10/02/18 10:17:25
「正直は報われる。だから正直でなければいけません」。昔のお母さんはよく子供にこう言い聞かせたものだ。
それはともかく、これは会社で言うところの「成果主義」に通じる言い方である。「一生懸命頑張ればやがて周りから認められ、報われる」というわけ
である。このような言い分に対して反対だという人は、現代社会ではかなり少ないと思う。
しかし、このような言い方は武士道精神に反する、と新渡戸稲造は言う(『武士道』)。
なぜか。そもそも正直にふるまうということ自体、「正直」という徳を実践することであり、人間に喜びをもたらすからだ。「正直」であること自体ですでに
報われているのだから、その上、さらに何か報われると考えるのは浅はかではないか、というわけである。
この『武士道』精神は欧米から入ってきた「成果主義」を根本的に否定するものと解せるだろう。およそ「金銭的な報酬のために頑張る」という、
今では当たり前と考えられる行為が、武士道精神から見ればはしたないというのである。
このような人間の行為と報酬の直接的な関係を卑しいものとみなす武士道精神は、いまや欧米化されてしまった日本人にはもはや受け入れ
られないものなのであろうか。再考してみる価値はありそうである。
ソース(東京新聞 2/13 25面 「本音のコラム」 三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長・中谷巌氏)