08/12/05 17:09:21
◇思いを伝えているか
今年の初め、1組のカップルのもとに何度も足を運んだ。
ストーブで手を温めながら、出会いの様子やプロポーズの言葉を
聞いた。2人が知り合ったのは、がん患者らの家族会。
いずれも配偶者をがんで失っていた。
妻と夫を亡くした男女が、故人の病気を縁に知り合う。
結婚式には、友人やなじみの医者たちがたくさん駆け付けた。
一方、長く付き合いのあったがん患者やかつての親族は交流を絶った。
「幸せにしている2人が許せない」が理由だった。
前妻をみとった部屋で2人は暮らしていた。壁には3組のカップルの写真があった。
「私たちはここで4人で暮らしている」「前の奥さんをどれだけ
大切にしていたかが分かったから一緒になった」。
2人が紡ぐ言葉には、悲しみの底に輝く希望があった。
山口に配属される4月まで、兵庫県のJR福知山線事故で家族を
亡くした人たちの取材を続けた。夫を亡くした女性は、
最期の様子を乗客たちに聞いて回った。息子が乗っていた同時刻の
電車に乗り続ける父親もいた。そこには絶望から懸命に歩きだそうとする姿があった。
同僚の一人は言う。「新聞を破ったら血が噴き出るような記事を書く」。
怒りや喜び、時代の息づかいを記事に刻みつけているか。
改めて自らに問いかける。【井上大作】
URLリンク(mainichi.jp)