10/02/28 16:19:50 DRtWnIfU
ある日、島津家久(忠恒)が民情視察と称して五、六人のみ引き連れ鹿児島城下に出かけた。
日も高くなったころ一行は橋端で休息を取り、家久も立ったまま桜島などボーッと眺めていた所、
一匹の子犬がやって来た。犬は家久の足を柱か樹だとでも思ったか、後足を上げてシャーッと
気持ちよくやらかした。
みるみる顔色が変わり大声を上げる家久に合わせ、小姓たちも騒ぎ立てた。
「おのれ、畜生が!斬って捨てい!」「飼い主はどこだ?ここへ引っ立てて参れ!」
(いかん、これでは飼い主の命も危ない!)
一行に加わっていた茶のみ婆さんの話(URLリンク(iiwarui.blog90.fc2.com))
でおなじみ、徳田太兵衛が突然笑い出した。
「アハハハ、神意も知らずに民情視察とは、チャンチャラおかしいわい!」
「なにぃ、わしが神意をわきまえぬと申すか!」
色めき立つ家久一行にも、徳田はひるまない。
「左様、神さまは犬をたいそう愛され、神意を下し「シャー」を許されておる。それを人間が怒るなど、
おこがましいですぞ?」
「そんな神意、聞いたこともないぞ!どんなものか聞かせてみぃ!!」
なおも言いつのる小姓に、徳田は続ける。
「ならば聞け。そもそも、犬は始めに三本足で造られた。しかし、それではあまりに不恰好で
歩行にも不便なので、神が哀れんで四本足にされたのだ。
以来、犬は神に感謝して、与えられた足を汚さぬよう片足あげてナニするのじゃ。畜生とは言え、
感心なことよのぅ。然るに、こんな礼儀正しい動物を殺すようでは、民情視察どころか…
「…徳田、もう良い!皆の者、行くぞ。」家久は小便袴のまま、スタスタと歩き出した。