戦国ちょっといい話18at SENGOKU
戦国ちょっといい話18 - 暇つぶし2ch363:人間七七四年
10/03/04 03:25:50 aWzpZgRM
信濃の黒姫伝説
「高梨政盛、娘をドラゴンにもってかれるの事」

高梨氏は北信濃の古い豪族である。
政盛はその最盛期の当主で、越後の長尾家と縁戚を結んで力をつけたので、
上杉謙信の大叔父だったりもする人だがここではそれはあまり関係ない。
政盛には美しい娘がいた。信州一といわれた、それはそれは美しい娘であった。
名を、黒姫という。

美しい黒姫には当然縁談の求めが絶えなかったが、求婚者の中にちょっと風変わりなのが混じっていた。
沓野奥四十八池の総大将、志賀高原の大沼池のヌシたる大蛇、黒龍である。
黒龍は姫の噂を聞きつけ、その姿を垣間見んとて蝶に変じて姫のもとに忍び込んだのであるが、
たまたま蝶を見つけた姫に微笑みを向けられ、一発でフォーリンラヴしたものであるという。

黒龍は今度は若侍の姿をとって高梨城を訪れ、しかし堂々と大沼池の黒龍であると名乗りをあげ、
どうか黒姫を妻にいただきたいと願い出た。城主高梨政盛以下人間たちはパニックに陥った。
蛇なんぞに娘を嫁にやるなどとんでもないが、しかし神たる相手を怒らせて、
洪水でも起こされたらたまらないからである。そこで政盛は一計を案じた。

「あなた様が神なのはわかりましたが、しかし娘は人間であります。
 人間のままでも娘を守っていただけるというのなら嫁に出しましょう。
 今のその姿のまま、馬で走る私に合わせて、城を二十周走ってみせてください」

黒龍は応諾し、政盛の馬を追って走り始めた。
実はこれは罠であった。城の周りにはささらのごとく刃が仕掛けてあり、
罠のありかを知っている政盛はこれをなんなくかわしたが、黒龍は幾度となく刃に身を裂かれた。
しかし、どれほど傷ついても、黒龍は諦めない。人間の姿のまま、血にまみれながら、
とうとう二十周を走りぬいた。

「これにて、約束通りにござる。姫を頂きたく」
「なんの。畜生ごときが我が娘を嫁にするなどと、身の程を知れっ」
政盛は身勝手にも約束を反故にし、刀を抜いて黒龍に斬りつけた。
深手を負い、さしもの龍もついに切れた。
「なんと。たばかりおったか人間め、これは許せぬ」
巨大な黒い龍神の本性を現し、咆哮をあげて龍は飛び去る。

その場に飛び込んできたのは、一部始終を見ていた黒姫その人であった。
黒姫はものすごい剣幕で父親を罵倒した。
「父上、なんということをなさいます!彼は約束を守ったではありませんか!
 彼が約束を守られた以上、わたくしはあの方の妻となるのが筋目というものではありませんか。
 それをこともあろうに斬りつけるなど、それが人間のやることですか!」

黒姫は、いつしか黒龍の想いにほだされていたのである。
しかしそんなことは知らない黒龍は、怒りに我を忘れて暴走し、
人類など滅ぼしてくれんという勢いで暴風雨を巻き起こしていた。
高梨家の領地はまさに水没しようとしていた。事態を収拾すべく飛び出したのは、またしても黒姫。
黒姫は荒れ狂う竜神に向かって叫んだ。
「黒龍さま!わたくしは、あなた様の妻となります!あなた様のもとに参ります!」
嵐はピタリとやんだ。
ところが黒姫は、おずおずと自分の前にやってきた黒龍に対しても説教を始めた。

「お怒りになる気持ちはわかります!ですけど!悪いのは私の父でしょう!
 田畑を荒らされた百姓たちに何の罪がありますか!反省なさい!」

人間の娘の説教に対し、龍神は涙を流して、怒りに我を忘れた己の非を詫びた。

黒姫はそのまま黒龍の背に乗って飛び去り、二度と高梨の城へは戻らなかった。
ふたりが幸せな暮らしを送ったとされるその場所は、今も黒姫山の名で呼ばれている。


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