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家康を悩ました睡眠妨害・その1
遠州は榛原、現在の牧之原市に能満寺という古い寺がある
この寺の庭にある名物の大蘇鉄
これはかつて、大井川の上流から流れてきた一匹の大蛇の死骸を葬った墓から生えてきた、という伝説やら
安倍晴明が竜の魂を封じ込めたものが蘇鉄になった、という伝説やら
言いたい放題に、やたら壮大な謂われがあるのだが
まあそれだけあって大変立派な蘇鉄なのである
これが徳川家康の目に止まり、駿府の家康の屋敷の庭に移植されたことがあったという
それがどうして今も能満寺にあるのかというと
駿府にやってきたその晩から、蘇鉄が「能満寺に帰りたい、帰りたいよう」
と、か細い声でシクシク泣いたのだ
それがあんまりうるさ……可哀想な声なので哀れに思った家康は蘇鉄を能満寺に戻してやったという
もしも伝説通り大蛇や竜の化身だとすれば、ちょっと情けないお話
祟るくらいしなさいよ
家康を悩ました睡眠妨害・その2
家康と言えばその妻、築山殿とのあまり芳しくない夫婦仲とその末の悲劇はあまりにも有名であるが
流石に一度は夫婦の契りを交わした相手を無残に殺してしまったことに、家康も内心負い目があったのか
居城、浜松城で眠っていると、しばしば悪夢にうなされるようになった
その悪夢というのは、先年死んだはずの築山殿が、眠る家康の枕元にたち、髪を振り乱した鬼のような形相で
「なんの罪により妾を殺させたか元康!ああ恨めしい!」
と詰問するというものだった
ただでさえ武田との戦いやら家中のもめ事やらで疲れているのに
夜は夜で築山殿に責められて眠ることができない家康はすっかり参ってしまった
そこで、旧知の仲である可睡斎の等膳和尚にお願いし、
ゴーストバスター、もとい築山殿の供養をお願いしたのだった
これは見事に成功し、家康はスヤスヤと安眠できるようになった
だから長生きしたのかもしれない
ちなみに余談だが、和尚の住まいである可睡斎という名前の由来は、
家康が和尚に面会した際、和尚がこっくりこっくり居眠りをしてしまったのだが
それを見た家康が
「和尚我を見ること愛児の如し。故に安心して眠る。我その親密の情を喜ぶ、和尚 、睡る可し」
と言ってそれを許したことに由来するそうな
家康と和尚の寝つきのいい話