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柳田國男に見る戦国時代
「加藤清正、河童王九千坊を退治するの事」
九州の古伝承に登場する、九千坊〈クセンボウ〉という大河童がいる。
遥かな昔唐土の地より渡り来たといわれ、
筑後川の流域を拠点とし、九千の同胞の頂点に君臨したとされる、
西国一の河童の王である。
ところが、数百年と続いた九千坊の栄光の日々に、
ある日唐突に終焉が訪れた。九千坊の配下である八代川の河童が、
ある日ほんの気まぐれで人間の子供を溺れされたのだが、
この子供というのが実は肥後熊本の鬼将軍、加藤清正の小姓だったのである。
果たして鬼将軍は嚇怒した。
「片鎌槍を持つね!」
「はっ!」
清正配下の勇将たちも奮い立った。
化外の民とはいえど、相手は9000もの軍勢を擁するのだ。
まさに人と河童の大戦が始まる、とみなが思った。
ところが清正の次の言葉は、兵を呼集を命じるものではなかった。
「猿を集めるね!」
「は?」
清正は領民たちに大令を発し、領内全域から 猿 を集めさせた。
あまり知られていないと思うが、このあたりの一部地方の民話の設定では、
河童というものは猿が大の苦手で、
猿を見ただけでフリーズしてしまうことになっているのである。
「出陣じゃああああああ」
「キー!キキー!キキー!」
「あ……はい……行ってらっしゃいませ……」
果たしてハイテンションの清正は猿の大群を率いて筑後川に突撃していった。
驚いたのは九千坊と九千の河童軍団である。
河童たちはもちろん迎撃の準備を整え、
ることなく、全力でびびった。
「勝ち目なくね?」
「鬼将軍怖すぎじゃね?」
「猿嫌い超嫌い」
この同胞たちのふがいなさに、河童王九千坊もまた大激怒し、
長広舌の演説をふるって同胞に発奮を
促さなかった。
九千坊もびびっていた。
兵を率いるどころか、この矮小なる河童の王は知人の僧に仲裁を頼んだ。
結局九千坊は外交僧のとりなしのよきを得て一戦も交えることなく清正に降伏、
「河童一同、二度と人間様に危害は加えません」との誓いを立て、
ようやく鬼将軍清正の許しを得たという。