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本来、プロの精神療法(サイコセラピー)とは患者を受容したり、励ましたりするものではない。むしろ質問によるソクラテス的対話であり、
時には挑発ですらある。
だから、救いや慰めを求めて来る人には向かない。「何にお困りですか?」「その問題をどのように解決しようとしましたか?」「その工夫は
どのように失敗したのですか?」といった質問を重ねて患者が抱える複数の問題を明確にし、解決の優先順位をつける。
そのうえで、一つずつ解決に向けた作業に入るのだが、実践するのはあくまで患者。彼らがしなければならないことに直面させ、自分の力
で解決可能と思えるようにするのがプロの仕事だ。まともな治療者なら、自分をヒーラー(癒やし手)などとは言わない。自らの無能を強調し、
患者にこそ、その力があると主張し続けるはずだ。
政治家の仕事はセラピストの仕事に似ている。優れた政治家は安易な解決法を提案せず、幻術を示せない無能をあらわにする。
こんな人がトップにいると、国民の悩みは深まり、この国の運営に責任を負わねばならないと考えるようになる。
神にも似た英雄や哲人の出現を期待し、彼らに問題の発見から解決まで丸投げしようとする「幼児返り」から目覚めざるを得なくなる。
「ルーピー(愚か)」な首相こそ優れた為政者なのかもしれない。
ソース(東京新聞 4/28付 25面 「本音のコラム」 精神科医・斉藤学氏)