09/11/12 22:21:04
新聞の広告を見ていたら、家の近くの百貨店でバーゲンをやっているという。「待ってました!行くぜ、絶対」とあたしは思った。
なにしろあたしの下着は、始終観察されているのだった。パートナーの男からではない。今、男いないし。
てか、男のために下着を気にするなんて、10代、20代の小娘のすることじゃ。40年近く生きていると、男なんて女が気にするほど、女の下着
に興味はないってわかってくる。あいつらが興味があるのは、中身だろ。
あ、話が飛んじゃった。今回はそんな話をしたかったのではない。あたしの下着が、観察されているって話。
テレビに出ているときに着ている服は、みんな貸衣装なんだよね。ぜんぶ、スタイリストさんが用意したもの。テレビ局に入ると、着替えのため、
家を出ていたときに着ている私服をぜんぶ脱ぐ。下着だけを残して。その間、スタイリストさんは衣装を持って隣に突っ立っている。つまり、
どんな下着を身に着けているか、見られているの。
改めてそう感じたのは、ついこの間だった。テレビ局の楽屋でスタイリストのYちゃんと、「最近は洋服が安い」という話で盛り上がっていた。
「ワンシーズン着るだけなら、安売りブランドで十分だよね」、あたしはいった。
「最近の安い服はよく出来ているから」、Yちゃんも同調した。
「パッと見、ぜんぜんお高いブランド品と変わらないなら、もうブランド品なんて意味ないね」
「いや、それは違う。ブランド品にはブランド品の良さがありますよ。着心地とか。それと見た目でわかりますよ、やっぱり」
考えてみたら、Yちゃんは洋服が大好きだからスタイリストになったのだった。貸衣装はメーカー品。ブランドを否定することは、Yちゃんの仕事
を否定することになってしまう。なのに、そのとき鈍いあたしは気づかなかった。
「見た目でわかるかなぁ?」
などと疑うような発言をしてしまった。Yちゃんは身を乗り出し、いった。
「見た目でわかります。とくに下着とか」
あたしは心の中で、「ぎゃっ」と叫び声を上げた。Yちゃんたら、着替えのときあたしの下着をチェックしているんじゃねぇだろうなぁ。あたしが
そういうと、「そんなわけないですよ」とYちゃんはなぜか小声になった。
チェックしてやがった、この女。
一応、テレビの仕事があるときは、勝負下着を身に着けているつもりだ。が、四十路のあたしがそんなに勝負下着を持っているわけもなく、
3、4枚を順繰りにつけておる。
あたしはYちゃんに訊ねた。
「あたし、いっつも同じ下着、着ているって思ってない?」
「…そんなことないです」
なぜ、またそこで小声になる?
Yちゃんに同じ下着ばかり着ていると思われるのは癪だから、百貨店のバーゲンでしこたま下着を買ってきた。
半額くらいになっていたので、3万8千円でブラとパンツが5セット買えた。一応、ブランド品。
室井佑月…これまではアウターに響かないベージュの下着オンリーだったが、いつも違うのを着ているというアピール度を高めるため、
色とりどりのを勝った。新しいの着ていったら、Yちゃんが「可愛い」とすぐ反応した。……やっぱ、見てんじゃん。
ソース(女性自身 11/24号 「ムロイの闘うお財布」)