調を合わせるように左回り。
 右の翼が宙を舞った。刃影が鮮やかに弧を描く。透かさず巨象は左足を上げて脛での受
け。しかし今度の衝突音は鐘よりも軽い、落ちた空き缶のよう。
 重さの乗らない技の理由は、竜が右半身を向いた時すぐ判明した。続く左の翼は先端を
しっかり巨象に向けている。右翼の斬撃に続くは左翼の突き。
 巨象も何ら、臆することなく脛、振り降ろし。地面に蹄を叩き込めば、舞う砂塵さえ痺
れ散る。
 振り降ろされた脛目掛けて、竜が放った左翼の刃。渾身の突きは縦一文字。鈍い音立て、
脛の中央にしかと命中。
 しかし巨象も突進力で鳴る剛の者。脛上げたまま刃の突きをがっちりと受け止める。鋼
鉄の骨が、刃が軋む、軋む。
 すり鉢の縁ではたちまち歓声が上がった。力と力の攻防、同体格、そして異型のぶつか
り合い。ゾイド同士の戦いでは試合・戦闘行為の別なく中々お目にかかれない展開だから、
無理もない(きっとテレビ中継を見る一般庶民の盛り上がりはこの場よりも遥かに上をい
くに違いない)。
 そんな中、少なくとも二人の女性は盛り上がる展開よりもその先を見据えていた。……
ビークル上より観戦する女教師は片手で頬杖つき。遥か彼方で中継を見る美少女はソフ
ァーの上で片膝つき。凝視しつつ少年主従の「次」の動作を予測していた。
 一秒、又一秒と続く競り合い。先に動いたのは深紅の竜だ。左の翼を羽ばたくように払
い除けつつ、その間にも刃を畳むしたたかさ。


20:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/19 07:50:27
 音速のつかえが取れ、堰を切ったように脛を振り降ろす深緑の巨象。瞬発力ならば目前
の竜にも勝るのは明らか。砂撒き散らし、三本の触手を全開にし。怒濤の掌と化し竜を掴
みに掛かる。
 それこそが少年主従の狙いだ。間を置くことなく右へと踏み込んだ深紅の竜。相手が勢
いよく突進すればするだけ、左右へと回り込み易くなる。……触手の届かぬ懐深くへ、だ。
 跳躍力なら竜の独壇場。たった一歩で巨象の尻辺りまで跳ねた(勿論相手の突進力もこ
の成果を後押しする)。満を持して、竜の右翼が弧を描く。折り畳まれていた刃がたちま
ち展開、半円が完成するまでには切先が巨象の尻に命中するだろう……そう、観戦者の殆
どが予想したその時。
「ギル、ガード!」
「馬鹿者、ガードだ」
 女性二人が声を上げた時、巨象の短い尻尾はバネのように伸びた。地表と水平というと
ころまで伸び上がるや目映く発火。銃声の怒涛、歓声の波涛。
 深紅の竜は咄嗟に左の翼で半身を覆い隠した。立ち籠める硝煙の中、金属の悲鳴が谺す
る。この至近距離だ、圧力が凄まじい。よろめく竜は踵をついて、膝を曲げて跳ね返す。
 少年は左手を正拳突きのごとく前に伸ばし、握るレバーを押し出していた。一秒、二秒
と経過する間に、彼は思考を巡らす。
(このまま払い除けて突っ込めば……!)
 決断すればあとは隙を捉えるばかり。真っ正面を見渡し巨象の弱点を探らんとしたその
時、少年は妙なことに気が付いた。
 巨象の足下……左の後ろ足、踵付近の地面が抉れている。お互い、数歩も踏み込めば地
面を掘り起こす迫力の持ち主だ。足跡など簡単には残るまい。だとすればあの抉れはたっ
た今、作られた代物。銃撃をしっかり浴びせるためには銃を押さえる足下がぐらついては
いけない。なのに巨象の後ろ足は、じりじりと動いた。
 銃声が止み、硝煙が晴れた時、再びすり鉢内部に鐘が響いた。吹っ飛んだのは深紅の竜
だ。瞬く間に自らの五匹分程も離され、仰向けに倒れ込む。
 竜が吹き飛ばされた原因を、巨象はいつまでも高々と振り上げておくわけにはいかなか
った。左の後ろ足は地面と垂直にまで伸び、重い後ろ蹴りとなって竜を襲ったのだ。成果
は上々、だがこれしきで倒せる相手でもない。すぐさま後ろ足を地につき方向転換。


21:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/19 07:52:04
 猛然と間合い詰め、覆い被さり、そして三本の触手を伸ばし。大の字に横たわる深紅の
竜を絡め取り、引き上げ。竜は四肢にも翼や鶏冠にも力はない。かくて竜は巨象に腹部よ
り密着され、抱え上げられた。そのまま締め上げるのか。

「その程度では倒せぬな」
 美少女はいつの間にか、ソファーに胡座を掻いていた。スクリーンを睨みつつ頬杖つき、
その実姿勢は中々一定しない。端から見ている白衣の男は苦笑を禁じ得ず我慢に一苦労。
「次の一手がある」

 巨象のヒダが、再び揺れ始めた。小刻みに揺れていたものが、徐々にしなやかに。いつ
の間にか溢れ出る光の粒。ヒダの表面で粒同士が重なり合い、やがて眩しき壁になると、
徐々にヒダが内側へと目前の竜を抱え込むように折れ曲がっていく。
 Eシールドだ。それも二枚。鉄壁の防御陣が竜の左右に着々と近付いていく。目映い光
量、そして竜の身長に匹敵する巨大さ。押さえ込まれれば竜はどうなってしまうのだろう。
 この一部始終を眺めているにも関わらず、この場には余裕の表情で眺めている者が少な
くとも二名、いる。女教師は片手で頬杖ついたまま呟いた。
「ギル、よく受け切ったわね。そして、見抜いた」
 声に応じ、少年は頭を掻いた。竜の胴体は地面と垂直になっているためコクピット内は
九十度倒れ込んでいる。汗に濡れた彼のボサ髪も真後ろに伸びっ放し。時折、痺れたのか
両腕をブラブラとさせながらも返事は明快だ。
「隠さなければいけない武器だから、すごく強い。
 けれど隙があるのは間違いないと思いました」
「ご名答。一気に決めなさい」
 巨象は触手を引っ込めた。よもや自らが放つ光の壁で自分自身の身体を損傷するわけに
はいかない。……だが、それが少年主従にとって反撃の合図になるとは巨象とその主従も
想像だにしなかっただろう。
 竜の背より弾けた蒼炎。祭り花火の閃光となって大空へと飛び立つ頃には、光の壁が貝
の蓋のように重なり合い、激しい放電を繰り広げていた。間一髪。だが少年主従は至極、
余裕。


22:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/19 07:53:03
「ブレイカー、ありがとう。
 摺り足の跡を見つけて、銃撃の次に蹴りが来るとわかったんだ。
 おかげで翼二枚掛かりで防ぐことができた」
 そう、少年は巨象の足下にできた抉れを見て、この相手が力を溜め込んでいることに気
付いたのだ。だから後ろ蹴りの追撃には刃を合わせるのではなく二枚の翼でしっかりと受
け止めた。吹き飛ばされてあたかも失神したように見えたのは彼らしからぬ、演技だ。し
かし、演技は必然だった。相手の手の内を探り切るためにも。
 果たして巨象は、わざわざ倒れた竜を引き上げた上でEシールドによる圧殺を選んだ。
この瞬間にまでヒダによる技を使わなかったことから見て、抜け道があるのは明白だ。そ
れは例えば……!
 深紅の竜は上空高くで翼広げた。後は自由落下の勢いを翼で上手く殺しつつ、狙いを定
めるだけ。
 少年は、吠えた。相棒も倣う。
「ブレイカー、魔装剣!」
 すり鉢の下では轟音鳴り響き、縁にいる者達を圧倒させた。しかし只一人、女教師はそ
のしなやかな身体をビークルの座席に腰掛け、エンジンを吹かす。……あの轟音は、深紅
の竜が深緑の巨像に馬乗りとなった証。水の軍団やドクター・ビヨーの刺客ならいざ知ら
ず、ゾイドバトルの試合でこの場をひっくり返す猛者は中々おるまい。五秒待ち、少年が
雄叫びを上げて試合終了となればすり鉢の下へも自由に降りられるのだ。真っ先に降り立
ち、祝福してやらねばなるまい。そうしてやれるのは彼女しかいないのだから。

「あ、あ、あの女ぁーー!」
 美少女は白い柔肌を溶岩のごとく真っ赤にさせた。すっかり憤った表情を見て、白衣の
男は透かさず手にしていたノート大の端末を弄り(開いていたデータを保存したに違いな
い)、畳み込んで懐に抱えた。美少女の怒髪天は今にもスクリーンに物を投げ込みかねな
い勢いだ。
「『B』よ、落ち着いて、落ち着いて下さい。ギルガメスが復活して何がいけないという
のですか」
 銀の瞳が放つ視線の矢。白衣の男は震え上がった。
「ギルガメスは良い。見ただけで欲情する。だがエステルの唾がついている!」


23:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/19 08:00:36
 スクリーンの向こうでは、うつ伏せになる深紅の竜が映し出された。中から降り立った
少年は、よもや女教師からハイタッチを合わせられるとは思いもよらず、目を丸く、しか
し感激さえしていた。彼女がサングラスを外すと穏やかな蒼き輝きが露になる。今、こん
な優しげな表情を見せる相手はきっと目前の少年只一人なのだ。
 それを横目でちらり見た美少女はふわり、飛び跳ねた。ガラス製のテーブルを飛び越え
るや、鮮やかな飛び蹴りがスクリーンに命中。薄く作られたスクリーンはひっくり返り、
電源が落ちた。
 その音で、足下で居眠りしていた銀色の四肢はゆるりと首をもたげる。不自然な音はき
っと主人の怒りが原因に他ならないから。
 白衣の男はすっかり困惑していたが、顔を押さえた指の隙間では瞳の濁りがぐらりと淀
んでもいた。スクリーン自体の破損が気にならないかと言えば「大いに」嘘があるが、そ
れ以上に美少女をここまで怒らせるのは何故か、興味を持ったのも事実だ。

「……もしマンモスが別の攻撃を仕掛けてきたらどうするつもりだったの?」
 こんなにも上機嫌な女教師を、少年は初めて見た。
 屋外には簡素なテーブルが並べられ、師弟は横並びに着席。師は左、弟は右だ。着々と
料理が並べられていくのを目の当たりにしながらの会話。包み込む夜の帳を篝火が引き裂
く。深紅の竜は傍らで首と尻尾を丸め込み、すっかりおとなしくなっている。
 タリフドに来てからというものの、しばしば地域の名家に呼ばれるようになった。若き
強豪チーム・ギルガメスの名は少しずつ、だが確実に名声を獲得していたのだ。元々は内
気なギルではあったが、チームの食料事情もある(一番食べるのは彼だ!)。それに人と
の出会いがもたらす転機を少年は十分理解しているつもりだ。だから彼は拒まない。
 彼は少考。ブレザーに着替え真一文字に口結んで考える様は今までになく大人びている。
「踏まれそうになったら、足を掴んで手繰り寄るつもりでした。
 銃撃はないと思いました」
 途端に女教師は難しい顔をし始めた。腕を組み熟考を開始したのを見て、少年は又何か、
まずいことを言ったかと渋い顔をした。

24:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/19 08:02:12
「『ない』と言い切るのはよしなさいね。銃撃の圧力も相当だったわ。もし貴方の狙いが
悟られていたら遠間合いから銃撃に転じていたかもしれない……」
 そういうことか。少年は頭を掻いた。彼女との特訓は着々と成果を上げ始めているが、
肝心なところはまだまだ両者に開きがある。
 話しを続けているところに、向こうから数名の年寄りが近付いてきた。落ち着いた雰囲
気の民族衣装は彼らなりの礼節なのだろう(共通して、ヘリック共和国のシンボルカラー
でもある青と白を使わない)。早速立ち上がり、深々とお辞儀する師弟。深紅の竜は首だ
けを伸ばし、尻尾の先端を横に振って愛想を振りまく。
「本日はお誘い下さいまして、誠にありがとうございます」
 女教師が朗々たる調子で返礼すれば、年寄り達も深々とお辞儀を返した。
「いやいやこちらこそ、試合の後のお誘いでご迷惑をおかけしました。
 ごゆっくり、お楽しみ下さい」
 かくして淡々と、宴席は進行していく。正直、こういう場に出るのを拒みはしないが苦
手を克服したとはいえない少年だ。適当に頷きを返すに留め、話しの主役が女教師中心と
なるのは致し方ない。
 宴席もたけなわとなったところで、彼女はある話題について、どこで切り出そうか考え
ていた。或いは、相手から切り出してくれても良かった。
「……ではエステルさん、次はどちらに向かう予定ですか?」
 好機だ。
「とにかく東へと進んでみたいと思っております」
 少年は成る程と思った。東へ突っ切れば、いずれデルダロス海へと出られる。海路を渡
れば、中央大陸に渡るという選択肢も生まれてこよう。きっと別の世界が開けてくる。
 ところが彼女のたった一言を耳にし、年寄り達は途端に顔を見合わせ始めた。心持ち、
厳しげな表情だ。別の年寄りが口を開く。
「お嬢さん、そのまま真っ直ぐ進むのはいくら貴方達でも無理じゃよ。
 なんせ、東には『忘れられた村』があるのでな……」
「『忘れられた、村?』」
 今度は師弟が顔を見合わせる番だ。反応を見て、年寄り達は師弟の認識不足をすぐに理
解した。
「エステルさん、貴方ならわかるじゃろう。『忘れられた村』はレアヘルツで覆われた山
と山との間にある。ゾイドなど到底通れっこない」


25:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/19 08:03:19
 だがそうなると、この「忘れられた村」の名称はおかしい。
「ゾイドが通れない地域なのに、村があるのですか?」
 するとその場を、急に重苦しい空気が流れ始めたのだ。年寄り達は皆、話し辛そうで伏
し目がち。女教師はその反応で状況を把握した。どうやら禁忌の類いに触れたらしい。早
速立ち上がって、深々と頭を下げる。
「申し訳ありませんでした。失礼な言葉がありましたらお許し下さい」
 彼女の右に座っていた少年も慌てて立ち上がり、拙いながら礼を尽くさんとする。尽く
しながら、彼は改めて己が憧れる女性の懐を見た思いだ。
 年寄り達もこれには恐縮したようで、両手を掲げてまあまあと二人を宥めた。
「いやいや儂達も、大人げない態度で申し訳なんだ。貴方達は遠方からのお客さんなのだ
から、知らなくて当然じゃ」
「只、深入りはなさらぬ方が良いかと思いますぞ。
 エステルさん、貴方のおっしゃる通り、人は住んでおるのです。しかしの、あそこには
流れ者ばかりが集まっておる」
「それだけならまだ良いのじゃろう、ここも似たようなものですからの。けれど、あそこ
の村人達は皆一様に、儂達外界の者の前では必ずベールを被り、決して顔を見せようとは
しないのですじゃ。
 何か、何か大事なことを隠すために外とのつながりを完全に断とうとしておる……」

「先生は、どう思いました?」
 キャンプへの帰途につく最中、少年はふと尋ねた。
 全方位スクリーンの左方には丁度人の顔より大きい位にウインドウが広がっている。そ
の向こうで女教師は心持ち、うつむいたままだ。
 翼を広げ悠然と滑空する深紅の竜。その掌の上、ビークルに彼女は着席し、腕を組み。
やがて重々しく口を開く。
「……ベールは刻印を隠しているのかもしれないわね」


26:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/19 08:04:16
 少年は押し黙った。やはりという表情だ。……少年の額に輝く刻印は、ちょっとしたパ
フォーマンスとして受けいられてはいる。しかし全ての人がああいうものを受け入れる筈
がないことは承知していた。かつて彼と戦った若者アルンの例を挙げるまでもない(第十
三話・十四話参照)。彼は刻印を知られるのを忌避して常に手ぬぐいを被っていたのだ。
 女教師はコントロールパネルに埋め込まれたモニター上より、愛弟子の様子を伺う。返
答に窮するのは想像がついていた。
「ギル、行きましょう。よくよく考えてみれば、全ては貴方の額に刻印が宿ってから始ま
ったこと。
 人造刻印のヒムニーザも刻印が勝手に発動したアルン君も、あの『封印プログラム』だ
って貴方の行く道を封じるように現れてきた。今更避けて通るわけにはいかないわ。
 きっと『忘れられた村』に全てを知る手掛かりがある。貴方に掛けられた秘密を解く鍵
が……」
 切れ長の蒼き瞳はスクリーンの向こうからじっと凝視していた。真摯な眼差し。時に心
臓が凍てつく程厳しいけれど、常に変わらぬこの眼差しだからこそ彼女を信じてきたのだ。
 だから少年も、頷くだけで十分だ。
「勿論、です」
 深紅の竜は滑空を続ける。もう数百メートルも進めば山道に辿り着く。キャンプへの近
道、そして次の行く先への道は近いか遠いかわからないが、他に考慮すべき要素は見当た
らなかった。
 二人と竜をじっと見つめるのは双児の月のみ。ささやかな虫の鳴き声が彩る静けさ。


27:魔装竜外伝第十七話 ◆.X9.4WzziA
08/10/19 08:07:18
 見つめていたのは月だけではなかった。
 別の山からすっくと立ち上がっていた白色の二足竜。曇りがかった頭部キャノピーの裏
側では竜達の動きが完全に捉えられていた。
「見つけたぞ、チーム・ギルガメス……!」
 功夫服の男はコクピット内で右腕を水平に構えた。
「惑星Ziの、平和のために!」
 軽い跳躍の後、鮮やかに斜面を滑る二足竜。拳聖パイロンと炎掌竜アロザウラー「オロ
チ」のコンビがこの後すぐに追撃に転じるかはわからない。しかし、これだけは言える筈
だ。チーム・ギルガメスが留まることは決して許されないのだ……!
                                      (了)

【次回予告】

「ギルガメスは秘密を探る前に、追っ手を振りほどかなければならない。
 気をつけろ、ギル! 外道の獅子は増殖する。
 次回、魔装竜外伝第十八話『剣の獅子達対チーム・ギルガメス』 ギルガメス、覚悟!」

魔装竜外伝第十七話の書き込みレス番号は以下の通りです。
(第一章)前スレ278-287 (第二章)前スレ289-298 (第三章)3-14 (第四章)16-27
魔装竜外伝まとめサイトはこちら URLリンク(masouryu.hp.infoseek.co.jp)

28:砂漠の国の激闘 1 ◆h/gi4ACT2A
08/10/20 22:57:29
その昔…惑星Ziに降り注いだ隕石群との戦闘で致命的な傷を負い、搭乗者であった
ヘリックⅡ世に秘匿の為自爆させられた悲劇の最強ゾイド・“キングゴジュラス”
本来ならばそこで彼は炎の海の中にその巨体を沈めるはずだった…。しかし、そこを
たまたま通りがかった正体不明の悪い魔女“トモエ=ユノーラ”に魔法をかけられ、
命を救われたのは良いけど、同時に人間の男の娘(誤植では無く仕様)“キング”に
姿を変えられ、千年以上の時が流れた未来へ放たれてしまった。正直それは彼にとって
かなり困るワケで…自分をこんなにした魔女トモエを締め上げ、元に戻して貰う為、
トモエから貰った強化型レイノスを駆り、世界中をノラリクラリと食べ歩くトモエを
追って西へ東へ、キングの大冒険の始まり始まり!

      『砂漠の国の激闘』     蟻地獄獣王アントライガー 登場

キングを乗せたレイノスは広大な砂漠の上空を飛んでいた。
「あらら…トモエの奴を追ってたら砂漠に来ちまったな~…。こんな所で砂嵐とかに
巻き込まれたら大変だし…ここは早い所飛び越した方が良いな。」
そうやってキングはレイノスの速度を上げようとした時、レーダーが真下からの反応を
キャッチしていた。
「ん!? 真下に反応!? しかも何だこの大きさ! 元の姿に戻った時の俺と同じ位
デカイんじゃねーか!? 一体何が!?」
キングはレイノスのキャノピーに顔を近付け、真下を覗き込もうとした時だった。
突如砂漠の中から巨大なクワガタの牙を思わせる何かが砂を吹飛ばしながら現れたのだ。
「うわ!」
そのクワガタの牙を思わせる鋭い刃物のごときそれは、物凄い勢いでレイノスの脚目掛け
挟み込んで来た。キングは慌ててレイノスを上昇させて難を逃れたが…あんな物をまとも
に食らえばレイノスの脚は瞬く間に持っていかれていたはずだ。
「な…何だ今のは…。ダブルソーダーのそれより遥かにでかいぞ…。こ…この砂漠は
早い所去った方が良いな。さっきのみたいなのがいるんじゃ…。」
キングは少し肝を冷やしつつ、レイノスを飛ばして砂漠から脱しようとした。

29:砂漠の国の激闘 2 ◆h/gi4ACT2A
08/10/20 22:58:33
それから一時レイノスを飛ばしていると、進行方向上に巨大なオアシスを中心にした
国らしい物があるのを発見した。
「お、オアシスか~。そこで一休みするのも有りだな。」
レイノスも長い事飛んでいた故、休息も必要。だからこそ、自分自身の休息も兼ねて
そのオアシスへ向けて飛ばしたのであるが…。

キングはオアシスの近くにレイノスを降下させた後、外に出てオアシスの水を少し
飲んだ。砂漠のど真ん中の水とは思えない実にさらっとした美味な水だった。
「お! こりゃ中々良い水じゃないか。この国の連中がここを中心にして住んでるって
のも分かるわけだ。この水はもっと汲ませてもらおう。」
キングはレイノスの機内に装備させている貯水タンクにオアシスの水を補給させよう
としていたのだが…そんな時、突然この国の兵士っぽいのが数人背後から現れた。
「旅のお方…突然の事で申し訳ありませんが…我が城へ来ていただけませんか?」
「何だおっさん達。オアシスの水を貰うにはおたく等の国の許可がいるってか?」
「いえ…そこは大して問題ではありません。しかし…我が女王陛下が貴方様の助けを
必要としているのです。」
「何だと…。一国の女王が俺なんかに一体何の用が…。」
キングは解せない気持ちを持ちながらも…兵達に連れられる形でこの国の城へ向かった。

「へ~…名も知られて無い小国と言うわりには良く出来た城じゃないか。」
城へ到着したキングは立派な作りの城に少し感心していた。この国の城は金属分を大量に
含んだ頑丈な自然石を綺麗に削り出した物を積み上げ、組み上げて作ったピラミッド状の
物だった。ピラミッドと言えば、銀河の彼方にある地球と言う星においては王の墓と
されているが、この国では王の住居であり、城として使われている様子らしかった。
現に内装は、地球製ピラミッドとは違い、人が住む事を想定した作りになっている。

30:砂漠の国の激闘 3 ◆h/gi4ACT2A
08/10/20 23:00:24
「ん? 何かさっきまでいた兵隊とかが急にいなくなったぞ。何処へ行った?」
城の作りに感心していた隙に先程までキングの周囲にいた兵隊やその他城に勤めている
家臣等も姿を消し、キング一人きりにされてしまった。
「おいおい…こんなだだっ広い部屋の中に一人きりにすんなよ…何か出そうじゃねーか。」
流石の彼もこれには心細くならざるを得ないが…そこで突然一人の長身の女性が現れた。
砂漠の国に住んでいる者とは思えない色白でスレンダーで、それでいて露出度は高くとも
上品な印象を持たせる様な服装に身を包んだ美女である。
「突然ここまでお呼びして申し訳ありません…。私はこのエジプタル王国の女王…クレオ
と申します。」
「あ…ども…自分はキングって言います。」
何故か思わずキングも女王クレオに対して頭を下げながら自己紹介していたが…そこで
突然クレオがキングの前で跪いたでは無いか!
「お願いします! キング様! 貴方のお力で…エジプタル王国を救って下さい!」
「お! おいおい! 女王様がいきなり旅人に土下座すんなよ! 何があったんだ!?」
キングは戸惑いながらも女王クレオを起こしつつ話を聞こうとし、そして女王クレオは
今にも泣きそうな表情で話し始めた。

「エジプタル王国は周囲を砂漠に囲まれた小国でありながら、この尽きる事を知らない
オアシスのおかげで栄え、豊かで平和な国だったのです。ですが…あのアントライガーの
せいで…。」
「アントライガー? どっかの国が作った新型のライガー系ゾイドか? 近頃は何処も
かしこもライガーライガーなご時世だもんな~。」
初めて聞く“アントライガー”と言う単語が解せないキングはそう訪ねるが、女王クレオ
は首を左右に振った。
「いえ…アントライガーとは我がエジプタル王国に大昔から伝わる伝説の魔獣王…のはず
だったのです! ただの伝説上の存在に過ぎなかったはずなのに……この最近になって
突如その伝説に伝わる通りの怪物が…アントライガーが現れる様になったのです!
おかげでそれまで我が国にやって来て商いをやっていた行商達も寄り付かなくなり…
我が国は物資不足に陥ってしまいました! お願いで御座います! 貴方の…貴方様の
お力をどうか我々にお貸し下さい!」

31:砂漠の国の激闘 4 ◆h/gi4ACT2A
08/10/20 23:01:50
女王クレオは目から大量の涙を流しながらキングの手を掴んでいた。
「その言い方…まさか…俺の正体を知っているのか…?」
「ああ…それはわらわが教えたんじゃ!」
「あ! トモエ!」
そこで突然現れたは、キングを弄んで楽しむ悪い魔女“トモエ=ユノーラ”どうやら
キングが城まで案内された事も、女王と謁見出来た事も全ては彼女の口添えの様だ。
「もしかして…俺の正体に付いて…教えたのか?」
「勿論じゃ。」
「良く信じてもらえたな~!」
キングとしては自分の正体が知られた事よりも、女王クレオがそれを信じた事の方が
遥かに驚きだった。何しろこ世界における一般常識を全て否定しかねない程の明らかに
非科学的な事なのだから。
「ですが…ビースとカントーリにそれぞれ出現した未確認巨大生物を退治したのは
貴方だとか…。お願いします! お礼は好きなだけします! ですから…その力で
このエジプタル王国を救って下さい!」
女王クレオは再び跪き哀願するが…キングは彼女を見下ろし…言った。
「一つ聞くが…この国の戦力でそのアントライガーとやらに立ち向かおうとしたのか?」
「そ…それは…。」
「しなかったのか? この国にもある程度の防衛力はあるだろうに…それでそのアント
ライガーとやらに立ち向かおうとはしなかったのだな?」
「………………。」
女王クレオは何も言わなかった。いや…言えなかったと言うのが正しいだろう。それを
悟ったキングの表情は途端に厳しくなる。
「そうか…ならダメだ!」
「おいお主! この国が大変だと言うのに何じゃその言い草は! ちゃんとお礼も出ると
言っとるのに手を貸さんと言うのか!?」
キングの発言にトモエは思わず自分からキングに掴みかかろうとするが、逆にキングに
叩き払われてしまった。

32:砂漠の国の激闘 5 ◆h/gi4ACT2A
08/10/20 23:03:13
「痛!」
「黙れ! 何時もお前の言いなりになると思うなよ!? それに女王様とやら!
仮にここで俺がちょっと本気出してアントライガーとやらを倒したとしても…次また
似た様な事が起こった時どうする?」
「!」
「その時には多分俺はもうこの国から遠く離れてて助けを頼む事は出来んぞ! そうだ!
今度はお前等が自力で国を守らなきゃいけないんだ! 自分の身を自分で守れない奴に
一国の国を治める資格など無いぞ!!」
そう言い放つと共に…キングはその場から立ち去り…女王クレオは愚か、普段キングを
弄びあざ笑っていたトモエさえも呆然と立ち尽くすのみだった。

「…………。」
キングが城から離れて一時…女王クレオは一人考え込んでいた。
「済まんのう…奴は何時もならわらわの言う事聞いてくれるんじゃが…。」
何時も他人を見下した態度を取る事の多いトモエも申し訳無さそうに謝るが…
「いいえ…貴女のせいではありません。それに…もしかしたら彼の言う通りなのかも
しれないのです。私達は…自力で自分達の身を守ろうとする意思を欠如していたのかも
しれません。ならば…。」
と、その時…それは起こった。突然凄い音と共に城の床がグラリと揺れたのだ。
そして城の衛兵の一人が慌てて走りこんで来た。
「女王様! 奴です! アントライガーが出現しました!」
「何ですって!?」

33:砂漠の国の激闘 6 ◆h/gi4ACT2A
08/10/21 22:23:24
“蟻地獄獣王アントライガー”
それはまさに機械の怪獣…機怪獣だった。全身に甲虫のごとき分厚い甲羅を持ち、特に
頭部側面にはクワガタムシを思わせる巨大な鋭い牙が伸びている巨大なライオン型ゾイド。
それは砂漠の砂中を掘り進む力を持ち、頭部のクワガタのごとき牙で全てを挟み潰し、
喰らい潰す恐るべき化物だった。そして…それまでエジプタル王国周辺の砂漠で主に行動
していたアントライガーは…ついにエジプタル王国を直接攻撃して来たのである。

「あ~…さっき俺っちのレイノスを襲った奴はアントライガーの事だったんか~。」
エジプタル王国にある建物を次々破壊しながら王城へ迫るアントライガーの姿をやや
離れた位置から眺めるキングは他人事の様にそう言い放っていた。

アントライガーの力は圧倒的だった。その巨体でエジプタル王国の建造物を容易く砕き
崩して行き、人々は成す術無く逃げ回る…かに見えた。突如として王城付近から放たれた
砲弾が数発…アントライガーへ直撃していたのだ。そして、王城からガイサックや
ステルスバイパー、ウネンラギアを砂漠戦に適して作り直したトカゲ型ゾイド・“デザート
リザード”等々の…砂漠戦用ゾイドの軍団。エジプタル王国軍が姿を現したのである。

「全軍に一斉攻撃命令! アントライガーの脅威から我が国を防衛せよ!」
女王クレオの凛々しい声が響き、エジプタル王国軍はアントライガーへの攻撃を開始した。
その時の女王クレオの声はキングの前で涙していた彼女と同じ人物とは思えなかった。

エジプタル王国軍は全力を持ってアントライガーを迎え撃ったが…小型ゾイド中心の
編成であるが故にアントライガーの全身を覆う甲虫のごとき固い甲羅にはまるで
ビクともせず、逆に返り討ちにされて行くばかりであった。やはりエジプタル王国は
アントライガーによって滅ぼされてしまうのか…? と思われた…

34:砂漠の国の激闘 7 ◆h/gi4ACT2A
08/10/21 22:25:16
「おうおう! 中々やるじゃねーか! 俺の一括が効いたってか!?」
例え分が悪かろうと、自国を守る為に命を懸けて戦うエジプタル王国の戦士達。
その生き様…死に様はキングの心を動かした。いや…彼はこれを待っていたのだ。
そしてキングは駆け出す。次の瞬間、彼の水色の頭髪の中に混じって唯一真紅に輝いて
逆立つアホ毛が炎の様に燃え上がる光を放ち…キングの全身を包み込んだ。

エジプタル王国軍はなおもアントライガーへ砲撃を続けていたが、やはり全身の甲羅を
破壊するに至らない。アントライガーへ纏わり付いて甲羅の隙間を攻撃しようとした
勇気あるガイサックもいたが…それさえ振り払われてしまった。やはりもうダメなのか…
そう思われた時…何か巨大な物がアントライガーの巨体を突き飛ばした。
『お前等の本気は見せてもらった! ここからは俺に任せろ!』
そこに現れたのは頭部に輝く真紅の角を持つ巨大な恐竜型ゾイド“キングゴジュラス”
そして、その口から放たれたのは紛れも無いキングの声。これがキングの本当の姿であり、
普段トモエにかけられた人間化の魔法を自力で何とか振り払う事によって、一定時間内
ならば本来の姿に戻る事が出来たのだ。
「こ…これが…彼の本当の姿…キング…ゴジュラス…。」
キングゴジュラスの姿を見た女王クレオは恐怖にも畏怖にも尊敬にも似た表情でそう
呟き…キングゴジュラスはアントライガーへ向かって行った。

『オラァ!! この蟻地獄野郎!! こうなった俺は他の連中程優しくは無いぞ!!』
キングゴジュラスはアントライガーへ体当たりを仕掛け、そのまま圧倒的パワーに物を
言わせ、エジプタル王国の外の砂漠まで押し出した。そしてアントライガーをうつ伏せの
形で倒した後で上に圧し掛かり、その背に己の鉄拳をお見舞いするのだが…その拳が
ビリビリと震えた。
『うっ! 硬ぇ! まるで特殊超合金だ!』
機械の怪獣…機怪獣はどれも通常兵器を寄せ付けない高い耐久性を当たり前に持っている。
キングゴジュラスを持って初めて対抗出来るのが現状なのだが…そのキングゴジュラスの
パワーと拳を持ってもビクともしない程…アントライガーの甲羅は強固だった。

35:砂漠の国の激闘 8 ◆h/gi4ACT2A
08/10/21 22:27:00
『ならば連続攻撃だ!!』
キングゴジュラスはやたらめったらにアントライガーの甲羅目掛け拳を連続で叩き付けた。
超強度物質同士の激しい激突は周囲の砂を巻き上げる程の衝撃波を発生させる。これを
やると拳もかなり痛いが我慢した。しかし…そこで突然アントライガーが姿を消したのだ。
『奴が消えた! ち…違う! 砂の中に潜りやがった!』
アントライガーはただ装甲が分厚いだけのライオン型ゾイドでは無く、砂中を自由自在に
掘り進み動き回る事が出来た。そしてアントライガーを見失ったキングゴジュラスが
戸惑っている隙に、背後から勢い良く飛び出し、頭部側面のクワガタのそれを思わせる
鋭い牙でキングゴジュラスの腹部装甲を挟み込んだ。
『うぉ! 砂の中をまるで水中の魚みたいに動き回りやがって…ライオンのくせに…。』
キングゴジュラスは自身の腹部を挟み込むアントライガーのクワガタ状の牙を握り締め、
何とか引き離そうとするが、アントライガーの挟む力が強く引き剥がせ無い。逆にキング
ゴジュラスの絶対鉄壁のはずの装甲が悲鳴を上げる程だった。

「あの紅い角のゾイドがピンチじゃないか!」
「奴でもアントライガーには勝てないのか!?」
キングゴジュラスとアントライガーの激闘を見守るエジプタル王国の者達は口々にそう
言うが、彼らにはもはやバケモノ同士の戦いに割って入る度胸は無かった。

『何時までも挟んでんじゃねー!! 地味に痛ぇんだよ!!』
キングゴジュラスだってマゾじゃないんだから、痛いのは嫌だ。ついにアントライガーの
クワガタ挟み攻撃を強引に外し、勢い良く投げ飛ばした。
『続けてキングミサイル!!』
続けて宙を舞うアントライガー目掛け、自身の口腔部から発射したミサイルをニ、三発
撃ち込み、大爆発と共にアントライガーは背中から砂上に叩き付けられた。

36:砂漠の国の激闘 9 ◆h/gi4ACT2A
08/10/21 22:29:08
『ケッ! まだ五体満足でいやがるか…ってゲゲェ!!』
突然アントライガーのいる場所を中心に砂が陥没を始め、まるで砂地獄のごとく全てを
飲み込み始めた。そう、それこそアントライガーが蟻地獄獣王と呼ばれる所以。蟻地獄の
ごとく、キングゴジュラスを砂中奥深くに飲み込んでしまうつもりであった。
『こらやべこらやべ! 流石の俺も空だけは飛べん!』
アントライガーの作り出した砂地獄に対し必死に抗うキングゴジュラスだが、どうにも
出来ずに徐々に沈んで行く。と、そうしている内にキングゴジュラス首下のライト部が
点滅を始めた。キングゴジュラスがトモエの魔法を振り切って元の姿に戻っていられる
時間の限界が近付きつつある事を示していたのである。
『くそ! こんな時に限界が!? 全く踏んだり蹴ったりだな!』
彼だって思わず愚痴を零したくなるが、あまり愚痴ばっかり言っても仕方が無い。
『砂に飲み込まれて終わるか…制限時間が来て終わるか…。だが俺はそのどちらかでも
無い!! アントライガー!! てめーを倒してから終わって見せるぜぇぇぇ!!』
直後、キングゴジュラスが自分から砂地獄の奥深く中心にいるアントライガー目掛け
飛び込んだ。これはもはや自殺行為にしか見えないが…
『食らえ!! スゥゥパァァガトリィィング!!』
飛び込みながら胸部の大型ガトリング砲“スーパーガトリング”を撃ちまくった。
照準など最初から付ける気も無い連撃であったが…下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。
さらにその連撃はアントライガーの分厚い甲羅の防御力限界を上回り………砂地獄の
中心部で大爆発を起こし、そこから巻き上げられた砂はエジプタル王国全域に
降り注ぐ程であった。

大量の砂煙にエジプタル王国の国民達は咳き込んでいたが…やっと視界が回復した時、
彼らが見たのは砂漠の彼方此方に四散したアントライガーの亡骸だった。

37:砂漠の国の激闘 10 ◆h/gi4ACT2A
08/10/21 22:31:10
「アントライガーが…死んだ…。」
「こ…これでエジプタル王国は再び平和になる…。」
「あのゾイドは…あの紅い角のゾイドは…我が身を犠牲にしてエジプタル王国を守った
のじゃ…。せめて…せめて…彼に対して黙祷を捧げようでは無いか…。」
「それじゃあ…黙祷!」
王国の危機を救った英雄に対し、皆は涙ながらにささやかな黙祷を始めるが…
「こらこら! 勝手に殺すんじゃねーよ!」
そこで未だ残る爆煙の中からレイノスが飛び出しており、その足の爪にはキングが掴まり
ぶら下がっていた。

「私は信じていました。貴方は何だかんだ言いつつも助けてくれると。」
「けっ! しょうがねぇな! だが…次何かあった時は自力で何とかしろよ! トモエの
奴も結局何時の間にかどっか行っちまったし…俺ぁもう行くからな!?」
と、キングは何やらツンデレっぽい発言をしつつ、アントライガーを退治した恩賞として
女王クレオから金塊等を受け取った後、レイノスに乗り込み再び旅立ったそうな。

                  おしまい

38:奴等は星の世界からやって来た 1 ◆h/gi4ACT2A
08/10/25 22:00:00
その昔…惑星Ziに降り注いだ隕石群との戦闘で致命的な傷を負い、搭乗者であった
ヘリックⅡ世に秘匿の為自爆させられた悲劇の最強ゾイド・“キングゴジュラス”
本来ならばそこで彼は炎の海の中にその巨体を沈めるはずだった…。しかし、そこを
たまたま通りがかった正体不明の悪い魔女“トモエ=ユノーラ”に魔法をかけられ、
命を救われたのは良いけど、同時に人間の男の娘(誤植では無く仕様)“キング”に
姿を変えられ、千年以上の時が流れた未来へ放たれてしまった。正直それは彼にとって
かなり困るワケで…自分をこんなにした魔女トモエを締め上げ、元に戻して貰う為、
トモエから貰った強化型レイノスを駆り、世界中をノラリクラリと食べ歩くトモエを
追って西へ東へ、キングの大冒険の始まり始まり!

           『奴等は星の世界からやって来た』

  宇宙海賊ブルースター(地球)星人  バトルアーマー・スカルバイパー 登場

惑星Ziから遥か彼方、銀河中心を挟んで6万光年の先に“地球”と言う惑星があった。
その星に住んでいた人類・地球人は高度な科学力を有するも、星そのもの環境が限界に
達しつつある事を悟った彼等は外宇宙へ乗り出す事を決意し、幾多の移民船が宇宙各地へ
散った。そして、その中の移民船の内の一隻、“グローバリー三世号”が惑星Ziへ到達し、
彼らは自身が持っていた高度な科学力を惑星Zi人へ伝えた。それこそが現代において
一般的に使用されているゾイドの基礎とも言える物であり、地球人は惑星Ziにおいて
唯一公式的に存在が確認された異星人であった。

長い時の中、幾多の戦乱や自然災害等による資料の焼失等によって、地球人の存在や
彼らの伝えた技術の幾つかは何時しか惑星Ziの歴史において忘れ去られていったが…
その間にも地球は発展を続けていた。

39:奴等は星の世界からやって来た 2 ◆h/gi4ACT2A
08/10/25 22:02:10
事故によって惑星Ziに不時着せざるを得なかったグローバリー三世号を除き、宇宙各地
に散った地球の移民船群は宇宙各地で殖民惑星を開拓。間も無くしてそれら各惑星間での
ネットワークも構築し、本星である地球を中心とした巨大星間国家“ブルースター星間
連邦”を設立していた。惑星Ziにおいて幾多の戦乱や自然災害等…帝国だの共和国だの
ゾイテックだのズィーアームズだのディガルドだの討伐軍だのビースだのダイナスだの
大異変だの神々の怒りだの…その他モロモロによる戦争・平和・発展・滅亡・復興を繰り
返していた中、惑星Ziの及びもしない所で地球はさらに巨大な物となっていたのだ。

確かに地球においても、そこまで発展するまでには幾多の戦乱があった。宇宙と言う
生命の生存し難い環境に阻まれる事も度々あった。しかし彼等はくじけずに障害に挑戦
を続け、一つ一つ克服して行き、その結果として巨大星間国家“ブルースター星間連邦”
を建国するに至ったのである。

しかし、何処においてもはみ出し者の一つや二つはいるものだ。それは当然ブルースター
においても変わらない。“彼ら”は宇宙海賊として宇宙の海を巡り、ブルースター圏内の
各星々で略奪行為を繰り返して来た。“彼ら”はブルースターのお尋ね者だったのである。
そして“彼ら”は犯罪者に対する取り締まりの為に出動したブルースター正規軍の追撃を
振り切りつつ、略奪を繰り返しながら星々巡る中で、地球本星から6万光年の彼方に存在
した一つの星、我等の“惑星Zi”を発見するのであった。

“彼ら”の母船。地球製宇宙艦は惑星Ziの衛星軌道上に固定し、高精度カメラを持って
地表を調査している様だった。

40:奴等は星の世界からやって来た 3 ◆h/gi4ACT2A
08/10/25 22:03:35
「この様な星がまだあったとはな…。」
「データベースにありました。ブルースター星間連邦発足より遥か大昔…まだ宇宙移民
計画自体が始まったばかりの頃、移民船の一つが不時着した未開惑星との事です。当然
ブルースター星間連邦には加盟していません。と言うか、彼らの技術レベルからして
自分達が住む星以外にも生命がいる事すら認識していないでしょうな。」
「そうか。そんな原始人が相手なら特に策を弄せずとも物資の補給が出来るな。それで
いてこの星は金属分を多大に含んでいる様だ。もしかするならば他の星では手に入らない
レアメタルの類も多数存在するのかもしれない。よし! そうと分かれば全艦降下開始!
手頃な場所へ降りて物資補給を開始する!」
「了解!」
“彼ら”の艦は惑星Ziへの降下を開始した。宇宙海賊たる彼らの言う“補給”とは
“武力による略奪”の事を指す。“彼等”はそれまで自分達が他の星々で行って来た様に
惑星Ziにおいても略奪を繰り返そうとしていたのだ。

外宇宙からの侵略者に狙われている等知る由も無い惑星Ziの人々は、小規模な扮装や
小競り合いをしながらも概ね平和に暮らしていた。そして、その中の一つの都市の隅に
ある一軒のラーメン屋にキングとトモエの二人の姿があった。
「一体何を企んでいる?」
「いきなり何を言うんじゃ? そんな事より早く喰うが良い。」
味噌ラーメンを食べているトモエに対し、テーブルを挟んで向かい側に座るキングは
自身の正面に置かれたとんこつラーメンに手も付けずにトモエを睨み付けていた。
「何って! お前が自分から態々俺にラーメン奢るなんて何かまた変な事企んでる以外に
何かあると思うか!?」
「まあそう言わずに喰え。麺が延びるぞ。文句なら喰ってから聞いてやる。」
「くっ…。」
何だかんだ言いつつ、トモエに弱みを握られているキングはどうにも彼女に逆らえない。
不本意と思いながらもキングはとんこつラーメンを食べる事にした。

41:奴等は星の世界からやって来た 4 ◆h/gi4ACT2A
08/10/25 22:05:48
ラーメンの麺と具を全て食べ終わり、後はスープを飲み干すのにとなった所でキングは
再びトモエに訪ねた。
「で…お前が態々俺にラーメンを奢った理由は何だ? また何処かで“機怪獣”の類でも
出たりしたのか?」

“機怪獣”
一般的に機械化されたゾイドの事を“戦闘機械獣”と呼ぶが、それとはまた別系統の未知
の生命体を機械の怪獣…“機怪獣”と呼んだ。常識を超越している事がむしろ当たり前な
能力を持っている機怪獣は、少なくとも現時点においてはキングゴジュラスをもって唯一
対抗可能なまさに怪物だった。トモエがキングに自分からラーメンを奢って来たのは
その機怪獣退治をやらせようと言う魂胆なのでは? とキングは考えていたのだが…

「うんや。 そんなの何処にも出ておらんぞ。」
「はぁ?」
トモエの言葉にキングは首をかしげた。ならば何故態々ラーメンを奢ったのかと…
「じゃあ他に頼みたい事があるってか?」
「うんにゃ。別にそんな話は無い。」
「じゃあ何でラーメン奢ったんだよ!」
「わらわがお主にラーメンを奢っては悪いか?」
「…………。」
どうにもトモエの考えが読めないキングは一時黙り込むしか無いが、その後で再度問う。
「だってお前の性格からしてこういう事をするのは絶対裏があるとしか思えんから…。」
「まったく…わらわも見くびられたものだのう…。わらわだって時にはお主に何か
してやりたくなる事だってあるわ。言うなればお主への愛故じゃ…。」
そう言って、明らかに彼女らしくない優しい微笑を向けるトモエに対し、キングは悪寒が
感じ、真っ青になった。
「こら…寒気がする様な事言うな…。大体お前の言う事は信用出来ねっつの。」
「なら何で寒気を感じるんじゃ? 冗談と分かってるならそうなる必要はあるまい?」
トモエの発言が本気か冗談かは別として、概ね街は平和だった。しかし…

42:奴等は星の世界からやって来た 5 ◆h/gi4ACT2A
08/10/26 18:38:33
トモエは本当にラーメンを奢ってくれた様で、キングの分も代金を支払ってくれた。
そうして二人で店から出た直後にそれは起こった。

「うあー! みんな空を見ろー!」
「何だあれはー!」
突然街を歩いていた通行人達が揃って空を指差し、大騒ぎを始めたのだ。
「ん? 何だ? 何が起こった?」
「まったく食事も終わったばかりだと言うのに何が起こったと言うのじゃ…。」
トモエは愚痴を言いながらもキングと共に上を見上げるのだが…
「うわぁ! 何じゃあれは!?」
何時も他人を見下してる様にさえ思える様な余裕満々の笑みを絶やさないはずのトモエが
今度ばかりは本気でビビッていた。何故ならば…街の上空に明らかに見覚えの無い巨大な
艦が浮遊していたからだ。全長数百メートル…と言うか明らかにキロメートルさえ超えて
いそうな程巨大で、全体が鏡面の様にツルツルした金属に覆われた巨大戦艦である。
「何だありゃぁ!? ホエールキングよりデカイじゃねーか!」
「わらわはこれでも世界中の軍隊の装備について把握してるつもりじゃが…あんな
タイプは見た事が無いぞよ! と言うか…設計思想が違い過ぎる!」
「まさか巨大戦艦型の機怪獣とか!? それなら何かありそうじゃね!? 以前も
ビースでブロックスの塊みたいな機怪獣が出た事もあったんだし!」
「う~む…機怪獣ともまた違う様な気がするのじゃが…。」
キングとトモエの二人がそういうやりとりを行っている中も、巨大艦は街の真上を
我が物顔で浮遊しており、街の人々は呆然と巨大艦を眺める者やパニックを起こして
逃げ出す者等様々な反応を見せていた。しかし彼らは知らなかった。この巨大艦こそ、
今まさに惑星Ziをその毒牙にかけんとしている宇宙海賊ブルースター(地球)星人の
艦であった事を…

43:奴等は星の世界からやって来た 6 ◆h/gi4ACT2A
08/10/26 18:40:01
「あ! 見ろ! 何か出て来るぞ!」
巨大戦艦の口が開き、その中から何かが現れる。それは大型ゾイド並の体躯を持ち、
なおかつカーキ色の鉄兜・軍服・ライフル・アーミーナイフ等を装備した一般的に
持たれている戦闘歩兵のイメージをそのまま機械化させた様な…人型機動兵器だった。

“バトルアーマー・スカルバイパー”
惑星Ziにおいて戦闘機械獣ゾイドが戦闘から作業まで様々な分野で活用されている様に、
ブルースター圏においては“バトルアーマー”と言う人型機動兵器が一般的に使用されて
いた。その内の一機種“スカルバイパー”は戦闘歩兵をイメージさせるデザインと、その
バランスの良さで正規軍から“彼ら”の様な宇宙海賊まで様々な場所で広く使われていた。

「うわー! こっちに降りて来るぞー!」
五機のスカルバイパーで構成される一小隊が群集のど真ん中へ降下して来た。当然人々は
慌てて散り散りになって逃げ出した。だが、それだけでは無い。今度は全身にパワード
スーツの様な物を装着した歩兵隊も降り立っていたのだ。

そして…殺戮と略奪が始まった。スカルバイパーが周囲の建造物を叩き壊し、潰し、
歩兵隊が携帯していた光線銃で街の人々を撃ち殺しながら各商店等へ突撃し、食料品等を
初めとする各物資の強奪を行っていた。

“彼ら”は同じブルースター(地球)星人同士でも構わず殺戮と略奪を行える者達だ。
それ故“彼ら”にとって惑星Zi人は土人以下、虫ケラも同然であり、例え何をしよう
とも罪悪感の欠片も感じないのであろう。

「うわぁ! 何だあいつ等の持ってる銃! 一発で人が骨だけになりやがった!」
「普通、光学兵器と言えば精々照射面を焼き切る事しか出来ないと言うのに…
あそこまで可能な程小型高性能化させられる技術は一体何処から…。」

44:奴等は星の世界からやって来た 7 ◆h/gi4ACT2A
08/10/26 18:42:13
キングとトモエは物陰に隠れて事のあらましを見ていたのだが…“彼ら”の得体の知れ
なさに呆然とするのみだった。しかし技術と歴史のリセットを繰り返し、技術発達が
停滞がちになっている惑星Ziと違い、地球…ブルースター圏は発展を続けていた。
惑星Ziでは不可能とされる技術も彼らにとっては出来て当たり前と言う程にまで技術
水準に差がありすぎた。実際…惑星Zi人に近代技術を授けたのは地球人に他ならない。

こうしている間も“彼ら”は街の人々を無差別に殺害し、物資の略奪を行っていた。
街の人々は成す術無く逃げ回り、撃ち殺されるしか無い。“彼ら”の持つ光線銃を受けた
人間は忽ち全身の肉が削げ、吹き飛び、骨だけにされてしまうのだ。まるでSF映画の
様な光景である。そう、その昔地球人と言う異星人によって技術を授けられたと言う
事実がすっかり忘れ去られて現代の惑星Zi人にとって、宇宙人が攻めて来る等SFだけ
の事だった。しかし、今それがまさに現実の物となったのだ。

「こりゃ不味いのう…んじゃわらわはもう帰る。お主も死なない様に頑張るんじゃぞ?」
「あ! こら待て! 俺を置いて行くなよ!」
この状況に命の危機を悟ってか、トモエは魔術的にワープの類を使って一人何処かへ
転移してしまった。無論キングを置いてである。ラーメンを奢ってくれたくせに、
こう言う時は置いて行く辺り、やはりトモエも何を考えているか分からない存在と言えた。
「畜生…ついでに俺も連れてってくれりゃ良いのに…心細いな~まったく…。」
と、キングも愚痴の一つや二つ言いたくもなるが…その時だった。ついに“彼ら”に捕捉
されてしまったのだ。
「うわ! やべぇ!」
間髪入れずに光線銃で狙って来た“彼ら”の歩兵隊に、思わずキングは横に跳んで
逃げ出した。街の人々を無差別に襲っている“彼ら”は勿論キングに対しても平等に襲う。
それ故にキングは逃げ出すしかない。今の状態で彼らの光線銃を食らっては一溜まりも
無いからだ。

45:奴等は星の世界からやって来た 8 ◆h/gi4ACT2A
08/10/26 18:43:35
「くそっ! この野郎が!」
キングは護身用に携帯していた拳銃を取り出し、“彼ら”の歩兵隊へ向けてぶっ放した。
しかし…“彼ら”が装着しているパワードスーツは銃弾さえ弾き返すのだ!
「うわぁ! こっちの銃が効かないなんて不公平だぜ!」
これはもう逃げる他は無い。その間も彼らは容赦無く光線銃を撃ちまくり、周囲にいた
他の人々が巻き添えになって殺されて行く。まさに絶対絶命。

このまま“彼ら”の殺戮と略奪が続くと思われたが…そこでやっと軍隊が出動して来た。
シールドライガーやコマンドウルフを中心に編成された、最近ありがちな猛獣部隊が
バトルアーマー・スカルバイパーへ、歩兵隊が“彼ら”のバワードスーツ兵へ向けて
攻撃を開始するが…まるで歯が立っていなかった。

機動性を生かしてスカルバイパー小隊へ接近戦を挑むシールドライガーやコマンドウルフ
だが、至近距離でライフルを撃ち込まれ、ナイフで切り裂かれ、次々と崩し落とされた。
歩兵隊に関してもやはり銃弾がパワードスーツに弾き返され、光線銃で次々と骨にされて
行くしか無かった。

ここでもブルースター(地球)星人と惑星Zi人の技術水準の差が露となった。“彼ら”の
バトルアーマーは単なる人型の機動兵器でありながら、まるで生物の様な柔軟で滑らかな
動きが可能であり、装甲も武装も馬力も並のゾイドの非では無かった。無論歩兵の装備に
関しても同様であり、これが発展と衰退を繰り返した惑星Ziと、止まらず発展を続けた
ブルースター(地球)の絶望的とも言える技術差であった。

「まったく…どいつもこいつも…まるで役に立たねーじゃねーか! まあ相手は未知な
連中だから既存の戦術が通用しなくて苦戦ってのは仕方ないだろうけど…。」
次々と倒されて行く正規軍にキングは歯がゆさを感じていた。せめて民間人が非難する
までの時間稼ぎ位はしてくれても良いのだが…それさえ出来ない程の圧倒的戦力差が
あったのである。

46:奴等は星の世界からやって来た 9 ◆h/gi4ACT2A
08/10/27 21:14:47
こうなってしまえば再びキングが狙われるのは目に見えている。しかし…こうまでされて
黙っていられるキングでは無かった。
「くそ! 結局俺が尻拭いせにゃならんのか! ったくしょうがねぇなぁ!!」
キングは逃げず、逆にスカルバイパー隊へ向かって駆け出した。そして頭部に逆立つ真紅
のアホ毛が炎の様に燃え上がり、そこから発せられる真紅の輝きが彼の全身を包み込んで
行き…キングゴジュラスへと姿を変えた。

“キングゴジュラス”
これが彼の真の姿。普段はトモエの魔法によって人間の男の娘(誤植では無く仕様)に
姿を変えられてしまっているが、トモエの作為的な物なのか一定時間内ならば自力で
魔法を振り払って元の姿に戻る事が出来たのだ。

『オラァ!! こうなった俺は他の連中程優しくは無いぞ!!』
キングゴジュラスはアスファルトの地面を抉りながら駆け出した。彼自身が言った通り、
こうなった彼は優しくは無い。地面に大穴を空けようが、行く先に市民や正規軍の歩兵が
いようがお構い無しで突き進む。目標は一番手近な位置にいたスカルバイパーである!
『オラァ!! キィングナックル!!』
次の瞬間、キングゴジュラスの咆哮と共に巨大な拳がスカルバイパーの分厚い胸部装甲を
撃ち貫き…その直後、機体内部に流し込まれた高エネルギーによってスカルバイパーの
一機が内部から破裂…四散していた。通常キングゴジュラスの腕部攻撃はビッグクローと
呼ばれる巨大な爪によって引き裂く攻撃となっているが、今の彼は違った。トモエの魔法
で人間にされた事によって拳を使った戦いをせざるを得なくなった影響で、こうして
キングゴジュラスに戻ってもついつい拳を使った攻撃をしてしまう様になってしまった。

47:奴等は星の世界からやって来た 10 ◆h/gi4ACT2A
08/10/27 21:16:22
キングゴジュラスの登場に街の一般市民、正規軍、そして彼らにとって未知の敵である
“彼ら”ブルースター(地球)星人はそれぞれ浮き足立った。しかしキングゴジュラスは
お構い無しだ。続けて別のスカルバイパーへ突撃する。無論、残存する四機のスカル
バイパーは揃って右腕に持つライフルをキングゴジュラスへと発砲して行くが…
キングゴジュラスの装甲も常識を遥かに超越しており、まるで通じるはずも無い。
『てめぇ!! こそばゆいんだよぉ!!』
キングゴジュラスの重厚な外見と乱暴な言葉遣いとは対照的に声色は男の娘(誤植では
無く仕様)らしい女性的な物なのがどうにもシュールさをかもし出すが、強さには一切
影響は無い。再びキングゴジュラスの巨大な拳がスカルバイパーの胸板を貫き…その後
さらにスカルバイパーを貫いたまま別のスカルバイパーに拳を打ち込み、四散させた。
『残るは二機だけだぁ!!』
餓えた獣のごとき目のキングゴジュラスに臆してか…残存する二機のスカルバイパーの内、
一機はやや後退してライフルを構え、もう二機はキングゴジュラスの背後に回り込み
格闘戦用のナイフを構えていた。
『お! 前後から挟み撃ちと来たか?』
恐らく“彼ら”は惑星Ziにおいて自分達に対抗しうる力を持った者がいるとは夢にも
思わなかったであろう。だからこそ友軍機をわずかな時間で三機も失ったスカルバイパー
二機のパイロットの緊張が機体を通して伝わって来る程だった。もはやこうなっては
キングゴジュラスの方が完全にヒールだ。いや、この戦いに正義も悪も無いのだろう。
片や惑星Ziに殺戮と略奪の嵐を巻き起こそうとする宇宙海賊…片や天下無敵の破壊神
キングゴジュラス。この街の一般市民にとってはどちらも迷惑この上無い存在だった。

キングゴジュラス正面のスカルバイパーが発砲した! 右手に持つライフルだけでは無い。
機体本体に内蔵されたバルカン砲や多弾頭ミサイル等の各種武装が矢継ぎ早に撃ち出され
て行く。そのどれもが惑星Ziでも一般的に使用されている様な通常弾丸やミサイル等の
実体弾だが、惑星Ziとは比べ物にならぬ高度な科学力が脅威的な破壊力を生み出す。

48:奴等は星の世界からやって来た 11 ◆h/gi4ACT2A
08/10/27 21:17:33
周囲のビルは次々に吹き飛び、直撃を全身に受けたキングゴジュラスは忽ち巨大な爆煙に
よって見えなくなった。しかし、例え爆煙によって目視出来ずともスカルバイパーには
対象の動きを事細かに確認可能なセンサーを持っていた。そして今度は背後のスカル
バイパーが動く。右手にナイフを構え、ナイフによる白兵戦を挑む戦闘兵のごとく
キングゴジュラスへ突撃した。目標はキングゴジュラスの首筋。装甲の隙間にナイフを
突き刺して一撃で決めるつもりらしかった。しかし…

『そうは問屋が卸さないぜ!!』
スカルバイパーの一斉砲撃による爆煙の中から、無傷にも等しい姿を現したキング
ゴジュラスが背鰭でナイフの斬撃を受け止めていた。背鰭とナイフの衝突は激しい火花を
散らせるが…削れて行くのはナイフの方。これには一瞬スカルバイパーも浮き足立ち、
次の瞬間にはムチのごとくしなったキングゴジュラスの長大な尾、クラッシャーテイルの
一撃を横腹にモロに受け、そこから真っ二つにされてしまっていた。

確かに“彼ら”は惑星Ziの技術水準を遥かに超えた物を持っていた。しかし、キング
ゴジュラスもまた常識を遥かに超越した怪物であった。

『残るはテメーだ! これでも食らっとけ! キングミサイル!!』
スカルバイパー最後の一機もまた、キングゴジュラス口腔部から発射されたTNT火薬
数百トン分にも及ぶ威力を持つキングミサイルによって破壊されるのみであった。
『さて…後は上のだけど…あれ…どうするんだ?』
スカルバイパー隊を全滅させた後、キングゴジュラスは上を見上げた。街の真上に浮遊
している“彼ら”の宇宙戦艦。スカルバイパー隊が全滅した今、何かしらのアクションを
起こすと思われていたのだが…その通りだった。突如として艦全体を覆うツルツルした
鏡面状の装甲からレーザー砲が雨のごとく降り注いだのだ。対象はキングゴジュラスだけ
に留まらない。街全体を焼き払うかのごとき容赦の無い殲滅であった。
『うわ! アチチ! 物を盗めないと知るや否や無差別攻撃かよ!』
全身に降り注ぐレーザー砲が地味に熱くてキングゴジュラスも戸惑い足踏みするが、
その間も“彼ら”の宇宙戦艦のレーザーの雨は街を…人を焼き払っている。これは
キングゴジュラスとしても見てて痛い光景であったし…

49:奴等は星の世界からやって来た 12 ◆h/gi4ACT2A
08/10/27 21:18:41
『うっ! やべ! タイムリミットが近いじゃん!』
首下のライト部が赤く点滅し、キングゴジュラスとしての姿を維持出来る時間の限界が
近い事を告げていた。この状態で人間に戻ってしまえばひとたまりもない。そうなる前に
宇宙戦艦を破壊しなければならないのだ。
『こうなったら…やるしかねぇ! スーパーサウンドブラスター!!』
キングゴジュラスの叫びと共に、口腔内に装備されたスーパーサウンドブラスターの
安全装置が解除され、超音波砲が使用可能な状態となる。通常、これは単純な咆哮を
増幅して放射する代物なのだが…
『ゴォォォォォッ○!! ラ・○ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
お前は何処ぞの古代文明の遺産か!? と叫びたくなる様な叫び方となっていた。
まあ確かに今と言う時代においてはヘリック共和国も立派な古代文明なのだから…
あながち間違ってはいないが、色々な意味で激しく危険な叫びだ。しかし…威力には
関係無い。何億倍にも増幅された超音波は忽ち本家ゴッ○ボ○スのごとく、“彼ら”の
巨大な宇宙戦艦をも飲み込み…分子間結合そのものを崩壊させ…粉々に粉砕していた。

戦いは終わり…焦土と化した街に転がる瓦礫の上で…人間の姿に戻ったキングは一人
呆然と立っていた。
「あいつ等…結局何だったんだ?」
民間人・軍人共に多大な負傷者・死傷者を出した今と言う状況において、“彼ら”が
何者であったのかを調べる術は無い。陸に降りて略奪と殺戮の限りを尽くした“彼ら”の
兵隊達は宇宙戦艦のレーザー砲の雨による無差別殲滅によって跡形も無く焼かれて
しまったし…その宇宙戦艦もまたキングゴジュラスのゴッドボ…じゃなかったスーパー
サウンドブラスターによって跡形も無く消し飛んでしまった。
「機怪獣と言い…さっきの変な連中と言い…何なんだ? 今と言う状況は…。明らかに
変だ。明らかに今までとは違う何かが起ころうとしている…。何かが…。」
キングは一人天高くを見上げ…そう呟いた。

                  おしまい

50:最貧師団戦記2 ◆.0Df.j8Kao
08/10/27 23:14:05
帰ってきた再貧師団戦記、今度は短編・・・か?

 やはり今日もまったく同じ場所に、同じ様な姿勢でロードゲイルは街道を見渡す監視哨
に陣取っていた。
 また監視哨よりも一段低い街道脇には無人のキメラブロックス達が配置されていたが、
キメラ群の配置場所も変化した様子は無かった。
 荷車を引いたディノチェイスに乗った男は、街道をゆっくりとギナム市に向かっていた。
 周囲には同じ様な商人や、野良仕事に向かう農夫達が小型ゾイドや乗り合いゾイドで
大勢行き交いしていた。
 ギナム市は500年の伝統を誇る古都だった。かつての第一次中央大陸戦争で一度市街地
の全てを焼き尽くされたが、大災害後の復興にあわせて、戦前を上回る規模で拡大を続け
ていた。
 ゼネバスとへリックの最前線になったことからもわかるように、ギナム市は中央大陸を
統一したへリック共和国にとって旧両国を結ぶ結節点となりえたからだ。
 戦後の復興期にはかなりの資本や資材、人員が旧共和国領から旧帝国領へ、あるいはその
逆へと移動した。ギナム市はそのルートの結節点のひとつとして発展を続けていたのだ。
 そしてその重要度はネオゼネバス帝国が中央大陸を電撃占領してからも変わることは
無かった。いや、ますます高まったともいえた。
 ネオゼネバス帝国が乏しい兵員を割いて、指揮用有人機ロードゲイル数機とキメラ
ブロックスで編制された一個中隊を街道の監視に配置しているのがそのひとつの証拠だった。
 だが男に言わせればそれは穴だらけの監視体制だった。戦力や探知能力が劣っているとい
うわけではない。むしろ無人のキメラブロックスは有人機と遜色ない性能のセンサを有して
いたし、指揮官機であるロードゲイルはそれらの情報や無人機の操作を一元的に管理制御で
きるだけの性能を持っている。
 しかしあらゆるシステムは運用する人間しだいである事を、へリック共和国情報局執行
部隊に所属する男は知っていた。

51:再貧師団戦記2 ◆.0Df.j8Kao
08/10/28 22:45:27
 男はディノチェイスの行き先を街道から外れさせた。周囲の人間達は誰もその姿を不審に
思わなかったようだ。
 このあたりも最近では治安が悪化している。ヘリック共和国が崩壊して以来、新たな税制
や警察組織が有効に機能していないからだ。これまでヘリック共和国の高級官僚として国家
体制を形作ってきたのは風族や海族出身者が多かった。
 彼ら高級官僚の多くをネオゼネバス帝国は断罪してしまったのである。そして風族や海族
が占めていた地位に暗黒大陸から従ってきたものや旧ゼネバス領の地底族や火族をすえたの
だった。
 しかし新たに高級官僚となったものたちの多くがその職責をこなすことが出来なかった。
 それも当然だった。官僚組織をスムーズに機能させるには、経験と能力を併せ持つ存在が
必要不可欠だからだ。いきなり高級官僚の首を挿げ替えてもうまく機能するはずが無い。
 ネオゼネバス帝国首脳陣はどうやら風族や海族たちが不正な権力でその地位を占めている
と判断したらしい。だがそれは早計だった。確かに官僚組織の中で出世していくにはコネも
必要だが、それ以上に難関試験を突破しなければ幹部候補となることは出来ないからだ。
 風族と海族が高級官僚の多くを占めたのは、彼らがかつての王制時代からのレベルの高い
教育機関で学んだからだった。実際、大災害からの復興が一段落し、高級教育機関が各地に
建設されネットワーク化されてきたここ十年ほどは風族や海族以外の中からも各官僚機関の
幹部候補試験を合格するものも増えてきていた。
 だがネオゼネバス帝国はヘリック共和国政府のそれらの努力を無視して自分達を支持する
かどうかだけを基準として官僚を挿げ替えたのだ。
 勿論、首を挿げ替えられたのは高級官僚のみで、実働部隊となる中、下級の官吏達は特に
ネオゼネバス帝国への非難を口にしない限りは従来どおりとしてはいた。だが彼らの多くも
口にしないだけで、急にトップだけを挿げ替えるという安易な方法をとるネオゼネバスに対
する反感を覚えていた。それ以上に無能な上役が官僚組織を停滞させていた。

52:再貧師団戦記2 ◆.0Df.j8Kao
08/10/28 22:47:20
 しかしネオゼネバス帝国はこのような現状に対して積極的に是正しようとする姿勢を見せ
なかった。もしかすると彼らは官僚組織に期待などしていないのではないのか、強力な軍隊
の存在を前提とした武断統治しか知らないのかもしれない。
 そう考える根拠はいくつかあった。ネオゼネバス帝国の極上層部を除く構成員のほとんど
はガイロス帝国の下級将兵出身者だった。
 ゼネバス系を蔑視するガイロス帝国では高級軍人となる道は閉ざされているが、かといっ
て民間でコネも無く成功することはさらに難しかったからだ。
 だから彼らの多くは高級教育を受けておらず、軍隊という狭い視界からしか物事を考える
ことが出来なかった。これが官僚組織への軽視に現れているのかもしれなかった。
 そして軽視された官僚組織の中には警察組織も含まれていた。警邏用の小型ゾイドを没収
され、上層部を挿げ替えられた警察組織は急速に無力化、腐敗化していった。
 中央大陸にネオゼネバス帝国によって誕生した大量の失業者達を構成員とする山賊たちが
大挙して出現するのも自然なことだったかもしれない。
 山賊といっても旧共和国軍の遺棄されたゾイドを使用する本格的な武装集団も多かったか
ら弱体化した警察組織では相手にならなかった。
 ネオゼネバス帝国は山賊たちを無視するつもりは無かったが、彼らの多くはネオゼネバス
が脅威に思うほどの勢力ではなかったし、それ以上に地下に潜った旧共和国軍の探索に数少
ない主力部隊を割いていることもあって、山賊の討伐は遅々として進まなかった。

 こうして悪化した治安体制下で旅する商人たちの多くはネオゼネバスの監視哨や基地の
周辺で休息や野営をすることが多くなっていた。少なくとも軍隊の近くで襲撃を行なう山賊
はいないからだった。
 だから男が街道を少しばかり離れてディノチェイスをとめても気にとめるものは居なかっ
た。男の目的が休息ではないことにネオゼネバスのパイロットも含めて誰も気がつかなかっ
たのだ。

53:名無し獣@リアルに歩行
08/11/01 01:08:32
リバセン参戦歓迎age

54:インストラクション・コード 44.5
08/11/02 22:08:07
【前回までのあらすじ】
アレス・サーシェスは一匹狼のゾイドファイターである。
彼は北エウロペ大陸北部、ミネヴェアの町のゾイドバトル組合からの依頼で、
バトルの最中にゾイドを破壊することになる。
相手は正体不明のAIを積んでいると云う。
さらに、そのAIを狙って各国や企業のスパイが街に入っているらしい。
そんな中、アレスは病院を訪れる。


【登場人物】
アレス・サーシェス・・・本編主人公。地球源流の剣法にゾイド躁法をミックス
            した「瑞巌流」の達人。リングネーム”五百勝のアレス”
ユーリ・・・・アレスのパートナー。子供の頃、狂気の科学者の人体実験にされる。
       現在はコマンドウルフに有機的に接続されている。
デイリー・・・ミネヴェアの町のゾイドバトル組合の組合長。今回の依頼人。
秘書・・・組合長の秘書。元ゾイドファイター。組合長の甥と称しているが・・・
ハキム・・・マッチメーカー。
リー・チャン・・・ゾイドバトル組合でトラブル解決の専門家。「センセイ」と
         呼ばれる存在。元特殊部隊工作員。今回のターゲットの
         ディバイソンと戦い、負傷して入院中。
マーガレット・・・正体不明の女。定期的にアレスの前に現れる。


55:インストラクション・コード 45
08/11/02 22:14:23
「ふざけたことぬかすな!あいつは、俺が軍にいた時から、ずっと一緒だったんだ!お前
みたいな若造が生まれる前からだ。あの戦争が始まる前からだ。三十年だぞ三十年!
分かるか?お前ごとき若造に好きにされてたまるか!」
「だが、放っておいてもいずれあのコアは死ぬ」
「分かってる!だが・・・」
 俺にもその気持ちはよく分かる。共に生死をくぐってきた戦士とゾイドの間には、友情
以上に強い絆が生まれる。時にそれは血肉を分けた親子兄弟以上の強い絆となる。
 俺は黙って、懐から小さい箱を取り出す。20本入りの紙巻きタバコ。どこの自販機でも
買えるありふれた銘柄の箱を二つ、リーの目の前に置く。初老の男は怪訝そうな顔をしな
がら封を切り、一本取り出すと火をつけずに鼻のところに持っていき、くんくんと匂い
をかぐ。
 そのまま火をつけずに箱にしまい直すと、
「病室は禁煙だ。場所を変えるぞ」
 と言うと、同室の男にことわって、病室を出て行く。松葉杖をついているとは思えない
早さだった。


56:インストラクション・コード 46
08/11/02 22:25:14
 俺達はエレベーターで病院棟の屋上に移動した。天気もいいし風も穏やかで、日光浴を
するのによい頃合だが、さいわい他には誰もいない。
 俺達はもっとも開けた場所の真ん中に座った。これなら誰にも立ち聞きされる心配がない。
 床にどかっと腰をおろすと
「あの男、カタギの人間じゃないだろ」
と俺が言う。
「分かってる。俺の入院した次の日に入ってきた。食品会社に勤めてると言ってたが、
気配が普通じゃねえ。さっきも聞いてないふりして耳はこっちに向けてやがった」
 おそらく、どこかの諜報部員だろう。バトル組合のセンセイに貼りついていれば、組合
サイドから何か情報が得られると思ったのだろう。まったく、大した連中だ。
「それはそうと、こいつは一体何だ」
 とリーが聞いてきた。目が据わっている。迂闊な答えは許さないぞ、という気迫が満ち
溢れている。常人ならその気迫で金縛りにあいそうなほどの激しさ。
「どう、って、そのまんまさ。あんたの相棒の値段としては悪くないと思うがね」
 と俺は敢えて涼しい顔をしてみせる。さすがだ、一発で中身を見抜きやがった。普通の
紙タバコに偽装してあるが、タバコではない。メヒタマモノというキノコである。南米の
ギアナ高地という地域の洞窟で発見されたキノコで、二二世紀にこのキノコの発光物質を
精製した薬が、遺伝子変異を起こした細胞の不活性化を正常に戻すことが判明した。遺伝
子変異の細胞、つまりこいつは癌の特効薬だ。地球人によってZiにもたらされたこの
キノコは、気候風土の合った東方大陸の山岳地帯の一部でしか栽培できない。だがそこは
現在、非政府主義ゲリラの巣窟となっており、彼らの重要な資金源として独占栽培されてる。
市場にはわずかしか出回らないため、容易には入手できない。これ一箱で家一軒が買える
ほどの価値がある。俺はあまり公にできない経緯で入手したため金に換えられなかったが、
この親爺なら売りさばくルートを持ってるはずだ。

57:Innocent world2 円卓の騎士
08/11/03 13:43:46
 レティシア・メルキアート・フォイアーシュタインは、暫定政府本部ビルの前に居た。
 議長である父、アルフレッドに直接掛け合う。そして、ニクスへ向かった部隊にオリバー
達との共同作戦を打診させるのだ。
「ふ……古典的な潜入法なのに、有効なのね」
 彼女は本部の構造を知悉している。自身の体型なら、排熱孔から中へ入れることも
計算済みだ。
 平時であれば、そこは熱くて人間には通れない場所である。しかし、今は暖房をつけて
いてさえ寒い時だ。パイプは外からも冷やされ、前から吹いてくる埃っぽい温風を我慢
すれば、快適な温度といえた。
 もっとも、かさばる防寒着を着たままではいくらレティシアでも通れないため、今の
彼女は保温下着の上に作業着のようなものを着込んでいるのみである。
「……やっぱ、寒いわね」
 甘やかされて育ったお嬢様であるはずの彼女だが、狭い排熱孔を進むうちに服や体が
汚れていくことは、気にもしていない様子であった。
 むしろ、楽しんでさえいるようだ。

「エレベーターはこの辺りね。動いてるの?」
 空調設備の裏から廊下に出ると、少し左にエレベーターのドアが見えた。暖房が
働いているのだから、それも動くのではないかと期待してみる。しかし、現在どこの階に
停まっているかを示すランプが点いていない。
 ボタンを押してみるも、やはり反応せず。このエレベーターは動いていない。
「この調子じゃ、どこも同じか。50階分も階段で上るの……」
 面倒くさい、という考えが浮かぶ。しかし、そんなことを言っている場合ではない。
ニクスでは今も、一分一秒を争う戦いが行われているはずなのだ。
 観念したような表情で、しかし決然たる覚悟を秘め、レティシアはなるべく人目に
つかない階段を探した。

58:Innocent world2 円卓の騎士
08/11/03 13:56:32

 足が重い。まるで鉛のようだ。
 喉が渇く。自販機でも探しに行きたいところだが、稼動しているかわからない上に
誰かに見咎められる危険もある。
 何より、一度足を止めてしまえば、もう一度踏み出すことはできない気がする。
 レティシアの運動神経は実のところ、良好と言っていい。それは天賦のものだったが、
鍛えていたわけではないため、持続力が致命的なまでに欠けていた。
 肩で息をしながら、ルーチンワークと化した踏み出しを続ける。一歩一段、そのリズム
を崩さぬように。しばらく前から、もう階数は見ていない。
 ただ、誰か近づいてくる足音があれば逃げるなり隠れるなり対応できるようにと、
耳だけは澄ませてある。―いや、むしろ捕まえてくれれば楽なのだが。
 いくら人のいないところを通ってきたとは言え、最初の廊下に出たときから彼女の姿は
監視カメラに映っていたはずである。こんな幼女に警報を鳴らさないのはまだ解るが、
警備員の一人も寄越さないのは、さすがにセキュリティが杜撰と言わざるを得ない。
 ……それとも、見逃されているのだろうか?

 ふと顔を上げると、48階だった。絶妙のタイミングだったと思う。目的の階を通り
過ぎてから気づいたのでは、労力の無駄もいいところではないか。
 50階。ドアに耳を押し当てて廊下の人気を探る―静かだ。
 ドアを少し開き、目で確認。片側には誰もいない。続いて身を乗り出し、反対側も
確認する。……やはり、誰もいない。
 この階には彼女と、アルフレッドの私室がある。父は部屋にいるだろうか? それとも、
こんな時だから他所で仕事をしているだろうか?
 父の部屋の前に立つ。ドアは電子ロック式で、カードキーとテンキーで開けるか、
中から開けてもらうかしなければ入れない。
 パスワードは知っていたものの、彼女はカードを持ち出していない。いろいろと小細工
を思案した挙句、シンプルな手段を採ることにした。
 コンコン、とドアをノック。
「お父様、レティシアです」
 中に誰もいなければ、それはそれでいい。アルフレッドが中にいるなら、彼女を
抱きしめるにせよ、叱責するにせよ、このドアを開けるはずだ。
 しばらくして、返答の代わりにしゅっと音を立てて扉がスライドした。

59:Innocent world2 円卓の騎士
08/11/03 14:03:00

「ずいぶんお暇そうにしてらっしゃるのね」
 入室するなりレティシアが言った、再会の挨拶であった。わざとらしく敬語など使って
みせるのは、もちろんこんな時に自室で死んだ魚のような目をしている父を皮肉る意図が
あったのに相違ない。
 アルフレッドは娘を認めると僅かに生気を取り戻したようであったが、それも長続きは
しなかった。
「レティシア……私を見限って、能力者の少年と駆け落ちしたと聞いていたのだがな」
「お父様の口から、そうもロマンティックな冗談が聞けるなんてね。でも安心して、
実の父親を捨てるほどの親不孝者には育ってないつもりだから」
「ほう。では、賢明なる我が娘は何ゆえここへ戻ってきたのかな」
「いくつかの質問と、一つの頼み事をしに、よ」
 彼女は雑談の中で質問の機を探ろうなどとは思っていなかった。訊きたいことは
さっさと訊くし、頼みたいことは明確に伝える。
「まず一つ、どうしてこうなる前に本気で騎士を討とうとしなかったのか」
「質問の意味が解らないな。我々は全力で……」
「お父様」
 年齢に不相応な少女の覇気が、この時は父さえも圧倒しているようだった。
「外へ出た私に、『政府は全力を挙げていた』なんて空言が信じられると思って?」
 白を切り通すべきか、寸時、彼は迷ったように見えた。しかし過保護ながら娘をよく
見てきた父親だから、それが不可能だと解るまでも早い。
「……浅はかだったのだよ」
 自分と、暫定政府そのものの愚鈍を糾弾する科白だった。
「騎士など単なる武装カルト宗教くらいにしか考えていなかった。その力は大きかったが、
この世界の、少なくともこの大陸の人々を纏め上げるのに利用できると……」
「政治利用できると踏んでたのね?」
「大破壊に、デス・メテオ事件。秩序は破壊され、破壊と戦乱が地上を覆っている。
大戦前の水準まで人類が社会を回復できるかどうかが、まず解らんほどだ。
 そこら中でゾイドを乗り回し、紛争に明け暮れている連中をどうにかしなければ
ならなかった。最も簡単な方法は、共通の敵を作ることだ―」

60:Innocent world2 円卓の騎士
08/11/03 14:05:16
 丁度いい時に、強大な力を持ったテロリストが現れてくれたというわけである。
「けれど、騎士が敵としていたのはあくまで能力者よ。全世界の敵に仕立て上げる
相手としては、主張の過激さが足りないんじゃない?」
 いっそ「世界よ滅べ」と言ってしまうような狂信者の集団であればよかったのだが、
現実はそう都合よく動かないものだ。
 アルフレッドは娘の言葉に首肯した。
「そうだな。だから、工作が必要だった」
「まさか、騎士の仕業に見せかけた自作自演のテロをやった、なんて言わないでしょうね」
「我々もそこまで馬鹿ではないさ。ただ、保護の名目で能力者をチェーンアーツに編入し、
そして彼らにはこう指示した。『騎士は何を考えているか解らない危険な集団だ。いつ、
どこに攻撃してくるか判らない。民衆を守るため、市街地・居住区を重点的に警護せよ』と」
 民衆の中には、当然アーツに属さない能力者もいる。彼らと周囲の人々への被害を防ぐ
というお題目で警備を配したところで、誰に文句が言えよう。
「仕方の無いこととはいえ、守る方も能力者。騎士の襲撃は逆に誘発され、激しい戦い
の末に、能力者も非能力者も甚大な被害を受ける……ってわけね」
「そうだ。能力者の保護、そして襲撃後の復興支援に迅速な対応をしていけば、能力者
擁護論者から来る政府への批判も勢いを削げる。排斥論者は……喚くだけならそれもよし。
騎士に共感して事件でも起こそうものなら、見せしめに厳罰をくれてやればいい。
 能力者たちはまだ若者だ。彼らを守る政府と殺す政府、大衆がどちらを支持するかなど
火を見るより明らかだからな」
 レティシアの表情は、家の鍵を忘れて玄関の前に立ち尽くす子供のようであった。
「呆れた……平和を再建するために、敵を投入するなんて」
「私達が作ったわけではない。湧いてきたから、利用しただけだ」
「同じことよ。それに、結局利用どころじゃなくなったじゃない」
 こう言われれば、父は黙すしかなかった。騎士はただのテロリストなどではなく、
有史以前から存在する悪意の生み出した恐るべき存在だったのだから。
 娘は次の話題へ移ることにした。


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